誠人、チラシを配る。 02
あり
大きなベッドに座ったとき、自分は今きっとものすごいアホ面をしているんだろうな、と誠人は思った。
口は災いの元だというが、まさかこんなことになってしまうとは。
「――早くしてみせろよ」
「は、はい……」
昔嫌というほど聞いた加西の命令口調が、今日は一段と恐ろしく感じられる。
逆らえない。
誠人は震える手でジーンズを脱いだ。
シャツにボクサーパンツ一枚という間抜けな姿に、心もとない気分になる。
汚物を見るような目で見られるか、嘲笑されるか――そう思って加西の方を窺うと、どこか苛立ったような、射抜くような目と目が合ってしまう。
「……っ」
かっと頬が熱くなり、慌てて目を逸らした。
そんな汚いものは見たくない、もう止めろと、そんな言葉をどこかで期待していたが、どうやらまだ許す気はさらさらないらしい。
誠人はやけになって、まだやわらかいペニスに下着の上から触れた。
「ぁ、んっ…」
ビリビリッと、自分でも予想できなかったほどの刺激が全身をつき抜け、誠人は熱い息を吐いた。
いつもより敏感なのは、やはりあの状態になる前触れなのか、それとも目を逸らしていても感じずにいられない視線のせいなのか。
「はァっ…、う…」
下着の中に手を突っ込み、裏筋を刺激するようにしごくと、すぐにペニスが熱く硬くなってくる。
自分を蔑む男にオナニーを見られるなんて酷い屈辱のはずなのに、全く勃起の妨げになっていない。
それどころか加西の存在を意識するほどにペニスがずくんと疼いてしまい、誠人は振り払うように目を閉じた。
「ふ、…ぁっ…ア、ん…」
気持ちがいい。だけどこれじゃあ、ただの普通のオナニーだ。
――『すごいオナニー』を見せなきゃ、加西は開放してくれない。きっと殴られる。
誠人はいつしかそんな脅迫観念にとらわれていた。
普通じゃないオナニーをしようと考えて、まず先ほどからじくじくと疼いていた乳首に、シャツの上から恐る恐る触れる。
「ひぁっ! んっ、ぁあんっ」
少し擦っただけで快感に腰が跳ね、ベッドのスプリングが軋む。
勃ちあがったそこをつまんで左右にくりくりとひねると、すっかり勃起しきったペニスからじゅわりと汁が漏れた。
欲望のままにしごくとぐちゅぐちゅといやらしい音が部屋に響いて、聴覚から余計に興奮してしまう。
気づくとパンツには恥ずかしいシミができていて、誠人はもどかしげにそれを脱いだ。
あらわになった誠人の下半身は汁でぐちょぐちょで、人より薄めの毛や尻のほうまで濡れてしまっていた。
ごくりと、唾を飲む声が聞こえた気がした。
「ぁっアっ、んぅっ…、ヤ、あぁっ」
気持ちがよくて、頭の中まで溶けたようにどろどろになっていく。
自分は今、とんでもなくいやらしい姿を男に見られている。乳首をくりくりしながら下半身の全てを晒して、オナニーをしているのだ。
ゲイ嫌いの加西なら気持ち悪いと思われそうなものなのに、何故何も言わないのだろうと、ふと気になった。
実はもう立ち去っているんじゃないか。
そんな不安に駆られて、誠人は閉じていた目を開いた。
「っ……見てんじゃねェよ」
「んっ…せんぱぃっアッあっ…ん」
生理的な涙で視界が霞んで表情まではよく見えなかった。だがその低く掠れた声と、加西がそこにいるという事実だけで、ゾクゾクッと退廃的な快感が突き抜ける。
――これは、まずいかもしれない。
「せんぱい、もっ見ないで、んっ…はなれてくださ、い」
「……」
「なんかまたっ、フェロモンがっきちゃいそうだからぁっんっ」
そう言っている間にも、どんどん熱が増して全身が震える。
このままではあのときの二の舞になって、今以上に加西を怒らせてしまう。
頭ではそう分かっていても、いつの間にか身体が言うことを聞かないところまできてしまっていた。
尻穴が先ほどからずっとひくっひくっと疼いてたまらないのだ。
熱い息を吐きながら、誠人は無意識のうちにそこへ手を伸ばした。
