○○しないと出られない部屋 悠×誠人 02


あり


ここは一体どこなのだろう。
昨日はそう、居酒屋のバイトだった。日付が変わる頃に帰宅して、くたくたで半分寝ながらシャワーを浴びて、ベッドに直行したはずだ。代わり映えのない日だった。
だというのに目が覚めた瞬間、知らない場所に誠人はいた。
一人きりであったなら、自分がどこかおかしくなってしまった可能性をまず疑っただろう。例えば夢遊病で知らないうちに知らない場所に迷い込んだとか。
なにせ誠人の体は、現在進行系で夢遊病も霞むほどの異常な状態に密かに陥っているのだから。
だけど部屋にはもう一人。

「誠人、大丈夫?」
「大丈夫だけど、悠……ここってどこ?」
「俺にも分からない。気づいたらここにいた」

無機質な壁を背景に悠が立っている。飾り気がなさすぎて広さが掴みづらいが、誠人の6畳の自室とそう変わらないだろう室内に、誠人は悠と二人きりでいた。
知らない場所でも悠の存在のおかげでそれほど取り乱さずに済んでいる。しかし悠にもまるで訳が分からないらしい。ますます状況が謎だ。
唯一の出入り口であるドアに手をかけてみたが、まずノブが回らず、押しても引いてもぴくりとも動かない。悠はとっくに試していたのだろう、ため息をついて首を振った。
そのとき、どこかから声が聞こえた。

『ここはセックスしないと出られない部屋です』
「は……?」

意味が分からない。いや、非常に単純明快な日本語なのだが、まったく意味が分からない。
唖然とする誠人を馬鹿にするみたいに、言葉が繰り返される。

『ここはセックスしないと出られない部屋です。セックスの既成事実が確認され次第扉は開きます』
「はぁ〜?」

何度聞いても脳が理解を拒否する。知らない場所に放り込まれたかと思ったら、セックスしないと出られない?ふざけすぎだ。いたずらでは済まされない犯罪行為ではないか。たちが悪い。
誠人は動揺を堪えて隣の悠に目配せした。悠は誠人より冷静で、しかしいつも誠人を安心させてくれるような笑顔は見せてくれず思案顔だ。

「悠、こんなの冗談だよな。誰か……友達がふざけてるとか」
「ただの悪ふざけならいいけど……でも、それにしては手が込みすぎてるのが気になる。昨日の記憶ははっきりしてるのにどうやって連れてこられたのか全く分からないし、この部屋……壁を叩いてみたけど全面コンクリート壁で、大声を出そうが助けを呼ぶことも壊すこともできそうにないし」
「そ、そんな」

そう言われるととても深刻な事態に思えてくる。顔を青くする誠人に、悠は表情を和らげて目を合わせてきた。

「大丈夫、もちろんセ……さっきの声に従う気はないから。誰が仕掛けたにせよまさか死ぬまで閉じ込める気はないだろうし、落ち着いて対策を考えよう」
「そうだよな、うん、落ち着こう」

やっぱり悠は頼りになる。一人きりだったら感情的に喚くばかりだっただろう。
それから二人で改めて部屋を調べた。大きな家具は唯一つ、真っ白なシーツが敷かれたベッドだ。隅にはご丁寧に水と食料が置かれていて、しばらくは飢えることはなさそうだ。逆に言えば目的を果たすまで出す気はないという意味も汲み取れる。それは非常に困る。
どこを叩いても壁も床も無駄に頑丈な造りだ。これがゲームならどこかに秘密の仕掛けがありそうなものだが探せど探せどそんなものはない。抜け道は期待できそうにない。
あるのは大きなベッドと生きるための糧のみ。寝るためだけの安ホテルよりずっと殺伐としている。セックスをするためだけの部屋であり、するしかないのだと無言の圧力を食らっている気分だ。

「はあ……」

出られる糸口が見つからないまま、時間だけが流れていく。窓がないので何時なのかは分からないのが不安を煽る。
ずっとこんなところにいたらどんどん精神的に追い詰められるだろう。誰ともしれない犯人がその様子を高みの見物で楽しんでいるのだとしたら腹が立つ。
――セックスしたら出られる? こんなことを仕掛けた異常な犯人がきちんと有言実行する保証はない。しかしそれ以外に手があるのか。
嫌でも悠を意識してしまう。ちらりと見ると穏やかな顔で見つめ返され、すぐに折れそうになる弱い自分が恥ずかしくなる。

