誠人、ゲイバーに埋もれる。 02
あり
「はー……あれ、伊勢さん?」
用を足して手を洗っていると、トイレに伊勢が入ってきた。
誠人が戻るまで我慢できないほどしたかったのかな、と少し失礼なことを考えつつ、一声かけて出て行こうとする。
「先戻ってますね」
「大丈夫、バッグはちゃんと持ってきたから」
「あ、どうも……っ!?」
言い終わる前に、誠人は強い力で腕を掴まれ、個室の中に引っ張り込まれた。
「ちょっ、伊勢さんっ!?」
「はぁっ…、誠人くん……」
後ろ手にドアを閉めると同時に伊勢は誠人に抱きついてきた。
一体何がどうなっているのか理解する間もない。伊勢は興奮したような息を吐くと、全身をこすりつけるようにして抱きつく力を強くする。
「い、伊勢さん、酔ってるんですかっ!? どこか痛いとか、あっ」
できるだけ冷静を装って訊いた言葉も、尻をむぎゅっと掴まれたことでおかしな声に変わってしまった。
「可愛い声…酔ってなんかいないよ。君がいやらしいことを言って誘うから…」
「え、ええ?」
「我慢してたんだよ? すぐこんなことするつもりはなかった。なのに君が…」
目が合う。伊勢は微かに頬が赤くなっていて目も潤んでいるが、酔って正体をなくしているようには見えない。
誠人の身体に異変はなく、今までの周期から考えてもフェロモンの効果が出ているわけでもないようだ。
混乱して伊勢の顔を見つめていると、瞬きの間に噛み付くように唇を塞がれた。
「っ!? んっ、ふっ」
「ん……」
下唇をちゅうっと吸った後甘噛みされると、ぞくぞくとした感覚が身体を走って力が抜けてしまう。
すると小さく開いてしまった唇をこじ開けるように舌が侵入してきて、無遠慮に口内を舐めまわされる。
「んっ…ふぁ、んんぅ……」
酒臭さとカクテルの甘さが混じった伊勢の舌はねっとりと熱く、荒々しくも執拗に敏感な部分を責めてくる。
その上頭を抱える右手の指で耳を緩く刺激してきたり、左手で尻をぎゅむぎゅむと揉んでくるものだから、脚がガクガクしてきてろくに抵抗することもできない。
「はぁん…ん、ん…」
頭がとろんとしてくる。正直言って気持ちがよかった。半ば無意識に絡められた舌を吸うと、密着している伊勢の肉棒がドクッと硬さを増して、誠人のものまで疼いて反応してしまう。
「んはぁ……っ、あぁんっ」
ようやく唇が離れたと思った刹那ぐりぐりと強く股間を擦り付けられ、誠人の口からはいやらしい喘ぎ声が漏れた。
「思ったとおり、エロいんだね…」
「や…、見ないでください…」
伊勢は誠人の頬に手を置くと、舐めるようにじっと見つめてくる。まだ服もちゃんと着ているというのに視姦されているような気分になってしまい、羞恥で身体が疼いて仕方がない。
それにしても、どうしていきなりこんなことになっているのだろうか。先ほどまでの好青年と、今目の前にいる誠人に欲情している男がどうにも脳内で結びついてくれない。
「い、伊勢さん、どうしていきなり……? てっきり俺には興味、ないのかと、ぁっ」
「ん……?」
質問の途中耳をれろれろと舐められ、びくりと感じてしまう。
「興味がなかったら、わざわざ声をかけるわけないだろう? でも君はまだ何も知らない綺麗な子だと思ってたから、ゆっくり仲良くなるつもりだったのに……。まさかあんな直球で誘ってくるなんてね。それも他の客まで無差別で誘うなんて、悪い子だ」
耳元で吐息混じりに言われ、いちいち身体が震えて誠人は伊勢の腕を掴んだ。伊勢はそんな反応も楽しんでいるようにくすりと笑う。
「っ、他の客なんて、そんな気全くありません!」
「何言ってるの。俺が睨み効かせなきゃ、あの場でエロいことされてもおかしくなかったんだよ。それともそうしたかった? 大勢に見られて触られて、いやらしいこと言われながらぶっかけられたかった?」
「ぁっ……そ、そんなこと、あんっ」