「あっふぅう…ヤ、せんぱ、見ない、で、んっ、ぁんっ」
そこはすでに汁で濡れそぼっていて、触れただけの指を食むように物欲しげに収縮していた。
普通なら尻穴でオナニーするなんてありえないし、罰ゲームみたいなものだと思っていた。
なのに今は、一刻も早く突っ込んで、疼く場所を擦りたくて仕方がない。それしか考えられなかった。
乾いた唇を舌で舐めながら、誠人は中指をゆっくりと挿入した。
「あーっ…ひぅっ、うっ、ぁあんっ」
ヌチャ、クプッ、ヌッヌッ、ヌププッ
挿ってしまった。狭く熱い内壁が蠢き、指を動かさなくても擦れてビクビクと感じる。
「ぁっぅうっ、もうっホントにきちゃうからぁっ、許して、せんぱいぃっ」
めちゃくちゃに出し入れしたい欲求を残った理性でなんとか抑えて、誠人は加西に懇願した。
これ以上進めば間違いなく理性が吹き飛んで、加西の肉棒を欲してしまう。
それはお互いに望まざる事態のはずだ。
なのに。
「――うるせえ。それをオナニーだけで切り抜けるって、お前が言ったんだろ」
加西は吐き捨てるようにそんなことを言う。
やるしかないのか。そう思うと、尻穴が一層きゅううっと収縮した。
「んっんっ…はぁっァ、あぅんっ」
ぬっぬっ、ぬぷっプチュっ、ぐちゅっ、ぬちゅっ
窮屈な穴の中を探るように指を動かすたび、下半身がじんじん痺れ腰が跳ねた。
とくにペニスの裏側を指の腹で擦ると射精したときのような快感に襲われ、勝手に大きな声が出てしまう。
最初は恐る恐るだった出し入れもいつしかスピードを増し、静かな部屋の中に淫らな音が響く。
――気持ちいい。もっと、太いもので擦られたい。
そんないやらしい思いに駆られていると、不意に加西が動いた。
「――使えよ。指じゃ足りねえんだろうが」
どうやら、部屋にある自販機で何か買ったらしい。
ベッドに放られたものを手にとって、誠人はごくりと唾を飲んだ。
それは男性器の形をしたバイブだった。可愛らしい薄ピンク色ながら、大きさは可愛いという形容とはかけ離れて太く長い。
本来男に使うようなものではない。誠人は恐怖と興奮が混ざったようなどうしようもない気持ちでそれを見つめた。
「……! ぁっ、すご、いっ…」
コードで繋がれたスイッチがあったので半ば無意識に押してみると、それはけたたましい振動とともに、亀頭の部分をぐりんぐりんと回転させ始めた。
――これを中に挿れて、こんな動きで孔の中を擦られたら。
きゅううううっと尻穴がひくついて、興奮に息が荒くなってくる。
「ひゃぁっアッはぁっ、あぅんっ!」
まず疼く乳首に当ててみると、振動による快感が乳首から全身に広がって、誠人は両足の先をピンと伸ばしていやらしく喘いだ。
先っぽでぷっくりと勃っている乳首を押しつぶし、もう片方は舐めて濡らした指で擦る。
肉棒からは先走りがとめどなくあふれ、下半身は大洪水になってしまっている。
最早誠人には自分がどう見えているのか考える余裕などなかったが、その姿は壮絶に卑猥だった。
「……」
「んっはぁぅ、せんぱ、い……?」
加西の息遣いを感じて、誠人はそちらを見つめる。
何だか先ほどより距離が近くなったような気がする。
微かに赤く染まった目元や、眉間に皺を寄せた獰猛な表情まで、よく見えてしまった。
――そして、勃起した下半身も。
(……あ、あのとき、あれで……っ)
加西の長大な怒張、それで滅茶苦茶に犯されたときの快感が思い出されて、誠人は喘いだ。
「…くそがっ、見んなっつっただろうが」
「んっ、ごめんなさ、」
拒絶されたことに、少しだけ悲しくなる。
加西はあれをくれない。ならば……。
誠人はうねるバイブを、色気を垂れ流すような涙目で見つめた。
一度スイッチを切ると、ぬるぬるになってひくつく尻穴にあてがう。
襞に触れただけでぞくぞくとした快感が走って、誠人は我慢できずそれを挿入した。
ぬちゅぅっ、ぬっぬっ…ぐりっぐりっ、ぬぷうっ
