誠人、チラシを配る。 03
あり
目が覚めてすぐに、誠人は妙な息苦しさを感じて呻いた。
いつもより滑らかな感触のするシーツの上で、段々意識が覚醒してくる。
「んんー……うわっ!」
ぱちりと目を開けて、誠人は驚愕に叫びだしそうになった。
目の前に、誠人が恐れて止まない男のドアップが広がっていたのだ。
息苦しさの正体は、この男に身体を抱きこまれているが故だった。
昨夜の狂態が勝手に頭を過ぎって、誠人は一人青くなったり赤くなったり忙しなく身悶える。
一体何度中に出されたのか、定かではない。
どれだけ泣き叫んでも加西は容赦せず、獣のように誠人を犯しまくった。
途中で正気に戻りかけていたのに、もう嫌だと言うとより一層激しくされ、バイブを乳首やペニスにきつく押し当てたまま奥をごりごり突かれ――。
「……っ」
思い出すとアナルがひくつき、中にたっぷり注がれた精液の違和感に気づいた。
まずはこれをなんとかしなくては。
幸い加西はまだ眠っているようだったので、起こさないように腕の中から抜け出す。
しかしこれが意外に大変で、数分ほどかかってしまった。
きっといつも女にしている習慣で、無意識に抱きしめていたのだろう。
加西にそんな甘いイメージはなかったが、悔しいことにかなりモテる男であるのは確かなので、そういうことがあっても何らおかしくはない。
考えると、何だか複雑な気分になる。
「寝顔だけならまだ、怖くないのになあ……」
誠人はベッドの上の加西を眺め、小声で呟いた。
いつもと比べると眉間の皺がなく険もいくらか取れ、何よりあのギラギラした目が瞼に隠されているのが大きい。
こうしてまじまじと見ると、やはり整っているということが良く分かった。
何の気なしに頬に手をあてると、少し冷たく思ったより滑らかだった。
(……って、何やってるんだ俺)
どうやらまだ少し寝ぼけていたらしい。
こんなことをしている暇はないのだ。
慌てて立ち上がると腰が酷くだるく辛かったが、身体を引きずりバスルームへ入る。
家に帰るにはそれなりに歩いて電車に乗る必要があるから、とにかく中の精液を出さなくてはならない。
「いっ……」
シャワーを出してお湯を浴びると、首筋がヒリヒリと痛んだ。
鏡で見ると噛まれたような痕が残っていて、何だか落ち着かない気分になりそこを擦る。
何度目の行為であったかは覚えていないが、達した瞬間恥ずかしい声が止まらなかったとき、苛立ったように噛まれた記憶がある。
……噛み千切られなかっただけましだと考えよう。
誠人は濡れた頭を左右に振って、不穏な想像を追い出した。
気を取り直して、精液を出すためアナルにそっと触れる。
「うう……」
昨夜あれだけの行為をしたというのに、そこはもう口を閉ざしていた。
ユルユルになって閉じなくなるよりはましだが、少し痛みと違和感を感じることもあって、怖気づいてしまって中々指を突っ込めない。
しかしこのままというわけにはいかず、誠人は洗面所に置いてあったアメニティのオイルを使うことにした。
ぬるぬるに濡らすと大丈夫なような気がしてきて、そっと指を挿入する。
「んっ……ふっ」
中は狭くて、濡れた感触がする。
さっと終わらせようと思っていたが、かなり奥まで入りこんでしまっていて意外と大変かもしれない。
「はぁ、あっ、んっ……」
狭い中をこじ開けるように指を動かすと、否応無しに敏感な部分にごりごりと擦れて、力が抜ける。
こんなことで感じてしまう自分に、何とも情けなくもどかしい気分になった。
「くっ…、あぅっ、あぁッ」
ズプ、ぐちゅっ、ヌプンッ
四苦八苦しながら、何とか精液を指に絡めて掻き出した。
荒い息を吐きながら、それをシャワーで流していると、不意に物音が聞こえて反射的に振り返る。
