誠人、サクラになる。 02
あり
嫌なものを見られてしまった。
画面はヒロシとのやりとりのまま放置されていた。奏の訪問に動揺するあまり、完全に意識から抜け落ちていたらしい。
「……君は、いつもこういったことをしているのか?」
「そ、れは……」
即答できなかった。サクラなのだと説明するか、誤解させたままにするか――どちらを選んでも奏にはきっと軽蔑されるだろう。折角多少なりとも印象が好転したばかりなのに、と思うとにわかには言葉が出てこない。
「何故答えない? 私は君が、強姦されても部長を庇うような人間だと知って、誠心誠意謝罪しに来たんだ。それなのにこんなことをしているなんて……やはり君が部長を誘惑したのか?」
蔑みとはどこか違う、微かに苛立ったような声音で奏が詰め寄ってくる。
「ち、違いますっ。これはその……単に友達と冗談で」
「冗談? 冗談でこんな……いかがわしいことを?」
「うわっ……」
奏の手が、誠人の腕を掴んだ。その瞬間、掴まれた場所からずくんと疼くような感覚が全身に広がり。
――まずい。これは、この感覚は。
「っ、あの、す、すみません!」
「何故謝る? まさか悠ともこんなことをしているのか?」
「し、してなっ……」
頭がくらくらする。強い酒に酔ったときのような、身体が内側からじわりと熱くなるような心地がする。
奏の力は意外に強く、そんな状態の誠人には振りほどくこともできない。
「見てみなさい。こんなこと、本当に友人同士ですると君は言うのか?」
「あ……」
画面をぼんやりとした目で見ると、あの後のヒロシの卑猥なレスが続いていた。
――君の可愛いおっぱいをいっぱい舐めて、貧乳乳首が大きくなっちゃうほどちゅうちゅう吸いたい。
――恥ずかしがる君の顔をつかまえて、舌を絡めまくるエッチなキスがしたい。
――ぐちょぐちょになったあそこをいっぱい舐めながら指でずこずこして、何度もイかせてあげたい。
――泣きながら痙攣する君のお●んこに、ビンビンになった俺のチ○ポを挿れて、いっぱい気持ちいいところを突き上げてあげる。
常なら間違いなく気持ち悪いと感じていただろうレスの数々に、今の誠人の身体はしかし甘く疼いてしまう。
「……仁藤君。なんて顔をするんだ、君は……」
奏の声がどこか遠くに聞こえる。ゆっくりと顔を上げると、射抜くような目と目が合った。
「すっ、すみません! 用事を思い出したので、少し出てきます……」
何とか最後の理性を働かせ、誠人はおぼつかない脚で立ち上がろうとする。
しかしその動きは、奏に腕を掴まれたことであっさり封じられた。
「待ちなさい、まだ話はっ……」
「ひあっ」
ただ腕を触られただけなのに、ビクビクと震えるような電流が誠人の身体を突き抜けた。
バランスなど保っていられるはずもなく、奏を巻き込んでその場に倒れこんでしまった。
「はぁ、あ……」
「に、仁藤君……」
奏を誠人が押し倒すような形で、少し汗ばんだ身体と身体が密着する。
――熱くて熱くて堪らない。かすかに残った理性が、完全に焼ききれる音が聞こえた気がした。
「に、仁藤君、すまな……んぅっ!!?」
狼狽した様子で言葉を紡いでいた奏の唇に、誠人は吸い寄せられるようにむしゃぶりついた。
「ハァッ……ん、ちゅっ、んっふぅ……」
ちゅ、れろれろっ、ちゅぶ、くちゅっちゅううっ
舌を引きずり出していやらしく絡めると、まるで砂漠で水を得たかのような急激な充足感と快感に満たされていく。
気持ちがいい。でも、こんなものでは足りない。
衝動のままに、誠人は半勃ちになったペニスを奏の太ももに押し付け始める。
「はぁ、んんっ…んちゅぅっ、…ぁあん……」
「はぁっ……、ん、仁藤君っ、待ちなさい、こんな……っ」
まだ理性が残っているらしい奏は静止の声を上げるが、フェロモンが効いていないわけではないことは抵抗の弱弱しさと上ずった声から明らかだ。
「ふっ、奏さん、ちゅぅ…はぁんっ、ぁああんっ」
「っ、はぁっ……」
