個室ビデオ
あり
終電を逃してしまった。
繁華街の片隅で、田中洋輔(たなかようすけ)は悩んでいた。ホテルに泊まるのは金がもったいない。しかし適当な飲食店に入って朝まで粘る元気もないし、漫画喫茶にでも入るか――と思っていたとき。派手な色の看板が目に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
若い店員がカウンターに立っていた。
「個室ビデオ店」。その名のとおり、個室でビデオが見られる店のことだ。ぶっちゃけてしまえば主にアダルトビデオで抜くための店、である。
漫画喫茶と比べると多少割高だが、その分部屋は広いし何より密室で防音がしっかりしている。
寝るためであって別にアダルトビデオが目的ではないが、何も見ないのももったいない――と言い訳のように思い、洋輔は2枚のDVDを借りて個室に持ち込んだ。
入ってみると想像よりは広い。殺風景な密室なのでくつろげる感じではないが、贅沢は言えない。
すぐに寝る気分でもなく、少しわくわくしながら、洋輔はDVDを再生した。
しかし画面に映し出されたモノに、わくわくは一瞬で霧散してしまう。
『おら、感じるんだろ』
『あ、あん、はぁ、はぁ……』
乱暴に言葉責めする声と、気持ちよさそうに喘ぐ声。問題はそのどちらもが、「男」だということだ。
「っ、なんだよこれ」
初めて見る光景にしばらく固まってしまっていたが、正気に戻ると慌てて再生を止めた。
間違って紛れ込んでいたのだろう。全く酷い間違いだ。初めてゲイ向けビデオなんて見てしまった。心臓が嫌に高鳴っている。
気を取り直して、もう一枚のDVDをセットする。
『あっ、はぁ、うっん…』
「うわっ」
洋輔は瞠目した。画面に、再び男同士の絡みが映し出されたのだ。
(なんなんだこの店……もういい、寝よう)
できるだけ映像を見ないようにしながら停止ボタンを押す。しかし、反応しない。
「な、なんで……」
停止ボタンだけでなく、電源を切ろうとしても消音しようとしても、一切の反応がない。その間にも卑猥な映像は流れ続ける。
『おらおら、どうなんだ、指ハメられて感じてんのかっ』
『ああっ、いいっ、気持ちいいっ』
「……っ」
思わず画面を思い切り見てしまう。ゴツい男の指が、細身の男のアナルにずっぽり挿れられている様子が、アップで生々しく映されていた。それも無修正でだ。
男同士なんて完全に守備範囲外、想像したこともなかった。ありえない――はずなのに。
『すげえトロマンだなっ、うまそうに咥え込みやがって』
『ああ〜っ、ケツマンいい、気持ちいいっあっひっああっ』
ごくりと喉が鳴る。感じたのは嫌悪ではなく、そんなに気持ちがいいのだろうか、ということだった。
男がこんなに乱れているところを初めて見た。アナルなんて、何かを挿れるべき場所じゃないというのに。
『もう3本入ったぞ、ここか、ここがいいのかッ』
『あ゛あーッい゛いっんあッンッ』
じゅぶっじゅぶっずぶっずぶっずぶっずぶっ
「ぁ、すごい……」
太い指が3本もアナルを押し広げながら抜き差しされている。ずっぽりハメられて苦しそうなほどなのに、挿れられている方はみっともないくらいに喘ぎまくっていて。
目が離せない。信じられないことに洋輔のペニスはビデオに反応して勃ちあがっていた。
前がきつくなって我慢できない。洋輔は震える指でベルトを外し、パンツを脱いだ。
『あ゛っあ゛っケツマ○コぉッあひっあひっ』
『あーエロい、チ○ポギンギンになったぜ、後でハメまくってやるからなっ』
「はぁっ…、ぁ、こんな、とこ……」
指は自然とアナルへ伸びた。そこは硬く閉ざされているようで、指が触れるとひくっと収縮する。
体が疼く。ペニスだけじゃなくて、もっと奥が疼いて堪らない。
洋輔は、ペニスから滲み出る先走りを指に取ると、恐る恐るアナルに押し挿れた。
「あっ、あぁっ…」
ぬぶ、ずぷ、ずっ、ずぶっ……
痛みはなかった。異物感と共に、じんと甘い痺れがアナルから全身に広がる。
「あッ、あっ、あんっ」
ゆっくり抜いてまた押し挿れただけで、感じたことのないような気持ちよさに腰が蕩ける。中はただでさえ狭いのに、感じるたびにぎゅうぎゅうと一本の指を締め付けていた。性器になってしまったような倒錯感に頭がぼうっとする。
そのとき、画面にグロテスクなペニスが映し出された。
