天の采配 1 2


あり


俺の名前は及川雅臣。自分で言うのも何だが、頭よしスポーツよし見た目よし家柄よしの、天がうっかり何物も与えてしまった超ハイスペック高校生である。
ナルシストと呼ばれるのは心外だ。ただの客観的事実なのだから。
当然周囲からの羨望と信奉を否応なしに集めてしまい、今は名門全寮制学園において生徒会長を務めている。
信奉者が多い分目の敵にしてくる輩もいるが、それもまた宿命というものだ。
そんな完璧超人である俺の唯一にして最大の欠点が、性癖なのである。

やすやすと認められるものではなかった。
俺には恋人がいた。俺にふさわしい超美人で、控えめながら芯の強さも持っているところが気に入っていた。
そんな完璧な恋人だったが、何故か部屋で二人きりになっても、風呂上りの色っぽい姿を見ても、俺が劣情をもよおすことはなかった。
キスや軽いスキンシップはしていたが、押し倒してどうこうしたいという欲がいまいち湧いてこない。下世話な言い方をすれば下半身がぴくりともこない。
まあいいか、と思っていた。その辺の男子は童貞を捨てた年齢や経験人数、彼女にさせた卑猥なことなどを競い合ったりしているが、そんなのはモテるために必死になっているような凡人のすることだ。
俺くらいの人間になると、焦る必要などどこにもない。安売りをするほうが罪というものだ。

しかし、相手の考えは違っていたらしい。
清純系とばかり思っていた恋人は、意外と積極的、今風に言うと肉食系だった。
ある日の放課後、恋人は人気のない空き教室で、息を荒げながら俺にキスをし、勃起した自身のちんこを取り出した。
――言い忘れていたが、恋人は男だった。ついでにこの学校は男子校である。
別に女がいないから男に走ったわけではない。俺にかかれば近くの女子高の生徒達から女教師、購買のおばちゃんまでよりどりみどりだ。
ただ俺ほどのものになると性別など些細なこととして気にしない。それだけのことだ。
まあとにかく、恋人のちんこは意外と巨大だった。色白でお綺麗な顔をしているくせに、そこは赤黒くずる剥けで、カリが大きく張り出した卑猥なかたちをしていた。
俺はほんの少し虚を突かれた。決してびびったわけではない。
しかしすぐに、そんなところに気を取られている場合ではなくなる。恋人は俺の名前を呼びながら、勃起したちんこをしごいた。
衝撃だった。今まで経験したことのない激しい興奮が全身を襲った。
恋人の欲情したあられもない姿に、というのとは少し違った。
放課後とはいえいつ人が来るか分からない場所で、卑猥な器官を露出していやらしいことをしていることに。
――俺もやりたい。強烈な衝動が俺を支配した。
俺は熱に浮かされたようにスラックスの前を開き、既に勃起して先走りを滲ませるちんこに触れた。

「はっぁんっ…やっ、みられちゃう…やらしいとこ、みちゃやぁっ…ぁあんっ

自分で自分が信じられなかった。普段は男らしく尊大に喋る俺が、AVの中の女のように媚びた声を出して喘いでいる。その事実がまた興奮を煽って、声が抑えられない。
恋人は一瞬驚いたようだったが、更に興奮して息を荒げ、しごく手を速めながら俺を言葉で煽った。
「見られて感じるんですか、こんなに濡らして」「あなたがこんな変態だとは知らなかった。皆がこんないやらしい姿を知ったらどう思うでしょうね」とか何とか。
それに異様に感じてしまって、俺はがくがくと痙攣しながら吐精した。
本当に、何もかも衝撃だった。
尚も触れてこようとする恋人を突き飛ばして、俺は衣服も整えないうちに教室を飛び出した。
誰かに見られたら完全にアウトだったが、そのときはそれを考える余裕すらなかったのだ。
それ以来俺は恋人を徹底的に避け、結果関係は自然消滅してしまった。
恋人は出来た人間だったので、俺を恨んで言いふらすようなことはせず、ただ別れたという話だけが学園に広まった。
悪いことをしたと思っている。だがあんなことをして、あんな声を聞かれてしまって、顔を合わせたら平静でいられる自信はどこにもなかったのだ。
しかし恋人から逃げることはできても、一度気づいてしまった己の性癖からは逃げることができなかった。

◆◇

この俺と対等に話せる人間は、学園内においては極少数しかいない。

「及川、こっちの書類のチェックもお願い」
「あ、ああ……」

その希少な人間のうち一人が、生徒会副会長、夏目郁也である。
俺よりも背が高く、甘い顔立ちに緩くパーマのかかった長めの茶髪という、見るからにたらしな男だ。
まあ、学園中からたらしたらしと思われている割には、意外とまともであると言える。
成績も家柄もよく、素行にも大きな問題はない。誰にでも優しく気を持たせすぎなきらいはあるが、節操なしに手を出して泣かせるようなことはしない。
そもそも根っからの女好きなので、噂の相手と言えば近隣の女子高の子達であり、校内では女子がいないことに文句を言っているだけでおとなしいものだ。
――そんな、数少ない友人と言える男の前で、俺は密かにいやらしいことをしている。

「――どうかした? 顔が赤いけど、空調効きすぎかな」
「っ、なんでもない。お前も早くそっちを片付けてくれ」
「そう、分かった」

気づかれかけたことに心臓がばくばく言って、ちんこがびくっと震えて汁を出す。
机に隠れた俺のちんこには今、コンドームが被せられ、その上からローターがくくりつけられている。
振動は弱いものながら、先端の感じる部分を絶え間なく刺激し続けているのだ。
完璧超人で不遜な生徒会長である俺がこんな卑猥でみっともないことをしているなんて、夏目は夢にも思うまい。
ぞくぞくと背筋が甘く痺れる。

「及川?」
「っぁ……ん、な、何……?」
「……具合、悪いんじゃないの。今日少し変だよ」
「なんでもないと、言っただろ。っ……これ、山野先生に提出してきてくれ」

不意に視線を向けられたことで、甘い吐息が漏れてしまった。
酷く興奮するが、これ以上はまずい。慌てて夏目を生徒会室から追い出した。
この行為がばれることだけはあってはならないのだ。
――時々、何もかも捨てて快感だけを求めてしまいたい衝動に襲われるが、それは禁忌だ。
それにしても、もう限界が近い。長い間刺激され続けたせいで、そこは痛いほど敏感になっている。
ここで抜いてしまえ、誰が来るともしれない場所でオナニーするのはさぞ興奮するに違いない。
そんな悪魔の囁きに負けそうになったとき、ドアががらりと開いた。
夏目が戻ってくるには早すぎると思ったら、入ってきたのは風紀委員長だった。

「文化祭の件で来た。さっさと話を済ますぞ」

渋々というていを隠しもせず、風紀委員長、宮崎春馬は勝手に話を始める。
漆黒の髪に切れ長の目、高い鼻に薄めの唇が完璧に配置された顔立ちはどこか冷たく見えるほどだが、中身は意外と優しい……かというとそんなことはなく、見た目以上に冷酷だ、というのがもっぱらの評判である。

「――聞いているのか、及川」
「あ、ああ……言われなくても聞いている」

冷たい目で見つめられ、ぞくりと背筋が甘く痺れる。
ちんこは今もローターに刺激され続け、汁を漏らしている。
いくらコンドームをつけていても、これだけだらだら出し続けていたら要領オーバーで漏れてしまうのではないか。
天下の生徒会長様がスラックスの前をいやらしい汁で汚して、それを見られてしまったら……考えただけでたまらない。
ああぞくぞくする。イってしまいそうだ。

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