chat 02



新山幸人(にいやま ゆきと)は最近、チャットにハマッている。
ただのチャットではない。いわゆる同性愛者だけが集まる18禁の、少々いかがわしいそれだ。


自らの性癖を自覚したのは、中学生の頃だった。
その頃は到底誰にも言えるものではないと、ひたすら衝動を抑えつけてきた。
テレビでおもしろおかしく性癖を語る芸能人を見ては、現実はそんなに甘くないんだと僻んでいた。
一生本当の自分を隠して生きなければならないのか。そう思って落ち込んでいたとき、ひょんなことからそのチャットに行き着いたのだ。

「よし……と」

そこは酷く刺激的で、最初は他人のやり取りの断片で興奮して抜いていたが、段々自分もやってみたいと欲望が高まっていった。
幸人はたどたどしい手つきで文字を打ち込む。

『ユキです。19歳、身長は172センチで体重は57キロです。初心者なので優しくしてくれるひと希望です』

他の人のように淫らなことばを連ねることはできなかったが、こんなことを打ち込んでいるだけで何故だか興奮してくる。
ほとんど待つことなく反応があり、幸人の心臓の鼓動はどんどん速くなっていった。

ジン:はじめまして。もしかしてチャットは初めて? 30歳でちょっと歳が離れてるけど、よかったら楽しく話しよう。

親しげな文章に、少し緊張がほぐれる。
年上に憧れている幸人には理想的な年齢だし、いきなり下品なことなど言わず優しそうなところにも好感が持てる。

ユキ:はい、おねがいします

そこからツーショットチャットに持ち込む。

ジン:ユキ君は学生? どの辺に住んでるの?

ユキ:大学生です。東京です

ジン:俺も東京だ。案外近くに住んでるかもね

最初はこのような当たり障りのない話が続いた。ジンに比べて明らかにタイピングが遅い幸人は、必死でレスをしていく。

ジン:恋人とか、いるの? ちなみに俺は今はいない

ユキ:おれもいません。いたこともない

ジン:そうか。じゃあ、そういう経験もなかったり?

段々と質問がそっち方面に向かっていく。
幸人の手がじっとりと汗ばんだ。

ユキ:はい。はずかしいけど、キスもなくて

ジン:でも、その年頃だと欲求も強くて大変なんじゃない? やっぱりオナニー、いっぱいしてるの?

ユキ:はい。最近は、みんなのチャットの会話を見たりして

ジン:チャット? 色んな人が、チャットでエッチしてるのを見て?

ユキ:はい

余裕のないユキは、馬鹿正直に答えていく。
それほどイヤらしい会話でもないのに、はあはあと息が荒くなってきた。

ジン:ユキ君、ひょっとしてタイピング慣れてない?

不意にされた質問に、幸人は少し申し訳なくなる。

ユキ:すみません

ジン:全然いいよ。でもよかったら、電話で話してみない? その方がスムーズに色々話せるし

「え……」

一瞬躊躇ったが、それ以上に魅力的な誘いだった。

ユキ:わかりました

ジン:○○のネット電話、使える?

ユキ:はい

ジン:じゃ、これ俺の番号

ヘッドセットをつけて、幸人はごくりと唾を飲んだ。

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