伊勢の太ももが、誠人の肉棒をぐりぐりと刺激してきた。先ほどより明らかに勃起していることが分かって恥ずかしくなる。
「はぁ……やらしい。大丈夫、そんなことはさせないから」
「あっ、あっ、はぁんっ…」
おかしい。フェロモンの効果はでていないはずなのに、どうして男同士であることに嫌悪感を覚えないのだろう。
正気は保っているのというのに、どうしてこうも気持ちがいいのだろう。
もしや今までの散々な経験によって、完全に男に目覚めてしまったのだろうか。
それは嫌だ。しかし。
誠人はすがるような想いで伊勢を見つめた。
誰でもいいわけではない、人間的に好印象を持っている伊勢だからこそ嫌悪感を抱かないのだ。
これほど気持ちがいいのは伊勢自身のフェロモンとテクニックが素晴らしいが故の不可抗力なのだ。
誠人の脳はそんな風に考えることで現実逃避を始めていた。
伊勢は誠人に欲情している。複雑だが誠人も伊勢相手に素で欲情している。
当初の目的である『セックスしてくれる相手』としてはこれ以上ないほど双方にとって都合がいいはずだ。
「い、伊勢さん、俺とエロいこと、たくさんしてくれますか? 今日だけじゃなくて、俺、すごくその、い、淫乱…になっちゃうときとかあるんですけど…やっ、ひゃあぁんっ」
言い終わる前に思い切り尻を揉みしだかれ、誠人は膝を震わせながら伊勢にしがみついた。
「本当に悪い子だな…いいよ、たくさんしてあげる…」
ゾクゾクするほど淫靡に微笑む伊勢に、誠人は涙目でひきつった笑みを返した。
「ずっと気になってたんだけど…」
「ひゃっ、あぁっ」
伊勢は蓋をした便器の上に誠人を座らせると、シャツの上から乳首を親指でぐりっと擦ってきた。
「こんな薄い白シャツ一枚でピンクの勃起乳首透けさせて…いつもこうやって男を誘ってるの?」
「ちがっ…あひぃっ! あっあんっ…」
ぐっ、ぐりっ、クリックリッ
両乳首を簡単につままれて、布に擦り合わせるようにクリクリされる。
見てみると確かに、以前より少し大きくなってしまった乳首が白いシャツを押し上げているさまは卑猥で、ぞくっと甘い痺れが走る。
「いつもこんなに勃起させて、服に擦れて気にならないの? それとも、淫乱だから服に擦れる感触を楽しんで、みんなの前でこんなやらしい顔晒してるのかな…」
「してなっ…ぁんっ、はぁっ…ああんっ」
「絆創膏でも貼ったほうがいいんじゃない? バレたら即剥がされてちゅうちゅう吸われちゃうだろうけど 」
「はぁっ…、あっ…あぁん…、やらぁ…」
いやらしい言葉と巧みな愛撫で、乳首を弄られているだけなのに肉棒から汁が漏れて濡れていく。
なまじフェロモンに侵されておらず正気が残っているため、恥ずかしくて仕方がない。
さりげなく隠そうと伸ばした手を掴まれ、見上げると興奮した表情の伊勢と目が合う。
「乳首だけでチ○ポビンビンだね、やらしい。自分でシャツ上げて、乳首舐めてって言ってごらん」
「は、ぁ…そんな、ぁ…」
そんな恥ずかしいことできない。そう思う気持ちがあるのに、言われた瞬間舐められることを想像してゾクゾクッと身体の内側が疼いてしまう。
とにかく、伊勢に気に入られるためにもできるだけ言われたとおりにしたほうがいい。
誠人は震える手でシャツをゆっくりと上げた。
ビンビンに勃起して赤く張った乳首があらわになる。
伊勢はごくりと唾を飲むと、そこを視姦するようにじっと見つめてくる。
「ぁ…、舐め、……っ」
目を伏せ、命じられたままのセリフを口にしようとしたとき、不意にトイレのドアが開く音がした。
「……!」
驚いて声が出そうになるのを咄嗟に堪える。足音で複数の人間が入ってきたのが分かった。
幸い個室はもう一つある。早く済ませて、早く出て行ってくれればいい――そう思っていたとき。
「っはぁんっ…!」
