異世界にて 11



剣のぶつかり合う鋭い金属音が、暗い夜の森に響き渡る。

「はぁっ、はっ、くっ…」
「肩に余計な力が入っています」

玲が繰り出す渾身の打ち込みを、アレンは息一つ乱さず受け流していく。
村を経って数日、二人は今王都カンナスへの道中にいる。夜にはこうしてアレンに剣の稽古をつけてもらうのが日課になりつつあった。

「無闇に打ち込んでもご自身が疲弊されるだけです。相手の隙を探すのです」

言葉と共に、剣が右側に傾く。作った隙を狙えと言うことなのだろう。
玲は半ば自棄気味で、アレンの左脇腹めがけて振りかぶった。
しかし。

「足元がお留守ですよ」
「うわっ……!」

静かな声と共に、玲は足首の辺りを掃われて倒れこんでしまった。間髪入れず喉元に剣先を突きつけられる。

「少々大振り過ぎましたね。あそこでは素早く突いたほうがよかったかと」
「うん…いきなり足がくるとは思わなかった。痛…」
「申し訳ありません。痛みますか」
「ああいや、たいしたことはない」

稽古のときのアレンはいつも厳しく、また彼が教える剣術は必ずしも型どおりの綺麗なものではない。
賊や魔物にも対応でき、かついざというときは自分の身を守ることを最優先にした剣だった。
もちろん、いざというときなど訪れぬように我らが臣がいる――とアレンは言うが、玲としてはどうせやるなら守られる必要がない程度には強くなりたかった。

「さて、そろそろ寝るか」

汗に濡れた服を脱ぎながら言うと、アレンは少し渋い顔で玲から目を逸らす。

「レイ様、王たるもの、そのように簡単に無防備な格好になられるのはいかがなものかと」
「ん、そうなのか」

言われて、玲は手早く着替えを身に着ける。
18年間ただの庶民として、むしろ貧しい暮らしを送ってきた身としては、アレンの説く王者としてのふるまいにはとても馴染めないものが多い。
できれば二人で旅している間くらい、友人のように気安く接してほしいのだが。

「寝る」
「はい、このような場所しか確保できなかったこと、お許しください」
「いや、周りに何もないんだから仕方ないよ」

いつもはアレンが宿なり民家の一室なりを確保してくれるのだが、今日到達した地域は周囲に村一つない辺境のため、野宿となってしまった。

「……アレンは寝ないのか」
「もう少ししたら眠ります」

マントに包まって聞くと、いつもと同じ言葉が返ってくる。
アレンは決まって玲より遅く寝て、玲より早く起きる。つまり、本当のところちゃんと眠っているのかはわからないのだ。

「あ、見張りが必要なら、俺も交代でするよ」

「いえ、結界を張っているので大丈夫です。おそれながらレイ様は長旅には不慣れでしょう。こんな場所では十分にとはいかないでしょうが、どうかお体を休めてください」

「……分かった」

実際、こうして話していても瞼が勝手に閉じてしまいそうなほどに玲は慣れない旅で疲れていた。
ここで意地を張っても、明日に疲労を引きずってアレンに迷惑をかけることになるだけだろう。

一度目を閉じると、瞬く間に意識が遠のいていく。

「おやすみなさい」

アレンの優しさは心地いい。だけどいずれは、この甘えっぱなしの関係を改善したいと思う。
もっと強くなりたい――おぼろげにそう決意しながら、玲は眠りにおちていった。
その決意は翌日、より強いものへと変わることになる。

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