墜ちる騎士1話 02
あり
「……よく似合っている」
「ふ、ふざけるな! 男にこんな格好をさせるなど、変態的な……っ」
再び部屋に戻され、二人きりでまじまじと酷い姿を見られ、リヒトは死にたいくらいの羞恥を覚えた。
確かにリヒトの体は、屈強な帝国人と比べれば細身だ。だがそれでも軍人として鍛え上げたしなやかな筋肉はしっかりついている。当然胸は平らで男根もある。女性用の下着など似合うはずがない。滑稽なだけだ。
「確かに体は男だ。だけどあなたはこれからメスになるんだから、そのくらいの格好がちょうどいい」
「先程も言っていたが、全く意味が分からないっ。俺は男で、騎士だ。メスになどなるわけがないだろう」
「……分からないですか。ならこれから教えて差し上げます」
アレクシスはリヒトの体を抱きかかえた。それなりに重いはずなのに腕はびくりともしない。リヒトは突然の行動に暴れようとしたが、鏡の前で座らされ体が硬直した。
「……っ」
「ほら、いやらしいでしょう。白銀の将軍と名高いあなたが、こんな透けた下着を身に着けて……」
「や、やめろっ……」
「まだ始まったばかりだ。あなたはこれから、身も心も俺のメスになるんです。……男を喜ばせるメスにね」
後ろから抱きかかえるようにして、アレクシスが囁く。リヒトは絶句した。ネグリジェは腿にかかる丈があるものの、服として意味があるのか疑問なほど透けて、下着が完全に見えてしまっている。男の胸には本来必要のない薄いブラジャーと、男根を収めるには小さすぎるレースで飾られた可憐な下着が。
誇り高くなければいけない騎士が、こんな格好を……。
「くっ」
「目を逸らさずしっかり見なさい。あなたのいやらしい姿を」
「いやだ……っ、なんて悪趣味なんだ、気持ちが悪い」
「あまり逆らわないほうがいい。あなたのことを殺める気はありませんが、捕虜の一人や二人死んでも何の問題もないのだから」
「なっ……」
明確な脅しだ。リヒトは自分の矜持のためだけに部下を犠牲にはできない。それをアレクシスも分かっているようだった。
鏡を見る。恥ずかしい格好をして屈辱に震える自分と向き合わなければならなかった。
「いい子だ。……まだ始まったばかりですよ。これからメスになるんですから」
「だから、メスとは何をっ……くっ、んっ!?」
こすっ……くに……こすっ、こすっ……
後ろから突然手が伸びてきて、胸の辺りをさすられた。ブラジャーの布は薄く、下の皮膚に感触が伝わる。
乱暴ではなかった。むしろ優しいくらいで、でもけっして優しいわけではない。くすぐるようなじれったい動きだった。
「な、何をっ……んっ」
「まずはここで気持ちよくなるんですよ……どうですか、俺に触られて」
「くっ……んっ、ふっ……」
そのうち、指がある一点……乳首の先を重点的に撫でてくる。ブラジャーに隠されていてもアレクシスの指は正確に獲物を捉えた。
何故、何故こんなことを――――リヒトはようやくある考えに行き着いて、ぶるりと震えた。
「ま……まさか、俺を慰み者にする気か……っ?」
「……やっと気づいたのですか。思った以上に清純らしい」
「馬鹿な……俺は男だ」
「分かっていますよ。男だからこそ……気高い白銀の騎士だからこそ、メスになって帝国人の俺に尻を振り、男根の奴隷にすれば、クールー王国の士気を下げる効果は絶大になるでしょう。それにあなたが反抗する心配もなくなる」
「下衆なことを……っメスになどなるわけがない。っんっふぅっ…」
「そうでしょうか? でもすでに、乳首で感じているのではありませんか? 少し勃起してきた……」
こすっ……こすっ……こすっ……くり、くりくり……っ
「感じてなどいない、お、男の乳首に何の意味があるというのだ……っ、んっ」
