大正偽物令嬢奇譚 サンプル 首藤編
■ 首藤編
「どこかへお出かけですか?」
「――……」
後ろから、比喩ではなく首根っこを掴まれた。
燿は失敗を悟った。祖母が知れば監視の目は段違いに厳しくなり、脱出は困難になる。
それだけで終わらないと、振り返った先の男の表情を見るまでは気づかなかった。
「――首藤様……どうしてこんな夜遅くに、あっ」
「あなたの誕生日祝いにもっと早く伺う予定でしたが、仕事が立て込んでしまってね。ご当主は泊まっていけばよいと」
「は、放して、放してください、う……っ」
首藤は早口に言いながら、燿を抱えて歩いた。
祖母に絶対的な忠誠を誓う家中の者達と違って、外部の人間なら交渉の余地が残されている。報告されるまでの勝負だ。
「お願いです、私、密かに家を出ていくつもりだったのです。逃がしてくれませんか」
「何故?」
「各地を飛び回ってきた首藤様なら分かってくださるのでは。ずっと家に閉じ込められて生きるなんて囚人と同じ。私は嫌なのです。耐えられません」
訴えながらも体は無情に運ばれていく。
最も尊重される賓客向けの部屋に、絹の敷布をまとった布団が敷かれていた。
「ええ、自分の伴侶となる相手のことですから詳しく調べましたよ。あなたは馬鹿馬鹿しい因習に囚われた籠の鳥だった。可哀想に」
「そのとおりです、しかも私は」
「ですが逃げようとしたのは許しがたい。俺と結婚してもいい素振りは全て演技だったのですか。期待だけさせて、謀り、弄んでいた?」
「……許してください、でもあなたなら他にいい人が、あぁっ」
「許しがたいと言ったでしょう」
乱暴に押し倒され、咄嗟に頭を庇う。
蝶よ花よと育てられていたようで、感情の抑えがきかなくなった母から手を上げられたことは幾度となくあった。
首藤は母より自分よりずっと大きい男で、力で敵わない相手への恐怖が膨れ上がる。
母や父よりは燿の気持ちを理解してくれる人だと思っていた。これほど怒らせたということはただの勘違いだったのか。
燿の手が掴まれ、頭を守るすべもなくなる。
痛みを想像して身構える燿に、別の衝撃が襲った。
「あっ、ん゛ぅ……っ?!」
「ん……っ」
驚きは言葉にならず、首藤の唇に吸収される。
押し付けられた唇が、音を立てて燿のそれに吸い付いた。
首藤は片手で燿の手を、片手で頭を掴んでのしかかった。布団に包まれてどこも痛くなく、ただ呆然と唇を引き結ぶ。
「んん……ッ、ふ…っ、は、あ……何を……」
「箱入りのお嬢様は口づけもご存知ないのですか」
「馬鹿にしないでください……っ。いけません、結婚もしていないのに」
「やはり箱入りだな。口づけくらい、いいところの女子学生でも親の目を盗んでそこらの男と交わしていますよ」
「うぅ……っ」
燿は首藤を突き飛ばした、つもりだった。彼はびくともせず、濡れた唇を親指で拭う。 異様な、直視できないものを見てしまったと感じて背に汗が伝った。
「いいですか、口づけするときは歯を食いしばったりせず、恋人に唇を開くのです」
「こ、恋人なんかじゃ……んぇ……」
首藤の男性的な顔が近づき、今度は熱く濡れた舌が口の中に入るのを許してしまった。
ぬ゛る…っぬ゛る、れろ…れろ……

くちゅ、くちゅり……
「んんぅ……っ、ふー、んふー…っ、ん、ンむ…

」
「ん、はあ……ん」
濡れた舌が燿の粘膜に触れた瞬間、何故か腰がびくんと布団の上で跳ねた。
はしたない反応だ。首藤に気取られてしまっただろうか。
舌は上顎を舐め、歯列の裏をゆっくりなぞる。くすぐったいだけでない感覚があり、腰が揺れたのは偶然ではなかった。
舌の淫らな動きによって、下着が僅かに濡れる感触があった。
「フー…、舌を突き出してみて。もっと気持ちよくなれますよ」
「ン…っ

ふぅ、ん、ん……

」
ぬ゛るぬ゛る……っくちゅっくちゅっ、ちゅくっ……
初めて聞く男の濡れた声で指図され、従うものかと舌を引っ込める。
首藤が角度を変えて高い鼻が頬に当たる。より深く舌を入れられ、縮こまった舌の裏を突かれ、強引に擦られる。
「ん゛〜〜……

ん…

ん、んえぇ……っ

」
「ん……、はあ……」
舌がびくっと反応して、結果的に激しく擦れ合う。
首藤は息を深く吐いて口づけを激しくして、舌を吸い、粘膜の接触を深めた。
お互いの唾液が混ざってしばらくして、ようやく離れる。
「んふー……