「うわっ! す、すみませんっ」
驚きのあまり、腰が抜けそうになってしまった。
ついさっきまで意外なほど穏やかな寝顔を晒していた加西が、今はいつもどおりかそれ以上の恐ろしい表情でバスルームに入ってきたのだ。
起きる前に逃げ帰る計画だったのに、ここ最近の運の悪さは筋金入りらしい。
「あの、俺出ますので、どうぞ……」
さりげなく手で下半身を隠しながら、誠人は壁伝いにのそのそ動いてバスルームを出ようとする。
まだ全部出せたわけではなかったが、それどころではない。
前回と同じように、加西がシャワーを浴びている間に早急にホテルから立ち去ろう。
そう思っていたのに、もうすこしでドアを開けるというところで、その手を加西に掴まれてしまった。
「ひっ…、なななにっ」
ビビりすぎて、声がひっくり返る。
加西の目は寝起きのためなのか何なのか据わっていて、ただでさえ力が入らない脚が恐怖で震える。
「逃げんじゃねえよ……」
「……ぁっ」
低く掠れた囁きと共に後ろから抱きすくめられ、心臓が止まるかと思った。
次の瞬間には鼓動が痛いほど早鐘を打ち、頭が混乱する。
もしや寝ぼけているのだろうかと考えていると、尻にやたら熱くて硬いものがごりごり当たることに気づいた。
朝勃ちしたのか。昨夜あれだけ出したというのに、何と言う絶倫だろう。
「あ、あの、ええと……」
何を言えばこの場から逃げられるのかと、必死に言葉を探す。
もう帰るので、AVなど見ながらご自由に――これは馬鹿にされていると思うだろうか。
女の子でも呼んだらいかがでしょう――これも余計なお世話か。
それにしても勃起を押し付けるのはただちにやめてほしい。変な気分になってしまう。
とりあえず身体を離そうとすると、加西の大きな手が腰を押さえつけてきた。
「えっ…アアッ! ヤッ、あっはああぁっ…」
「は、……」
ヌチュ、ぬぷ、ぬぷ、ずぷ、ズプッ!
硬い昂ぶりがアナルにあてがわれたかと思うと、乱暴にねじ込まれた。
オイルで中までとろとろになっていたおかげで痛みはなく、一気に燃えるような熱が下半身に集まってくる。
「あんッ、あっ、あっ…、ん、んぁっ、あぁんっ…」
立ったまま狭い内部を押し広げるようにごりごり擦られ、いやらしい声がひっきりなしに上がる。
場所のせいでやけに響くのがたまらなく恥ずかしくて口を塞ごうとするが、突かれるたびに脚ががくがくして身体を支えるだけで精一杯だ。
「ヤだっ、そこ、あんっ、ぐりぐりっしないで…あっあぅッ」
必死に懇願すると、中の怒張が更に体積を増す。
一体どうしてこうなったんだろう。
単に寝ぼけているだけか、まだフェロモンの効果が残っているのか。
後者であるならいっそ誠人の理性もどろどろにしてしまえばいいのに、中途半端に正気が保たれていて、加西に恥ずかしい格好で犯されているという倒錯感に身体がぞくぞくと震える。
「せんぱっ……アァッ、んんっ、はぁっ、あっあッ」
一瞬動きが止まったかと思うと、加西が前に手を回し乳首に触れてきた。
どうやら残っていたオイルを使ったらしく、両方の乳首がぬるぬるになる。
「あんっ! あっ、ひぃっ、らめっ…、それ、あッいぃっ…」
ぬるぬるの指で弾かれると、まるで舐められているようなぞくぞくした快感が乳首を苛む。
くりくりされるたびに下半身まで痙攣して腰が揺れ、中の怒張を搾り取るように締め付ける。
「あんっ…乳首、やぁっ…あっ、あっ」
押しつぶされながら奥を突かれて、怖いほどの快感に悲鳴のような声が出る。
大きな肉棒に熱く絡みつく内部に、加西は荒い息を吐いた。
「く、…出すぞ…」
「ああァッ! らめぇっ、あんっアンッ、あっあっああッ!」
ぬる、ヌッ、くりくりっ、ぐりっぐりっ
グプ、ズプッズプッ、ぬっぷぬっぷ、パンパンパンパンッ!
