誠人、入院する。 02
あり
入院生活初日から二日目は、身体が少し痛むことを除いてはそう悪いものではなかった。
俊嗣は少しでもゆっくり休めるようにと、わざわざ個室を用意させてくれた。余分な金を出させることが申し訳なかったが、身体の問題もあるので厚意に甘えている。
「はい、お熱計ってくださいねー」
病室に来るナースは時間によっても変わるが、一番よく見るのは最初に会った吉田という女性だ。
歳は20代前半から半ばくらいで、目が大きくて可愛い顔をしている。
本来ならラッキーと思うような相手だが、今はそんな余裕もなく、誠人は駄目モトでお願いを切り出した。
「――あの、俺の担当なんですが、女の先生にしてもらうことってできませんかね」
個室に入れてもらったおかげで、入院患者と同じ部屋で眠ることは避けられた。看護師は今のところ女性しか見ていないので大丈夫だろう。
残る問題は医者だ。何が問題って、もちろんフェロモンのことだ。
入院期間はあと4日ほど。フェロモンの効果が出るとは限らないが、不安要素は消しておきたい。
「やだもう、わがままは駄目ですよ。今外科の女の先生は産休中なんで、村井先生で我慢してください。とっても腕のいい方ですよ」
「そうですか……」
あっさりと断られて、誠人はうなだれた。
吉田は呆れたように苦笑している。間違いなく女医に下心を持った馬鹿男だと思われただろう。言い損だった。
「そんなに凹まないでください。あ、ごはんが来ましたよ」
「いや、凹んでるわけじゃ……」
言い訳をする暇も与えてくれず、朝食を乗せたトレイがベッドのテーブルに置かれた。
病院食というと質素なイメージだったが、誠人の普段の食卓と比べれば品数が多く豪華に見える。
「いただきまーす」
と、箸を握ろうとして、右手は捻挫していたことに気づく。
左手を使うことにしたものの、こちらも指に擦り傷があって、いくらもしないうちに箸を取り落としてしまった。
「あ、大丈夫ですか?」
「はは……まあ慣れれば」
「でも大変でしょう。お手伝いしましょうか」
「えっ」
不意打ちの提案に、声がひっくり返ってしまった。
至近距離で小首を傾げられ、頬が熱くなる。
「遠慮しないでください。誰だって手を怪我してたらこうするんですよ。はい、どうぞ」
「あ、あの、その」
おかずをつかんだ箸が口の前に差し出され、誠人は混乱した。
こんなことは初めてかもしれない。思えばここしばらく男との親交は嫌というほどあったが、女性と言えば仕事仲間のおばちゃんと言葉を交わしたくらいのものだった。
相手は仕事だとはいえ、こんなに可愛い人に「あーん」をしてもらえるなんて。
ドキドキしながら口を大きく開けたとき、無情にもドアの開く音が響いた。
「……おはよ」
「なっ、尚紀。おはよ…」
尚紀はこちらを一瞥すると、ほとんど表情を変えることもなく入ってきた。
高揚していた気分が一転、恥ずかしくていたたまれなくなってしまう。
「……吉田さん、やっぱりいいです。自分で食べます」
「え、でも……」
「ほら、他にも仕事がありますよね。婦長さんとかに見つかるとよくないと思いますし」
いたたまれなさからそう言うと、吉田も納得して退室していった。
その際ちらりと尚紀に会釈して頬を染めていたのが、ばっちり見えた。
そりゃそうなるだろうなとは分かってはいたが、少し虚しい。
「――俺、邪魔だっただろうね」
「いや、そんなことないよ。尚紀が食べさせてくれるんだろ?」
尚紀の口ぶりにどこか馬鹿にしたようなものを感じて、誠人としては誤魔化すために全くの冗談で返した、つもりだった。
どうせ鼻で笑われるだけだろうと思っていたが、尚紀は少しの間こちらを見つめてきて、おもむろに椅子に座ると箸を握った。
「はい」
「え、冗談……」
「あんたがやれって言ったんだろ」
