全自動搾乳機 02 03



「はあ……」

倉科拓海の一日は、乳首の疼きと共に始まる。
最近は寝返りで少し擦れただけで感じてしまうので、寝ている間も乳首に絆創膏を貼るようになった。
起床するとまずそれを貼り替えるのだが、外気に触れただけで乳首が疼くのだから朝から憂鬱にならざるを得ない。
たとえ家の中でもシャツ一枚でウロウロすることなどできず、きっちり2枚着こんでから部屋を出る。

「おはよ」
「ああ」

リビングには弟がいた。シャツ一枚でくつろいでいて、乳首なんて全く意識もしてないだろうという当たり前のことが妬ましく思えてしまう。

『――牛乳の美味しさの秘密は、搾乳の仕方にありました』

不意にテレビから流れてきた単語に、拓海はびくりと反応した。
画面にはどこかの牧場の様子が流れていた。何だ牛か……と思いつつ、その内容から目が離せなくなる。

『どうやって搾乳しているんでしょうか』
『はい、この搾乳機は全自動になっていまして、牛は乳が張って搾乳されたくなったら、搾乳機に入るんです。すると機械が自動で搾乳を始めるんですよ』
『本当だ、自分から入って行って、搾乳されています』
『牛が望むときに搾乳することでストレスが大幅に減り、美味しい牛乳になるんです』
「……」

説明のとおり、確かに牛が自ら搾乳機の方へ入っていく。すると搾乳機が乳首の位置を感知して乳首を覆い、搾乳が始まった。
自分から搾乳されに行っているだけあって、牛の表情は心なしか気持ちよさそうに見える。
無意識に、拓海の喉がごくりと鳴った。
搾乳されたくなったら自動で搾乳してくれる機械。自分の意志でその機械に入ったら最後、ビュービューと大量のミルクを搾り取られる――。

「兄貴、そんなに牛乳好きだっけ?」

食い入るように真剣にテレビを見ている拓海を、弟が不審がる。

「……嫌いだ、牛乳なんて」

拓海は呟いた。すっかり食欲は失せてしまった。
忌々しい。搾乳されて気持ちよさそうな牛を見て、羨ましいとばかりにズキズキ疼いてしまう乳首が。
牛のように乳が張るということこそないが、拓海の乳首は搾乳しないと切なく疼いて、ミルクを出したいと訴えてくる。今だって辛いのだ。
症状はどんどん重くなっている気がする。そう、それというのも高梨に搾乳されてからだ。
高梨に乳首を搾られ、舐めて吸われ、ミルクを飲まれ。更にそうしながら、アナルに凶器のようなものをねじ込まれ、突かれると、もうわけがわからないくらいミルクがビュービューたくさん出てきて、何度もイってしまって――。

「あっ……」

乳首が甘く痺れるように疼いて、下半身まで熱くなってしまう。拓海はぶんぶんと首を振った。
弟のいる場でこんなこと考えてはいけない。本当はどこでだって考えたくないけど、もうそれは無理なことだった。

◆◇

『――本日は××牧場にやってきました』

登校前、高梨はリビングで朝食をとっていた。何となくつけたテレビが流れっぱなしになっている。

「お兄ちゃんおはよー」
「おはよう。今日の髪の毛可愛いね」
「えへへ。友達とおそろいのゴムなんだよ」

最近女の子らしくなってきた妹がはにかむ。贔屓目を抜きにしても可愛い妹で、年が離れているのもあって高梨は甘やかし気味な自覚があった。

「あっ、テレビおはステに変えていいい?」
「ん、ちょっと待って」
「ええー」

子供向け番組を見たがる妹に、いつもならすぐに変えてやるのだが今日は制止した。

『――すると機械が自動で搾乳を始めるんですよ』

テレビでは牧場の経営者がリポーターに最新の搾乳機の説明をしている。
搾乳、という単語を聞くと、もう拓海にしか結びつかなくなった。
気持ちよさそうに搾乳されている牛を見ながら想像する。

(自動搾乳機って、エロいなあ)

拓海はプライドが高いから、どんなに乳首が疼いても自分から入ることなんて中々できず、ミルクを溜め込んでしまうに違いない。乳首の疼きにひたすら耐え、悶々とした時間を過ごし、でもいつか我慢できなくなるときが来るのだ。
自分から、搾乳されるために搾乳機に入っていく拓海はどれだけいやらしいことだろう。溜め込んでいた分大量のミルクを搾り取られ、敏感な拓海は泣きながら感じまくるに違いない。

「――お兄ちゃん? もう変えていいー?」
「あ、うん、いいよ」
「やった!」

気がつくと牧場のコーナーはもう終わっていたようだ。つい妹のいる前で不埒な妄想をしてしまった。反省しなくては。
そう、しょせんは妄想だ。拓海の搾乳は自分がすればいいのだ。
大体限界までミルクを溜め込んだ拓海なんてエロすぎて、とても他人に晒すことなんてできない。危険だ。
それこそ高梨が牧場主で、他の誰の目に触れることなく拓海の搾乳をできるならともかく――とまた妄想の世界にいってしまいそうになるのを、テレビから子ども向けの歌が流れてきたことで高梨は踏みとどまった。

