黒豹を解せよ 中
あり
熱い。熱波のようなものが降りかかってきて、息もできないと錯覚するくらいに。
一体全体どういうことなのか。呆然としてる口の中に、性急に舌が侵入してきた。
「んーっ……! っ……、う……」
訳が分からず押し返そうと腕を突っ張るが、圧倒的な力で腰を抱き締められ、逞しくしなやかな身体に余計に密着することになってしまう。
身体が――黒豹の身体が熱い。唇だけでなく胸から脚まで、微かに汗ばんだ肌を強く感じる。なんだか固いものが腰に当たっている気がする。是非気のせいであってほしい。
――俺は文字通り、頭から食われてしまうのだろうか。本気でそんな恐怖が過ぎった。
黒豹の舌が逃げる俺の舌を執拗に追って引き出し、音が出るほどいやらしく吸った。かと思うと上顎や頬の内側、舌の下の柔らかい部分をじわじわと舐められる。
「んっ……はぁっ、んぅ……」
少し離れたかと思うと、角度を変えてまた激しく貪られる。下唇を軽く歯を立てて食まれると、ゾクゾクと何かが這い上がってくるような感覚に見舞われた。
肌に、黒豹の熱い息がかかる。
――何これ。足腰に力が入らない。もう駄目だ……。
「ぅんっ……! はぁッ……、は……」
唾液の音と共にようやく唇が開放されたときには、息も絶え絶えになっていた。
だけど腰を強く抱く手は弱まらないどころか、更に強くなって痛いほどだ。俺は唇の端から零れた唾液を拭いながら、涙目で黒豹を見上げた。
「……!」
黒豹はじっと俺を見ていた。頬は微かに上気しており、その目には獲物を狙う獰猛な獣の威圧感と、それだけではない異様な熱が篭っているように見えた。
「おい、なんのつもりだよ! っ、待てっ……!」
目が合ったのは一瞬のことで、気づくと俺は布団に引き倒されていた。間髪いれず黒豹が覆いかぶさり、再び唇を塞がれる。
「ちょっと…っ、うぅんっ……」
俺の舌を吸いながら、今度は黒豹の大きな汗ばんだ手が、不意に脇腹を掠めた。くすぐったさに鼻を鳴らしてしまうと、シャツの中に手を入れて執拗に撫でてくる。
止めようと伸ばした両手は、黒豹の片手によって頭上で一纏めにされてしまった。
黒豹の力は圧倒的強者のそれだった。抵抗しなければ食われるとガンガン警鐘が鳴っているのに、身体はすっかり竦んでしまってる。
一体何なんだ、この発情期の猛獣のような男は。言葉もわからなければ行動も理解不能すぎる。俺のことを散々馬鹿にしやがったくせに、何がどうなって興奮しているんだ。
もしかして本当の本当に、比喩じゃなくこいつの正体は猛獣で、獣特有の発情期に陥って、正気を失ってしまっているのだろうか。
「んんっ……!
んっ…、んっ…」
素肌を撫でる黒豹の指が乳首を撫でた瞬間、腰が傍目に分るくらいびくりと震えた。
すると黒豹は唇を離し、そこに指を這わせながら、ピントが合うギリギリの距離でじっと俺の顔を窺ってきた。
「はぁっ……、あっ
ん、やめっ……あぁっ
」
黒豹は荒い息を吐きながら、少しも見逃さないと言うようにギラギラと俺を凝視している。どうしようもない羞恥と、触られているだけのはずなのに下半身がじわりとするような感覚に、勝手に高い変な声が出てしまう。
「おいっ、もう……やっ、あんっ…
」
普段はしなっとして存在感がない皮膚に触れられ、そこが段々張り詰めてもどかしく甘い疼きが強くなっていって、俺は思いっきり動揺した。
黒豹はしばらく俺の顔を眺めながら弄ったあと、シャツを胸の上までまくり上げ、濡れた舌で触れてきた。
「あぁんッ…
んっ、うあっ…、ッ……
」
片方は軽く歯を立てて食み、押しつぶすようにして突起を舐め、片方は指で軽く挟んでくりくりと弄る。
「んっ、あっ
あぅ、んっ〜っ…
」
理性を失っていると思いきや、黒豹の攻めはやたら繊細でいやらしく、泣きたくなった。舌を絡めながら吸われたり、じらすように撫でられたり、とにかく何をされても感じて、声が漏れてしまう。
くり、くり、こすっこすっこすっ、くりくりくり……
乳首をぴんと刺激されるたびに腰が動いて、あそこが柔らかいジャージの生地を押し上げているのが分かる。生理現象とはいえ恥ずかしく抵抗の意思も削がれていく。
それに気づいたのか、黒豹の手がゆっくりと下半身を捉えた。
「あぁっ……! やだ、ぅあっ…」
固くなった部分に触れた瞬間、黒豹が熱っぽい息を吐いた。すぐに下着ごとジャージの下を剥ぎ取られてしまう。
胸を舐めていた唇が、あちこちを吸ったり舐めたりしながら下へおりてくる。節操のない勃ちあがった下半身に唇が触れられたときには、驚くほどじんとした快感が襲ってきた。
「やだっ……あぁ、んっ……!」
もう腕は解放されていて、黒豹の頭を叩いたけど、我ながら弱々しかった。黒豹はびくともせず俺のものを舐め始める。
先端をちゅっと吸い、吸ったまま舌を回してカリの部分をぐるりと舐める。経験した事のない気持ちよさに腰が動いてしまう。
――こんなこと、彼女にもしてもらったことないのに……!