「そうですね、男の乳首からは女のように乳は出ない。だからこそ、感じてメスになるためだけにあるのです」
「ひっ……っ、くっ」
やわやわと触られるごとに、感じたことのない違和感が乳首から湧き上がってくる。
アレクシスの目的は、リヒトをとことん辱め、女扱いし、仮にも将軍である男がみじめに落ちた姿をクールー王国民に見せつけることにあった。
絶対に思い通りになどなるものか。大体男がメスになるはずがない。何の反応も示さなければ、そのうち下劣な計画を諦めさせることができるだろう。
……なのに、乳首をしつこく指で弾かれ、捏ねられ……切ないような違和感は意志に反してどんどん強くなっていった。
「…ぅうっ、んっ……」
「気持ちがよかったら声を出していいのですよ。ここには俺とあなたしかいない」
「気持ちよくなどっ……んっ、ん゛っ……」
「ほら……乳首が勃起して、下着の生地を押し上げて透けていますよ。見えるでしょう」
「〜〜っ……」
「綺麗な桃色だ。クールー人はどこもかしこも色が薄いのですね。白く清純な下着がよくお似合いだ」
鏡の中、確かに乳首がブラジャーの下から主張を始め、透けていた。
雪深く他国に比べて日の出る時間の少ないクールー人は、髪も肌も瞳も色素が薄い。夜の闇のような黒髪を持つ帝国人などには、男は軟弱な見た目だと侮った物言いをされる一方、女に対しては美しい存在として羨望の眼差しを向けられ、侵略でも許したら最後、略奪される運命だろうと予想された。
リヒトは軍人の道のみを邁進してきたので恋人はいないが、美しい姉や妹がいる。絶対に守らなければという覚悟を抱いていた。なのに今、自分自身が女のように扱われている……。
「くっ……ぅ、ふぅっ……」
「乳首が気持ちいいのですか。腰がびくびくと震えている」
「い、いいわけがないっ…っ……」
絶対に声を上げたりしないと決意し、痛いほど唇を噛む。そうでもしなければ甘い声が漏れてしまいそうだった。
もどかしいほど細やかな手付きで弄られる乳首。違和感がじわじわと変化を始め、痺れるような感覚が走る。
「ほら、もうこんなに硬く凝って」
「違うっ……もうやめろ、そんなところいくら触れられても何もっ……ぅ、んっ」
嫌だ嫌だ嫌だ――。何も感じるな。言い聞かせてみても、自分の躰なのに思う通りにならない。
乳首が勃起している。薄い生地の下で薄い皮膚が張り詰めているほど、感覚がそこに集中していくようだ。
「素直になりなさい。よく見て、純白の下着を穿いた下がどうなっているのか」
「〜〜っ、いやだ、ぁっ」
「――おかしいな。触ってもいないのに、大きくなって濡れている。どういうことでしょうか」
頬を掴まれ、自らの姿が映った鏡に視界を固定される。絶対に見たくないものが見えてしまう。
リヒトの男根は勃起し、さっきからずっと小さな下着がきつかった。汚れ一つなかった上質な生地に、恥ずかしいシミまでできている。認めたくない事実に心臓が嫌な音を立てる。乳首を弄られると、なぜか下半身にまで疼くような感覚が走って、少しずつ勃起してしまっていた。
「こうして乳首を指先でひっかくと……」
「んひっ……うっ、うぅっ……」
「ほら、ここがびくりと震えてまた下着を濡らす……。穿いたばかりだというのに新品の下着をもうこんなに汚して、いやらしい人だ」
「……っ、ふざけっ……ん〜〜っ……」
かり、かりっ……くに、くに、こすこすこすっ……
乳首を捏ねながら弾かれ、下着のシミが広がる瞬間を目の当たりにしてしまう。口を開けば甘い吐息が漏れて、淫らな声が喉元まで出かかって、アレクシスを罵倒することもままならない。
「びしょびしょに濡らしたここも弄ってほしいのではないですか」
「誰が……」
「本来メスにこんな器官はいらないのですが、そうですね――――クリ○リスを弄ってほしい、とでもねだればいじって差し上げます」
