my knight 02


あり

 何か、夢を見た気がする。ひどく懐かしい、悲しくて、なのに暖かい夢。エイナルはまどろみながらも、ゆっくりと意識を覚醒させる。少し頭が痛む。

「――え?」

なにか、身体に違和感を感じる。目に入ったのは自室の天井。起き上がろうとして――それが叶わないことに気づく。

「な、なにこれ……?」

エイナルの手首はなにかに括り付けられているようで、ろくに動かなかった。それに、なんだか身体が火照っている。

「――気がついたのか、エイナル」
「……ロ、ロベルト!?これは……」

ロベルトは静かに、だが奇妙な熱の感じられる表情でエイナルを見下ろしていた。

「ロ、ロベルト!悪ふざけはやめろよ!こんなことして、何のつもり? 僕より酔っ払っていたのか」
「酔ってなどいないさ」

間髪入れず否定される。

「俺は、ずっとこうしたかったんだ。士官学校から好奇を窺ってた。なのに、お前の周りには名門に取り入ろうとする他の男が纏わりついているし、遊びの誘いには乗らないし……全く歯がゆかったよ。まだ手付かずなのは幸いだった」
「なっ……どういう、こと……」

最初は平坦な声で喋っていたロベルトの息は微かに荒くなっていく。それはエイナルも同じだった。

「はぁ……はぁ……ん……」
「ふ……ちゃんと効いてきたようだな。――全くお前の鈍さには呆れたよ。
――俺はお前に、ずっとこうしたかったんだよ」

ロベルトはいきなりエイナルの胸元を掴むと、滑らかな生地のシャツを一気に引き裂いた。

「っ!? なっ……」

エイナルはこれ以上ないほど驚愕して目を見開いた。

(どうして……なんで、ロベルトが……、本当に、これはロベルト?)

エイナルは現実を受け入れられなかった。昔から奥手だとからかわれ、女性との経験もなかったエイナルでも、この状況が不穏であることくらい肌で感じ取れた。
まさか自分が淫らな行為の対象に見られるとは、考えたこともなかったのだ。それも数年間友人であると信じて疑っていなかった相手から。

「ああ、思った以上に白く美しい肌だ……。やはり都の女にも劣るところがない」

ロベルトは、覆いかぶさってエイナルの肌を撫でる。耳元に、熱い息がかかる。

「っ……いやだ。正気に戻ってくれ、どうして……」
「言っただろう。ずっと、こうしたかったと。鈍いお前にはわからなかっただろうがな。同じように邪な欲を抱く人間は他にもいた」
「そんな……」

ふいに、胸元を撫でていたロベルトの指が胸の飾りを掠めたとき。エイナルは自分でも思いもよらない声をあげた。

「……あっ……んっ……!」

驚いて口を塞ごうとした手が、縛られた布に食い込む。されるがままになるしかない状態なのだと自覚して背筋が震えた。
ロベルトの視線が恥ずかしい場所に注がれる。

「乳首、感じるんだ……? はあっ……綺麗だな。いやらしい色だ」
「あっ……やめっ!あっ……んぅ……」

ロベルトは執拗にそこを弄り始めた。触れるか触れないかぎりぎりのところで掠めたり、親指と人差し指で摘んで擦ったり。巧みな愛撫に、嫌で仕方が無いのに、上ずった声が抑えられない。

「あっあッ……んン、だめ……っ、あん……っ」
「もうこんなに立って固くなってる……薬、効きすぎたかな」

(くすり……?)

考えようとすると、身体に電流が走る。ロベルトが尖った先を舌で舐めてきたのだ。

「ああんっ…ぅあッ……やっ、そこ、いやだ……!」
「嫌じゃないだろ、こんなにして……はあ、ふー……堪んねえ……!」
「だめっ……本当に……こんな……あぁッ」

乳首を咥えながら喋られて、エイナルの身体はビクビクと跳ねる。自由にならない体を捻ると、足に当たる熱い塊があった。ごりごりと棒の先が押し付けられる。ロベルトは尋常ではなく興奮していた。

