ナルシストの恋 4
あり
日課のランニングを走り始めた頃のこと。
朝倉さんの姿を垣間見て、不自然な姿勢で固まった俺は脚を攣りかけた。
俺は潔白だ。朝倉さんがいそうな場所をうろついてたわけじゃない。
なのにまたお姿を拝見できるなんて、俺達やっぱり、運命の赤い糸で結ばれているのでは。
しかし今は時期が悪い。半袖短パンで走った体は汗ばんでおり、俺にしては全然、かっこよくない姿だ。
断腸の思いで回れ右する寸前で目が合った。
「ああっ……」
俺は敬虔な信者が神の存在に触れたときのように感嘆の声を上げてしまう。
眩しさから目を逸らし、本能に逆らってギギギと脚を遠くに向かって動かそうとする。朝倉さんが近づいてきて、喜びと焦りが交錯する。
「こんにちは、恭治くん」
「こんにちは! いいお天気ですね。では走ってきます!」
「……俺はやっぱり避けられているのかな。教室にも来てくれなくなったね」
「それは……」
朝倉さんの視線は俺を惑わせる。勉強やスポーツに集中したいとか、卒のない言い訳ならいくらでもあるはずなのに、口をついて出てこない。
「俺が君を引き止めるのも変だね。ただのお店の客で、少し料理を教えただけで、年も立場も違う」
「朝倉さん」
「けれど俺は、それだけの――いつ縁が切れてもいい関係とは認識してなかった」
「……!」
俺は目を見開いた。恋心に溺れた俺の心には、非常に都合のいい意味で響いて、目がキラキラと輝いてしまう。
――待て、はやまるな。
「俺も同じ気持ちです……っ今は修行をしていて、ふ、不完全な状態なので」
「……修行は少し後回しにして、話せるかな」
「は、はい!」
計画変更だ。朝倉さんに誘われて誰が断れようか。
俺はノコノコと後についていき、朝倉さんの事務所に誘われた。
「――この前はごめん」
「この前……っあ、ああ、謝らないでください、まったく悪いことをされたとは思ってません!」
「君、警戒心をどこに忘れてきたの。悪いことをされたんだよ」
「そ……、そうですよね。外でするのはよくなかったです」
悪いことだと思ったほうがいい――ということは、朝倉さんは過ちだったと感じてる……?
浮かれていた気分が沈下しかける。
「……そこが問題? 外でなければいいの」
「俺は本当に嬉しかったです……でも朝倉さんが後悔しているというなら」
「恭治くん。またキスしたい」
「〜〜……っ、俺も、です。今度は俺から、ん、んぅ……っ」
朝倉さんの完璧な形の唇に魅了され、俺の理性は無力に砕けた。
キスをしたくてそっと近づくと、気づいたら柔らかいものが触れ合ってた。
「んっ……ふ……っ」
「ん………」
「んむ……ん、ンぇ……」
ドラマで見たみたいに、自分から角度を変えて押し付けたりしてムードのあるキスをするイメトレはしたけど、朝倉さんを前にするとフリーズしてしまう。
朝倉さんは見事に、俺の頭を蕩けさせるキスをした。何度も唇が重なって、粘膜にも接触するかしないかという場所まで触れ合って、心臓が爆発しそうだった。
「ん、ん、ン〜……っん、んむ……はっ、はふー…、あぁ、待ってください、気持ちよくて、頭が、働かない……っ」
「ん……かわいい顔して、そんなことを言っていいの。もっとすごいことをしてしまうよ」
「か、かわいい? あっ……ちょっと、待ってください」
また顔が触れてしまいそうな距離にあたふたする。
なんてことだ。いざその時が来たら、完全体の俺が朝倉さんをかっこよくエスコートする計画が、すでに破綻している。
朝倉さんがふっと切ない表情で視線を流した。
「もう俺に触られたくない?」
「まさか! むしろ死ぬほどさわ……、いや、今のは言葉の綾です」
食い気味で否定して勢い余って卑猥なことまで口走りかけてしまった。
朝倉さんがぽつりと呟く。
「そう……まだ準備ができていなかったか」
「ああ、そうなんです、俺はとんだ未熟者で、はあ、う……っ」
まずい、今すぐ朝倉さんと離れなければ。
