中二病君の一年 May


あり


▼どこをどう歩いて家に帰ったのか、よく覚えていない。
我がブログの閲覧者は、不敬ながら革新的で俺の哲学を揺さぶるような男だった。
あれはただものではあるまい。そう、たとえば王国の敵を調べ葬り去る間諜……暗殺者。
そのようなことを考えながら玄関のドアを開けると、兄が立っていた。
どうやらちょうど帰るタイミングだったらしい。間の悪い男だ。
『こんな時間までどこで何をしていたんだ。母さんを心配されるなと言っただろう』
なんて眉間に皺を寄せた親父くさい顔で言いやがる。本当に枠に囚われた面白くない男だ。
大体何をしていたかなんて……と思い出してちょっと顔が赤くなってしまった。
『……こ、高尚なふるまいだ』
と答えると、何言ってるんだこいつという顔をされた。ふふ、女にうつつを抜かすようなお前には分かるまい。
俺は兄の横をすり抜けて、廊下を駆けた。
母親が待ち伏せしていてまた殴られた。


▼5月4日
世間は連休だのと騒いでいるが、王族たる俺には関係のないことだ。
俺は俺自身の崇高な知的好奇心を満たすものを探しに本屋に行った。
だがその帰り、下賎な者たちに因縁をつけられるハメになってしまった。
『おいガキ、どこ見て歩いてんだよ』
どう見ても卑しい身分のチャラチャラした男達が、明らかにそちらからぶつかってきておいてそんなことを言う。
本来打ち首ものだが、相手をするのも馬鹿らしいと無視していたら、激昂され路地裏に連れ込まれた。
金を出せだの飛んでみろだのとやかましい。
下々の言葉で逆ギレというやつだ。愚かな者どもめ。
何だか哀れに思えてきて、俺は小銭を道路に投げつけて『拾え』と言ってやった。
すると奴らは顔を猿のように赤くして怒り、あろうことか俺に殴りかかってきた。
しかし寸でのところで路地のほうから『お巡りさんこっちです』という声がかかり、奴らは覚えていろと捨てゼリフを吐いて逃げていった。
命拾いしたな。あと一瞬遅ければ王族に手を上げた罰で裁きにより黒焦げになっていたところだぞ。
路地のほうを見ると、なんと委員長が立っていた。
俺が『大儀であった』と声をかける前に『何故あんな逆なでするようなことをするんだ』と怒られた。
『あれは哀れな者たちへのほどこしだ』と返すと、一瞬の沈黙の後俺の言い分はスルーして『危ないだろう。こういうときは素直に助けを呼べ』とまた説教された。
王族たる俺が庶民に助けを呼ぶなど屈辱だ。
……しかしまあ、委員長はまだ俺の身分を知らない。よかれと思って言っているのだろう。
その心意気をかって、『茶でもどうだ』と誘ったのに、『塾がある』とあっさり断られた。
この俺の誘いを断るとは。
面白くない。


▼5月9日
月曜日というのは憂鬱なものだ。
母親が口やかましく起こしに来る。
『今日は穢れの日だ……王族である俺は家にこも』
そこまで言った瞬間腕をがしっと握られ背負い投げされた。
あの女は悪魔にとり憑かれているに違いない。
学校へ行くと、委員長が教室にいた。
俺自らおはようなどと声をかけていいものか、一応あの日の礼を言うべきか。俺は迷った。
迷っているうちに委員長は席につき、クラスメイトと談笑していた。
やはり面白くない。
俺は今日から委員長の観察をすることにした。
彼が王国の上級騎士に相応しいか見極めるためだ。
決して個人的に興味があるわけではない。


▼5月11日
今日から俺は今までより10分早く登校することにした。
俺の尊い体の健康を保つためだ。決して他意はない。
教室に入ると、委員長が一人で本を読んでいた。委員長はいつも誰よりも早く登校するらしい。中々勤勉な男だ。
『おはよう』と声をかけると、本から視線を離してこちらを向き『おはよう』とだけ返してきた。
無礼者め。
話せて嬉しいなんて少しも思ってない。


▼5月16日
休み時間に、女子が『うちのクラスで一番かっこいいのは誰か』という談議をしていた。
俺の名前が出ないことは置いておいて、『やっぱ相模君だよ』『柴山君もヤバいって』などと不逞の輩どもを上げているのは見る目がないことこの上ない。
『委員長もかっこいいよ』という声もあった。だからどうというわけではないが。
結論としては、見た目で言うなら相模か柴山か委員長の三強らしい。納得いかない。
次の授業で、俺は隣の相模の顔を観察した。
確かに不細工ではない。切れ長の目は大きすぎず小さすぎず、鼻筋は通っていて顎から首筋のラインも駅のポスターで見たモデルのようだ。
しかしいかんせん品性が足りない。更に言うなら中身が悪すぎる。
その点委員長は品性があり教養もある。そこが最大の差といえるだろう。
などと考えながらじーっと見ていると、段々とその眉間に皺がよっていき、『見てんじゃねーよ』と怒鳴られ机を蹴られた。
このように非常に野蛮なのである。
にも関わらず社会の教師は『安斉、相模、静かにしろ』と俺にまで注意をしてきた。見る目のない男め。
奴は若年のくせに嫌に威圧感がある。だがまあ、教え方は悪くないし、くだらないえこひいきもしないところは評価できる。
だからというわけではないが、今日のところは俺への不敬な態度も許してやることにした。