『おら、これが欲しいのか? 俺のデカチ○ポをトロマンにハメてほしいのかっ』
『あぁん…チ○ポほしいっ……』
「はぁ、はぁ、すごい…そんな大きいの……」
洋輔は画面に釘付けになる。ギンギンに天を仰いでいる、指3本よりずっと太くて長いペニス。あんなものを挿れられたら壊れてしまうのではないか。
しかし画面の中で、巨大ペニスはひくつくアナルの中にずっぽりハメられてしまった。
『あ゛あ゛ッひっあ゛っい゛いっ』
『あーいいっ、トロマンが締め付けてくるっ』
パンッパンッパンッパンッ
「はぁ、はぁ、あぁッ……」
凶器のような肉棒が、アナルを犯して激しく抜き差しされる。挿れられているほうは涙を流しながらよがっていた。
体が熱くなって、画面の中のセックスに合わせるようにアナルに挿れられた指の動きが速くなる。
「あっあんっ、ん、あぁっ」
ずっ、ずっ、ずぶっずぶっ、ぬぶっぬぶっぬぶっ、ぐりぐりぐりゅっぐりゅっぐりゅぅっ
ペニスの太さを見てしまうと1本の指ではとても物足りなくて、無理矢理2本目の指をねじ込んで抜き差しする。
『おらおらっ俺のチ○ポの味はどうだこの淫乱!』
『あ゛っおあっケツマンい゛いっ、チ○ポでケツマン感じるっあ゛っああっ』
「あんっあッっ、あぁっいい、ケツマンきもちいいっ」
ビデオを真似て卑猥なことを口に出すと、更に興奮して気持ちよくなった。
特に気持ちいいところに当たるように、腰を浮かせた恥ずかしい体勢で抜き差ししまくる。
気持ちいいのに、足りない。画面の中でペニスをハメられている男に羨望の眼差しを向けてしまう。
――あんなモノで犯されたら、指の比じゃないほど強く中を擦られて、指では届かない奥まで突かれてしまうに違いない。
自分は決してゲイではない、はずなのに、頭の中は太くて硬い肉棒でいっぱいになっていて。
「あぁんっチ○ポ、チ○ポほしいっはぁっんっ」
熱に浮かされてそう言った、そのときだ。
突然、ドアが開いて密室の世界が崩壊した。
何も考えられないまま視線を移すと、先ほどの店員がこちらを見ていた。
ぞくぞくぞくぞくっ
「やっ見ないでっあぁっ、んっ、あっあぁッ……!
体が激しく痙攣し、洋輔はどうしようもなく恥ずかしい姿を店員に晒しながら、イってしまった。
信じられないほどの快感と絶望が、同時に訪れる。
(あぁっ……こんな姿、人に見られて、終わった……)
そう思っているのに、体のほうは絶頂の気持ちよさに浸っていて、いつまでもびくんびくんと震えが止まらない。
「あぁん…、ん、や、見ないで、ぁ…」
必死に訴えたが、店員は出て行くどころか部屋に入ってきて後ろ手にドアを閉めた。
そこでようやくおかしいことに気づく。突然入ってきた店員はギラギラした目で洋輔を見つめにじり寄ってくる。
その下半身がギンギンに勃起していることに気づいたとき、恐怖と興奮が混ざった滅茶苦茶な感覚が洋輔を混乱させた。
「な、なんで、いやっ」
「抵抗してんじゃねえよ、チ○ポほしいんだろ」
店員が高圧的に言い放つ。
「ノンケぶった顔してエロいケツマンオナニーしやがって」
「そんなっ……」
「見てたぜ、ずっと。そこが隠しカメラになってること全く気づいてなかったみたいだな」
呆然として何も言えなかった。
見られていた? アナルに指を挿れて抜き差しして、散々いやらしい声を出すところを、全部見られていたというのか。
きゅんきゅんとアナルがひっきりなしに収縮する。
「お前がエロすぎて、シコるのを我慢するのに苦労したぜ。そのおかげでこんなになっちまった」
「ぁ、や、はぁっ……」
男がペニスを取り出す。AV男優に劣らないほど太くてズル剥けで赤黒くて、いかにも使い込まれていそうな肉棒が、ビキビキと限界まで張りつめ反りかえっている。
「これがほしいんだろ、なあ」
「やっ…ぁっ、あん…」
むき出しのアナルに熱くて硬いペニスが押し当てられる。物欲しげに収縮してペニスを吸ってしまうのが止められない。
ありえないと思いつつ、挿入されるのを想像していたペニスが、現実に挿れられようとしている。興奮で息が上がってくらくらしてくる。
「エロい顔しやがって。ちゃんとおねだりしてみろよ、ナニをどうしてほしいのか」
「あぁんっ……」
店員が耳を噛みながら低く囁いてくる。体が熱い。奥がどうしようもなく疼く。
「はあ、はぁ……チ、チ○ポ、挿れて……っ」
「どこに……? どこにチ○ポハメてほしいんだ」