夢にまで見たファーストキスで全身がのぼせて、股間がズキンとして、盛りのついた犬みたいに勃ちかけていた。
俺は前かがみで撤退を試みた。情けない姿だけど、もし欲望に負けて朝倉さんに……いやらしい心持ちで触れようものなら、俺は自分を許せなくなる。
朝倉さんが声をひそめて囁く。
「――恭治くん、辛いの?」
「ふ、ぁ…っどうかお気になさらず、これは一種の…、ん、バグみたいなもので」
「キスして、君が感じてくれたと思ったのは、俺のうぬぼれかな」
「……っ、朝倉さんがうぬぼれることなんてこの世に一つもありません……つまり、はい」
俺は真っ赤になって、結局自白を余儀なくされた。うぬぼれていたのは俺だ。全然かっこよくない。
ダサい俺に、朝倉さんは慰めるみたいに肩を引き寄せて、もっと頭を混乱させてきた。
「俺のせいでこうなったというなら、責任をとらせて」
「はっ……え、え……?」
朝倉さんの唇が俺の耳スレスレで言葉を紡ぎ、肩や腕、太ももの一部が触れ合う。
バクバクと鼓動が響いて、耳までおかしくなってしまった。
金魚みたいに口を開閉していると、朝倉さんの美しい手が、太ももを外側からするりと撫でて、股に近づいていく。
「あっ…はぁ…っ、いけません、そんなこと…っひぅ……っ」
「恭治くん……大丈夫だから」
「あ、ア……っ」
スラックスの上からするりと股間を撫でられ、腰がびくんと震える。
朝倉さんに触られる衝撃に、学生が人妻に誘惑されるシチュエーションのエッチな青年漫画(俺の趣味じゃない。浩史が勝手に見せてきた)が頭を過った。
朝倉さんは人妻じゃない。理想的な体型に描かれた漫画の人妻なんて目じゃないくらい朝倉さんは魅惑的で、理性が音を立てて崩壊していく。
「ん、……ん……っ」
「いい子……。こうなることは何もおかしくない。みんな同じだよ」
「はあ……、あ……っん、ん、ふーっ…」
朝倉さんの手が優しく上下するたびに、恥ずかしいテントがドクンと露骨に反応して大きくなる。
サイズが合ってるスラックスはもうきつい。落ち着けと念じても、朝倉さんが撫でると感じて上擦った声と同時に先端が下着に張りついて、どうしようもなくギチギチになる。
「んっ…はぁ…もう、きつい、ひあッん…んー…」
「ビクビクしてる……。きつよね。脱がせてもいい?」
「はあぁ……いけません、朝倉さんの手が、汚れちゃう……」
「汚れないよ。汚いなんて少しも思わない」
「あ、あふ……んっ……でも……」
「でも、何……?」
「はあっ………実は、もう、濡れて……、あぁ、ンっ」
興奮したちんちんから先走りが滲んで、下着が濡れた感触がする。
半泣きで伝えると、朝倉さんが深く息を吐く音が聞こえて、ファスナーに手がかかった。
「あ…っん……、は……っ」
「……本当だ。濡れちゃってるね」
「うう、ごめんなさい、朝倉さ、んっ……、アぁ……」
スラックスが膝下まで下ろされて、パンツ一枚でこの上なく恥ずかしい姿になってしまった。
勝負の時に備えて自分の小遣いで買ったちょっといいブランドのボクサーブリーフは、股の中心が不自然な形に盛り上がり、先から漏れた汁でカリがべったりくっついてる。
「ふー……っ見ないで、こんな、あ、はぁあ……ん……」
朝倉さんの視線を感じて、恥ずかしいテントがびくりと跳ねる。
カリの先からドクドク汁が漏れて、色や形が透けるくらい濡れてる。
最低だ。キスしただけなのに。神聖なセカンドキスでちんちんギンギンにして、ああ、見られると汁がもっと出ちゃう……。
「ん……辛いよね、触るよ」
「はあ、あっ……でも、こんなに濡れて、ひぅ……っ」
「もう黙って。優しくしたいから」
「あっあンッ……」
朝倉さんの手がカリを包み、上下に擦った。
イッたと錯覚するほど気持ちよくて腰が跳ねる。
精子の代わりに先走りが溢れた。これだけで射精したらとんだ早漏だ。でも、イってないのにイッた瞬間の快感が続くのは、それはそれで問題だった。