ん、はあ、はあ……、あぁ

う……」
「最初から激しくしすぎたか……。あなたが俺を謀ろうなどと考えるから」
「……っ」
おとがいを撫で囁く首藤に震える。長い口付けで満足することなく、むしろ一層ギラギラと色気づいた目で燿を捉えている。口の中がじんとして、股間がじわりと濡れ、不快感と疼きが増すばかりだ。
これ以上何をしようというのか。
「このようなこと、お祖母様もお許しになりません」
「それはどうかな。後生大事に育てた次期当主が全てを捨てて逃げようとしたことに比べれば、未来の夫と少々早く結ばれることくらいお目溢しいただけるのでは?」
「夫……って」
はったりではない。燿の成人の儀式を控えた日に、祖母は家に泊まる許可を与え部屋を用意した。一族に迎え入れてもよいお墨付きのようなものでは……。
そうなるといよいよ逃げ道がなくなる。
「ああ、でも、わ、私は結婚まで清らかな体でいないと……んっ」
「以前のあなたに乞われたなら馬鹿正直に自制していたでしょうが、もう信用できない。今すぐにでも俺の妻になってもらいます」
「いやだ……っあ、私は」
燿に逃げられたら、夕神家に入りこむため何度も通って贈り物をしてきた首藤の貴重な時間が全て徒労に終わる。だから燿の意思を一切無視するというのか。
首藤の手が燿の着物を脱がせようとする。
体を見られたら――どうなるのだろう。外の人間には決して見られてはいけないときつく言い聞かされてきたので忌避感が強い。
胸元を暴かれ、燿は真っ赤になって抵抗を試みた。
「……――」
「わ、僕、本当は男なのです。早逝の呪いから逃れるために女子として育てられただけで、男性とは結婚できな……っあ」
「――何をおかしなことを。どこからどう見ても……あなたはお嬢様ですよ」
燿の胸はそっけなく平らで、女性らしさは皆無だ。
だが首藤は驚愕するでもなく、欲に濡れた瞳のまま胸を凝視する。
「確かに豊かな乳房ではないな。背徳感を覚えてしまう」
「でしたらやめてください、はぁ…っ、み、見ないで……」
「ご冗談でしょう。瞬きもしたくない」
まじないの力は絶大だった。裸を見てもなお、首藤の目には娘の燿しかいない。
視線を注がれた胸の飾りに指が伸びる。
「……可愛らしい色をしている。可憐な花のつぼみのようだ」
「あ……っ、ん、だめ、…っんん、あッ

」
「感じるのですか。掠っただけで甘い声で誘ってくるとは」
「んー……っ、違う、あ、はっ…

ん…っ、ん゛

」
こす……

こす、こす、さすさす

くに、くにっ……
両方の乳首を、そっと壊れ物を扱うように撫でられた。じんっとおかしな感覚が走り、また腰が揺れる。
上擦った声を上げると首藤の息が荒くなるのが恐ろしく、唇を噛むが、指が食い込むと我慢どころではなくなる。
「ぁんっ…

ん、ふー

んふー…ッ

ひあ

あ゛…ッ

」
「もっと声を聞かせて。あなたの乳首は触れるたび素直に硬くなって、気持ちいいと訴えていますよ」
「んはぁ…

あッ…

ぅん、ん゛

だめ…、あァっ…

」
くりくりくり……

こすっこすっこす、ぐり、ぐり、ぐり……

乳輪の根元に指を突っ込み、ほじくるようにされると、乳首が勃ち上がってぐっと露出する。いつもは埋もれている薄い皮膚の部分を掴まれ、左右に捻られ、快感が股間にまで伝う。
「あん…ッ

あ…っ

んあ

だめぇ、あぁ、ん…

」
「……、淫らな声を上げて……、お嬢様、乳首を自分で弄ったことは?」
「ないです、こんな……ッ

あっ

あ

淫らなこと、決して大人になるまでしてはいけないとぉ…、はぁ

はへ……

」
「初めてなのですね。それにしては男を煽るのがお上手だ、ん……っ」
「お゛……ッ


〜〜


」
ぬ゛る、ぬ゛る、ぐちゅぐちゅ、くり、くりくりくり…っ
勃起した乳頭を、首藤の舌が押しつぶした。
ざらりとした表面で擦られ、舌先で細かく嬲られ、根元から吸われる。
切ないむずむずとした感覚が瞬く間に生々しい快楽となり、自分でも聞いたことのない声が出てしまう。
「あ゛ひぃ…っ

い、あへ

あぇ…っ


だめ、それ、ぬるぬるしないで…、あぅ

い゛…っ


」
「ん……、初めてにしては敏感すぎるな。いやらしいお嬢様ですね、フー……」
「あッ

あッ

あッ

あー…っ


」
こすこすこす

くりくりくりっくりっくりっ

ぬ゛る、ぬ゛る、くちゅくちゅくちゅ、ぬるぅ……

初めて限界まで張り詰めた乳首の皮膚は酷く敏感になり、指で摘まれ、首藤に吸われて、壊れたように声がひっくり返る。
家の誰かに聞かれたら――聞かれても黙認される可能性はおおいにある。
このままでは本当に、体から首藤の妻にされてしまう。
「あっぅ