「ああ、ここもこんなにして……下着はもう濡れているんだろうな……苦しいだろ、今、脱がせてやる」

興奮しきったロベルトの手が、ズボンにかかる。ぼうっとして回らない頭でエイナルは必死に抵抗を試みた。

「本当に駄目だ……! 今ならまだ、悪ふざけですませるから、だから……やめっ……」
「馬鹿か、もう止まれるわけないだろう……? 少し目を離した隙にあんな男に入れ込んで……お前が悪いんだ」

ズボンが下ろされる――その時。

「エイナル様、いらっしゃいますか」

――サイラスの声だった。
エイナルは咄嗟に叫ぼうとする。しかし、その前にロベルトのごつごつした手で口を塞がれ、それは叶わなかった。

「んぐっ……ぅん゛〜〜っ……」
「ちょっと静かにしてろよ。お前の大事な騎士に、こんないやらしい姿を見られちゃ嫌だろう? 声ならあとで嫌というほどたっぷりと出させてやる」

脅しにエイナルが困惑する間に、ロベルトは引きちぎったシャツを丸めてエイナルの口に突っ込んだ。ひどい扱いだ。くぐもったうめき声しか出せない。

(ああ、こんな姿を見られたらきっと今まで以上に軽蔑される……。半人前で才覚が足りなくて、なのに欲に溺れた汚い男だと失望されながら、傍にいるなんて、耐えられない、サイラス……!)

エイナルは無意識に、このままロベルトに凌辱される道か、サイラスに軽蔑される道か、天秤にかけていた。それほどサイラスに愛想を尽かされるのが恐ろしかった。

「エイナル様……? いらっしゃらないのですか……?」

(サイラス、僕はここにいる……! でも……)

ノックが続いていたドアがやがて静かになった。絶望と、微かな安堵で身が震える。

「やっと行ったかな。待たせたがしっかり可愛がってやるよ。あまり大きな声を出させられないのが残念だけど……、さっき乳首を弄ったときみたいな可愛い声をまた聞かせろよ」

(い、いやだっ……ああっ……)

ロベルトの手がエイナルの股間に伸びた。その時。
がちゃりと鍵を開ける音がして、サイラスが、入ってきた。

「エイナル様」

「ん……っ、」

(あぁ…………サイラス……)

拘束されているため、サイラスの表情までは見えない。

「――――ちっ。無粋じゃないか。見ての通りこっちは恋人とお楽しみ中なんだ。邪魔しないで貰いたいね」

ロベルトは一瞬のうちに対応を決めたのだろう。憮然とした声でサイラスを追い出しにかかる。

(――違う、恋人なんかじゃない。こんなの強姦と同じだ。したくてしてるわけがない)

そう言いたいのに言葉が出せない。身体が震える。

「――これが合意だと? きつく縛られているようですが」
「こいつは縛られて犯られるのが好きなんだよ。普段の純粋そうな姿からは想像もできないだろ」

(違う! サイラス、見るな……嫌わないで……)

いくら否定したくても現状が客観的にどう見えているか、考えるのも怖い。すでに淫乱で馬鹿な奴だと見限られているかもしれない。絶望が走る。
 サイラスは、静かに言った。

「エイナル様、もし私の愚かな勘違いなのでしたら後で咎めは受けます。これが本意でないなら首を横に振ってください。一度でいい」
「お前何勝手な……!」

エイナルの目に涙が滲んだ。 サイラスの目は見れないまま必死で首を振る。頭がくらりとした。
次の瞬間には、サイラスはすごい勢いでロベルトを殴り倒していた。最初からそうすることが決まっていたように。
ロベルトは衝撃で床に倒れ、家具に頭を打ち付けたのか鈍い嫌な音がした。

「――気を失ったか」

サイラスは恐ろしい声で呟くと、気絶したロベルトを引きずって部屋の外に放り出した。

「――誰か! この者はエイナル様に狼藉を働いた。閉じ込めておけ」
「はっ……しかし……」
「――サイラス、何事だい」

(に、兄さん!?)