「アッ…あっ、あっ、あひッ…い……っいい……っん、あー……っ」
「気持ちいい……? 恭治くん、いっぱい声が出ちゃうんだね。はあ……いつもそんなに声を出しているの?」
根元から先端に向かってすりすりと撫でられて、カリに指が行くと濡れた音が混ざる。
朝倉さんは直接触らず、乱暴に扱いたりもしない。下着越しに優しく触れられるのがかえっていやらしくて、上擦った声が出てしまう。掠れて甘く耳をくすぐる声で指摘され、慌てて唇を噛む。
「っひう……っん、んっんぅ〜……」
「ふー……我慢しなくていいよ。素直に声を聞かせて、そのほうが俺も――嬉しい」
「〜〜ああぁ……っ」
ぐちゅっぐちゅ…っ、ずりゅ、ずりゅっ、ぬぷ、ぬぷっ……
噛んだ唇が勝手に開いてあられもない声を上げる。
めくるめく想像でのオナニーより、本物の朝倉さんに触られるのは桁違いで刺激が強い。
完全に翻弄されちゃってる。
いいか悪いかで言えば――すごくいい。俺の完璧な計画とは違いすぎて、気持ちよすぎて……。
「あひっ…あ〜……っあ、あっ……っう、あ、そこぉ…っ先っぽ……っんあ……っ」
「ん、ここが一番敏感だね。ぐり、ぐりってすると」
「アア…ッ! ――…っ」
「穴からエッチな汁が漏れてくる……、はあ、恭治くんがいっぱい濡らすから、下着履いたままなのに、全部透けて見えてるよ」
「あッ…あぁ…っあへ…っ、ん〜……」
ぐり……っぐりっ…ぐりっ、ぐりゅ……っ
いつも極上の料理を作る指が、俺の勃起しきったちんちんの先をぐり、ぐり……、あまりのいやらしさに視界がひっくり返り、意識が飛ぶかと思った。
ちんちんの皮と濡れた下着の布を使って、ずりずり擦られて、腰が忙しなく跳ねる。
「はへ…っ、あえ…あへぇ……っ」
「恭治くん……、イキそう? いつでもいいよ、もっと感じて」
「あ…っはふぅ…っ、もっ、と感じたら、ああッ、おかしくなっちゃう……っん、あァー……」
無様を晒した俺は、必死に腰を突き出してオスのセックスアピールをした。朝倉さんに通じたのか、色っぽい声で囁きながら擦る指が強くなる。
ぐちゅぐちゅと、カリのくびれを繊細な指が行き交うと腰がへこつき、イキたい欲が体の奥から湧き上がる。
「んっはあぁ……っいく…! イく、イく、出ちゃいます、朝倉さんっ…あへぇ……」
「……、いいよ、いくところ見せて……。腰くねらせて可愛い…、はぁ…」
「あっ、あっ、あッ、あンッ…離して、朝倉さんが、汚れちゃう……っん、んぅっ…?」
「ん……っ」
おれのちんちんは限界まで膨張して脈打って、イく、イくって訴える。こんなに気持ちいいと、射精したら濡れた下着を突き抜けて朝倉さんに精子をかけてしまう。
焦って手を放させようとした俺の指を逆に握られ、唇が重なった。
喘ぎっぱなしの開いた口に、必然的に最初から粘膜が触れて、思わず吸い付くと、応えるように舌が入って、今さっきまで喘ぎ声を上げてた俺の舌と濡れて絡む。
「んぅ…っんむ、ん〜……、んっん……っ」
「ん、んっ……は……」
朝倉さんとベロチューしてる。舌がぬるりと擦り合うと、昂った場所を弄る手にも力が入った。イくのを我慢しようにも全方位から気持ちいいのが押し寄せて、どうしようもない。俺はぐうの音も出ないほどの快感に敗けた。
「ん、……ふぅ、ちゅ……っんんん……っぷはぁ……っあ、あッいい、イく、イく、出ちゃう、あ、アァッ……」
「フーッ……、いって、恭治くん……見てるから」
「〜〜……いッく……! ……――ッ」
びくびくと全身が痙攣して、俺は夢中で朝倉さんの舌に吸い付いてイッた。
気持ちいいのが強すぎて頭でチカチカと火花が散った。
「はへっ…ああ、出る、…う、あッ……」
「――、ああ、すごい、気持ちよさそう……」
「んっんッ……きもちい、あ、いい……っ朝倉さんに、されるの、すごい……っああぁ〜……」