加西は耳朶を噛みながら苛立ったように言ったかと思うと、叩きつけるように激しくピストンしてきた。
滅茶苦茶に中を擦られ、乳首をきつく摘まれ、誠人は壁にすがりつきながら泣き喚く。
「あっああぁっ…せんぱっ、なかは、らめぇ…んっ、中出ししちゃぁっ…アッあっいぃっ、んっ、あんッ」
「はぁッ……黙ってろ……っ」
加西は無慈悲に言い放つと、わけがわからなくなるほど高速で巨大な怒張を出し入れした。
性感帯をごりごりと何度も押しつぶされる壮絶な感覚に、誠人はイキっぱなしになってペニスから汁を噴き上げる。
「ああああぁっ! もうやらぁあっ…、あひぃっ、あっ、あんッ、ひっああぁんッ!!」
「くっ……!」
肉棒が膨れ上がり、中に熱いものが叩きつけられた。
射精の瞬間もピストンは止まらず、誠人は息も絶え絶えに喘ぎながらされるがまま揺さぶられる。
嫌だと言ったのに思い切り中出しされ、奥に塗りこまれてしまった。
「はあぁ……ひ、はぁ、ん……」
ぬぷっといやらしい音を立てて肉棒が抜かれると、誠人は今度こそ立っていられず床にへたり込んだ。
しかし休む暇もなく、いきなり加西の逞しい腕に抱えられてしまう。
「ええっ!?」
膝裏と肩で支えられ、身体が軽々と宙に浮く。
これはいわゆるお姫様だっこというやつではないだろうかと混乱していると、加西は足早にベッドルームへ戻り、誠人の身体を放り投げた。
「っ、あっ、ああんッ!」
間髪入れず今度は正常位で挿入され、揺さぶられる。
「あぁっ、せんぱっもう、むりっ……あんッ、なんで、あ、あぁっ…」
「っ……もう、喋んじゃねえ…」
言葉を厭うように、唇を唇で塞がれた。アナルをひっきりなしにかき回される快感のせいで口を閉じていられず、すぐに舌が絡まって卑猥な音を立てる。
絶倫なんてレベルじゃない、この男は化け物だと、誠人は快感に支配されていく頭ではっきりと感じた。
◆◇
ようやくセックスが終わったとき、誠人は再び加西の腕の中にいた。
率直に言って、気持ちがよかった。
だけど加西への恐怖は到底拭い去れるものではない。
少しして、加西は誠人を抱きしめていることに気づくと、ばつが悪そうに乱暴に腕を離した。
ようやく正気に戻ったというところだろうか。
散々やっておいてそんな態度を取られるのはいい気がしないが、もちろん口に出して言える度胸はない。
「……おい」
「は、はい?」
加西が眉間に皺を寄せこちらを睨みつけてくる。
珍しく何かを言いあぐねているような様子に、一体何を言われるのかと、冷や汗が頬を流れる。
難癖をつけるポイントならいくらでもある。昔はよくそうやって蹴られたり、金を取られたりしたものだ。
とそこまで考えて、はっと思い至る。
「あ、あの」
「……」
「ええと、ホテル代、払いますから……」
かなり痛い出費だが仕方ない。できれば割り勘にしてほしいと思いつつ加西を窺うと、眉間の皺が深くなり、はっきりと不機嫌な表情に変わって焦る。
「す、すみません、全額払いますから! もちろん最初からそのつもりでした! ……あの」
「――――……一万だ」
「はい?」
たしか宿泊でも4桁だったはずだが、ぼったくるつもりなのか。
なんという災難だろう。
だが加西は、予想だにしていなかったことを言い出した。
「お前、その体質を持て余して困ってるんだろう。俺がこれから一回一万で処理してやるよ」
「え、いや、それはその」
「安いもんだろうが。デリヘルでも一万じゃ年齢詐称の微妙な女しか来ねえだろ」
とんでもない提案に、誠人は文字通り固まってしまう。
デリヘルなど使ったことがないから知らないし、毎回そんな金払えるはずがない。
加西にとってははした金かもしれないが、誠人にとっては一ヶ月の食費に相当する金額だ。
「文句があるのか?」
「…………」
誠人の受難はまだまだ続く。
end
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