中二病君の一年 April


▼4月2日
俺の名前はアントニウス・ブラウアー。
ここだけの話、とある滅亡した王国の末裔である。
今日から俺の素晴らしい生き様を日記につけることにした。
今俺は身分を偽り、安斉次郎という名の学生として世俗に身を潜めている。
俺にとって今の環境は退屈でくだらないことだらけだが、これも祖国復興のためだ。
……という話を母親にしたら、『くだらないこと言ってないで勉強しなさい! お兄ちゃんは司法試験に受かったって言うのに!』と厳しく説教された。
全くうるさい女だ。
……と呟いたら、ぐーで思い切り殴られた。
世俗というのは理不尽なことだらけだ。



▼4月8日
今日から新学期が始まった。
学校はやたらうるさい子供だらけで好きではないが仕方ない。
俺は人ごみにうんざりしながらクラス表を見た。
知らない名前が多い中、あまり見たくない奴らの名も混ざっていた。
俺は運命を呪った。これも我が祖国の守護神クレーメンスが与えた試練なのか。

憂鬱な気分で教室に入って席に座ると、早速奴らがやってきた。
『よう、またてめえと同じクラスかよ』
『3年になってまで安斉の辛気臭い顔を見なきゃいけないとはな』
不遜にも机に座って嫌な笑みを浮かべながら、好き放題言ってくる。
それはこっちのセリフだと思ったが、俺は大人なので馬鹿は相手にしないことにしている。
こいつらの名前は相模と柴山。2年のときからたまに絡んでくることがあった。
なまじ体格がよく派手な二人を恐れてか、周りは傍観を決め込んでいる。
『おい、何とか言ったら?変人が』
俺は黙っていた。俺の場合決して恐れているわけじゃない。
俺の正体を知ったら、恐れて泣いちゃうのはこいつらのほうなのだ。



▼4月11日
俺は基本的に一人でいることが多い。
日本の学生と気があうはずもないし、一人で高尚な思考を巡らせていたほうがよほど有意義というものだ。
そんな俺をクラスメイトは変人扱いする。
別に気にしていない。
ただ一人が嫌だからという打算で結ばれた友情など、まやかしにすぎないのだ。
くくっ、今日も愚民共が草食動物のように群れを作っている。
相模や柴山は、俺がキモイだの妄想癖だのと聞こえるように吹聴する。
俺が気になってしかたないのだろう。
俺の力を使えば黙らせるのは簡単だが、今日のところは勘弁しておいてやろう。



▼4月13日
俺はこの日記のほかに、去年からインターネットでブログなるものをやっている。
実生活では身分を隠し通さなくてはならないが、ブログならある程度祖国のことなどを少数の民達に公開することができる。
閲覧者は正に少数精鋭部隊だが、熱心にコメントしてくる者もいる。
そのうちの一人と家が近いことが発覚し、会って我が祖国の話などを聞きたいと言ってきた。
俺は迷った。別に家族に『知らない人に着いていくと食われる』と脅された過去が思い出されたからではない。
ただ高貴な俺が軽々しく下々の者と会っていいものかと思案しただけだ。
俺は民の謁見を許すことにした。何を着ていこう。



▼4月14日
今日は委員会を決める日だった。
俺は立場上目立ちたくないというのに、嫌がらせなのか相模が文化祭実行委員に推薦してきた。
一緒になった女子達は『え、安斉…』と微妙な表情をする。
別にどうとも思っていない。小娘どもが見ているのは俺の偽りの姿に過ぎないのだから。
相模たちがニヤニヤしていたのには少しいらついた。