あーあ……手コキされて、溜まってた精子全部出ちゃった。いや、朝倉さんに手コキなんて俗っぽい言葉は似合わない。俺が綺麗な手に腰をヘコヘコ押し付けてイッた。なんて情けない……。
「恭治くん……キスしながら擦られるのが好き? ビクビクして、すごく……」
「――っ、はあぁ……もう……」
「もう……帰りたい?」
「うあ……、はぁ、はふぅ……」
帰りたいって? そりゃあ一晩中朝倉さんと一緒にいて、抱き合って、もっとめくるめく気持ちいいことをしたいに決まってる。
思いっきりイッたはずの股間はまだじんじん疼いて、体中に熱が灯ったままだ。
だけど。
「だ、だめです……!」
尋常じゃない色気を放つ朝倉さん――俺の邪な心がそう見せているだけで、本当は清らかな人だ――と唇を重ねる寸前で、肩を押し返した。
「――嫌? 恭治くん、俺は君が望まないことを無理やりしてしまった?」
「まさか。俺……っ、まだヒョロいし、未熟だし、こんな……っエッチなことに耐性もない、若輩者です。あなたさんにふさわしい男になるまで、朝倉さん断ちをしないと誘惑に負けてしまう……!」
俺は決死の思いで打ち明けた。
何も言わなければドサクサ紛れで朝倉さんにもっと触れられたかもしれない。
とんでもないことだ。俺は完璧な俺として朝倉さんを腕に抱かなければいけないんだ。
朝倉さんの美しい双眸が微かに揺らめいた。
「――俺にふさわしい、って、熱烈な告白だと誤解してしまうよ」
「……、その、告白は大事なときにとっておきたくて、ああ……っ」
口走って頭を抱える。ほとんど告白と同義だ。
朝倉さんに扱いてもらって、初めて舌をずり、ずり、擦るエッチなキスをして、熱が籠もった体は明らかに平常じゃなくて、変な脳内物質がドバドバ出てて、判断力が低下してる。
やっぱり駄目だ、失態を重ねる前に撤退しなければ。
立ち上がる前に、朝倉さんが俺の手を握って唇をまた吸ってきて、俺はへなへなと逃げる力を失った。
「恭治くん……そんなことを言われると放せなくなる」
「あ、朝倉さん、俺は完璧に逞しく、隙のない男に……はあぁ……」
「恭治くんは今のままですごく魅力的だよ。完璧に逞しくなられたら……俺は少し困る」
「……そうなんですか?」
「君はいつも予想がつかない人だな。気持ちが固まってないなら待ってあげたかったけど――、悠長なことをしていたらいつ横槍を入れられるか」
「あっ…? ――んん……っ」
朝倉さんが掠れた声で囁きながら、俺の肩やうなじ、胸を優しく撫でて、一瞬天国にいるような気分でうっとりする。
「ふー……君には厄介な虫もついているようだしね」
「む、虫? 俺、これでも綺麗好きなほうだし、虫は苦手で、殺虫剤でちゃんと……あっあッ…、はう……っ」
「大きな虫にも効いたらいいのにね。――恭治くん、これは嫌?」
「はひっ…い、……っん、い、いや、じゃない……」
スリスリと胸を撫でられ、指先が乳首を掠めて、ひっくり返った声が出てしまった。
乳首は隠れた人間の急所だ。他人に触らせないのは当然として、お気に入りの服にだってできるだけ擦られないようにしてきた。
朝倉さんなら許せる――っていうか、変だ。乳首が気持ちいい……。
「あッ…あっ…あっ…あ…ッ、ああんッ……」
「敏感で可愛い……ここは? 嫌じゃない?」
「あんっ……んっんふー……っきもちい、ああぁ…朝倉さんだからです、ぅあ……」
「……そう。じゃあここは?」
「あっあッ……んっ、いい、いい……ッ」
一度も嫌だとは言えなかった。朝倉さんの色っぽい声が、やることなすこと全てが、俺の性感帯を煽り、甘い恋心も煽った。
巧みな手が下に伸びて、また硬くなってるちんちんを扱いてくれる、かと思ったらもっと奥に潜り込んで、中に濡らした指を挿れられても、嫌とは言えなかった。
電気が走ったみたいに感じて腰が波立ち、「いい、いい」と繰り返して――。
「ハア……ッ」
「〜〜んっ、あへ……ん、あ、朝倉さん……? ん……っ」
やがて朝倉さんが取り出したそれは――、反り返って勃起してた。