エイナルは酷く狼狽する。兄弟にこれほど惨めな姿を見られたりしたら二度と立ち直れない。
承知しているというように、サイラスはさり気なく後ろ手に部屋のドアを閉めた。
会話の内容までは聞き取れなかった。どうしようもなく不安で身の置き場がない。その間にも体の熱は一向に冷めない。
少しして、数人の足音が遠ざかっていく。
静まり返った中、サイラスが部屋に入って施錠する音だけが鮮烈に響いた。

「…………」

サイラスはエイナルに歩み寄り、無言で口を塞いでいた布きれをはずした。

「……っ……はあっ……」

エイナルはそっと窺う。サイラスは形のいい眉を寄せて、怒っているのか、何かを堪えているような顔をしていた。見慣れない。

(呆れているに違いない。合意でなくとも、公爵家の一員ともあろう者が友人に犯されそうになるなんて情けなさすぎる。でも)

「サイラス……本当にすまない。助けてくれて、……はぁっ……ありがとう」
「…………」
「こんな主で、とうとう嫌気が差したか。無理もない……」
「……まだあなたは、そんなことを」

サイラスが何を考えているかなんて、論理的に考える余裕はなかった。
とにかく激しい羞恥から逃れたい。それに二人きりになってから、燃え上がるように熱っぽい感覚がじわじわと増していた。もはや平静を装えない。

「……んっ……サイラスッ……からだが、熱いんだ。すまないけど、早く腕を、ほどいてほしい」
「何をされたのですか」

言い終わる前に、サイラスが静かに訊ねた。

「……え……」
「あの男に何をされたのです」

サイラスはやはり怒っている。詰問するような口調だ。

「あ……くすり……使ったって……。そ、そんなことより、手を……」
「薬……おおかたリドーの媚薬か」

サイラスは舌打ちし、忌々しげに言う。
未だにエイナルの手首は固く拘束されたままだ。ズボンは中途半端に脱がされ、膝のあたりでくしゃくしゃになっている。薬はやたらと効きがいいらしく、体内に染み込んで内側から熱くさせる。

(媚薬……。もう嫌だ、最悪だ。熱い。早く、早く外して……
――!?)

全く想像していない事態だった。サイラスの長い指が、露になっている胸元をすっと撫でた。
エイナルの体と心臓は、自分でも驚くほど激しく跳ねた。

「いっ……ぁ……」
「…………これは、かなり強い薬を使われたようですね」

苛立った声にさえエイナルは体を震わせた。

「薬を抜くのは大変です。あなただけでは――。エイナル様、もう一度聞きます。どこを触られたのですか」 「あ……ぅ、はぁ……」

決して声を荒げているわけではないのに、有無を言わせぬ威圧感があった。逆らえる気がしない。エイナルは情けなく怯えながら口を開く。

「た、大したことはされてない……胸、触られて……っ、ひあっ」

言い終わる前に、サイラスの指が胸を撫でた。またエイナルの体はびくびくと反応する。

「いやっ……ぁ……だめ、だっ……んンッ……サ、サイラスッ!」

(なんで、なんで、サイアスが、どうしてっ……!)

サイラスはエイナルの反応を見て、眉間の皺を深くした。それから布を水で濡らし、胸を拭き始める。

「ん……っ、そんなこと、自分でするから……っ、あ、うぅ……」 「……」

訴えてもサイラスは手を止めてくれない。綺麗にしてくれているだけだというのに、布が尖った部分を押しつぶしながら拭かれると、甘い感覚が走って腰が震える。
念入りに濡らして何度も擦った後、布が置かれる。それは終わりではなく始まりだった。

「サイラス、……あっぁあッ……んっ、やめ……っ、あっ、あっ」

止める声は無視され、再び指で乳首を捏ねられる。巧みすぎて怖いほどだった。ペンと剣を操る無骨な騎士の手が、両手で勃ちあがった乳首を摘み、擦る。

「こうされただけというわけはないでしょう。他に何をされたんです……?」
「んっ、ひっ……あぁっ、こ、擦っちゃダメだっ……! もう、もう何もされてな……あぁんっ」

さす……さす、こす、こす……くりくり……
いままでそんな場所、意識したこともなかった。

「本当のことをおっしゃらないと、ずっとこのままですよ」
「あっ…そんなっ……あ、あとは、す、こし、ぁっ、舐められただけっ…あぁっんっ」

仕方なく恥ずかしい告白をすると、間髪いれずに濡れた感覚が胸に走った。
サイラスが乳首を舐めている。信じられない光景だった。舌先でチロチロと舐めたあとに、舌全体で覆うように愛撫する。