「疲れた? 休んでいていいよ」
「いや、大丈夫。絶対二人でこんなところ早く出よう」
「――そうだね。とにかく取り乱したら正常な判断もできなくなる。落ち着こう」

悠は何度も落ち着こうと口に出す。そんなに誠人は取り乱しそうに見えるだろうか。見えるのだろう。
心配させたくなくて誠人は無理にでも微笑んだ。悠がいればきっと大丈夫。
――と思ったのもつかの間、前触れもなく異常が訪れた。

「ん……はぁ……はぁ……」
「……誠人?」
「な、何でもない……はぁっ、ん……」

体が熱い。非常に焦った。
何を隠そう、誠人は「不意に発情して異常な淫乱体質になる」という難儀な肉体を抱えていた。
悠にはひた隠しにしてきた。一番失いたくない大事な友達だからこそ知られてはいけない。そう思っていた。

「……誠人?」
「んっ、大丈夫だから……はぁっ、あっ……」

息を荒げる誠人を案ずる純粋な悠に対して、発情し始めた体は「男」を感じてしまう。

「苦しいの? 換気扇はずっと回ってるから空気は淀んでなさそうだけど……大丈夫だから、ゆっくり吸ってゆっくり吐いてみて?」
「違う……、ほんと、大丈夫……っ、あ、んっ……」

背中を撫でられ、体がびくりと大げさに跳ねた。
よりにもよって悠の優しい手が情欲を煽る。優しさではなく激しくその手で火照った体を弄ってほしいと、最低な願望が泉のように湧き上がって止まらない。

(どうしよう、体……下半身が……それから、乳首と、全身ぞくぞくする……っ、駄目なのに、悠相手に、こんな、あぁ、ち○ぽほしいとか、……っ、はぁっはぁっ……)

強烈な欲情に、悠との関係を壊したくない強い気持ちが必死で抗う。いつもだったらとっくに陥落しているころだ。

『セックスしないと出られない部屋です』

――ああそうだ、セックスしなければ……。この一回だけだ。自分のためだけじゃない。悠を助けることにもなる。

「……〜〜っ、悠、もう、俺限界……はぁはぁ……すぐにでもハメ……っ部屋から出たい、だから、セックス……してほしい……」
「――――本気?」
「ぅん、悠は……っ何もしなくていいから、はぁっ、はぁっ……」

体が限界を超えた。あくまでも部屋から出るためと言い張って――誠人は悠のボトムに手をかけた。

「……っ、」
「はあぁっ……悠、悠……っ」

さすがの悠も驚いて体を固くする。その間に誠人は熱に浮かされて悠のファスナーを下ろし、男の証を見た瞬間、軟な理性は吹き飛ばされてしまった。

「んっ……ふあぁ、悠の、おち○ぽっ……んっ、ふぅ、んっ」

れろ……じゅぶっ……ぢゅぶ、ぬ゛ぶっ……

飢えた動物のように、頭で考えるより早く本能的にそれを咥えた。これは自分を気持ちよくしてくれる性器だ。

「……誠人、待てって、そんなことしなくていい」
「ん゛っんぶっ……嫌? 俺はしたい、悠は、目閉じてていいから、俺の口、オナホだと思って……? んっん゛っ……」

じゅぶじゅぶと唇の輪で幹を扱き、口内の柔らかい部分に先端を押し付ける。ペニスが硬く熱を持っていくのに恍惚として、より熱心にしゃぶりついた。

「ん゛っんむっ……んぅ、んっ……」

フェロモンには相手の興奮を誘う効果もある。何度か舌を動かすとぐんと体積を増し、もう顎を大きく開かなければ咥え込めない。しかし息苦しささえペニスが硬く大きい性器となっている証であり、酸欠でぼうっとしながら興奮する。
口の中も敏感になっていて、みっちりと勃起した硬いペニスに満たされ、じんじん疼く粘膜を擦られるのが気持ちいい。

