性癖のゆくえ 2話 02


あり


文也の家の隣に、特別な人がいる。
初対面の当時、文也はまだ物心もついていないとされる幼さだったけど、鮮明に覚えている。

『……』
『あ、……』

廉はじっと文也を見つめて動かなかった。文也はどうしていいのか分からず見つめかえした。一緒に挨拶しに来た親の声は耳に入らない。二人以外の全てが遮断された時間が流れた。


『廉にい、あそんで!』
『文也か。いいよ、何して遊ぶ?』
『ゲームしたい。廉にい弱いから教えてあげる』
『え、家で二人はちょっと……まあいいか』

文也は廉が好きだった。
同い年の子はうるさくて、話が合わないことが多い。よく賢い子だと褒められる文也の目には幼稚に映った。
だからって大人に遊んでもらっても楽しくない。大人は文也のことを見た目以上に子供扱いしてくる。
廉は大人とも子どもともつかない年頃で、文也が知っている他の誰とも違う雰囲気がある。
ときどき言葉に詰まって見つめてきたり、奇妙な動きをすることもあったけど、うるさいよりいい。文也の話をじっと聞いて応えてくれるし、いつも優しかった。学校で習うより上の学年の勉強を教えてくれた。
小学生から中学に上がる年頃になっても、廉と交流は続いた。
学校の友達などは廉という文也にとって近しい存在を誰も知らない。別に隠しているわけではないけれど、家に帰ればずっと隣に存在する。家族でも友達でもない、特別だった。
廉が学生生活や試験で忙しくなるとあまり遊べなくなって、そういうときは同じ年頃だったらいいのにと思った。年上のお兄さんという存在だからこそ慕ったのだけど。
変化は突然だった。廉が知らない少年で自慰をしているのを見たときは、言葉にしようがない衝撃を受けた。

『はあ……っ、ん……ふー……っ』

性的な知識を得始めていた頃だった。廉の上擦った息遣いを聞いて、胸が不規則な音を立てた。
他人の性的な行為を覗き見するべきではない。文也の両親は未だに蜜月の関係でベタベタし始めることがあるけど、そういうときは見ていられなくてすぐに退散していた。いつもいるように立ち去るべきだった。
体の一部に見知らぬ熱を感じて、文也は足を前に踏み出した。

『廉兄、借りてた本……』
『ん……はぁっはぁっ、イくっ……あっ…』

廉は頬を赤くし、腰をびくつかせて発情したものを扱いていた。画面に大映しになった、知らない少年の姿を見つめながら。

『……気持ち悪い』

長年文也の中で築かれてきた廉のイメージが音を立てて崩れ去った。
あれだけ文也に優しくして、キラキラと星みたいに輝く瞳を向けておいて、他の少年が好きだったのか。

◇◇

廉はショタコンの変態だった。どうりで彼女や親しい相手の気配を一切感じないはずだ。
恥ずかしい姿を見られて開き直ったのか、文也に最低な言動をとるようになった。

『文也、今日も麗しい……。360度どこから見ても美少年だ。この姿を世界遺産に登録して保存できたらいいのに』
『何言ってるの?』

かつての廉が言葉が少なく時々ミステリアスに見えたのは、口を開けば変態的な言動が出るのを抑えていたからに過ぎなかった。
実際の廉はなんてことはない、ただの変態だ。現実で少年に直接手を出すつもりはないという一点だけが救いだ。隣家から性犯罪の逮捕者が出て取材が来たりしたら、息子と違って善良な廉の親が不憫だし、文也の家にも迷惑だ。

『はあ〜ユウキくんが水に濡れて走ってる……なんて芸術的なシーン……』
『気持ち悪い』

今日も廉は知らない少年に頭の悪い熱視線を向ける。
廉の好みは分かりやすかった。あまり派手ではない、可愛い顔立ちをした10代の少年。
目の前に文也がいながら、一生触れられないドラマの中の子役に血相を変えて、愚かな人だ。

◇◇

『文也くん、彼女いないの? 文也くんと付き合いたいって子いっぱいいるんだよ』
『そうなんだ』
『ほんとは私もなんだけど、無理かな』

文也は小学生の頃から女子に人気があった。
美少年が好きという変質者より、まっとうに好意を持ってくれる女子のほうがたくさんいる。
文也は『無理』ではない相手と付き合った。性格が悪くなくて可愛らしい見た目で、間違っても気持ち悪い言動をしない子と。

『ふ……文也に彼女……』

廉は分かりやすくショックを受けた。その顔を見たら胸がすっとして、気持ちいいくらいだった。

『あの5年前の医療ドラマで病気の少年役をやった奨太くんも、共演者の子と付き合ってるって……美少年の貴重な純潔が……』
『――普通のことだよ。普通じゃないあんたには分からないんだろうね。可哀想に』

