王子様子作りを学ぶ 01 02



とある大陸のとある王国。大陸の中でもっとも歴史が長く伝統を重んじるその国に、アントニウスという名の王子がいた。
頭脳明晰にして容姿端麗、まだ若年ながら気品に溢れ人徳のある素晴らしい王子であるともっぱらの評判である。

「ああ……何故僕は王子などに生まれついてしまったのだろう」

自室で一人、王子は決して誰にも聞かせられない愚痴を呟いていた。
厳格な父王は王子を甘やかすことなく、王族として人の上に立つに足る人間になるよう厳しく育ててきた。
恵まれた環境と、多くの人間に生まれながらに傅かれる地位。誰もが羨むそれは決して漫然としながら与えられるものではなく、王族は王族としての義務を果たすため努力しなければならない。
王子もそれは重々理解している。上に立つ者が国民を省みず贅沢するばかりでは国はいつか必ず崩壊する。だから父や親族、国民からの期待に応えるべく幼少の頃から努力してきた。

「もし僕がごく普通の平民の家に生まれていたら……」

そんな埒もないことを空想する癖が王子にはあった。もちろん空想の世界に入り浸ってばかりはいられないが、こんな勉学の合間の時間にほんの少し考えるくらいは許されるだろう、そう自分に言い訳をして。

(寝坊して母に怒られながら、家族で食卓を囲んで質素な食事に感謝する。学校ではたくさんの級友たちと机を並べるんだ。誰も僕を特別扱いしないから時には喧嘩もするんだろう。平民は幼い頃からたくさんの教師から付きっ切りで勉強を教えられたりはしないそうだから、僕は今より頭が悪くて、もしかしたら劣等生として教師にしかられて、立たされたりもするかもしれない)

空想は愉快だ。全く違う自分になれる。

「恋もするんだろうな。自由な恋……」

そこまで考えを巡らせたところで、教育係が部屋に入ってきた。空想の世界は簡単に霧散して消える。



「――今日はここまでにいたしましょう。殿下、何か気がかりなことでもおありでしょうか。いつもより少し集中に欠けているようにお見受けしましたが」

幼い頃からの教育係であるリキシスは王の遠戚にあたる貴族の息子で、王子より8歳年上だ。勉学では容赦がないが長い付き合いで心を許せる存在でもある。

「そう見えるか……いや、たいしたことではないのだが、婚約が決まりそうだと昨日陛下がおっしゃられてな」
「婚約……?どなたの……」

いつもは表情に乏しいリキシスの目が揺れたことに、王子は気づかなかった。

「僕以外に誰がいる。一を聞いて十を知ると言われるお前らしくもない察しの悪さだな」

王子は苦笑する。遅かれ早かれ決まる話だったと、始めから分かりきっていた。王族が政略結婚するのは当然のことだ。ただ顔も知らない相手と夫婦になるという実感は全く湧いてこないというのが正直なところだが。

「……あなた様が……。しかし兄王子様も上の姫様もすでに周辺国と婚姻を結んでおり、何もまだ若い殿下がこの時期に」
「どうした、今日は本当にお前らしくない。兄上も姉上も義務を果たして結婚したからこそ、その下の僕もそれに続くのが当然のことだろう」
「……当然、ですか。確かにそのとおりだ。さすが私の殿下です」
「うむ。しかし一つ問題があってな」
「とおっしゃりますと」
「子供とはどうやって作るのか、僕はまだ知らない」




王子とリキシスは豪奢なベッドに並んで座っていた。
幼い頃兄王子に同じことを聞いたときは、しかるべきときに相応の女に習うことになると言われた記憶があるのだが、リキシスは自分が教えると言って譲らなかったのだ。まあリキシスより物を知っている女など聞いたこともないし、彼に習えば間違いはないだろう。

「で、どうすればいいのだ」
「殿下……」

リキシスの頬が少し赤くなっているのは気のせいだろうか。と思いながらじっと教えを待っていると、リキシスの手が王子の頬に触れた。

「まずはキスをするのです……王子から」
「キス……? わかった」

怜悧に整った顔に少し照れくさくなりながら、王子は挨拶のキスをリキシスの頬に落とした。

「王子、頬ではなく唇にです」

唇にキスなど幼い頃以来だ。子作りとどう繋がるのか見当がつかないが、リキシスの言うことが間違っていたことはない。
王子は言われるがままリキシスの唇に唇を軽く重ねた。

「んっ……。これでいいのか」

すぐに離れて上目遣いに窺うと――今度はリキシスのほうからキスをしてきた。

「んぅっ!? んっ、ふ、ぅ……」

それは先ほどの触れるだけのキスとは全く違っていて、何度も何度も角度を変え唇が押し付けられる。

「んっ……。殿下、口を開けて、舌を出して……」

訳が分からないまま、言われたとおりにする。口を開けたとたんにリキシスの熱い舌が口内に侵入してきて、じんっと体のおかしなところが痺れる心地がした。

「ああ、殿下……っ。私の舌を舐めたり、軽く噛んだりしてみてください」
「んんっ……ん、ふぅ、ちゅっ」

くちゅ、くちゅ、れろれろっれろぉっ……ちゅぷ、ちゅぅっ……

音が下品に思えて恥ずかしいのに、離れようとするとリキシスは許さないとばかりに唇を重ねてきて、舌を絡めさせられる。
粘膜同士がぬるぬると擦られる感覚に腰が熱くなって、頭がぼうっとしてきた。

「ふっ……はぁっはっ……殿下、お上手ですよ」

ようやく唇が離れると、リキシスは幼い頃みたいに王子の頭を優しく撫でながら、甘い声で褒めてくれる。

「はぁっ……それで、これからどうしたら子作りができるんだ……?」
「殿下……それを私に教えて欲しいのですか? 本当に……?」
「ああ……リキシス、子作りの仕方、おしえて……」
「っ、殿下っ」

リキシスはらしくもなく荒々しく、王子をベッドに押し倒した。ひんやりとしたシーツの感触に火照った体が気持ちいい、とのん気に思っている間に、リキシスの長く美しい指がボタンを外していく。

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