「んっんむっふぅっ……ふぅうっ、あぁ、悠のおち○ぽっ、おいしい、んっん゛っ…ちゅっ、ぢゅうっ…」

一度口を離すと、勃起したペニスが反り返って頬を叩かれ、絶頂したように体がひくつく。初めて見た悠の勃起は、こんなところまで欠点がなく完璧な形をしていて、しかし優しいというには大きく、怒ったように血管が浮き出ている。
うっとりして立派な亀頭に再び口をつけようとしたのだが、悠に押し返されてしまった。

「――もういい」
「はあぁっ……なんで、やっぱり嫌……? 俺、もっとがんばってしゃぶるからぁ、セックスして、すぐ精子出せる、できるくらい口で扱くから……っ」

悠の声は聞いたことがないくらい硬く、誠人は焦って言い募る。このペニスをハメてほしくて、すでに誠人の穴は性器になり収縮している。挿入してもらえなかったら、頭がおかしくなってしまうかもしれない……。

「……冗談でもオナホ扱いだなんて言わないで。――誠人が覚悟を決めたなら、俺も……」
「あっああぁっ」
「ん、駄目だよ、じっとしてて」

悠の手が動き、誠人の服を脱がせ始めた。触れられるだけでびくびくする体を押さえつけられ、器用に剥ぎ取られていく。優しいようで迷いがなく、決意が感じられた。

「はあぁっ…悠、んっ見ないで……っ、んっあぁあっ」
「大丈夫、酷いことはしないって誓うから」
「……っ、ひ、ひどくしていい、悠の好きにして、あっあぁっ」
「だからそんなこと言わないでって、さっきも言ったよね」

ぞくぞくするのが止まらない。下を脱がされ、びしょびしょに濡れた下半身がバレてしまうのにも、今は羞恥や恐怖より興奮が勝る。

「――すごく濡れてる」
「ああぁっ……ごめんなさいっ、んっんっ……」

悠が驚いた声を出す。それはそうだ、誠人は悠のペニスをフェラしていただけで、ぐしょぐしょに濡れていた。何ら肉体的な快感を与えられたわけではないのに、異常だ。
それでも悠は嫌がるでもからかうでもなく、誠人に丁寧に触れてくる。
ぬ゛るっ……ぐちゅ、ぐちゅっ……

「あっああぁんっ」
「気持ちいい?」
「あっあんっんっ…あッああっ…いいっ、先っぽ気持ちぃ、あっあっ…やらしい汁止まらなくなっちゃう……っ、んっおっ」

滴るほど濡れた局部を躊躇うことなく擦られ、先走りがぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてる。

「誠人……」
「あっああぁ〜〜っ……あひっ、乳首っ、んっあっあっおっ…」

いつの間にか悠が誠人の上に跨がり、下半身を弄りながら胸元に触れる。敏感な凝りを転がされ強烈な快感が体を貫く。

「はぁあんっ、んっあっあっそこっあんっあんっあんっ…」
「ん……」

こすこすっ……くに、くに、くりくりくりっ……

悠のきれいな指が、赤く腫れて性器になった乳首を細かく弾きながら、はしたなく濡れた下半身を同時に刺激する。
セックスをすると決めた悠に迷いは少しも感じられなかった。もどかしいほどじっくりと愛撫を繰り返し、すでに昂ぶりきった誠人の体に過分な快感を与えていく。
「ひあっあっあっ…もう、んっおっ…ハメっ…おち○ぽ、ハメていい、……っあっあぁあっ…」
「……駄目だよ、傷つけたくない。できるだけゆっくり慣らすから」
「あひっんっあぁんっ、それ、あっあっあっいいっ…んっふあぁっ…」

慣らすまでもなく、フェロモンによって発情した誠人のアナルはすでに柔らかくひくつき、くぱくぱと挿入を待ちわびている。
こんな体を知られたくない。でもどうせ知られるなら、早く全部知ってもらって、太く硬い性器で思い切り擦ってほしい……。
誠人は悠の手に自分の手を重ね。

「……っ」
「悠っ……こっち、いじって、もう我慢できない、ハメてほしくてっ、あっあああぁっ……」

びくびくびくっ……ぬ゛ぢゅっ……ぬ゛ぶっ……

淫らな穴に手を導くと、悠は目を瞠り、それから荒く息を吐いて誠人の願いを叶えてくれた。

ずぶっ……ぬ゛ぶっ、ずぶぶぶっ……

「煽らないで……いきなり挿れて壊すところだった」
「〜〜っ……」

低い声に心臓が高鳴る。フェロモンは本人のみならず相手の男の理性をも奪う。悠が優しいから忘れかけていたが、彼もフェロモンにあてられているのだ。本来あってはならない事態に興奮が増す。