「はぁあああっ…ふぅっ、うっ、あぁああぁんっ…」
さすがに指とは比べ物にならない大きさで、違和感がある。だけど太さのせいでいいところとか関係なく肉壁全体をしたたかに擦りあげ、信じられないほど気持ちがいい。
圧迫感と声を出さずにいられない壮絶な快感のせいで、息苦しくなってくる。
もうイきたくてたまらない。
そう思ったとき、行為に水を差すようなタイミングで誠人の携帯が鳴った。
「ぁっ……?」
こんな状況だというのに、反射的にジーンズのポケットに入っていた携帯を取り出す。
画面には、『伊勢』の名が出ていた。
(伊勢、さん……そうだ、約束、してたんだ……)
最早誠人に正常な判断力はなかった。電話に出なくてはいけないと、震える指で通話ボタンを押していた。
『――もしもし? 誠人くん?』
「いせ、さん……」
『ごめん、今日急用が入ってしまって、行けそうにないんだ。本当に残念なんだけど、他の日に埋め合わせさせてくれないかな』
それはこちらとしても都合のいい申し入れだった。
だけどフェロモンにおかされかけた誠人の頭を占めるのはそういう打算ではなく、バイブで満たされた孔の快感と、こんな状況にもかかわらず伊勢と会話しているという後ろ暗さからくる興奮だった。
「わ、かりました、ぁ、あっ」
『……誠人君? どうかしたの?』
掠れた喘ぎ混じりの誠人の声に、伊勢は不審げに訊いてくる。
尻穴が、全身が疼いて、衝動が止められない。
誠人は通話を切ることも忘れ、バイブのスイッチを入れた。
「ヤぁああっ! アッいいぃっひぅっ、あヒィっ、あぁんっ!」
ヴーーーー!
バイブ音とともに、尻穴の中をめちゃくちゃな動きで擦られる。
ピュッピュッと、潮噴きのようにペニスから透明な汁が出た。
『ま、誠人君? 一体……』
「あぅっアッアンッ、いせさ、おれぇっ、んっ、バイブでっオナニーしてるのっ、ひああぁッいいよぉっ」
『な……すげ……』
驚愕したように、伊勢が上ずった声で呟く。
頭の中がピンク色で、何も考えられない。
そのとき、不意に頭上に影が差し、強引に携帯を奪われた。
『誠人く』
「――てめえ、何やってんだ。このド淫乱が!」
加西は忌々しげに電源を切ると携帯を放り投げ、怒りと欲情に満ちた目で睨みつけてきた。
その表情は、誠人の壮絶な快感と興奮を煽りたてた。
「ヤああァーっ、んっ、いいぃっ、もっ、れちゃうっ、いくっ! せんぱっ、あっアァアンッ!」
前立腺にバイブを押し付け、尻を淫らにくねらせながら、誠人は精液を吐き出した。
腰が痙攣し前後に跳ね、ベッドがギシギシ音をたてる。
イったからといって当然バイブが勝手に止まってくれることはなく、孔が激しく収縮するせいでより強くなかを擦られ、誠人は悶え喘ぐ。
「はぁっはぁっ……ぁ、あぁああん…」
射精後の余韻、というより、ずっと射精が続いているかのような気持ちよさに、全身がぐずぐずに溶けるようだ。
だけどその余韻に浸っていられたのも、一瞬のことだった。
「……くそっ!」
「ヤっ!? んっああぁあっ」
ぬぷうっ!と卑猥な音を立てて乱暴にバイブが引き抜かれたかと思うと、誠人は加西に押し倒された。
何を、と思う間もなく、バイブより巨大で灼熱のような怒張が尻穴に突っ込まれた。
「はぁっ、…てめえ、そんなんでよく、オナニーで済むなんて言えたなっ…」
「あひぃっ! あっアンッ、なにっ、あぁああ…」
下半身を見て、誠人はかああっと頬を赤くした。
バイブでとろとろになってしまった尻穴が、加西の赤黒い巨大な肉棒を咥え込んでいるのだ。
それを知覚しただけで、異常な陶酔感に襲われ、イったばかりのペニスがびくっと震え熱くなる。
「っ、絡みついてきやがる…あれからどんだけ、ここに男を咥え込んだんだ!?」
「あああぁーっ、ヤぁっ、ひっ、ふぁっ、あんっあんっ、ァンッ!」
グプッヌプッヌッヌチュッ、パンパンパンパンッ!