▼4月20日
教室に入ると、相模に足をひっかけられた。
王族の俺に膝をつかせるとはなんと不敬な奴だ。
ごめーんなどとふざけて謝っても許してやるか。今日こそ俺の極秘抹殺リストに加えてやる。
俺としたことがつい睨みつけてしまうと、嘲笑していた顔が不穏に歪み、『なんだよ』と低い声でガンつけられた。
周りは相変わらず傍観しているだけ。まあこいつらはただの凡人、アニメで言うなら名前もなく声優名もクレジットされないモブのような存在だから仕方ない。
そんなとき、クラスの委員長が大丈夫かと手を差し伸べてきた。
俺は無意識にその手をとってしまった。今思うと王族にしては軽率な行動だったかもしれない。
ちょうどそのとき教師が入ってきて、各々席に戻っていった。
相模たちが気に入らないという顔をしていたが、知ったことか。
委員長は中々骨のある男だ。相模たちは茶髪で不良っぽく軽薄なのに対して、委員長は秀才で規律を守る。
正反対のタイプだが、負けないくらい人望があるのだ。
小娘どもはどちらかというと派手な相模たちにキャーキャー言っているようだが、俺から見れば比べるまでもなく委員長のほうがいい男だと思う。
真面目で清潔感があって、外見ばかりチャラチャラ着飾って女を泣かせているような奴らより、ずっと好感が持てる。
祖国復興のあかつきには上級騎士に取り立ててもいいくらいだ。
そう思って教壇前の席の委員長を後ろから眺めていると、隣の席の相模にぎろりと睨まれた。
全く、何故こんなのと机を並べなくてはならないんだ。くじ運か、俺のくじ運が悪いのか。



▼4月28日
久しぶりに、8歳ほど歳の離れた兄が家に帰ってきていた。
兄は某国立大に進学と同時に一人暮らしを始めて、今は司法試験に受かって法律事務所に勤めている。
世間一般では優秀な部類に入るのだろうが、俺はあまりいい感情を抱いていない。
『またおかしな妄想をしていると母さんが嘆いていたぞ。それでは学校で上手くいかないんじゃないのか』
なんて偉そうに説教をしてきた。
嫌な気分になって、『ふ、余計なお世話だ』と吐き捨てて自室に直行した。
兄は追いかけてこなかった。元々お互いに大して興味のない兄弟だ。
自分という優秀な存在の弟が変わり者なのが気に食わない、ある感情と言えばそんなところだろう。
ふん、何が妄想だ。俺だって……。

まあいい。明日はブログの閲覧者と会う日だ。
どんな者かは知らないが、やわらかい口調からして大学生くらいの女だろうか。
…うむ、適度な距離を保ちつつ、実りある一日にできるといい。


▼4月29日 午前
王族として威厳を見せなければいけないと着ていく服に迷って、昨日寝るのが遅くなってしまった。
休日の朝早くから出かける準備をする俺に、母が
『珍しいわね、お友達と出かけるの?』
と訊いてくる。
『ふっ、答える義務はない』
と返すと、興味なさげにコーヒーを飲んでいた兄に
『母親にその口の利き方はないだろう』と睨まれた。
ふん、エリート然としやがって。
さっさと出ようとすると母親にまた殴られて、『6時には帰ります』と言わされた。

予想に反して、待ち合わせ場所に来たのは大人の男だった。
いや、別に残念でもなんでもない。考えてみれば俺の高尚なブログは浮ついた若い女には理解しづらいだろう。
『こんなおじさんとじゃ嫌かな』
そう訊かれたので、構わないと答えた。
おじさんと言ってもせいぜい30歳前後に見えたし、メタボとは無縁の長身痩躯で服装もしっかりしている。
こういう大人にこそ俺の主張は理解されるべきなのだろう。
男の俺への印象も悪くないようで『イメージどおり、いやそれ以上だ』とか何とか笑顔で言っていた。
恐らく俺の高貴さのことだろう。オーラが滲み出てしまうらしい。

男は隆司(りゅうじ)と名乗った。
俺のことは本当はアントニウス王子と呼ばせたかったのだが、身分が周りにバレないようにと『次郎君』と呼ばれることになってしまった。
その名は好きじゃないのに、いつの間にかそういうことになっていた。
…まあ、下々のやることだ。俺は許してやった。


▼4月29日 午後
昼飯に、隆司の行きつけだというレストランで食事をした。
そこで祖国の成り立ちや自分に課せられた使命について、俺は珍しく熱く語った。
隆司はありがたそうにそれを聞いていた。
食べ終えると『次郎君の貴い歌声が聞きたい』と懇願されたので、カラオケに行くことにした。