抵抗に本気の力が入っていないのをいいことに、唇を下に這わせながら、より強く身体を押し付ける。
少し汗の滲んだ首筋をれろれろと舐めると奏がぴくりと震えたのが分かり、すでに濡れ濡れになっているペニスが更に興奮して疼いた。
「んっ、はぁっ、ぁん…きもち、い…おち○ぽ、あひんっ」
両足で奏の太ももを跨ぎ、いやらしくぐりぐりと腰を回す。もどかしいはずの行為なのに、それだけでおかしくなりそうなほど気持ちがいい。
夢中で腰を振っていると、ふと硬く熱いものが腰に当たって――それが何であるか理解した瞬間、誠人はビクビクビクッと激しく痙攣し。
「ああぁっ、いくっ…いっちゃぅっ、奏さんのあしでっ、っはぁ、せいえき、れちゃうよぉっ…ぁんあんっああああぁんっ!!」
「っ……!」
激しく動いたせいで食い込んだ下着の中に、精液がドクドクと吐き出された。
それがじわりとズボンにまでしみこんでいくのにも構わず、誠人は恍惚と快感の余韻に浸る。
――が、そんな幸せな時間も長く続くはずはなく。
「……仁藤君っ」
「う、うぁっ」
突然強い力で腕を掴まれると、誠人はその場に押し倒された。
「……君がこんな、最低の変態だったなんて……」
激情を押し殺したような低い声に、暗い光の宿った瞳。
この男は誠人に対して、本気で怒り、軽蔑しているのだ。
だけど、それだけじゃない。嗜虐性を伴った激しい欲情は、隠しきれていなかった。
怖い。怖いはず、なのに。
「っ、はぁ、ぁ、ん……」
キュンッと疼くような期待に、誠人はいやらしく甘えるような声を出していた。
「っ、はしたない声を出して、この淫売が!」
「痛っ……」
怒りをぶつけるようにぎりぎりと強く腕を掴まれ、誠人は痛みに身悶える。
「……君のような人間は、少々痛い思いをしないと分からないだろう。暴力は好まないが……」
「やっ、何をっ……」
奏は誠人の身体をひっくり返してうつぶせにすると、強引にスウェットを脱がせた。
ぐしょぐしょに濡れた下着が外気に晒される。
「……この、変態!」
「っあぅっ!!」
パシイィンッ!!
罵声と共に、手のひらが容赦なく尻に振り下ろされた。
強い衝撃と痛みに、身体を支えていた腕が崩れる。
「だらしないな。ちゃんと尻を上げなさい…ほら!」
「ひぃああぁっ! やっ、いだいぃっ、あっひィンッ!」
尻だけを高く上げたような卑猥な体制を強いられたまま、二度三度と休みなく叩かれる。
「どうだ、子供のように尻を叩かれる気分は?」
「あぁっ…や、いだいよぉっ、はぁんっ…」
痛い。恥ずかしい。まるで悪さをした幼児のように扱われて、普通なら屈辱を感じないはずがない。
――なのに、誠人のペニスは萎えるどころか布を押し上げてびくびくと震えているのだ。
「…君、どうしてはしたないシミが広がっているんだ…?」
ピンクの亀頭が透けるほどぐしょぐしょになった下着を見咎め、奏はより一層強い力で手のひらを尻へ振り下ろす。
「はああああぁんっ!!? らめぇっ、いだぃのぉっ、ぁあっ」
「何だその声は。痛いのがそれほどいいのか? こんな屈辱的な行為で興奮するなんて、手の施しようがない変態だな……っ」
そういう奏の声も、最早興奮を隠しきれていない。荒い吐息混じりの奏の罵声は、誠人の欲情を煽るものでしかなくなっていた。
「あひぃっ、ああーっ、おしりぃ、もう、やぁっ…!」
「っ、こんなに粗相して、君には下着など必要がないな」
言うや否や、奏は誠人のボクサーパンツを引きずり下ろした。
「はぁんっ」
昂ぶりきったペニスが布に擦られたことで、誠人は腰をひくつかせて喘いでしまう。
濡れたパンツはいやらしく糸を引きながら水音をたてて床へ落ち、赤く腫れた尻があらわになった。
少しの間、耳が痛いほどの場違いな静寂がその場を支配する。
――見られている。剥き出しになった恥ずかしい尻を、至近距離で奏に見られている。
あの潔癖な奏のことだ、これ以上なく蔑んだ表情をしているに違いない。
きっともっと手酷く尻を叩いて、辱めの言葉を……。
ヒクヒクッ、ヒクッ、キュウウゥンッ!