朝倉さんも興奮してくれていたんだ、と最初は悦んで、指でぐりぐり気持ちいいことをされた粘膜がきゅんとした。
それにしても……すごい、形が完璧に左右対称で美しいのはともかく、朝倉さんの一部にしては生々しく色が濃くて、血管が浮き立って、バッキバキで……っていうか大きくない? 俺より……。
俺は目を逸らして逃げかけたが、朝倉さんが苦しげにおちんちん……を昂らせているのだ。今度は俺がアレを気持ちよく、楽にする番だ。
「はあっ…はあ……っはふー…っん、ん……」
「ん……っ恭治くん……」
「現実離れして美しい朝倉さんにも生の性欲があったのか」という失礼な戸惑いと、昂った性器に対する興奮と、オスとして敗けているという焦りで、全身がビクビクと戦慄く。
朝倉さんはそんな俺を見て、おちんちんがドクンと脈打った。
「……挿れるよ、恭治くん」
「……っはあっ…ああ、いやっ…俺…っお、俺は、あなたを、抱きたいと……ひぅ……っ」
ぬぷ……ずり、ずり、ずりゅ……ぐちゅり……
朝倉さんの太い先端が窄まりに擦り付けられる。
硬くて大きい……。入らない。さっきまで指を出し入れして、ぐるぐる回したりしてたけど、朝倉さんはいい人だから俺を気持ちよくしようとしてただけで、まさか本当に本物のおちんちんをハメるわけが……。
セックスの前戯で、朝倉さんは太いのを挿入するために拡げてたのかと思うと、さっきまでの行為がもっといやらしく感じてゾクゾクする。
「ハア……ッ、なんとなく分かってたよ。正攻法で君の心を変えたかったな。でも、もう――こんなに、昂奮してどうしようもない。中をぎちぎちに満たしたい形になってしまった……」
「おっ……ひ……っうう……っん……っ」
「恭治くん、俺に抱かれるのは嫌……?」
「――っ、い、嫌、じゃないぃ……っ朝倉さん、んっ、ああああッ」
陥落した俺が言い終わる前に、ずぶずぶと硬い塊が中に押し込まれた。
「あああッ…ん、あ、ぐ……っう……」
「はあ……中が、ぎゅうぎゅう包んでくる……力を抜いて……」
「んひぃ……っできなッ……あっ…あぁー……」
「ん……ふー……ッん……っ」
朝倉さんの大事な部分――太くて熱いおちんちんが、俺の中にねじ込まれる。
内側から太いものに満たされ、息も絶え絶えになる俺に熱っぽいキスが降りてきて、同時に乳首を擦られる。
強烈な快感が走って、ぎゅっ、ぎゅっ……とおちんちんを余計に締め付けてしまう。
朝倉さんは俺がハメられて快感を覚えていると、触れ合う全身から感じ取れた様子で、らしくなく獣じみた息を吐いて、腰を打ち付け始めた。
「んっんっ…んぶ……んぅ、はふ、ん……」
「ハアッ……ん……」
――一目で恋に落ちた綺麗な人と、何度夢に見たか知れない行為をして奥まで結ばれた。
ただし、俺がおちんちんを中で受け入れる側だなんて……。
「んむ…っん、ちゅ……ぅあ……っあ、あへっ、アあぁー…ッ」
「ん……フーー……、恭治くん、気持ちいい……すごくいけないことをしてる気分だよ。興奮する……」
「はへえ……っ朝倉さぁん…、ん…っひあぁッ…だめ……っなんで、あっあっあァ……」
「ん……ここ、ぷっくりしてるところをカリで擦るの嫌……?」
「あひっあッあ…っあへえ……っい、いやじゃない……、いい、きもちい…ッ、いい、はひぃ……」
ずぶ……っずぬぅ……ぐり、ぐりぐりぐりぐり〜……
俺の中には鮮烈に感じる急所があるみたいだ。俺だって知らなかったのに朝倉さんはすっかり把握して、奥に突き入れながらしっかりカリの先で突き、抜くときはエラを張った部分で擦っていく。
朝倉さんがすることは全部信じられないくらい感じる。ただ、俺の理想の形じゃなかっただけで、想定と違いすぎて、混乱しながら腰は本能に従ってへこつく。
「あっあッああぁ〜っ……い、いい、なんか……っああッ…きもちいいの、きてる……っうあ……ッ」