最後の理性で強く黒豹の髪をひっぱると、上目遣いで睨まれ、軽く歯を立てられた。
「××××、××××……」
「いっ……! わ、わかんないってば……あぁっ
」
敏感な場所を猛獣に噛み千切られるかもしれない――そんな恐怖から俺は手の力を緩めた。そうすると痛みと快楽に痺れたモノが咥えられ、温かい粘膜に包まれる。
「んんッ…だめ、あっあッ…いっ……」
じゅぶじゅぶといやらしい音をたてて吸われて、俺はあっけなく上り詰めた。
「やっ……もう、もう、いくっ
はなしてっ……ああぁぁっ……!
」
引き剥がそうとしても、黒豹は尚更激しく舐めて吸い上げた。目の前が白黒するような快感を感じながら、ビクビクと大きく腰を揺らし、よりにもよって黒豹の口の中に精を吐き出してしまった。
「××××――」
黒豹は低い声で呟くと、俺の顔をじっとり見つめながら吐き出された精液をべろりと舐めた。
獲物を前に舌なめずりをする肉食獣に睨まれる小動物の心境を、俺は正しく理解した。
でも、肉食獣で済ますにはあまりにもこの男はいやらしいというか、色気がありすぎる。異様な恐怖と興奮、強い快楽の余韻で、音が聞こえそうなほど心臓が高鳴っていた。
「あぅっ……もうやめてっ、ひっ……」
もうやめてくれ――そんな願いもむなしく、あろうことか黒豹は俺の尻に指を這わせてきた。窄まりは俺の先走りが垂れてぬめっていて、まわりをぐるりと撫でられるだけでぞくっとしてしまう。
「マジでやめ、ろって……! えっと、ストップ、フリーズ、ウェイト……ひぁっ」
混乱した状態で適切な英語をひねり出せるほど俺は賢くなかった。長い指が中へ侵入してくる。思ったほど痛くはなくて、ただ異物感があって気持ち悪い。
「×××」
今までより抑えた声色で何事か囁きながら、黒豹は指で中の感触を確かめているようだった。そのまま抜いてくれる、はずもなくまた挿入される。最初はゆっくり、ほぐすように回転させながら指を出し入れされた。先走りと精液のぬめりで、ぐちゅぐちゅと耳を塞ぎたくなるような卑猥な音が鳴る。
「き、きもち悪いっ。お、おちつけ、やだ、話せばわかる……ぁ、んあぁっ
」
本当に気持ちが悪いだけだったら、もっと強固に抵抗できていたかもしれない。黒豹の指がちんこの裏側辺りを撫でた瞬間、電流が走ったような快感が狭い穴の中から生まれた。驚いて逃れようとするとのしかかられて、そこばかりを狙って指でぐりぐりされる。
「やだっ……そこ、変……っ、ん、ん゛ッ、やめろっって……ぁッ
」
「××××……」
「んっぁあっ、あっ…うぐっ…んっ…」
体の中の触られたらいけない部分がスイッチになってるみたいに、上ずった変な声が出る。気持ちいい、なんて認めたくなかった。意思疎通もできないまま無理やりされているのに。
ぬぷ……っ、ずぶ、ずぷ、ぐりぐりぐり……っ
「あんっ……
ん、あっあー……」
「――××××!」
黒豹が低く唸るように何か言って指を抜いた。異物がなくなっても元の状態には戻らずひくついて疼くそこに呆然としていると、目の前にとんでもないものが現れて絶句した。
――でかい、でかすぎる。黒豹のものは、AVでも見たことがないほどの迫力があった。とにかく長くて太くて、間近だから血管が浮き出ってビキビキと脈打っている様まで見える。先走りの液体がまとわりついて、黒く逞しいそれを妖しく光らせていた。
やっぱり発情期だったんじゃないか。そうでもなければ、俺の身体を好き勝手しただけで、こんな、怖いくらい興奮して、勃起するなんて……。
で、その獣みたいな凶器で何をするつもりなんだ。……まさか……まさか。
「ひっ……無理、ノーセンキュー、ユアウェルカム……」