いきなりむき出しの乳首をぐりぐりといじられ、その快感にひっくり返った声が出てしまった。
「や、止めてください、聞こえちゃっ…ぁんっ…」
小声で訴えるも、勃起した乳首を強めにこねくり回されると、腰がびくびくして言葉がとぎれてしまう。
入ってきた者達が出て行く気配は未だない。どころか用を足している音も聞こえず、何か変じゃないかと思いい始めていると。
「ほら、早く乳首舐めてって、いやらしい声で言ってみて…」
「そんなっ…」
伊勢が耳元に唇を寄せ、掠れた色っぽい声で残酷なことを囁いてきた。
もし聞かれてしまったらと思うと、とてもそんなこと言えるはずがない。
それが聞かれずに済んでも、本当に伊勢に乳首を舐められたり、吸われたりしたら……。
だが苦悶する誠人をよそに、伊勢は更に追い討ちをかけてくる。
「……早く言わないと、ここのドア開けちゃうよ?」
「なっ…だ、駄目です…!」
「なら、言えるよね…」
本気で言っているのかは判断がつかないが、冗談と一蹴できる雰囲気でもなかった。
拒み続ければ本当にドアを開けられ、こんな姿を不特定多数に見られてしまうかもしれない。
「ほら、誠人君」
耳たぶを甘噛みされながら急かされて、何故か乳首や肉棒までがズクッと疼いた。
「な…なめて、ください…」
「聞こえないな…もっとはっきり言わないと、間違えて開けちゃうかもしれないな」
伊勢は嗜虐的な笑みを浮かべながら、後ろ手に鍵に触れる。
聞こえていないはずがないのに。これ以上声を出したら外の人たちにまで聞こえてしまう。
しかし見られるのはもっと嫌だ。
「はぁ……すごいやらしい顔してる」
「っあぁっ!」
不意打ちのように乳首を強く引っ張られ、誠人は腰をひくつかせて甘えるような声を出してしまった。
確実に外にも聞こえただろう。鼓動が痛いほど速まってクラクラしてくる。
伊勢が鍵から片手を離してくれる様子はない。
誠人は羞恥で涙目になりながら、濡れた唇を開いた。
「はぁっ…俺のいやらしいっ、ちくびぃ、レロレロってなめて、吸ってくださいっ……」
そう言った瞬間、外で複数の人間の息遣いが荒くなったのが聞こえた。
聞かれてしまった――こんな変態みたいなことを、顔も知らない人たちに聞かせてしまったのだ。
ゾクゾクゾクッ…と身体の奥が酷く疼いて、息が更に乱れてくる。
「マジでエロい…そこまで言えなんて誰も言ってないのに、興奮しちゃったんだ…?」
「だって…あぁっ、やぁああんっ!」
伊勢は欲情を隠そうともしない獰猛な表情で舌なめずりすると、勃起しっぱなしの乳首にむしゃぶりついた。
ちゅっ、ちゅうっ、ヌッ…、れろっれろれろっ、ぢゅううううっ
「あッあッあんっあぁんっ!」
濡れた粘膜が触れただけでもものすごい快感なのに、いきなり激しく吸ってくるのだからもう声を抑えることなどできない。
ビクッビクッと肉棒が汁をにじませ、下着の中がぐちょぐちょになっていくのが分かった。
「ハァッ、は……」
「はぁっ……はぁはぁ……」
外からも欲情した荒い息が聞こえる。ここまでくると彼らが用を足しに来た訳ではないのは明らかだったが、今の誠人にはどうすることもできない。
「ひぁあんっ…ちくびぃ…らめぇっ…ぁんっ、あぁあああん…」
乳輪まで口に含んで吸い上げたかと思うと、敏感な先端や側面をれろれろっとしつこく舐めてくる。
激しい快感と羞恥で喘ぎ声も止められず、呼吸さえ苦しくなってくる。
「すごいな…分かってる? 外の人たちも、君のエロい声に興奮してるんだよ…」
「やらぁっ…しゃべっちゃぁっ、はぁんっ…あっあっあひぃっ!」
嫌だ、恥ずかしい、こんなのありえない。
そう思っているはずなのに、外で興奮している男達の息遣いが聞こえるたび、誠人の身体はビクビクッと反応してしまう。
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