「あぁっ! ぁ、だめっ……ん、ふぅ……やっ、あぁんッ……」

あまりの快感にエイナルが上擦った声で喘ぐと、更に追い詰めるようにきつく吸ってきた。

「あッぅん……ッん、んっふぅ…ッ、もう、ほんとうにっいやだ……ぁうっ、サイラスッ……!」
「……こんなに固く勃起させて。乳首だけで、達してしまいそうですね」

とてもサイラスの口から出たとは信じられない卑猥な言葉に慄きながら、ゾクゾクと反応してしまう。
サイラスは依然乳首を吸いながら、その手を自然と下の方へ移動させ……。

「ッ〜〜……あぁッ…!」

いきなり股間を握られ、今までになく大きな声が出てしまう。そこはもうずっと、解放を待って痛いほど張り詰めていた。

「ここは、触られなかった……?」
「やっ、ん゛っ……はぁっ…少しだけ……でも、その時、サイラスがきてっ……ひあぁ…っ」
「そうですか」
「んっう……ふー……っ、だめ、ち、乳首……そこ、あぁ、りょうほう、ふうぅーっ、敏感になってるから、あっあッ……」

乳首を舐めなれながら布越しに擦られ、それだけの刺激で達してしまいそうになる。下着には先走りでシミができており、かすかにいやらしい音がもれている。
ふいに、胸を執拗に舐めていたサイラスが顔をあげた。汗で前髪がしっとりとしていて、その目元は仄かに赤かった。そしてその目は、あまりにも激しく、まるで欲望を湛えているような――――。

「ああ…ッ! や、ひあっあッ…、でっ、出ちゃう……! んっ、あああーッ…っ…!」
「――っ」

ビクビク……びゅる、びゅる、びくん、びくんっ……

鋭い快感と共に、気がついたらエイナルは達していた。下着に生温かい感触が広がる。恥ずかしいものを出し終わっても、打ち上げられた魚のように跳ねる体がなかなか収まらない。

「うあッ……ん゛っ、ぅ……ぁああ……」

性には淡白で擦るだけの自慰しか経験のなかったエイナルにとって、乳首を舐められながら他人の手で擦られる快感はあまりにも強烈だった。
苦しくて、息も絶え絶えになっているのに、そこを擦るサイラスの手は止まらない。

「あっ……はぁ、はあ、もう、やだっ……ああっ」
「あなたは嫌だとしか言いませんね……しかし一度出しただけでは、到底治まりませんよ」

サイラスの言葉どおり、達した直後にも関わらずそこは萎えることなく、張り詰めて下着を汚し続けた。サイラスの手がやっとその下着を脱がし、色素の薄い性器があらわになる。

「……っあ……見ないで……!」

だがもう、理性は微かにしか残っていなかった。幼い頃は純粋に憧れていたサイラスに、無言で局部を見つめられ、視線にさえ感じずにはいられなかった。

(これは薬のせいだ。体がおかしくなるのも、サイラスが、こんなことをするのも、全部。明日になったら忘れればいい……)

 サイラスは右手で性器をゆるゆると擦り、左手で脇腹や胸を撫でる。優しいようで、体を捩っても指が追ってきて逃げられない。
気持ちいい――だけど、体に渦巻く熱はもっと激しいものを欲していた。