加西の動きには最初から容赦がなかった。
長い指が食い込むほど強く太ももを掴んで無理矢理足を開かせ、肉棒を離すまいと収縮する狭い内壁を、滅茶苦茶に突きまくる。
「なぁっ、俺と会わなきゃ、今ごろあの男に、路上でこうやってケツ貸してたんだろ? エロい声を通行人にまで聞かせて、輪姦されたかったのかッ」
「ちがぁっ、ヤァんっ、いぃっはぁっ、せんぱっ、あっふぅっあんっ、んーっ」
「なら電話の相手か? 見境なくアンアン声聞かせやがってっ…」
「ぁあっらってぇっ、んっあうぅっあっあっ」
苛立ちと興奮をぶつけるように、加西は獣のように腰を振る。
それがたまらなく気持ちいい。もっと気持ちよくなりたくてたまらない。
「せ、んぱっ」
「んだよ!?」
「ぁ…キ、キス、して…」
本能のままに誠人はそうねだった。
加西は一瞬目を見開くと、怒ったように荒い息を吐き、誠人の濡れた唇にむしゃぶりついた。
「んんっ…んっ、ふ、ぅんっ…」
性急に舌を差し入れられ、濡れた粘膜を舐められる快感に誠人は恍惚とする。
たどたどしくこちらからも舌を絡めてちゅうっと吸うと、尻穴の中の怒張がビクッと震えた気がした。
濃厚なキスをしたまま腰を回され、張り出したカリが奥のたまらなくいい場所をごりごりと押しつぶしてくる。
誠人は加西の逞しい背中にすがりつき、強すぎる快感に悶えた。
「ふっん、アっああっ、せんぱぃっ、また、いっちゃう、でちゃうっんっはぁんっ」
「……っ」
パンッパンパンッ、ヌプッヌプッグップグップグップ!
唇が離れると、絶頂の兆しに誠人は泣き叫ぶように喘いだ。
加西は誠人の淫猥な表情をじっと凝視しながら、ぷっくりと勃ちあがっている乳首を親指で擦った。
「ひぁああっ!あーっ、いくっ、せんぱっ、いっ、んっあっアアアアァンッ!」
「は、ぁっ……」
性器のように敏感になっている乳首への刺激と、激しく尻を穿たれる衝撃で、誠人の頭は真っ白になった。
張り詰めて加西の筋肉質な身体に擦れていた肉棒から、精液が飛び散る。
絶頂で収縮する尻穴に、加西もまたうめき声をあげ余裕なく腰を振りたくる。
「あっひあぁっもっ、やらぁっ」
「ヤじゃねえだろっ…仁藤、ザーメン、どこにかけてほしいんだ…? エロい乳首か? 顔か? それとも…」
「ふぁあっ、なかっ、せんぱいのザーメンっ、んっぁ、なかにっ、いっぱいらしてぇっアッあんっふぁああんっ!」
「くっ……」
正体をなくし淫らな言葉で中出しをねだる誠人に、加西は興奮して最奥を穿った。
熱い吐息が誠人のうなじにかかるのと同時にビクッビクッと怒張が震え、誠人の望みどおり大量の精液が中へそそがれた。
「はっぅう、んっはぁっ、ぁん…」
とてつもない充足感に、誠人はぐったりとしたまま喘いだ。
加西は達してもすぐに肉棒を抜くことはなく、誠人の中はそれをぎゅうぎゅうと刺激し続け快感を貪る。
このまま、ずっとこうしていたい。
素面であればありえないような欲求が、誠人の胸に宿っていた。
――が、例のごとく誠人の願いがかなうことはなく。
「っ!? ヤッ、あっアぁん!」
「はっ、もう少し、緩めろっ…」
身体を反転させられたかと思うと、腰だけを高く上げた卑猥な体勢で後ろから激しく犯される。
誠人はひんやりとしたシーツに顔をうずめ、ズボズボと突かれるたびに泣きながら喘いだ。
夜はまだまだ終わりそうにない。
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