天の采配 2


あり


「……この案でおおむね問題ない。こちらで微調整しておく」
「何だ、今日は随分素直だな。いつもなら何かと文句をつけてくるくせに」
「それはっ……問題がないから、ないと言っただけだ」

まずい、早くイきたいことばかり考えて、対応がおざなりになってしまったかもしれない。
こいつと俺は立場上接することも多いが、決して仲がいいとはいえない。そもそも生徒会と風紀との関係が良好とは言いがたいのもあるが、根本的に相性が悪いのだろう。
宮崎はお堅く自他に厳しい性格で、緩いところのある生徒会が気に食わないらしく度々苦言を呈してくる。
とりわけ学内での交際には難色を示しており、俺が恋人と付き合っていた頃はよく嫌味を言われたものだ。
風紀を乱す行為はするだだのなんだの。実際にはそんなこと一回しかしなかったわけだが……あれは黒歴史なので思い出したくない。
とにかくこいつはホモフォビアと噂されるほど男同士の関係が嫌いらしい。
――だからこそ、興奮するのだ。

「おい、顔が赤いがどうかしたのか」
「っ、なんでもない。……、用が終わったなら、出て行ってくれないか」
「――ああそうか、言われなくても出て行く」

鋭い一瞥に、脚がびくんっと跳ねた。
宮崎が出て行ってドアが閉まった瞬間、堪えていた甘い吐息が溢れ出す。

「はぁっ……すご、…んぁっ…

やはり、夏目や宮崎に見られるのは格別に興奮する。
元々この学校には男同士の付き合いに抵抗がない人間が多い。更に彼らは大抵、俺に対して憧れや羨望といった感情を向けてきている。
仕方がない、普段の俺が完璧すぎるのだから。
そんな彼らに見られるのも悪くはない。
しかしあの二人のように俺と対等に近い目線を持っていて、何より男のいやらしい様などまるで興味がない、むしろ嫌悪しているような者に見られたらと想像するのは、恐ろしくて屈辱で、しかし最高に気持ちがいいのだ。
どれだけ驚くか、軽蔑されるか。考えただけでちんこがびくびくしてしまう。
ちなみに実際見られたら数年は立ち直れない自信がある。あくまでも妄想の中だけでの話だ。

「ぁう…ひっ、ぁんっんんっ…

我慢できなくなって、俺はスラックスの前を開いた。
万が一人が入ってきても机で隠れるので問題ないし、山野先生の話の長さには定評があるので夏目がしばらく戻ってこないことも分かっている。
俺は心臓をばくばくさせながら、振動の強度を中に上げた。

ヴーーーー!

「あっひぁあっ! やっアッ…んっいっぁんっあんっ

脚ががくがくっと痙攣して、机に当たってしまった。だけどそんなことに気を取られている余裕なんかない。
震える手で、ローターを一番敏感な割れ目の部分に当てると、気持ちよすぎて目の前が真っ白になった。
「あーっいくっ…あんっあんッいっちゃうっ…みておれのへんたいなっとこ…あひっみてっ…ぁひっぁんっあぁあんっ!

激しい絶頂感に、自分でも耳を覆いたくなるようないやらしい声を出しながら、俺は腰を跳ねさせてイった。

「ぁっもうやぁっ…あひっんっ、はぁっはぁん……

ローターを止めようとしたが、頭が混乱して中々スイッチを掴めない。イって強烈に敏感になったところを尚も刺激され続け、涙が滲んでくる。

「はぁっ…はぁ……ん、すごかった……」

何とかスイッチを止めると、身体を弛緩させ快感の余韻に浸る。
しばらくはそうしていたが、落ち着いてくると俺は何をやっているんだろう……という気分になってくる。賢者タイムというやつだ。
まだ俺は自分の性癖について完璧に割り切れてはいない。あいつらをオカズに使うことについても色々と思うところはある。
まあ、当初に比べたら大分開き直って考えることができるようになったのも事実だが。
一つだけ決まっていることは、完璧超人たる普段の俺のイメージは決して壊さないこと。当然そのために、誰にも知られないようにすること。
――俺の性癖を理解した上で満たしてくれるような恋人がほしい、と思わないでもないが、この学園内でそれを探す勇気と余裕は今のところない。
正直オナニーでもこんなに気持ちいいからいいか……というのもある。

「……さて、後始末するか……」

俺は何とも言えない気分でトイレに向かった。



◆◇


「はぁっ、はぁっ……及川っ……」

薄暗い部屋の片隅。一人の男が一心不乱にペニスを扱いていた。

「かわいい及川……あんなにエロい顔をして……なんていやらしい子なんだっ……」

しゅっしゅっ、ぬちゅぬちゅと、いやらしい音が静かな部屋に響く。

「俺のこと、誘ってるのかな……淫乱な顔見てって……はぁっ、俺も見てほしいよ、…及川のせいでびきびきに勃起した、おれのでかいの……及川は意外と純情だから最初は怖がって……でもエロい子だから、きっとじっと見てきて、興奮してびくびくしちゃうんだろうなっ……」

想像に興奮を煽られ、男は息を荒げ扱く手を速めた。

「はぁっ…及川はきっと処女だよね…処女じゃなかったら相手を殺しちゃいそうだよ…。お尻にち○ぽ擦りつけたら、きっと恥ずかしがって泣いちゃうかも…ぁあっ、ち○ぽ挿れてって言わせたいけど、我慢できなくて無理やり捻じ込んじゃいそうだっ…」

男の脳内では、及川はそれはもう卑猥な姿を晒して、淫らに喘いでいた。

「っく、ぁっかわいいっ及川かわいいよっそんなに締め付けてっ…はぁっ、だすよ、及川っ…及川の処女マンに、いっぱい種付けしてあげるっ……あっいくっ、いくっ…!」

ドピュッ、ビュルッビュルルッ!

男の巨根から白濁が吐き出された。興奮の度合いを表すように非常に多量のそれは、男の妄想の中では及川の奥深くに種付けされていた。

「はぁ……及川……くそ、早く犯しまくりたいよ……」

寮の一室でのこんな出来事など、もちろん及川は知る由もない。 しかしそう遠からぬ将来、知らねばならなくなる日は迫っているのかもしれない。

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