「――恭治くん、中イキできそうなの? 初めてなのに……、ハアッ……俺もすぐ出そうだったけど、もう少し頑張って、中でいこうか、一緒に――」
「あぅ…ッんっひぃ…あひっ…いい、なかがっ…あ、あー…んッ…」
「ハア…ッ最初から無理させる気なかったけど、いく、いくって感じてる君の姿見せられたら、絶対イかせたくなる…、奥までぐりぐりされて、中でアクメしちゃうの、嫌……?」
朝倉さんにしては強い切羽詰まった声音で聞かれる。
一大事だ。愛しい人であってもさすがに全肯定するのは……と拒む前に、内壁が貪欲におちんちんに絡みついて吸って、粘膜全体で返事をしてしまう。
「あーやらしい……っイって……一緒にいこうね…恭治くん、恭治くん……っ」
朝倉さんは、普段の上品な姿からは想像もつかない昂奮を表に出した。激しく腰を打ち付けるピストンを繰り返す姿に強いオスを感じて、脳がバグりそうなくらい困惑して、中はきゅんきゅんメスの反応を示す。
奥と凝りを強く刺激されて――気持ちよさに全身を支配され、未知の快感が回避不能のなだれみたいに押し寄せた。
「あー……あえ…、あへ…っ、いい…イく、いく…っ」
ずぶ…ッどちゅっ…パンパンパンパンパンパン! ゴリ、ゴリ…ッ
やがて奥で太い勃起が雄々しく脈打って、粘膜が悦んで絡みつき、お互いがみっちり絡まった瞬間「イく」感覚が弾けた。
「はへ……はぇ……っいく、イく、イく…、なかで……ああああ…ッ」
「あーいく……ッ、ハア……ッいってる、一緒に……っあー…」
ドビュッドビュッ…ビュ…ビュルー……
びく…びく…っびくん、びくん……
本気のピストンすごすぎる…。
俺のかっこいい姿だけを見てほしかった想い人に、かけ離れた情けない姿を晒していると分かっていても、気持ちいいのが膨れ上がってアクメが止まらなかった。
言い訳すると、一人ではこうはならなかった。朝倉さんも顔を歪めて快感に声を出して、中で大きく興奮したものがドクンと脈打って、激しい射精を全身で感じられた。
「あぁん…あ、アッ…い、く……っ朝倉さん、んっ…いってる、どうしよ……っあ…、あ…っ……」
「いい…はあ…、大丈夫、可愛いよ恭治くん……」
ぐっと奥に腰を突き入れ、朝倉さんがこの世のものとは思えない色気を放って囁く。
「はあっ…はあぁ…好き……ん…だめ、いくの…あふ……っうぅ……」
「ん……」
腰がびくびく震える内側からの強烈なアクメの快感が続く。
数々の妄想を繰り広げてきた俺の脳内に存在しない関係に陥った混乱と、好きな人が俺とエッチしてすごく感じてくれた悦びが入り乱れる。
恥ずかしい顔を見せないようにと思っても、朝倉さんの蕩ける顔を目の当たりにすると、ああ…俺はもう、俺自身を保っていられないくらいドロドロに溶けていった。
「ぁああ…朝倉さん、ん、はぁ…っいい…気持ちいいの、止まらない…あぁん…」
「――それ……、もう一度していいという許可と受け取っていいの?」
「〜……っん、あ…ッはふ……朝倉さんが、まだ、できる…ああんッ!」
粘膜から湧き立つアクメの余韻に震える俺は、自分がしてほしいとねだれなくて朝倉さんに責任を押し付けた。朝倉さんは硬くカリを張った形を出し入れして、言葉より先に応えてくれた。
「あっ…ぁん…ッ好き、朝倉さん…っん、あああ〜……いく……そこ、あああ、当たるのっいい…ッ」
「はあ……、可愛い…、恭治くん、手加減できなくてごめんね……っ」
◇◇
とんでもない夢を見た。とてもとてもリアルで、体の、感じたことがなかった部分が、まだ切なくじんじんと疼いている。
「んん……、……」
馴染みがない場所で目覚めた。落ち着いた色で統一された綺麗な部屋。カーテンの隙間から自然の光が差し込んで、さっさと起きろと急かしてくる。
そうだ、起きなくては。
「ああ、朝倉さん。――いない」
起きてあちこちを見回し、念の為ベッドの下まで覗き込んでも部屋の主の姿はない。