「くっ……何だそれは」
聞き慣れない単語だった。この大陸の国々では共用語が使われるようになって久しいが、地方ごとに特有の言い回しは数知れず存在する。帝国では男根に対してそんな呼称があるのだろうか。
アレクシスは少し驚いたように目を瞠った。
「とぼけている、というわけではないようですね。思った以上に箱入りに育てられたらしい」
「……っ、世間知らずだと馬鹿にしているのか。俺は騎士道にのみ邁進してきただけだ」
確かにリヒトは由緒ある名門貴族の子息として生を受けたゆえ、他の多くの男子と比べて温室育ちだという自覚はある。騎士を志して士官学校に入ったときは、お坊ちゃんだの純粋培養だのとよくからかわれたものだ。幸いというか後ろ盾のおかげか、派手にいびられるということはなかった。
知らないことを教えてやる、と言われて夜の街に誘われたことも幾度もあったが全て断っていた。きっと相手は家が決めることになるだろうが、いずれ妻になる女性のみを愛そうと決めていた。貴族としての責務と騎士として必要な知識さえ心得ていれば、俗っぽいことに疎くても何の問題もない。リヒトは生真面目にそう考えていた。
「なるほど、これは教えがいがありそうだ。……女性に男根がないことは知っていますね」
「……やはり馬鹿にしているのだな。そんなことは幼子でも知っている」
「それはよかった。女性の陰部には男根の代わりに、クリ○リスという性器がついているのです」
「な……」
「何のためにあるのだと思います? 男根と違って、排泄や生殖に使うわけでもない。そう、性的快感を得るためだけの性器です。あなたのここは、今日からクリ○リスになるのですよ」
よく理解できなかった。だけどとてもいやらしい言葉で辱められているということは何となく察せられて、リヒトは顔を真っ赤に染める。
「ふざけるなっ……そんなものに……なるわけがない。男根は男根だ」
「そうでしょうか。あなたはこれから一生、生殖のために男根を使うことはできない。……ああ、これからというより今までもこれからも、といったほうが正しいか。清らかな躰なのでしょう」
「……っ、んっ、ぅんっ……」
「ああ、乳首を摘むとまた腫れて……。達したくなってきたのではないですか」
「違う……っ、おれは、んっ、ふぅっ」
くりっくりっ……かりかりかり……っ、ぎゅっ、ぎゅむっ……
びくっ……びくっ、びくっびくっ……きゅぅっ、じわっ、じわぁっ……
はぁはぁと息が上がる。指で小刻みに責められる乳首から、甘く切ない未知の感覚が溢れ出す。自分の躰に何が起きているのか理解できないまま、下半身をどんどん濡らしていく。
(ああっ……イきたい、勃起が止められない…。何故だ、男にとっては飾りでしかない乳首を弄られて、何故男根まで感じてしまうんだ。こんな……小さな下着を突き破る勢いで勃起して、濡れて、なんて見苦しい)
「ふぅっ……んっ、もう、やめろ…っ、くっ」
「無垢な割に敏感でいやらしい躰ですね。メスの素質は十分らしい。……本当はもう、乳首でイきたくてたまらないのでしょう」
「馬鹿な、俺はこんな辱めになど屈しない、んんっ……」
「辱められていると思うのは、あなたの躰が快感を覚えてしまっているからですよ。嫌だ嫌だと理性では抵抗しながら、腫れたクリ○リスを弄ってほしくてうずうずしている……」
「んっ……っあっ、ぅ……」
卑猥な言葉を囁きながら乳首を押し潰され、一瞬高い声が出てしまった。信じられない。一層強く唇を噛みしめる。
だけどアレクシスはそれを許さず、指で無理やり唇をこじ開け、口内に突っ込んでくる。
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