「っ、ケツま○こに、はぁっ、チ○ポハメて、パンパン突いてっ」
洋輔は泣き叫ぶように懇願した。押し当てられたペニスがびくりと震え、次に強く押し付けられて先端がねじ込まれてくる。
「あ゛っ、あ゛あッ」
「淫乱ケツま○こ、犯しまくってやるよっ……」
ずっ、ずぶっずぶっずぶうううっ……
硬いカリがきつい中を押し広げて、強引に奥まで挿入された。
圧迫感と、腰が蕩けるような強烈な感覚が全身を支配する。
「ギチギチに締め付けやがって……そんなにチ○ポが好きなのか」
「あ゛っひっ、らめっ、い゛あぁッ」
挿入された快感だけでいっぱいいっぱいのところを、おかまいなしにピストンされる。突かれるたびに頭が真っ白になるほど感じて足先が空を蹴る。
「あーすげ、ノンケだと思ってたけど使い込んでるのか? この淫乱マ○コ」
「あひっあっちがっ…い゛っあんっあぅんッ」
「まあ、キツさから言うと処女か。すげえ素質だな。チ○ポなしじゃ生きられない体にしてやる……よっ!」
「あ゛っあッあッあああんっ!」
ずぶっずぶっずっぽずっぽずっぽ、ぢゅぶっぢゅぶっぢゅぶっ、パンパンパンッパンッズバンズバンズバンッ
強い力で腰を押さえつけられ、激しくピストンされる。硬いペニスが入り口から奥までゴリゴリと擦りまくり、失神しそうになるほど気持ちがいい。
「はぁっ、言ってみろよ、チ○ポ気持ちいいって、チ○ポが大好きですってなっ」
「やっあ゛っあぁっんあっあッ」
不意に店員が動きを止めた。いきなり快感を取り上げられ、奥が酷く疼く。
「ああぁ……はぁ、はぁっ……」
「ほら、どうしてほしいんだ……?」
「あぁんっ……」
挿入したまま、店員が両手を伸ばして乳首を弄ってきた。甘い痺れが走って、中のペニスをぎゅううっと締め付けてしまう。
切なくてどうしようもなくなる。
「はぁはぁ……突いて、チ○ポで中突いてぇっ……」
「……」
「っ、気持ちいいからっ、チ○ポでケツマ○コグリグリされてきもちよくなっちゃったから…、犯してほしいっ、あっあああんっ!」
ズバンッ! ズブッズブッズブッパンパンパンパンパンパンッ
中のペニスが一際大きくなったかと思うと、抉るようなピストンが再開された。中を擦りながら乳首までくりくりと弄ってくるものだからもうおかしくなりそうなほど感じて、ものすごい絶頂感を迎えた。
「あああぁッい゛ぐっいっちゃうっあッあんっああぁーっ!」
びくっびくっびくっびくんっ! びゅっびゅっびゅるっびゅーーーっ
「あ゛ひっあ゛っらめっいってぅ、い゛ってるからあ゛ッ」
「すげ、この淫乱ケツマンがっ…!」
イきっぱなしで敏感になりすぎた中をガツガツ突かれ、本当におかしくなってしいそうで泣き叫ぶように喘ぐ。
「はぁっ、AVよりよっぽどエロいじゃねーかっ…お前が出たら売れっ子になって、男の精子搾り取りまくるだろうな。――そうだ、今も撮ってるこの映像、他の部屋に流してやろうか」
「っ! いやっあっあんっあんあんッ」
びくっびくびくびくんっ
こんな姿を不特定多数に見られる――その恐ろしい想像に体は激しく痙攣し、ペニスが淫らに濡れる。
「はぁっ、満更でもなさそうだな、この淫乱がっ。あーイきそう、イくぞ、お前の中でっ」
「あ゛んっらめっ、中らめぇっ、あっあひっあ゛っあんッ」
興奮した顔で、店員が腰を振りたくる。これ以上なく大きく硬い怒張で中の全てをゴリゴリ擦られ、強烈な快感が全身を襲った。
ズブッズブッズブッズブッぐりぐりゴリッゴリッゴリュッ! ズンッズンッズンッズンッズンッ!
「あー出る、お前のエロオナニー見て溜めてた精子全部出してやるっ……、くっ」
「あんッアンアンッあ゛っあひぃッ! ああぁんッ!」
パンパンパンパンパンッ! ビュッビュッビュルルッドビューーーーッ!
最奥まで叩きつけるようなピストンの後、熱い液体が勢いよく体の中に広がっていく。アナルはそれを一滴残らず搾り取るようにぎゅうぎゅう締め付け、硬いペニスを絞る。
「はぁあ……ぁ、あ……」
本当におかしくなってしまったみたいに、頭が快感に支配されていてうまく働かない。唯一つ分かることは、「チ○ポなしではいられない体にしてやる」という男の言葉どおりの体になってしまったということだけだった。
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