俺はドアをそっと開けて耳をそばだてた。……何か音が聞こえる。先に起きて、身支度か家事をしているのだろう。愛しい人の普段の営み……耳にしただけで気持ちがそわそわする。
幸い玄関まで辿り着く道中に、人の気配がする方を通る必要はなかった。
俺はまだ血の巡りが悪い体を押して、そっと家を抜け出した。
線路を挟んで商店街と反対側のエリアは、大型スーパーがどんと建ち、メイン通り沿いには最近進出してきた綺麗な店が多くて俺のホーム感は薄い。
そこはかとなく、歩いている住人もちょっとお洒落ぶってる。着の身着のまま出てきた自分の姿にはっとして、目と手でおかしくないか確認する。
かっこよくはないけど、夜のとんでもない形跡は残ってない。
俺は道を歩き、目当ての店に直行した。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
初めて入る店で、初めて見る女性の店員が声をかけてくる。
本当は馴染みの店の売上に微力ながら貢献したいところだけど、すまない、商店街の峰田花屋さん。今日は急ぎなんだ。
「よろしければお伺いしましょうか?」
「いえ、自分で選びたいんです、好きな人のことを考えて」
「まあ素敵。彼女さんかしら」
木の内装がお洒落な店に並んだものを物色する。どれも綺麗だけど朝倉さんの輝きとは比べるべくもない。
「これと、これも、お願いします」
俺は結局店員さんの助言を受けて作り上げた。
結構な大きさになり、値段も可愛くはなかったが、今日に限っては金に糸目はつけられない。
『――恭治くん?』
「んっ……もう一度入れてくれますか」
俺は元いた家に戻った。ごくりと唾を飲み込んで言葉の準備をしているうちにインターホンが通話状態になって、初っ端からミスした。
マンションの中を歩いてエレベーターに乗る間に呼吸を整える。
部屋の前に着くと先にドアを開き、中に引っ張られて抱きしめられた。
「あ……っ」
「恭治くん、いなくなってて血の気が引いた。俺が傷つけてしまった…?」
「そんなまさか! 俺の気持ちは、昨日も言った通り……」
朝倉さんの声は切迫していて、密着した俺の胸も苦しくなる。
「本当……? 昨日は君が理想とする俺とはかけ離れていたよね。ゆっくり進めるつもりだったのに、タガが外れて…、失望されたかと短い時間で思い悩んだ」
「あああ、挨拶もせず出ていってすみません、俺は、むしろ今までよりあなたのことが…その」
朝倉さんを抱きしめ返してこの巨大で持て余す「好き」を伝えたいけどできない事情がある。俺は手を持ち上げて、それが潰れないように守る。
朝倉さんの気が済んで手を放すまで耐え、少し離れた拍子に、大きな紙袋の中から目的のものを取り出した。
「朝倉さん、どうか俺の気持ちを受け取ってください……!」
「……」
勢いで花びらが散る。俺が朝倉さんのために選んだ、告白するための花束。
立派な薔薇がメインで、店員さんに『プロポーズするみたいな気合ね』と冗談を言われた。
冗談ではないのである。
俺のせいで思い悩む難しい顔をしていた朝倉さんが、目を瞠って花束と俺を見比べる。
「……綺麗だね。これを買うために、朝から家を抜け出して…?」
「やっぱりちょっと欲張って入れすぎました。本当はベタに赤い薔薇にしようと思ったんですけど、朝倉さんのことを考えてたら、まとまらなくなって」
花束は薔薇をメインにあれもこれもと追加して、色も雰囲気も統一感に欠ける。
「そっか、君には俺がこういうふうに見えてるんだ……」
「いいえ、朝倉さんはもっと綺麗で、かっこいいです」
「君って……時々軽く予想の外に行ってしまうね。――すごく嬉しい」
「あっ……」
朝倉さんは花束を大事そうに受け取って、抱きしめる代わりにキスをしてくれた。
それから花を花瓶に差して飾ると、その食卓で俺に朝食を出してくれた。焼いたパンにオムレツ、サラダ。メニューは至って普通なのにいちいち味わいがプロ仕様だ。もしかしたら愛情が入ってるから、とか思うのは浮かれすぎ?
