それもあり 02
あり
「……ここか……」
悲愴な決意を胸に、新は目の前のビルを見上げていた。
エレベーターに乗り込むと、何度も確認した階数を汗ばんだ指で押す。
その先には、『咲坂クリニック』――、包茎手術を行う美容外科がある。
一度手術を決意してしまえばここへ来るのは早かった。
迷えば迷うほど怖気づいて行きにくくなってしまうと、半ば勢いで予約を入れたのだ。
「――こんにちは。ご予約の方は……」
「あの、予約していた中塚ですけど」
受付は人のよさそうな中年男性で、少し安堵する。ここまできたら恥はかき捨てと思ってはいても、女性に包茎だとバレバレなのはやはり辛いと感じるから。
「中塚様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
「は、はい」
ほとんど待たされず診察室に通され、まずはほっとする。
「これを書いて先生をお待ちください」
受付はそう言ってカウンセリングシートを渡すと、診察室を出て行った。
新はシートに目を通す。始めは名前や年齢、薬のアレルギーや疾患の有無など一般的なものだったが、段々特有のものが目に付いてくる。
ペニスにコンプレックスがあるか、勃起すると亀頭は出るか、オナニーは週にどの程度するか、等等。
中には『一番敏感な部分は?』なんて質問もあって必要性を疑ったが、とにかく包茎を治したくて必死な新は
馬鹿正直に答えていった。
あらかた書き終えた頃、奥から医師が現れた。
「中塚さんですか? 担当の咲坂と申します。こんにちは」
「こ、こんにちは。よろしくお願いします」
30代半ばほどだろうか。医師は思ったよりも若く、眼鏡の似合う知的な顔立ちをしていた。
インターネットで下調べをした結果、このクリニックと医師の評判はすこぶるよかった。普通なら好評があれば悪評も多少ありそうなものだが、それも殆どなかったのだ。
こうして顔を合わせてみても、とりあえず悪徳医師には見えない。そうであって欲しいと思いつつ、新はシートを差し出した。
「21歳か……若いね」
「は、はあ……」
咲坂は微笑みながら、シートと新の顔をじっくりと見比べてくる。
仕方がないことなのだろうが恥ずかしい。新はいたたまれなさに顔を赤くして目を伏せた。
「――では、ご希望通り今日のうちに施術するということで、よろしいでしょうか」
「はい、お願いします」
いよいよか、と新は激しく緊張しながら頷く。
「あまり固くならないで、まずは健康状態のチェックをしますから」
咲坂が聴診器を取り出した。
こういうことも必要なのか。脈が異常に速くなっているのがバレバレになってしまうなと、新は密かに溜息を吐く。
「はい、じゃあシャツを上げて」
「はい……」
新は仕方なく、Tシャツを胸の上まで上げた。
そっと触れた聴診器の冷たさに、びくんと身体が震えてしまう。
「冷たかったですか? ごめんね……」
「いえ、大丈夫です、っ……」
咲坂はやけに丁寧に、胸のあちこちに聴診器をあてていく。
何だか時間がかかりすぎではないだろうか。健康診断などではあっさり終わった記憶しかないのに。もしかして何か異常でもあったのだろうか。
にわかに不安を覚える。それに聴診器が裸の胸に当たる感覚が、嫌にむずむずして落ち着かない。ただの診察なのに、まるで素手で撫で回されているような……。
早く終わって欲しい。そう切実に思ったとき、不意に聴診器が新の乳首をかすめた。
「っ、あぁんっ」
突然のことに、自分でも驚くほどいやらしい声が出てしまった。
「――ん? 何か?」
「や、何でも……んっ、あっ……」
聴診器が、勃ちかけた乳首を横からくりくりと押すように動く。
そのたびに電流が走ったような感覚が襲ってきて、びくんと震えてしまう。
何だかおかしい。身体が、びりびりする……。
唇を噛んで声を抑えようとしたが、今度は乳首を押しつぶすように上から押し付けられ。
「はぁんっ! やぁっ、あっ……」
ぐっ、ぐり、こりこりっ。
勃起した乳首全体が、聴診器のつるりとした面で円を描くように擦られる。
ペニスに直接響くような強い快感に、新は身体をひくつかせた。
「……どうかしましたか?」
異常に気づいていないはずがないのに、咲坂は医者らしくそんなことを言って新を覗き込んでくる。
「なっ、なんでも……、ぁ、せんせっ、そこはぁっ……、はぁんっ」
「うーん、よく聞こえないな……」
咲坂はそう言うと、ひときわ強く聴診器を押し付け、乳首を押しつぶしたままゆっくりと左右に動かした。