「ぁんっ…、はぁ、は…」
変態的な想像に、尻穴が勝手に激しく収縮し、いやらしい声が漏れる。
「……くそっ!」
叩かれる――という期待の入り混じった予感に反して、奏は包み込むように両手で尻に触れてきた。
「あぁんっ…」
たったそれだけの行為でも、敏感になった誠人の身体は快感に反応してしまう。
「…なんなんだ君は……。俺は、こんな…」
「ひゃあぁんっ! ぁっ、らめぇ…」
ぎゅむっ、ギュムゥッ!
奏は苦しげな声を出しながら、苛立ちをぶつけるように尻を痛いほど揉んでくる。
普通ならフェロモンの強い力でとっくに理性を失っているだろうところを、彼の潔癖さがそれに抗って葛藤を起こしているらしい。
その様子を見て、誠人にもほんの少しだけ正常な思考が戻ってきた。
奏がこういう行為を非常に忌み嫌っていることは明らかなのに、かわいそうだ、と。
「もっ、離してくださ…」
「……」
誠人はわずかな力を振り絞って、奏の手を払いのけた。
これ以上はまずい。そんなのどうでもいいから早く気持ちよくして欲しい。
頭の中は酷くごちゃごちゃしていて、身体は堪らなく疼いていて、その結果。
「……ほかのひと、にっ、いっぱいしてもらぅからぁ…かなでさんは、帰って…」
「――他の人、だって?」
パシイイイィンッ!
「っあああぁーっ!」
鋭い音と共に、今までになく強い痛みが誠人の尻を襲った。
「俺じゃお気に召さなかったからって、他の男にこうしてもらうつもりか? まさか悠にさせるんじゃないだろうな」
パシッ、パシィッ、パアアァンッ!
「あぁっ、ひぁあっ、はぁんっ、んひぃっ! いたいぃっ、あんっ!」
完全に奏の中の地雷を踏んでしまったらしい。
だけど誠人にはもう、それを認識する余裕などなくなっていた。
「この、救いようのない変態が。痛い痛いと言いながら、こんなに汁をこぼしているじゃないか」
奏の言うとおり、誠人のペニスは叩かれれば叩かれるほどビクビクと張り詰め、カウパーで床を汚していた。
痛みも屈辱もなぶりの言葉も、全て被虐的な快感に摩り替わっているのだ。
信じられないくらい気持ちがいい。
でも、どこかもどかしい。叩かれるだけでこんなに気持ちがいいなら、もしなぶられながら尻をズブズブされたら、もしさっき感じた大きくて熱いペニスで中を擦られたら……。
そんな想像をした瞬間、キュウウウウンッと尻とペニスが激しく疼いた。
「あぁああんっ、もっやらぁっ、いっちゃう、おち○ぽからぁっせいえきらしたいのぉっ!」
「っ……!」
叩かれながらいやらしい言葉を叫ぶと、全身が痺れるほどの衝撃が誠人を襲った。
「あああぁーっ! いってぅ、あんっぁんっいってるよぉっ!! ひあああぁっ!」
二度目にも関わらず大量の精液が勢いよく吐き出される。その間中、誠人は激しく腰を痙攣させながら喘ぎ続けた。
いってしまった。ペニスに触れることすらせず、尻を叩かれただけで。
ごくりと唾を飲んだのは、どちらだったのか。
「本当にお仕置きでいってしまうなんて、君は本当に最低の淫乱だな…」
「ぁっ……ごめんなさ、はぁん…」
蔑みと欲情の混じった、嗜虐的な瞳が誠人を見下ろす。
そんな表情を見るだけで喘ぎ声が漏れてしまうほど、誠人の身体は疼いて快感を求めていた。
「……君のことだ。こんなんじゃ、まだ満足できないんだろう?」
その言葉に感じるのは最早恐怖などではなく、純粋な期待と疼きだけ。
「んっ…」
返事をするのももどかしく、誠人は奏の身体に口付けを落とした。
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