「……はぁ、ん、……サイラス……っ」

なかば無意識で呼ぶと、サイラスの少しくすんだ碧眼がエイナルの瞳を捉えた。――いつもとは違う、獲物を狩る獣のような目をして。

「……っぁあ…サイラス……体が、んっ、ずっと、気持ちいいのが止まらない……あぁっ、そこ、強く擦って……!」
「……あなたがそう望むのなら」

サイラスが目を眇め、強く性器を握って動かした。

「あああっ! ぁんっ、んっふぅ、はっ…あッあっ……」
「あの男にも、」
「えっ……? あッ」
「そのような顔を見せて、声を聞かせたのですか? あなたは……」

 激情を抑えるように問うサイラスの声は、いつもとは違って掠れていた。

「ひっ、ああっ……またっ、イッ……んっンッ、出る……っ」

 二度目の絶頂もあっさりとやってきた。腰が浮き上がり、背中がのけぞる。気持ちよくて止められない。精を吐き出している間も勃ちあがった先端まで擦られ続ける。

「はっ……あぁ……もう、だめ……弄らな……変に、なっ……」
「――、やはりまだまだ、抜けませんね。明日まで続きそうだ……」

ぞっとするほど色気のある声で囁やかれた言葉は、絶望的なものだった。

「……っ、そんな……無理、ひあ、あぁー……」
「…………」

サイラスは少しの沈黙の後、指を動かす。

「――!?」

違和感にぞくりと震えた。自分でも直接触ることなど無いような秘所を、サイラスの指がぐるりと撫でる。

「なっな、なんで……ぁあ、そんなところっ……ふーー……」
「……ここを弄った方が、早く楽になれます。ずっとこのままではお辛いでしょう……?」
「そ、そんなっ……だめだ、あ、あんッ…! んッ」

サイラスはしばらく、エイナルの先走りと精液で濡れたそこの周りをなぞっていたが、やがて繰り返される物欲しげな収縮に誘われるように、指を押し入れた。

「――! ん゛っあぁっ」

はじめての違和感に呻く。薬のせいか、たっぷり濡れているせいか、痛みは無い。じわじわと内側から官能が湧き上がってくる。抑えようとしても無駄らしい。異常な感覚が、弱い内側を一度擦られるたびに強くなる。
押し広げるようにゆっくり指を動かされ、異物感と未経験の快感にエイナルは震える。

「あっああ……ひぐっ……んッ…ンっ」

(へ、変だ……。こんなところで……僕は本当に、おかしくなっちゃったのか……)

何度か抜かれてはねじ込まれた後、指が二本に増やされる。

「あんっ……あぁーっ……はあ、う、んっ……」

異物感は拭えないがやはり痛みはない。外側を擦られるより露骨で不安になる快感が、少しずつ強くなる。
サイラスはいったん抜き差しをやめ、挿入したまま性器の付け根の方に向けて指を曲げ、擦った。

「――!? んッあああぁんっ!」

突然の絶頂のような強い快感に、腰をびくびくと揺らす。

(何? なんだこれ、おかしいおかしい……、声、サイラスに聞かせられない声が勝手に……僕、射精してる? してない……こんな、薬のせいにしてもおかしい……これ以上されたら……)

反応を見るなり、サイラスはそこばかりを執拗に突いてきた。

「あぁんっ、あぁっ……そこ、だめ……っあっアッあぇッんっぉ…ッ」

ずぬ……ぬぶ、ぬぶ、ずり、ずり、ぐりぐりぐりぐりっ

サイラスは主の懇願を無視して手を止めない。言葉少なに指を伸ばして曲げ、腹と穴の間にある快感をもたらす部分を押しつぶす。
窄まりからぐちゅぐちゅと淫らな水音が響く。エイナルの性器は痛いほど張り詰め、ほとんど色のない先走りが止まらない。射精していないのにし続けているような感覚を強制的に与えられ続け、エイナルの理性はどこかへ行ってしまった。

「あんっ……サイラス、いい、アッ気持ちいいっ…お尻、んっぐりぐり気持ちいいっ……! あぇっ…あぁッ、またっ…ンっああぁ…」
「…………っ」
「イッ、ぃい、いく、ああああぁっ! あーー……」

ぐり、ぐりっ、ぐりゅっぐりゅっぐりゅっ びくっびくっ、びくんっ、びゅるっ、びゅーっ……

エイナルは後ろの快感だけで、為す術もなく達した。
腰が幾度も跳ねる。普通の射精と違ってすっきりしない、尾をひいてずっと続く快感だった。サイラスが指を抜こうとすると、窄まりはそれを引き止めようと収縮を繰り返す。

「エイナル様……」
「ぁあ、……はぁ、ふー……サイラス……はへ…、はぁあ……」

顔を覗き込まれても、もはや羞恥を感じる余裕さえなくなっていた。射精の余韻が思考を奪う。

「さ、サイラス……おねが……もっと、して……」
「……っ」

侵入し続けた指があっという間に抜かれる。

「あん…っふー、ふー……っ」

快感の元を奪われ、物足りなさにひくつく窄まりに、固くて熱いものが押し当てられた。

(……え?)