混乱を極めた俺は、訳が分からないことを口走っていた。
「ほら、俺はブサイクなんだろ……っ、よく見て落ち着け、冷静になれ」
自分で言いたかないけどプライドで尻は守れない。ヤケクソになりながら変顔を作る。これで萎えないやつがいるだろうか。
しかし黒豹は、相変わらず熱に冒されたような目で俺の手を取ると、額、目元、頬、唇と順番に口付けを落としてきた。
「××××……」
掠れた声は壮絶に色っぽくて、仕草と相まって優しく聞こえた。ちょっとは落ち着いてくれたのだろうか……なんて思った瞬間。
「えっ……? うそ、待て、あ、ん゛っ、あああぁッ!」
黒豹の熱く昂ぶった凶器が、無慈悲に俺を貫いた。
「痛っ……あ、あぐっ…ぅん、ん、んぅ゛……ッ」
「ふー……っ、ふー……っ」
狭く窄まっているべき穴を太い棒で強引に拡げられ、意識が遠のきかけて、中を圧迫される鮮烈な感覚ですぐに呼び戻される。
「あっ……ぁああっ……うそ、奥、おっ…」
嘘だと思いたかった。馬鹿みたいに太いものが奥まで入っているなんて。こっちは指だけでもうおかしくなりかけていたっていうのに、あんな、あんな太くてすごい性器が、俺の中にみっちり……。
苦しくて怖くて、つい縋るように黒豹を見上げてしまう。何もかもこいつが悪い。
黒豹が目を細め、怖い顔が少しだけ和らいだら貪るみたいにキスをされる。最初から口の中を犯す前提の、激しく舌が絡むキスだった。
「ふぅっ……ぅ、んっ、ん゛〜〜〜ッ……!」
「……××」
苦しがってるっていうのに余計に俺を苦しませる気か。舌を甘く吸われたら、尻の穴がきゅんとして、肉棒に絡みついてしまった。
違う今のは無しだ、と言えるはずもなく、黒豹は吐息混じりの激しいキスをしたまま、腰を強靭に動かし始めた。
ぬぶぶっ……ずぶっ、ずぶっ、どちゅっ!
「んぁっ、んっん゛っ…んっふぅっ
んっん…」
「ん……っ、はぁっ……」
舌をめちゃくちゃに絡めながら、下のほうも激しく肉が絡み合う。と言っても黒豹の勃起は硬い棒みたいで、それに対する俺の中は、元はもっと硬かったはずだけど、今は残酷に蹂躙され、柔らかくちんこに絡みつく器官にされている。
「んっ……ふぅ、あっあああぁっ……
あー……
ンッんぅ〜〜……
」
唇が離れると上擦って媚びるような声が上がる。黒豹はキスをしながら腰を穿つのが好きみたいで、たまに喘がされてはまた唇を吸われる。
突かれるたびに、男の快感とは違う種類のものが奥から全身に広がって、もう駄目だと言いたい舌を甘く擦られ、溶けていく。
本当に駄目だ、嫌だし駄目なこと、なのに……。
◇◇
「あっ
あッ
ああぁっ…
もう、だめ……
あぁ〜…っ
」
「……っ」
パンッ……パン……ッ、ずりゅっ……ぬぷっ…、ずりゅッ……
一体どれほど時間が経ったのか。二度達しても尚固さを失わない黒豹の剛直に犯されている俺の声は、酷く掠れきっていた。
一度目は終始激しく腰を打ち付けられ、圧迫感と得体の知れない疼きにされるがままだった。
黒豹は当然のようにハメたまま中に出した。熱いものが注がれてようやく終わったと思う間もなく、すぐに固さを取り戻した黒豹にひっくり返され、後ろから獣のように犯された。
二度達してさすがに少し落ち着いたかと思いきや、今度はあの、漏れそうなくらい強烈な快感を覚えてしまう部分を、硬いままの棒で執拗に擦られている。黒豹の精液でぬめりが増したおかげか痛みと違和感も弱まり、代わりに際限なく膨れ上がる快感におかしくなってしまいそうだった。
「×××っ……」
「ひぁ……あ、んっ
」
くりっくりっ、さすっ……さす……、くりくりくり……
ずぶっずぶっずぶっずぶっ、パンパンパンッ!