俺は最近少しハマっている洋楽を歌った。
実はあまりカラオケには慣れていなくて戸惑ったのだが、隆司はじっと俺を見て『いい声だね』と褒めてくれた。
俺に対して子供を褒めるようにそんなことを言うとは、無礼なやつ。
顔が赤くなるのをごまかすように俺は歌った。
と、疲れて少し休んでいるとき、やけに隆司との距離が近いことに気づいた。
違和感を覚えて離れようとする直前、隆司は太ももに手を置くと、ゆるゆると撫でてきた。
くすぐったくて身を捩りながら隆司を見上げると、上ずった声で
『可愛いね…』と言われ唇を塞がれてしまった。
舌がぬるりと唇を舐めたかと思うと、口の中に入ってくる。片手で俺の頬を掴み、指で耳の穴あたりをゆっくりと撫でながら。
執拗に歯列の裏を舐められ、舌を絡めてじゅぶじゅぶと吸われ、何故か下半身のあたりがじんとして震えた。
やっと唇が離れたとき『何をするんだ』と訊くと、『日本では古来から、こういう男色は高貴な者のたしなみなんだよ』と教えられた。
これは俺の不勉強だった。普段からテレビや雑誌などはくだらないものと見なしており、世俗の情報を取り入れることはあまりしていなかったから。
確かに、クラスの者達のように、何組の誰の乳がでかいだとか、誰と誰がやっただとか、持ち込んだいかがわしい本で盛り上がっていることに比べれば、まだ高尚な気がしてくる。
一度相模にいかがわしい本を無理矢理見せられたことがあったが、嫌な気分になったものだ。
しかしだからといって、王族である俺がこんなことを、と迷っている間に、隆司がシャツの上から乳首をぐりっと擦った。
『アンッ』
なんて、自分自身でも聞いたことがない声が出てしまって、俺は呆然とした。
だが隆司は息を荒くして、『次郎君、すごくいい声だよ…』とカラオケを褒めたときと同じように囁いてくる。
『ね、舐めていい?舐めたらもっと気持ちよくしてあげるから』
なんてまくし立てて、あろうことか俺の了承もないまま隆司はシャツを捲り上げてきた。
あまり人には見せたくなかったピンク色の乳首を見るやいなや、隆司はそこにむしゃぶりついた。
予想外に強い刺激にまた上ずった変な声がでて、何故か腰が揺れてしまう。
乳首を吸うなんて、赤ん坊が母親にする行為だと思ってたのに、大の大人が俺の乳首を吸ってれろれろ舐めて、甘噛みしている光景に、俺は混乱した。
舐められているのは乳首なのに、下半身まで変な感じに熱くて、ズボンの前がきつくなった。
それに気づいた隆司はますます息を荒げて、あっという間にズボンをずり下げ、硬くなったチンコを握った。
顔を赤くして抗議すると、王子様はおちんちんも綺麗だのかわいいだのとまた褒められ、なんだか力が抜けてしまう。
隆司は俺のチンコを扱きながら、自分のものも取り出して擦り始めた。
脈打って反り返ったそれは色も形も大きさも俺のものとは全く違って凶悪に見えて、俺ともあろうものがほんの少し怖気づいてしまった。
隆司はおかまいなしに大きな手で擦ってくるものだから、俺はひっきりなしに『あっあっ』と高い声を出しながら、精液を出してしまった。
ビクビク震えていると切羽詰ったような声で『次郎君、顔にザーメンかけてもいいっ?』と訊かれたので慌てて拒否した。
ちょっと涙目になってしまっていたかもしれない。
なのに隆司は俺の命令を無視して、呻き声を上げると俺の顔に精液をかけてきた。
赤黒い凶悪なものを擦るたびにびゅっびゅっと大量に粘ついたものが出てきて、青臭い臭いが部屋に広がる。
俺は呆然とした。隆司を睨みつけて罵倒してやろうと思ったのに、身体が言うことを聞いてくれなかった。
隆司は俺をうっとりと見つめて『これも王族のたしなみなんだよ、ね?』と言った。
俺はそのフレーズには弱い。
気がつくと、また会う約束をとりつけられてしまった。

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