墜ちる騎士2話 02


あり

「ん゛ぉっ……あ゛っ、はぁ、はぁっ…」
「素直になれないならお仕置きをしなければいけませんね。心苦しいですが」

アレクシスは濡れた指を手巾で拭うと、何か棒状のものを取り出した。
指二、三本分の太さで、長さは手首から指先ほどだろうか。少し反った形状で、先端には膨らみがあり、全体的に波打つような凹凸がある。根本の部分は広がっていて、留め具のようなものがついていた。
お仕置きなどと言っていたのだから、拷問器具……にしては丸みを帯びていて、躰に痛手を与えるのに適した形状とは程遠い。全く見覚えがない物体なのに、何かとてつもなくいやらしい予感が駆け抜け、ぶるりと震えが走った。

「これが何か分かりますか?」
「…………」
「そのようにじっと見つめて。当然使ったことも見たこともないでしょうに、もうほしくなってしまったのか」
「な、なにをっ……ひうぅっ」

ぬ゛っ……ぬ゛るっ……ぐちゅ……

当たってほしくない予感は当たってしまった。ひくつく穴の入り口に、膨らんだ先端を押し付けられる。背筋がぞわりとした。怯えるリヒトに対して、アレクシスは容赦なくそれを押し込んできた。

ぬ゛っぬ゛ぶっ……ずぶっ、ずぶぶっ……

「ん゛ッぉおおっ、っ、あ゛あああっ……」
「ああ、かなりきついですが上手く咥え込めていますよ……」
「やめっ……おぉっ、ん゛っあ〜〜っ…」

波打って突起した部分が、ごり、ごりと内壁を擦りながら、着実に奥へと埋め込まれていく。指よりも太く体温を持たないものが蠢く体内を蹂躙する。

「あ゛っ……ぐっ、んっ、ん゛っ、ふううっ」
「感じているようですね。無理もない。これは後ろの穴を開発するためだけの性具なのですから」
「ひうっ……抜けっ……ぬいて、あ゛っ、ううっ、ん゛っ」
「駄目ですよ。あなたは朝までこれをハメたまま過ごすのです」

それは死刑宣告にも等しく思えた。更にアレクシスはリボンのような紐で、勃起しきったリヒトの男根の根本を縛った。

「な、……ひい゛っ…」
「あなたをメスにするためのお仕置きですから、勝手にクリ○リスを床などに擦りつけて達しないようにしなければね。……中だけでイけたら、明日ご褒美をあげますよ」
「ま、待て、こんなっ……あ゛っうぐっ……」

アレクシスは言い残すと部屋を出ていってしまった。木のドアが軋む音を立てながら閉められるのを呆然と見つめる。後にはネグリジェ姿のまま拘束され、穴の中に波打つ性具を挿入されたままのリヒトが取り残された。
アレクシスは奥まで念入りに押し込むと、留め具をはめた。どうやっても抜けそうにない。このまま、本当に朝まで放置するつもりなのか。こんな……後ろの穴を感じさせるために作られたという性具は、挿入されているだけで性感帯を著しく圧迫する。動かずともずっと責められ続けている。感じて勝手に腰が揺れ、性具をぎゅうぎゅうと締め付けてしまうと、余計に快感が膨れ上がる。逃げられない循環の出来上がりだ。

「あ゛うっ……んっおぉっ……はっ、はっ」

喘ぎながら大型犬のような呼吸を繰り返す。穴の中が狂おしいほど感じて、訳が分からなくなる。だけど男根は縛られているから達することはできない。
みちみちと性具を咥え込み、惨めに這いつくばって喘ぐことしかできない生き物に成り下がった。
これでもまだ騎士でいようとするのは滑稽に過ぎるのではないか。そんな考えが脳裏を過る。
何も考えず、尻の快感のみを味わってしまえたら。我慢もせず動物のような声を上げ、腰を振り乱しながら絶頂に達したら、どれほど気持ちいいのか――。
悪魔の囁きだ。そこでドアがノックされたので、リヒトはかろうじて正気を取り戻した。

「……失礼します」
「あっ……はうっ……ん゛っ」

下男はリヒトの様子を一瞬確認して、見てはいけないものを見たようにすっと視線を外した。手には夜の食事を持っており、次いで体を清めるための水桶も一人で運び入れる。
自分の体をバラバラに引き裂いてしまいたいような衝動に駆られる。下男にとっては仕事だから嫌悪感をあらわにしたりはしないだろうが、それだけにこんな姿を見て内心どう思われているのか、想像するだけで頭が沸騰しそうだ。