あッ…


す、首藤様……っん、あ

」
「はあ……股をもじもじさせてどうしました、お嬢様――……っ?」
「これ……はあ、はあ…、見てくださ、んあ゛…っ

」
ぐり……、ずり、ずり、ずりゅんっ……

最後の手段として、燿は自分自身を首藤の肉体に擦り付けた。
触ってもいない陰茎は口付けと乳首への責めで先走りを漏れさせ、はっきり勃起していた。
幼子でも知っている男性の象徴を突きつけたら、流石に女ではないと気づいてくれるかもしれない。
腰を浮かすと、乳首の快楽で揺れて自然とぐりぐり擦られる。それにも感じて燿は嬌声を上げた。
「ぁあッ

ん゛、あはぁ…

ほら、勃起して、こすれてる…

陰茎が、あ゛……っ


」
「――燿さん」
首藤がお嬢様、ではなく名を呼んだ。
ようやく性別を理解したかという期待は一瞬で消え失せた。
「〜〜!?

おぉっ…


ん、あ゛ああぁァっ


」
「ふー、フー……っ

自分から陰核を押し付けてくるとは、いけないお嬢様だ……」
「いッ…

ひぁ

あん

あッ

当たって…??

あぁ〜…


」
ごりっ……

ごり、ごりごり、ごりゅ、ずりゅっ……
のしかかった首藤が、燿の勃起に巨大な塊を重ねて擦り付けた。
それは鉄の杭のように硬く燿を屈服させる力があった。
「はあ……っ、興奮する。怖がられるかと思って我慢していたのですよ。必要なかったようだ、陰核をこんなに硬くして、俺の体を使って擦り、気持ちよくなろうとは…っ」
「ひぐ…っ

ちがぁ、あぇ

あへ……っ

お…ッ


だめ、だめ……っ

あ〜…

」
「何が駄目なものか。体は素直なものだ。こんなに勃起して……ん……」
「お


ほぉお……っ


」
こす、こす、くりくりくり……

ぐりぐりぐりぐり、くちゅ、くちゅ、くちゅくちゅ、ぢゅう〜……
ずりっ…ずりっ! ごり、ごり、ごりゅ、ごりゅ…っ

興奮した首藤は敏感な乳首への責めを強くしながら腰を振って屹立を押し付ける。
自身より明らかに大きく逞しい雄の象徴に、体の奥が熱くなり、迫り上がってくるものがある。
「はぁあ…


だめ、おかしいです、おかしいのが…あー…きちゃう

あっァあ

乳首、ひあ…っ

だめっ

潰れう、私の、大事なところ…っ

」
「気をやってしまうのですか、いいですよ、俺の勃起に陰核を擦りながら乳首でいって……、いく、と言ってください」
「あっ

あッ

あっ

あんっ

いい……

ああッ

いく

いくいく……ッ


いぅッ……っ


お゛…っ

」
ぐりぐり…、ぐりぐり、さすさす

さす、くりくりっ

ごりっ…ごりっ…ごりゅ、ゴリッ…!
びくッ…びくん……っびくびく、びくんっ……

両方の乳首を舌先と指で細かく弾かれ、硬い肉棒を強靭な腰の力で擦り付けられ、とても内側に抱えておけない快感が弾けた。
腰が大きく反り返り、陸に上げられた魚のように何度も無様に跳ねて、性器同士が強くぶつかりながら最初の絶頂を迎えた。
「はあっ

はーーっ

お…

い、ぐ……


いくっ…


いく…

はへぇ…

はふー…

」
「ん……、燿さん、ふー……っ

」
「ああぁ


首藤様……ん、ん゛ん〜〜

」
股間がじわじわ濡れて、離そうとすると首藤が押し付けてくる。唇まで吸われて、口の粘膜が蕩けた。
今度こそ舌を差し出してしまい、首藤は外に出した舌を吸い、ずりずりとした感触を存分に味わう。
くちゅ…ぢゅぅ、…ぬ゛っ、ずぬ゛っ、れろっれろっれろっれるれる……

「ん゛ッ……

ふー…

んぶ…

んふ〜……

」
「ん、ん、はあ……」
発情の色を濃くした首藤の顔を、燿は快感の余韻に浸って見つめ返す。
――交わりがこんなに気持ちいいなんて。
「お嬢様、俺も限界です。すぐにでも奥にねじ込みたい」
「〜〜……っ

は…ぁ、それは、だめです、あぁ……

」
「痛くしないように努力しますよ、都合よく香油も用意されている。これをたっぷり塗り込んで、濡らして、狭いお嬢様の蕾を開いてしまおう」
「あふ…

あ゛ァ……

」
燿の性の知識は乏しい。広く見識のある九井もその類の教育は施さなかった。
ただ女中の噂話や、思春期の頃勇夜から嫌がらせで卑猥な本を見せられたこともあり、今首藤がどこに何をしようとしているのかくらいは察せてしまった。
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