少し苛ついた。
今は文也の彼女の存在にだけ打ちのめされていればいいのに、他の少年を持ち出して、どういう頭をしているのだろう。

文也は何人かと付き合って、相手が望めばセックスもした。その夜に廉に会いに行くと、傷ついて憔悴した顔になって、また気分がよくなった。
可哀想な廉。ショタコンの変態のくせに臆病者で半端に倫理観を持っている彼は、現実で少年とは関係を持てない。だからって女性や大人の男性は恋愛対象から外れている。廉は一生恋人など作れず、セックスもできないのだ。

◇◇

『これからは『合法ショタ』の時代だ!』

何やらウキウキした様子の廉が、この期に及んでこれ以上おかしくなれるのかということを言い出したとき、気持ち悪いと感じる以上に激しい憤りが脳を支配した。
画面には、半ズボンを履いて前髪を伸ばして可愛いポーズを決める、違和感の塊のような男が映っていた。これのどこが無垢な少年なのだろう。
文也の学校にも似たタイプはいる。見た目に気を遣っていて女子から可愛いともてはやされ、こういう輩に限ってヤリチンだったりする。
いくら廉が画面の中の少年を愛でようと一方通行でしかなかった。相手が大人なら話が変わってくる。
可愛い系のヤリチンに押し倒される廉が容易に思い浮かんでしまう。馬鹿な廉なんて、簡単に餌食になるだろう。

『文也……? あ、え……?』

どういうつもりで、長年文也を熱っぽく見つめ、愛の告白のような言葉を吐いてきたのだろう。
大人でもいいなら、文也でいいではないか。

「あっあんっ…、だめ、文也、ああッ……もう、突かないでぇ……っあー……」
「気持ちいい? 嬉しいだろ、俺と……奥まで繋がれて……っ」

ぬぶ……っずんっ……ずんっ……ごり、ごり……っ!

廉の体の隅々に触れ、怒張したペニスを穴の中にねじ込んだ。腰を押し付け、奥まで念入りにペニスの形を覚えさせる。
廉に文句を言う資格はない。

◇◇

「ふ、文也……、今日もかわ……また背伸びた……?」
「まだ伸びてるみたいだね。裾が短くなって困ってる。あんたが羨ましいよ」
「……そんな脚長マウントをとるまで成長してしまったなんて、ぐ……」

大学生になった文也は、周りの女性や大人から可愛いと形容されることも減った。
廉のストライクゾーンからは外れたどころか暴投レベルの存在になっているだろう。でも関係ない。
文也は自分の家でくつろぐように廉のベッドに座る。

「今日は何してた? 帰りが少し遅かったみたいだね」
「仕事は定時で上がって、暇だから映画見に行った」
「何の映画……あの、中学校の部活が舞台のやつあたりか」
「う……、よく分かったな、有名所じゃないのに」
「あんたが金払って見る目的なんてそれくらいしかないだろ、変態」

長年染み付いた性癖が消え去るはずもなく、廉は相変わらずショタコンだ。罵倒するとびくりと肩が揺れる。

「……エロいことしてほしいと思いながら見たの? この犯罪者予備軍」
「そ、そんな、相手は中学生だし……っ、あ、でも役者は18歳の子もいて、演技してるときは中学生に見えて意外に可愛かった……、んっ」
「駄目だよ、廉」

廉の言葉を遮って耳元で囁く。すぐ耳が赤く染まり、何かを期待する顔になった。

「俺がいるのに、他の男のこと考える余裕があるの」
「あっ……はぁ……、それは、しばらくはなかったよ、……頭のなか、文也の……あれでいっぱいになって……ンッ」
「しばらくいっぱいだったのにもう忘れた? また奥までぐりぐりして、ずっと疼いて思い出すようにしないと駄目みたいだね」
「はあ……っ、はあ……、ん……ッ」

耳を舐め、体を撫でる。段々と快感の元に近づくように、じっくりと。
強く抱きしめて「あんたは昔から俺だけのものだ」と言いたい衝動もある。しかし文也は簡単には衝動に身を任せたりしない。

「恥ずかしいところ、もう勃ってズボンきつそう……触ってほしい?」
「はあんっ……んぅ、耳……だめ、あっ……〜〜さ、触って……あっぅ…」
「駄目。廉はハメられるのが好きなんだから、こっちは必要ないだろ」
「う……ッ、そんな、あっはぁ……ひど……」
「女の子のクリ○リス扱いでもいいなら、擦ってあげてもいいけど。ずり、ずりって」
「ん〜〜……ッ、はあ、クリ……っ、違う、俺は……っ、はぁっ…、あんッ!」

こす……っ、さすさすさす、こりこり……っ

服の上から、完璧に場所を把握した乳首を擦ると、廉の腰がびくりと跳ねる。驚いたからというだけでなく、そこが性感帯になっていて、指を往復させるとずっと腰が動いて感じているのが分かる。