▼5月21日
謁見を許した日以来、隆司は一層熱心に我がサイトに通ってくる。
俺のことがとても気に入った、また会いたくてたまらないとしきりに言ってくるのだ。
要約すると崇高で威風堂々とした俺の姿を拝して、より一層熱い忠誠を誓っています、という意味だろう。
ネット電話がしたいというので、慈悲深い俺は乞われるまま付き合ってやることにした。
挨拶もそこそこに、何だか熱く掠れた声で『会いたいな』と囁かれる。
まあ悪い気はしない。
『何色のパンツはいてるの?』と訊かれたので条件反射で『白だ』と答えると、隆司の吐息が聞こえた。
更に『電話越しに衆道しよう』と言われ、俺は躊躇った。
が、いつの間にかすることになってしまっていた。やはりあやつただものではない。
正直に言うなら、あのとき隆司に触られたのは気持ちがよかった。
そう伝えると、隆司は嬉しそうに『それは次郎君が高貴な人間である証拠だよ』と言った。なるほど。
俺は言われるまま穿いていた短パンを脱ぎ、下半身に触れた。
上ずった声で『オナニーしてるの?』と訊かれ、羞恥に顔が赤くなる。
隆司の声を聞きながらゆっくり扱いていくと段々気持ちよさに勃ってきて、息が上がってくる。
すると今度は『写メを送って欲しい』と頼まれた。
迷ったが、予想外に強い口調で言われ、俺は送ってやることにした。決してビビったわけではない。王族には寛大さも必要なのだ。
言われた通り、シャツを口で咥えて乳首を露出させ、ブリーフから勃起したおち○ぽが先端を出した写メを携帯に送ると、隆司の息が明らかに荒くなった。
『はぁ……なんていやらしいんだ。俺のもギンギンだよ。チ○ポ扱いてる?気持ちいい?』
そんな風に煽られて、何だか身体がゾクゾクして、変な声が出てしまいそうになる。
『声、我慢しちゃ駄目だよ。……それにいやらしいことを全部口に出さなきゃ高貴な衆道とは言えないよ』
『ぁ……チンコ、気持ちいい……』
『チンコなんて言っちゃ駄目だよ。君は王族なんだから、上品におち○ぽって言わなきゃ』
『……っ、おち○ぽ、いい……あっ、こするの、きもちいい、んっ、はぁ、ぁっ…』
『っ、すごい、可愛いよ…』
……思い出すだけで変な気分になるが、この日記にはありのままを記さなければならないのだ。
俺は気持ちよさに夢中でおち○ぽを扱いた。先端がパクパクして汁が漏れ、手が濡れてエッチな音が出る。
『可愛いピンクの乳首、勃っちゃってるよね?俺にくりくり触られてると思って弄ってごらん』
言われて片手で乳首を掴むと、痺れるような快感が全身に広がって、足がつっぱってきた。
『あんっ、りゅうじ、でちゃう、きもちよくて、ふぁっ、せいえきでちゃうっ…、はぁんっ』
『っあー、奥までハメて突きまくってやりてぇ…』
隆司の口調が不意に変わって意味のわからないことを言ったが、これは気のせいだったかもしれない。恥ずかしながら俺もこのときばかりは余裕がなくなるのだ。
『あー…っ、いくっ、いくっ、でちゃう…あっ、あんっ!』
『はぁ、はぁ…俺もいくよ、次郎君にザーメンたくさんぶっかけてやるよ…!くっ』
多分殆ど同時に、俺たちは精液を吐き出した。隆司の頭の中では俺に……あの熱いのをたくさんぶっかけたのだろう。
俺も変な声を出してしまったけど、隆司の声も相当いやらしかった。
それにしても、こんな我を忘れてしまうことが本当に高貴なふるまいなのだろうか。半信半疑で隆司に訊くと、俺も一目置いている織田信○や徳川○康もこういったことをしていて、その相手はのちに有力な武将になって彼らを支えたのだとか。
それを聞いて俺の頭に浮かんだのは、委員長の顔だった。
彼もいずれは俺の部下になるかもしれない男だ。つまり……
しかし委員長とこんな……。
考えただけで顔が熱くなって、その後の隆司とのやりとりはよく覚えていない。
今度、社会の教師にでも衆道について聞いてみるとしよう。

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