「……! ひ、あぁぁあっ!」
「はぁ……っはぁ……」

ぬぶ……ずぶ……っ、ずぶぶぶ……

 指と比べ物にならない質量のものが、ズブズブと中に入ってくる。サイラスの苦しげな吐息を聞いて、それが彼の分身であると理解した。

「うあ、あああっ……うそ、……ぉ、んッ……サ、サイラスッ……」

今までの比ではなく、大きく内側の肉を広げられる。血の出るような鋭い痛みはない。ただ圧迫感が強く、必然的に、薬と指で慣らされて敏感になった場所を強く擦られる。
サイラスはゆっくりと腰をすすめ、かなり深く入ったところで一旦動きを止めた。

(熱い、苦しい……これは現実か。サイラスの……あれが、見たこともないものが、僕の中に……)

薬の見せた幻覚と言われたら納得する状況だが、体に突きつけられる感覚があまりに強すぎる。ぶつかるサイラスの肌は熱い。
エイナルの窄まりは、あの場所を擦られた感覚が恋しいと言わんばかりに忙しなく収縮していて、その刺激にも感じる。

「んっ……あぁっ、んぐ……」
「エイナル様……お辛いですか」

エイナルは荒い息を吐きながら、無意識のうちに腰を回して揺らした。

「はぁはあ……ああぁっ、サイラス……ん、ん……っ」

ぬぶ……っ、ぐり……ぐり、ぐり……っ

あの場所を叩かれたいのに、うまくできない。もどかしく悶えているとサイラスが動いた。

「っ! ひぁあああっ」

サイラスは腰を引いて一度怒張を抜くと、強く打ち付けてきた。

ずぬ……っぐりゅッ! ぬ゛ぶぶっ……ズバンッ! ズバンッ……ズバンッ……!

淫らな動作を繰り返され、エイナルの欲望は叶った。想像よりも度を越して強く。触れられていない性器がまた首をもたげて張り詰める。

「あぁっ、んっ、あっ、ああっ! やっ、あっあッあッ、深っ」
「……っくっ……」

サイラスも顔を歪め、汗をかいた体を打ち付ける。特別敏感なあの場所に激しく反応するエイナルを濡れた目で観察し、挿入の角度を少し変えてそこばかり攻め立てる。

ぬ゛ぶっ……ずりゅ、ごり、ごりっ……!

「……〜〜! ああああああぁ……っ!」

もう、自分が射精しているのかいないのかも定かではなかった。昨日まで知っていた射精の瞬間の快楽を、挿入されている間中ずっと超え続けている。

「あぁあ、そこ、お…っんっひぐ、あひっあぇっ、んっ……サイラスッ……」

見たこともない欲を湛えた激しい顔が激しい色気を放っていて、普段なら到底直視できなかっただろう。今は頭も体も興奮してずっと見ていたくなる。
覆いかぶさって激しく腰を揺するサイラスに、無性に抱きつきたかった。手を縛られたままでは嫌だった。このままでいたほうが、自分には自由がなくどうしようもなかったのだと言い訳が立つのに。
胸が疼く感情の意味を考えられないまま、肉を穿たれる快感が深くなる。

「あぁっ! あっあぅ、んンッ……っまた、いっ……出ちゃう、んっ、〜〜ーっ……」
「……! うっ、くっ……」

腰が浮き上がって、また中で絶頂していた。
サイラスの性器が一段と固くなり、熱を帯びた息が交じる。

「エイナル様……いいですか」
「んっあ゛ッ、いい、いい……っサイラス……っぅあ、ん、きもちぃ、あああぁ」
「はぁ……ん……――」
「〜〜ッ……あぁー……なか……、ん、ふあぁ……」
パンッパンッパンパンパンパンパンっ! 

激しく収縮する窄まりに、サイラスも掠れた声を出し、奥に怒張を押し付ける。そのままドクドクと中で射精したのが伝わってきた。

「……っ、エイナル様……」

サイラスが何か言おうとしたのか。分からない。体はとっくに限界だった。 エイナルの意識はそこで途絶えた。



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