天の采配2 02


あり


「あっ、生徒会長だ」
「いつ見てもイケメンだなあ」
「オーラあるよな、完璧超人って感じ」

俺の名前は及川雅臣。イケメンでオーラを放つ完璧超人な生徒会会長である。
俺が廊下を歩けば多くの生徒が足を止めて視線を寄越し、うっとりと頬を染める者までいる。男子校とはいえ俺に魅了されるのは女だけに留まらないのだ。

「人気者だねえ生徒会長様は」
「けっ、気取りやがって」

中には俺を敬わず気に入らないという態度を隠さない生徒もいる。それもまた高みに立つ者の宿命と言えるだろう。
そんな学園の王者である俺にも、ただ一つ後ろ暗い大きな秘密がある。倒錯した性癖はとどまることを知らず、ふとしたときに淫らな想像が脳裏を過ぎってしまう。
もしこの衆人環境の中、ちんこにローターをつけて刺激しながら歩いたらどれだけ興奮するだろうか、と。
決してバレてはいけない。なのに俺が俺である以上皆の視線を集めてしまう。万が一服の下の秘密を知られてしまったら、尊敬の眼差しは失望に変わり、嫉妬の眼差しは嘲りに変わるのだろう。変態と罵られ、服を剥がれて晒し者にされてしまうかもしれない――。

「……っ」

ぞくっぞくぞくっ……

背筋がぞくぞくとして、下半身に熱が溜まりそうになる。
俺としたことが。こんな隠しようもないところで勃起など論外だ。慌てて意識を生徒会の執務の方へと移す。
妄想の中で暴かれることはあっても、現実では絶対に秘密を守り通さなければならない。俺は優秀で誇り高い生徒会長。他人に軽蔑されるなどプライドが許さない。

「なんか生徒会長、すごい色っぽい顔して俺を見てた…」
「は? お前なんか見るわけないだろ」
「……」


◆◇


絶対バレてはいけないと頭では分かっていても、俺の中の欲望は抗いがたい程の衝動となり、変態的な行為をやめることはできなかった。
今までは生徒会室に一人でいるとき、またはごく限られた人間の前でだけひっそりとローターをつけ、それでどうしようもなく興奮していた。しかし今日は違う。
長机が並んだ会議室。今日は生徒会と各委員会の委員長による執行委員会が開かれる。
上座に一人座って他の者を待っていると、まず副会長の夏目郁也が入ってきた。

「……あれ、及川何でジャージ?」
「ああ、この後倉庫の掃除をするから。制服を汚さないようにな」
「ふーん、働き者だね」

もちろんただの建前だった。本当は、スラックスだと勃起するときつくなるし汚す恐れがあるから。
俺のちんこには今ローターがくくりつけられている。大勢の前で淫らなことをしてみたいという欲望にどうしても勝てなかったのだ。
しっかりした造りの長机は下半身を隠してくれる。進行は議長がするし、今日は俺が長々喋るような議題もない。だからバレることはない、大丈夫――と言い訳みたいに思いつつ、俺の体は不安と期待で昂ぶっていた。

「こんにちはー」
「今日はよろしくお願いします、会長」
「ああ、よろしく」

続々と参加者が集まってくる。委員長だけあって優秀で人望のある者が多い。俺を囲むように座る彼らから一斉に軽蔑の眼差しを向けられたらと想像すると耐えられないほど屈辱的で、まだローターはオフになっているのに下半身がびくりと脈打つ。

「全員揃ったか。では始めます。まずは中間決算を――」

議長が会議の開始を告げる。高鳴る心臓の音を聞きながら、俺はそっとポケットに忍ばせたローターのコントローラーを握った。

ヴー……

「……っ」

慎重につまみを回すと振動が始まり、カリが硬く滑らかなローターによって刺激される。一番微弱な振動だというのに突き抜けるような快感が走って腰がびくりと揺れてしまう。

「では次、図書委員会お願いします」
「はい」

決算報告は滞り無く進んでいる。皆発言者か手元の資料を見ていて、俺がこんな変態的な行為をしているなんて思いもしないだろう。

(あっ…すごい、こんな場所で俺…っローター気持ちいいっ…あぁ…っ)

息が荒くなるのを口を覆って隠す。とてつもなく興奮する。俺は震える指でコントローラーのつまみを更に回した。

ヴィィーー…ッ

(あぁっひぁっすごっ…声出ちゃっ…バレちゃうっ…あッあぁっ…)

強い快感に声を必死でこらえながら、頭の中ではポルノみたいにいやらしく喘ぐ。
本当は欲望のままに声を出して喘ぎまくって皆に見られたい。違う、そんなことをしたら一巻の終わりだ。快感に支配された頭は混乱して理性と欲望がぐちゃぐちゃに渦巻いていた。

「――会長? 具合が悪いんですか」
「……っ!」

口を押さえて耐えている俺を不審に思ったのだろう、隣に座っている議長が声をかけてきた。進行役の一言に、周囲の視線が一斉に集まる。

(〜〜っ! 見られてるっ、会議中なのにローターでいやらしいことをしてる姿を、皆にっ…あっあぁんっ…!)

ぞくっぞくぞくぞくぞくっ

俺を慕って何かと話しかけてくる保健委員長も、あまり反りが合わないいかにも体育会系の精悍な顔をした体育委員長も、それにこんなことを心底嫌悪しそうな風紀委員長の宮崎春馬も――。
ちんこから先走りがどぷっと溢れた。

「……っ、何でもない、次の議案は通すのに難航しそうだから、それについて考えていただけだ。つづけてくれ」
「そうですか、顔が少し赤いようですが、空調を下げましょうか」
「そう……だな」

(あぁッ見るな…俺の恥ずかしい姿……ッはぁんっ見て、ほんとは見てほしい…っ、完璧な生徒会長ぶってるくせに、本当はローターでイきそうになって興奮してる変態な俺を、もっと見てぇっ…あぁッあッんっ)

唇を噛み、太ももをぎゅっと擦り合わせて激しい快感に耐える。議長は空調を下げさせた後会議を再開してくれた。しかし様子を窺うようにちらちら視線を寄越す者がいて、もしかしたらバレているのではないかという不安に体は昂ぶるばかりだ。

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