――本気で、この義弟のことがよく分からない。
内心怒っているのか、やはり馬鹿にしているのか。ただ憮然としていることは感じ取れて、誠人はやけになって口を開いた。
「んっ……」
できるだけ無表情を装って、口に入れられたものを咀嚼する。折角のまともな飯なのに、これでは味なんて分かったものじゃない。
「……食うの遅いな」
尚紀が時折嫌味を言ってくる。面倒ならすぐにでも止めてくれていいのに、手は動かしたままだ。それもご飯と汁物とおかずの配分が絶妙なのが何だかおかしい。
(なんだこの状況……シュールすぎるだろ……)
一秒でも早く切り抜けたいと思いつつ、引っ込みがつかず何も言えぬまま、誠人は尚紀の手で病院食を完食した。
怪我の痛みがよくなるのとは裏腹に、別の不安は次第に膨れ上がっていった。
ある日の夜、回診に来た医者の姿を見たときに、すでに少し嫌な予感はしていたのだ。
「仁藤君、調子はどう?」
「はい、もう頭も痛まないし、大丈夫です」
村井は30代前半のまだ若い外科医で、医者らしく多少のとっつきにくさはあるが腕は立ち信頼できると評判だ。
小さな傷まできちんと処置してくれたおかげで治りも早く、頭の方も大丈夫だろうと思う。
それなら一刻も早く退院したいと思い、誠人は村井に訊いてみた。
「あの、俺もう退院できるんじゃないでしょうか。大したことないのにベッドを占領してるのも悪いと思うし」
「はい、ちょっと胸の音聞くね」
「……」
有無を言わせぬような、完璧な無視だ。
医者に勝てるはずもなく、早々に口を閉ざすしかなかった。
寝巻きを捲くると冷たい聴診器が胸に触れ、誠人は微かに身じろいだ。
ただの診察だと重々分かってはいるが、過去の経験からどうしても身構えてしまう。
「どうした? 随分鼓動が速いな」
「っあっ」
一瞬のことだった。聴診器が乳首の端をかすめ、誠人は不意打ちの鋭い刺激に裏返った声を上げてしまった。
「仁藤君……?」
「っ…、ちがっ…」
初めて見たような、驚いた表情の村井と目が合う。
ぞくぞくぞくっ……と身体が甘く痺れて、まずい、と思った。
「せんせ、ちょっと、…っ」
「頬が赤い。熱があるんじゃないか?」
咄嗟に目の前の身体を押し戻そうとしたが、村井はそれを許さず、胸を覗き込んできた。
もっと服を上げるように言うと、ぷっくりと勃ちあがった乳首を見て、しばし動きを止める。
いつものポーカーフェイスが崩れかけているように見えて、怖くなる。
「もっいいから…あぁんっ」
触られていなくても疼いていた乳首に、聴診器が再び触れた。
こりこりと凝った乳首を無機質なものでぐりぐりとつぶしながら擦られると、一気に股間が濡れるような耐えがたい官能に襲われる。
「どうした…? ちゃんと診察しなきゃいけないのに、そんな声を出していたら心音が聞こえないよ」
「あっあッ…や、らめぇっ…はぁんっ」
口では医者として咎めながら、執拗に乳首を舐るような動きは完全に医療行為を離れている。
触られてもいないペニスまであっという間に勃起してしまい、ぐりぐりされるたびにいやらしい声と汁が止めようもなく溢れ出る。
フェロモンの効果が、例のごとく最悪のタイミングで出てしまったのだ。冷静沈着で近寄りがたい雰囲気のあったこの医者に、いきなりこんなことをされるギャップが怖くて、でもどこか興奮してしまう自分がいる。
「18にもなってまともに診察も受けられないなんて、駄目な子だ。本当によく聞こえないじゃないか…」
「っ…せんせ、はぁっ、ぁ……」
村井の頭が近づいてくる。胸元に耳をつけていたのも一瞬のことで、村井は乳首を凝視すると、いきなりそこに吸い付いてきた。
「ヤああぁッ! あっあぁんっ…らめっ、あっアッあッ…」
れろ…ちゅ、チュク、ちゅう、ちゅううっ…ぢゅうっれろっれろれろれろっ