(悠……はあぁ、いきなりハメてよかったのに。でも、いきなり……ってことは、俺にハメてくれる気になってるってこと……、そんなの本当はだめ、なのに、……ああああぁ)

悠の指が、本当は性器でこうしてやりたいのだと言っているように、穴に突き入れられる。

「あっんっふぅっ……おっ、〜〜ッ」
「はぁっ……すごい、熱い……」
「あっあひっお尻っ…い゛ぃっ、いぐっ…いっあっあっあぁあんっ…!」
「……いくの? いいよ、我慢しないで、ほら」
「あっあっああああああ〜〜っ乳首っ、だめだめっいくっいっひっ……あへっああああぁんっ」

くに、くに、こすこすこすこすっ
ずぶっずぶっぬぷっぬぷっぬぷっぬぷっ……
びくびくびくびくっ……びくんっびくんっ……

悠が戸惑っていたのは一瞬の間だった。誠人が絶頂感を覚えて痙攣すると、確かな意志を持ってハメた指を抜き差しして中を拡げるように突き、乳首を摘んで左右にこね回した。
すっかり淫乱になった体はあっけなくアクメに達し、全身が壊れたように跳ねる。

「あ゛ああぁっ…あひっ、あへえぇっ…んっおっ…」
「――すごいね、こんな……」
「あっああぁっ…ごめん、俺、あっあっ淫乱で…許して、嫌いにならないで、っ…んおっ…あっああああぁ…」
「――嫌いになんて、なれるわけない」
「んっひぃいっ…らめっあっおっ…いってぅ、いってるからぁっ…あっあ〜〜〜っ…」

ずんっ……ずぶっ、ぬ゛ぶうっ…!

アクメして指に吸い付く穴に、悠は手を休めることはない。びくびく締め付けている粘膜が押し広げられる禁忌的な快感に、先程口に咥えた性器をこちらで咥えたい欲望が高まるばかりだ。

「ンっおっ…あっあっあぁんっ…」
「誠人……、はぁっ、俺のことも、嫌いにならないでいてくれる……?」

苦悩が見え隠れする、請うような視線に胸がずきりとする。嫌われても仕方がないのは誠人のほうなのに。

「あっ当たり前……っ何があっても、俺は、俺が悠を嫌うなんてありえない…あっんあぁっ…」

紛れもない本心を訴えると、まだ痙攣し続ける穴から指が抜かれ。

「ごめん、後で好きなだけ詰っていいから」
「悠……? ぁっ…ああああぁっ…――」

指ではない硬い塊が、体の奥につながる入り口に押し当てられた。それを自覚したとき、誠人の体は大いなる期待だけで絶頂のように痙攣し、熱の塊に濡れた音を立てて吸い付いた。

「誠人、」
「あっはああっ……い、挿れて、おち〇ぽっ…奥まで、ずっぽり……悠は何も悪くないから、俺が、ハメてほしくなっちゃったからっ……お尻に、おち〇ぽハメて、奥まで…っんっんっおッお…ッ〜〜!」

ぬぶっ……ずぶっ、ずんっ、ずぶぶっ……!

悠に淫らなことをさせてしまう罪悪感が消え去ったわけではなかった。怒張したペニスを挿入され滅茶苦茶に犯してほしい切望が全てに勝ってしまっただけのことだった。
羞恥と友情を心に残したまま淫らにセックスをねだる。それが叶えられた瞬間の衝撃は、ただの快感では片付けられない壮絶なものであった。

「あ゛あぁっ…〜〜っおっ、はいって…あっ、んひぃっ…〜ッ」

ずんっ……ずんっ……ぬ゛ぶっ、ぬ゛っ……

挿入をねだっておきながらきつく蠢き締め付ける穴の中を、剛直が割り拡げていく。何本かの指より圧迫感は段違いで苦しく、自分の中が隙間なく満たされる感覚に慄きながら、誠人は射精とは違う絶頂に見舞われた。


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