どこかの畜舎に、拓海は一人でいた。それなりの広さがあるのに、辺りを見渡しても他に人の姿も家畜の姿もない。
がらんとした中で拓海は一人立ち尽くす。なんだかやけに不安な気分になってきた。

「倉科」
「お、お前」

しばらくして足音が聞こえたかと思うと、人が現れた。少し安心しかけたが、顔を見て拓海は眉間に皺を寄せる。拓海の部屋の前に立っていたのは反目している相手、高梨だったのだ。

「こんなところに閉じ込めるなんてふざけるな。早く出せ」
「駄目だよ。――だって倉科は男なのに母乳が出ちゃう変な体でしょ? 搾乳しなくちゃ駄目だよ」
「……っ」

子どもを諭すような口調で搾乳、と言われ、屈辱を覚えながら乳首がずくっと反応してしまう。

「ミルク、出さないと辛いでしょ。倉科のためにとっておきのものを買ったんだよ」
「とっておき……?」
「全自動搾乳機。倉科が搾乳されたくなったら、自動でミルク搾ってくれるんだよ」
「誰がそんなもの使うか」
「強制的にしないだけ優しいでしょ。だって倉科が自分から搾乳されたくならない限り、搾乳しないって言ってるんだから」

自分から搾乳、の部分を強調されかっと頭に血が上る。ある意味強制的に搾乳するより悪趣味だ。
拓海が乳首を切なく疼かせていて、我慢できず搾乳されたら最後、みっともなく感じまくってしまうこと、そしてそんな体質を拓海自身が疎ましく思っていることを、高梨だって分かっているくせに。

「俺は搾乳なんてしなくても平気だっ…そんな機械……」
「機械が嫌? なら俺が搾乳してあげようか」
「ふ、ふざけるな」

そんなことを言われ酷く腹立たしいのに、また乳首がズキズキ脈打ったみたいに甘く疼く。高梨にミルクを散々搾られる様子が勝手に脳裏に浮かんでしまった。

「――冗談だよ。まあそんなに嫌なら無理にとは言わないけど、どれだけ我慢できるかな」
「くそっ……」

高梨は整った顔に意味深な笑みを浮かべると、畜舎から去っていった。
あの男は拓海を嘲笑して楽しんでいるのだ。女好きだから自分が搾乳するなんてありえないと思っているに違いないのに、戯れにあんなことを言う。
許せない。絶対に思い通りになんてなりたくない。

拓海の部屋の隣には、確かに見慣れぬ機械――新型の搾乳機と思われるものが置かれていた。
当然だが乳牛用のそれとも、人間の母親が使うようなものとも明らかに形状が違っていた。人一人が入って少し余裕がある程度のスペースに、見たことのない機械があり、伸縮式の怪しげな装置が二つついている。それはシリコン製で柔らかそうで、両方の乳首を同時に搾るためのものだと分かった。よく見ると刺激するために小さなイボのような、触手のようなものがたくさんついている。
あんなものが乳首に絡みついたら――と想像するだけで体が切なくてたまらなくなる。

「……っ、駄目だ、あんな……」

こんな体質になっても拓海のプライドは高いままだ。あんなもので自ら搾乳されていくなんて考えられない。
淫らな気配を放つそれかを意識の外に追い出すように、拓海は目を思い切り背けた。

◆◇

「――まだ搾乳してないの?」
「するわけないって言ってるだろ」

高梨は食事を届けがてら様子を見に来ては、拓海をからかっていく。拓海は努めて冷静に拒絶していたが、日が経つにつれて体はどんどん辛くなっていっていた。
乳首が、疼いてたまらない。ズキズキして、最近では一切触っていないのに性感を刺激されているかのように甘い官能が湧き上がってくる。油断すると下半身まで熱くなってしまうほどに。

「いい加減辛いでしょ、意地にならなくてもいいのに」
「……辛くない。勝手なことを言うな」
「ふーん……。そうは見えないけど」

じっと見つめられ、汗が出てくる。無表情でいるつもりでも、物欲しげな顔になっているのではないかと不安になる。頬は熱くなり、息は上がり、目は潤み――乳首から出たがっているミルクが全身を冒してるような気がする。

「もう出てけ、お前の顔なんて見たくない」
「酷いなあ」

そんな自分を知られたくなくて、拓海は高梨を拒絶した。
一度あの搾乳機に入ってしまったら、自分がどうなるか分からない。それを高梨に見られるなんて……。

「はぁっ……ぁ……」

拓海は疼きを紛らわすために、爪が食い込むくらい強く拳を握りしめた。

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