「っ、アァッン、ひぁああんっ!」
強く執拗な摩擦に、椅子がガタガタと音を立てるほど腰が跳ねる。新は喘ぎながら何とかやめさせようと、咲坂の白衣を掴んだのだが。
「ん、どうしたのかな、乳首をこんなに勃起させて……。それにおかしな声も出ちゃってますね……」
少し上ずった声でいやらしいことを言われて、かああっと頬が熱くなる。
「せ、せんせ、やめっ、ぁっ、なんで、ちくびっあぁっ」
止めたくてもまともな言葉が出ず、どころか先生と呼ばれたことで咲坂が興奮したように息を荒げる。
「これは変だな、触っていないのにこっちまで勃起している。ちょっと触りますよ……」
「や、ぁっ、らめぇっ、ん、あぁっ、くりくりしちゃやらぁっんぁあっ」
反対の乳首まで咲坂に摘まれ、親指と人差し指で擦り合わせるようにくりっくりっと弄られる。
全身が異常に熱くなり、触ってもいないペニスからじゅわりと先走りが滲み出たのが分かった。
「ああ、包茎おちんちん勃起させちゃった? 診てあげますから、脱いでください……」
新を見つめる咲坂の熱っぽい目は、最早医者としてのそれではない。
逃げようと思えば殴って逃げることもできるだろう。しかしすでに個人情報は握られているし、包茎手術をしようとして男の医者に襲われたなんて、絶対に誰にもバレたくない。
それにここで逃げてしまえば、きっと一生新はコンプレックスを解消できないまま、童貞のままで終わるのではないか。
「ぁ……」
ジーンズを手にかけたとき過ぎったのはそんな雑念と……微かな快感への期待だった。
「――ああ、確かにかなり皮膚が被っちゃってますね……」
「せ、先生、これ手術で綺麗に治りますか……?」
胸を刺す言葉に、新は不安げに咲坂を見上げた。
ペニスを凝視していた咲坂が視線を移し、微笑みかけてくる。
「うーん……そうだな、勃起していることだし、とりあえずオナニーを見せてくれますか」
「ええっ」
思いがけないことを言われ新は瞠目する。
「オナニーのやり方に問題があるケースがあるんですよ。それに皮の余り具合なども見ておきたいので。――ほら、このままじゃ辛いでしょう……?」
普段なら到底言いなりになれない胡散臭い物言いだったが、このとき新は肉体的にも精神的にも追い詰められていた。
「……わかり、ました……」
新は震える手で勃起したペニスを掴んだ。
「んっ……はぁ、あっ……」
咲坂はじっと新を見つめる。女の前だってこんなことをするなどありえないと思っていたのに、ペニスは全く萎えない。
どころかねっとりとした視線に晒されることに新は半ば無意識に興奮して、一心不乱にペニスを扱いた。
「ハァ……中塚さんは週に4回ほどオナニーするんでしたね。いつもそうやって、皮を使っておちんちんを扱いてるんですか?」
ペニスに息がかかるくらいの距離まで近づいて、咲坂が問うてくる。
「ぁんっ、あぁっ……そう、ですっ、はぁん……」
「そうか、いやらしいな……。ほら、乳首も寂しそうですよ。触ってごらん」
「はぃ……あぁんっ」
促されるまま乳首に触れると、それだけでびくびくと快感が走って新は身悶えた。
そうしろとは言われていないのに、自らくりくりと弄って蕩けるような快楽を引き出していく。
「そろそろ出そうですか? 出るときはしっかり、何がどうなるのか言ってくださいね……」
「はぁっ、あぁっ……ぁ、も、でちゃいそうですっ、んぁっ」
先走りの汁が止めどなく出てきて、それを敏感な亀頭に擦り付けると全身が痺れるような快感に震えてしまう。
扱くごとに尿道口がぱくぱくして、もう限界であることを告げていた。
「何が、どこからどうやったら出るんですか? 先生にしっかり伝えてください。じゃないと治療ができないよ……」
咲坂の熱い息がビンビンのペニスにかかる。それすら刺激になって、新は腰を突き出して激しく扱いた。
「やらぁっ……ぁあっ、おちんちん、皮でぐちゅぐちゅしてぇあぁんっ、せいえきでちゃいますっ、ぁあっ、みないれぇ、でるっ、でちゃっああぁんっ!!」
ぐちゅ、ぐしゅっぐしゅっ、ドピュッ、ドピュゥッ!
ガクガクと痙攣しながら、新は大量の精液を腹や乳首にぶちまけた。
「――うん、よくできたね……」
「ふぁ……ぁ、ん……」
子供にするように頭を撫でてくる咲坂に、何故か達したばかりのペニスがずくんと疼いた。
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