乳輪ごと吸いながら舌で小刻みに舐められ、腰がびくびくと跳ねる。
もう片方も指で焦らすようにいやらしく弄られ、喘ぎっぱなしになってしまって抗議の声を上げることもままならない。
「あひっ…あっあんっあッ…はっ、はぁ…あぁあっ…」
「ん……おっぱいだけでこんなに感じるなんて、おかしいんじゃないか。診察のたびに勃起させて俺を誘ってたんだろ…?」
ちろちろと舐めながら情欲に濡れた目でこちらを見つめ、掠れた声で責めてくる。
違う。診察のときにはいつも、こんな状況になることを最も警戒してびくびくしていたはずだ。
なのに今はあまりにも気持ちがよすぎて、本当に自分が診察で興奮してしまうような淫乱に思えてきて――そんな考えにまた興奮して甘い声が出てしまう。
村井は息を荒げると、一度誠人から離れ、携帯を取り出した。
「ああ、村井だ。408号室に、しばらく誰も近づけないでくれ」
「……っ」
隙のない医者の顔で通話しつつも、指では乳首を弄ってくる。
もう逃げられない。そんな予感がして、誠人は絶望と甘い期待に身を震わせた。
村井が電源を切って携帯を放ると、我慢していた分爆発したようにめちゃくちゃにされたくてたまらなくなった。
「ひああぁっ…あぅっ、せんせ、あっあっあんッ」
「ん、ちゅうっ……いやらしく腰を振って、本当に悪い子だな…。ああ、いやらしいシミができてるじゃないか」
誠人の下半身を見咎め、村井は興奮したように責めたててきた。
そこは乳首責めでギンギンに勃起していて、薄い寝巻きにまでシミを作ってはりつき、テントを張っていた。
「はぁっ……18歳にもなって、お漏らししちゃったんだ? ここも調べたほうがいいな…っ」
「あぁんッ! ヤああっ、はひぃっ、あっアッ、あーっ…」
寝巻きの上からペニスを形に沿って掴まれ、布ごとしごかれる。
感じすぎて腰が勝手に跳ね、もう今にもイきそうだ。
無意識にねだる様に村井を見つめ、濡れた唇でせんせいと呼ぶと、村井は息を荒げて今度はズボンの中に手を突っ込んできた。
びしょびしょのパンツの上から裏筋を擦られ、亀頭を指でぐりぐりされる。
「すごいな……君があんまり卑猥な汁を出すから、ピンクの亀頭も、ビクビクしてる裏筋も、全部透けちゃってるよ? ハァッ、こんなにビショビショにして…ずっと誰かがこうしてくれるのを待ってたのかっ…?」
「あぁーっ…ふあっ、んっんっ、やぁっあっはぁあッ」
村井は下半身を凝視しながら、執拗に敏感な部分を弄る。
こんな立派な人にどうしようもなくいやらしい姿を見られて、いやらしいことをされているなんて。
恥ずかしくて、でもその羞恥が身体をぞくぞく震わせて、我慢できないほど甘美な絶頂感が押し寄せてくる。
「あっあッ…せんせっ、もう、あぁあッ…いっちゃ、いっちゃうっ…あっあぁッ」
「っ、どうやって精子出したい? おっぱい、またちゅうちゅうしてあげようか…?」
「あひぃっ…なっ、なめてぇ…おっぱいっ、んんっ…おっぱいちゅうちゅうして、ぁんっ、おち○ぽぐりぐりして、せいし出すのぉっあっアッあぁあんっ」
フェロモンに侵された誠人は最早イくことしか頭になく、恍惚としながら淫らな言葉でねだった。
村井は一層興奮した顔になって、しごく手を強めながら乳首にむしゃぶりついた。
ちゅっ、れろれろっ、ちゅっちゅうっ…ぐちゅっぐちゅっズチュズチュッぬぷぬぷぬぷっ
乳首とペニスを同時に責められる激しい快感にわけがわからなくなって、すがるように村井の頭を抱きしめる。
出る、と思ったその瞬間、不意にドアが開いた。
見慣れた制服に、あまり見慣れない、いつも誠人を戸惑わせる顔。
開けたのは、尚紀だった。
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