白い秘密3 02
見事に風邪をひいてしまった。
見飽きた天井を睨みつけながら、拓海は苛立っていた。
昨日までは苛立つ余裕もなかった。高熱を出して寝込んでいて、5日目になる今日ようやく回復してきたところである。
それもこれも全て高梨が悪い。あの男に屋上で服を脱がされ、散々……。どう考えてもあれのせいとしか思えない。
この上なく嫌な記憶であるのに、思い出すと乳首がずくずくと疼いておかしな気分になってしまうのがまた腹立たしい。謝罪と賠償を要求したい。
高梨は身体も神経も無駄に丈夫そうなので風邪などひいていないだろう。きっと今頃は女子と遊んだりしているに違いない。
何せあの男の性欲は異常だ。男相手に3回、いや4回……とにかく何度も硬くて太いペニスで人を散々犯した後、『ちっ、もう下校時間か。もっとハメてたいのに』と言い放ったくらいである。
5日もセックスせずにいられるとも思えないし、おおかた赤坂こと推定Gカップ女子あたりといやらしいことを……ああ、腹立たしい。
と勝手な想像で勝手に腹を立てていたとき。
「兄貴ー、なんか見舞いだってさー」
一階から弟が声を上げた。
誰だろうか。治りかけているのに見舞いに来られても……と内心思いつつ、追い返すわけにもいかない。おそらく久保あたりが暇つぶしに来たというところだろう。
上がってもらってくれと返答すると、やたら勢いよく階段を上る音が聞こえ。
「倉科っ…、転校するって、どういうことだよ!?」
拓海を苛立たせていた張本人が、ドアを開けるなり意味の分からないことを叫んできた。これが理不尽である。
高梨は無遠慮に部屋へ入ってくると、ベッドの上に座る拓海の肩を掴んだ。
「なっ、何だお前」
「倉科が…転校するって久保に聞いたんだけど。全然学校来ないし」
「は?」
「俺に黙って遠くへ行くつもりだったの? 俺がしたことそんなに嫌だった?」
高梨は拓海を責めているようで、どこか不安げな、切羽詰った表情で言い募る。吐息がかかるほどに迫られて、拓海は思わずその頬を引っぱたいた。
「ちょっと落ち着け! 近い!」
避けられることもなく綺麗に平手がヒットし、高い音が響いた。
高梨は一瞬呆然とし、それでもまた拓海の真意を探るように凝視してくる。
「な、何なんだよ、一体何で転校なんて話に……あ」
そういえば、休んで2日目あたりに久保から電話がかかってきていた。そのとき熱に浮かされていた拓海は『どこか遠くへ行きたい』だの『もう会うことはないだろう……』だのそこはかとなく中二臭漂うセリフを口走ってしまったような気がする。しかしそれを転校と捉える方もどうかと思う。
「……多分久保の勘違いだ。休んだのは風邪で寝込んでただけ。何で俺が転校しないといけないんだよ」
「…………勘違い……そうか、俺はてっきり……」
高梨が脱力したように溜息を吐く。
「はあ、俺、かっこ悪いな……」
「かっこ悪いというより、意味が分からない」
「分からない? まだ?」
不意に鋭い目で見つめられ、問われる。まだとはどういうことだろう。馬鹿にされているようで気分が悪い。
「――もういいや。ムカつくから俺からは絶対教えない。ねえ倉科」
「なっ、何だよ」
「風邪で寝込んでたなら、ミルク、しばらく出してないんじゃない……?」
「……っ」
乳首が、ずくんっと疼いた。
本当は、高梨の顔を見た瞬間から乳首がじんじんして、声を聞くたびに変な衝動が湧き上がってきそうで。そんなこと認めたくなくてずっと抑えようとしてた。その努力が一瞬で無駄になってしまった。
「風邪って屋上でいっぱいヤったせいだよね。ごめんね、でもお前も悪いんだよ、吸っても吸ってもミルク止まらなくて、エロすぎたから」
「っ、この、変態っ」
殴りかかった腕を今度はあっさり掴まれてしまう。病み上がりでまだ体に力が入らないのだ。
触れられた場所が熱い。高梨に卑猥なことを言われて、触られるのを期待するみたいに疼く乳首が恨めしくなる。
「倉科……乳首舐めたい。舐めさせて…?」
「ひ、人の家で何言ってるんだよ。弟だっているし」
「ああ、倉科は乳首弄られたらやらしい声我慢できないもんね。弟なんかに絶対聞かれたら駄目だよ。でもあの子、これからバイトだって俺と入れ替わりで出て行ったよ。ご両親は共働きでいないはずだよね」
慌てた様子で駆け込んできたくせに、状況はしっかり把握しているらしい。つくづく嫌な男だ。
「ね、寝込んでて搾乳してないんだろ? 俺が溜まってた分、全部搾って、吸いだしてあげるから」
「っ……」
まるで拓海の身体のためのように言っているが、高梨の顔は欲望をありありと湛えている。それを見て腹が立つより、乳首が感じてぞくぞくしてしまうのは、まだ冷め切っていない熱のせいに違いない。
抵抗がないのをいいことに、高梨はベッドに乗り上げ拓海のパジャマのボタンを手際よく外し、乳首を隠していた傷あてパッドも剥がしてしまった。
あらわになった乳首は充血してぷっくり勃ちあがって、心なしかいつもより大きく、触られるのを誘っているように見える。
「――なんか、いつもより大きくなった気がするけど、やっぱりミルク溜まってるせいかな。俺に、吸って欲しいって言ってる……」
「やっ、はぁんっ……」
高梨が掠れた声で囁き、息が乳首にかかっただけで、びくびくっと感じてしまう。
「はぁっ、弄っていい? ミルクいっぱい溜めたドエロ乳首、指でクリクリ弄りながらしゃぶって舐めながら吸いまくっていい?」
「…はぁっ、はぁん、ぁ……」
頭がぼうっとする。前に散々乳首を弄られたときの激しい快感が思い出されて、下半身まで甘く疼いてたまらなくなる。
「……っ、勝手に、しろよっ…」
「――拒否しないんだ」
高梨の声に甘さが増したかと思うと、体が期待していた乳首への愛撫ではなく、いきなり色っぽい顔が近づいてきて唇を塞がれた。
「んんっ……、ぅ、ん、んっんっ」
すぐに舌がねじ込まれ、口内をかき回す。舌をねっとりと擦り合わされ、乳首が、下半身が、きゅんきゅんと切なくなる。
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