「あんっ……んっあっあぇ…ッ、乳首だめ、くりくりするの……っああぁあ…っ」
「気持ちいいいね。もうピンとして、指に感触伝わってくる……」
「あはぁ…っいい……っ、んっいい、あっあッあぁ……っあぁん…」
「ふー……こんなに乳首でアヘって、これじゃいい年して少年役やってる男からもドン引きされちゃうよ。乳首だけで腰突き出して……」
「ひあ…ッ、あっ…んっ、んッ、ふぅー…っ、ひあッ…だって、乳首いっぱい触るから……っあー…」

くりくりくりくり、ぐり、ぐり、ぎゅううっ……

廉は美少年に対して犯罪じみた欲望を抱いていた。しかし文也に乳首やアナルの快感を教え込まされ、粘膜を肉棒で突かれ中出しまでされた結果、自分が男に犯されて感じる側の人間だと知った。
きっと元からそうだった。少年で自慰をする廉を見たとき、強烈な嫌悪感と違和感とを、初めての興奮に混じって抱いた。廉は誰かを抱いたりできない。ハメられて喘ぐ姿がお似合いだ。少年が相手であろうと――いや、相手は文也以外ありえない。

「乳首弄りながら、中の気持ちいい場所ぐりぐりしてあげようか。好きだよね廉」
「あッあッ…いっ…いい、すき…っなか、す、すきぃ…はあぁん…」

自分で好きと言わせて興奮する。廉は快感に弱い。本来の好みではない男に触れられても顔をとろけさせて喘ぐほど、乳首で感じて、中を期待で疼かせているのだ。
ズボンを脱がせると、びくつきながら腰を浮かせて協力してくる。下着は濡れて控えめなカリの色と形が透けている。めちゃくちゃに弄ってやりたい気もしながら、やはり挿入する穴に欲情が向く。

ぬる……くぱっ……くぱ、きゅん、きゅうう……

「――手マンする前から、どうしてこんなにひくついてるの? そんなにち〇ぽ恋しかった?」
「ふああっ…あ、んっ、ふー、ふー…っ、ン、ん…なか…んあ、らめ…っ」
「大好きな美少年が出てくる映画見たから?」
「ん……っ、ち、違う、ふみや、文也が、いっぱい乳首、気持ちいいシコシコしてきたからぁ……っんっああああッ……」

ぬ……っ、ぐっ……ぐり、ぬぶぶっ……

アナルをひくつかせながら言われ、指ではなく勃起した自身をねじ込みたい衝動に、精子を作る器官がどくりと震える。急にそうしたら壊れてしまいかねないので、素早く指を挿入した。

「あああ〜…あへえぇ…っあぇ、ぁへえッ…んっあっあんッ、ああー…」
「はあ……熱い、火傷しそうなくらい熱くて絡みついてくる……、ずっとこうだった?」
「ふああ…っわ、わからない…、自分では、怖くてさわれないし…んっんおッ、あう…っあー…」

内壁はねっとりと狭く、きつく閉じようとしているようで、異物を奥に引き込んで擦ってもらおうとしているようでもある。
要するに、とても淫らな具合だった。文也のペニスを挿入するために存在する穴だ。
ぐんといきり立ったもののせいで前がきつく、指の抜き差しに合わせて腰を打ち付けるように動かしたくなる。そんな性欲に負けてがっついていた格好悪い姿は廉には見せない。

「あっあッあッ、んっひぃ、いい…っ、気持ちいい、文也ぁ……っ、なかと乳首いい…、あへ、あ〜…い、いぃ…」
「ん……イってもいいよ、廉」
「あああっ……そんな…おっ…?! んっあああ…っきてる、いっ……いくっ、いっちゃう、……っあっあッあッあん、ああああアッ…」

くりくりくり、こすこすこす、ぎゅむ、ぎゅむ
ずぶっずぶっずぶっずぶっ、ぐり、ぐりゅっ……!
びくびくびくっ……びく、びく、びくんっ……、びゅるっるー……っ

二本の指で、かすかに凝っている前立腺を擦り、乳首を摘んだ指をぎゅっぎゅっとすると、廉の腰が反り返り、爪先が丸まった。
アクメ声を出して腰が止まらなくなり、アナルの肉が激しく痙攣する。
ペニスからぴゅっと汁が飛ぶ。雄の力は微塵も感じない、ほとんど完璧なメスのアクメだった。

「あはああ〜っ……いく、いく……ッ、お、いってる……っあああぁ……ッ、だめ、あへっへ…っ、いまはぐりぐりしないれぇ……っあっ…あ〜〜…ッ」
「なんで俺が廉の言うこと聞いて止めないといけないの? はあ、きっつ……早く……、ハメられるくらい拡げないと、ん……っ、ん……」
「あああぁ〜〜……ッ、ん……ッ、んぁ、あ、あッ…あっぅう、……もう……っ」

アクメしている最中に性感帯を潰されるのは感じすぎて苦しいのだろう。可哀想という気持ちがないわけではない。それ以上に廉をドロドロに感じさせて、文也しか見えないようにして、ペニスをハメて奥まで繋がりたい欲望が強烈に体を支配する。


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