黒豹が腰をグラインドさせながら、乳首を親指でこね回す。二点からの刺激にひっきりなしに甘い声が上がり、咥えているものをびくびくと締め付ける。
「ハァッ……」
黒豹が呻き、動きが殊更激しくなった。そのくせ正確にあの場所を擦り突いてきて、そのたび感じる射精の瞬間のような快楽に腰が揺れた。
「あっ
あッ…
あぅッ
あんッ
」
ぱんぱんと肌がぶつかる音と、結合部から濡れた肉が擦れ合う音がする。いやらしい。
黒豹はずっと熱に浮かされたような顔をしてて、俺にハメてこんなに興奮してるのだと、表情だけで訴えてくる。
――もう駄目だ。またいってしまう。おかしくなる――。
「んっ…あっ
あッ
あぅッ
あぁっ……
ああぁっ!
」
「…………っ、ハァッ……!」
先走りを垂れ流す俺のちんこに黒豹が触れた瞬間、俺はあっけなく達した。びくびくと痙攣して黒豹の勃起を締め付けてしまうのを止められない。
「あーー……だめ、もう、イってぅ
イッ
やめて、今はだめぇ、あっ
あぁッ
んっ
」
中を突かれながらイって、それでもまだ腰を打ち付けるのをやめてくれない。もはや暴力的な快感だった。
「××……ふー、ふーっ……」
「なに、いッ…ひぐ、んっあっ
あんッ…
」
痙攣して締め付け続ける肉に、黒豹も少し動揺したように何か言う。もちろん意味はわからない。とにかくイっている感覚が全然終わってくれないから、ガンガン中を突かれるとヤバい。だというのに黒豹は動きを激しくして、腰骨が当たるくらい奥までねじ込んで、カリの出っ張りで肉を擦り上げながら抜いて、また奥までハメる動きを高速で繰り返す。完全に、中に射精するための動きだということを、俺はもう覚えてしまっている。
「あー……
アァッ
あっ
アッ
だめ、激しいっ、んッ〜〜ッ
」
「――……ッ!」
どちゅっどちゅっ、バチュッバチュッバチュッバチュッ!
どびゅっ、どびゅッ、ビュルルッ…、ビューーーー……
「んああぁっ…
あー、あー…
、うぁ、出てぅ、んっ、あ……
」
一番強く腰を打ち付けた後動きが止まり、代わりに勃起が中で脈打つのを感じる。3度目の精子が俺の中にぶちまけられてる。
「あー……すご、あっ…
あッ…
いっぱい、出しすぎ……」
「ふーっ……××、×××……」
「わかんない……っ、んッ、あっ
あっ…
きもちい
なか、いってぅ…
ぁあ……
」
ついに本音が漏れてしまう。通じないのだから何を言ってもいい、とたかをくくっていたわけでもない。熱っぽい目で見つめられ、性器を隙間なく絡ませあって一番気持ちいいことをして、恋人同士でもこうはならないというただならぬ空気に、知らない世界まで流されそうだった。
「んっ、あぁあ……っ
」
まだ十分に太いものが体内からずるりと引き抜かれる。今までの人生の時間と比べればハメられていたのはほんの一時のはずだけど、異物から解放されるのはものすごく久しぶりに感じた。
――信じられない。無理矢理突っ込まれて、最初は痛かったのに気持ちよくなってイった。俺って一体……。しかもちんこは殆ど弄られてないままで、ほぼ中の快感だけで、女の子のアクメみたいに……。
「××××」
「……もうホント無理……死んじゃう……」
俺は何事か囁く黒豹に背を向け、布団をすっぽり被った。完全なる現実逃避だ。まだ身体は余韻にびくびくと震えていて、何も考えられない。とりあえず逃げてしまいたかった。
「××……」
頭を撫でる手を何故か鬱陶しいとは思えないまま、俺は意識を手放した。
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