美味しく噛み締めた後、新品の歯ブラシをもらって歯を磨いて、柔らかいソファで俺の好きな配信番組が流れるのを眺めた。
朝倉さんは隣に座った。俺が画面に夢中になってる間に距離が近づき、触れた途端、強い引きの続きの大事なシーンすら目に入らなくなった。
「あ……朝倉さん……」
「ん……」
朝倉さんが髪を撫でて、耳に唇を押し当てて、優しく体を撫でて……。
俺がぼうっとした目で朝倉さんを見ると、顔の角度を変えてキスをして、どちらともなく舌が絡む。
「んっ…んむ……っん〜……」
「ふー……」
濡れた舌を擦り合わせながら、繊細に動く指が胸を撫でて俺の弱い小さな塊をすりすりと擦ってくる。
俺の片方の太ももが朝倉さんの上に乗って絡み、嫌でもお互いの性器を意識する。
股間が熱くなってびくびく跳ねて、俺はもう……朝倉さんはエッチなスイッチに切り替えるのが巧すぎた。俺の敏感な部分に触れながら片手でさっさとテレビの電源を切った。
「はぅ……、ん、ん……」
「ん……恭治くん、……ハア……」
「はあぁ…、あー……っん、あン……ッ」
俺の休日は甘く潰れた。
◇◇
「――恭治くん」
「……はへ……? あ、あ……っ」
ふかふかのベッドで目が覚めると、隣に朝倉さんが寝ていて俺を抱き寄せた。
夢じゃなかった。睡眠中のゆっくりした鼓動が一気に叩き起こされる。
好きな人が体を寄せてきて、髪を弄ばれる。
いつの間にか部屋着を着ていて、ぐちゃぐちゃのセックスの名残りはどこへやらだけど、間近で息がかかって、露出した手首から上や顔の一部が触れるだけで十分すぎる破壊力だ。
朝倉さんが優しく、俺の耳を更に破壊にかかる。
「俺と付き合ってください」
「あぁ……でも、俺はまだあなたに相応しく……っ」
「ここまでしておいて、俺に責任を取らせてくれないの? 放り出されたら俺は君のことで日々悩まされて、何にも手がつかなくなりそう」
朝倉さんが俺に都合のいいことを綺麗な唇から紡ぐ。
俺はどうしても朝倉さんに相応しい男になりたい。今非常に魅惑的な関係に甘んじたら、成長するどころか退行してしまいそうだ。
「朝倉さんの気持ちはすごく嬉しいです」
「脅すような言い方をしてごめん。強制はしたくない」
「いえ、本当に、信じられないくらい嬉しくて、頬をつねって確かめるというベタなことを…しなくても、体がお…覚えてます…ぅう、今のはなしで」
「可愛い。俺は今の君が好き。成長した君もきっとさぞ魅力的だろうけど、気丈に振る舞ってるときも、顔を赤くする君も、最初に会った時から……つまり、どんな君でも愛してるんだ」
「……俺も、好きです……」
俺ごときに抗えるわけがない朝倉さんの魅力に、俺は陥落した。
ぎゅっと目を閉じて見切り発車で顔を近づけると、朝倉さんのほうがぴたりと重なる角度で上手にキスをした。
俺って情けない。恋心に完敗した。
「ん……ん……、好き……」
「俺も好き。君をずっと傍で見ていたい」
朝倉さんが掠れた声で言って、俺の首の裏と腰を抱いて唇を念入りに重ねて、キスのやり方を教えてくれてるようだった。
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