「お食事です」
「ん゛っ……ほ、解いてくれ、くっ、はぁっ…」
「申し訳ありませんが、拘束は解いてはならないと主人に言われております。……ここに置きますので、お食べください」

できるだけ声が乱れないよう努めながら訴えたが、下男はあっさりと却下する。
犬のように這いつくばって食べろということか。どこまでも侮辱されている。そうでなくてもこんな状態ではとても食欲など湧くはずもない。食べたそばから戻すのが落ちだ。
ただ、体液をやたら流したからか喉だけはカラカラに乾いていて、グラスに入った水を見ると体が欲して喉が鳴る。グラスの水は這いつくばっても飲めはしないだろう。

「み、水が飲みたい」
「……」
「お前が命じられて逆らえないことは分かってる。一時でいいから手を……」
「かしこまりました」

解いてくれるのかと思った。そうされれば、水を飲む前に即座に男根を縛める紐を解いて、見られているのにも関わらず男根を扱いて達してしまいたかった。
性具を抜くことよりも達することを強く望んでいる。切羽詰まったリヒトはそんな自分に気づけない。
だが下男は拘束には触れることもなく、リヒトの体を抱き起こすと口元にグラスを当てた。

「どうぞ」
「ん゛ああっ……」

ご丁寧に飲ませてくれる気らしいが、いきなり触れられ、躰をうごかされたことで中で性具が動き、呻くような喘ぎ声が漏れてしまう。尻穴がばくばくと忙しなく蠢き、できるだけ意識の外に追い出していた快感を生々しく伝えてくる。

「ふうぅっ……はーっ……はーっ……」
「……飲まれませんか」
「ん゛っ……のむ……っ、ひぅっ…ん゛っ、ん゛っ……」

グラスが傾けられ、リヒトは息を乱しながらも必死に嚥下する。乾いた喉を水が潤し、浸透していく。美味しい。だけどそれ以上に尻穴の快感が強烈すぎる。

ぐりっ……ぐっ……ぐっ……ごりゅぅっ……

「ん゛ふっ……んっ、げほっげほっ……ぐぅっ」
「大丈夫ですか」
「げほっ……ん゛っ、くっ、はぁっはぁっ……」

中を押し潰され、びくりと震えたことで水がおかしな場所に入り、酷く咽せてしまう。頭が真っ白になり、気づけば舌を突き出して、口元を布で拭っていた下男の指にねっとりと擦れた。
それまでは冷静に仕事をしていた下男がびくりと揺れる。

「ん゛っ……ぐっ、ふぅっ……すまないっ……うあっ、あ〜〜っ……」
「……こちらこそ、申し訳ありません」

背を擦られる。濡れて掠れる視界の中、下男のズボンの前が隆起していることにふと気づき……言いしれぬ感覚が脳天から全身を貫いた。
ぞくぞくとして体が震え、また性具を締め付け達せない快感に酔う。
何故勃起しているのか。分からない。けれど明らかにリヒトより大きい興奮した状態の男根が目の前にあって、自分の中の禁断の部分が反応する。
下男は水を飲ませ終わると布を石鹸と水で濡らし、リヒトの体を清めた。その行動からは興奮は微塵も窺えない。あからさまに興奮しているのはリヒトだけだ。

「あ゛ひっ……ンッ、くっ、ううっ」

乳首のあたりを拭かれるとひっくり返った声が出る。恥ずかしくてたまらない。下半身の周辺に手が伸びたときには緊張が走った。下男は性器のぎりぎりを拭きながらそれそのものには絶対に触れなかった。微かに抱いた淫らな期待はあっけなく崩れたのだった。

「では、私はこれで失礼します。食事は置いていきますので、できるだけお召し上がりください」
「はぁっはぁっ……ああ……」

仕事を終えると下男は心なしかそそくさと桶を下げて去っていった。取り残されたリヒトの体は余計に昂ぶり、じっとしていられないほど疼く。
朝まであとどれくらいあるというのだろう。とても耐えきれるとは思えない。こんな性具を奥までハメられたまま過ごすだなんて、頭がおかしくなってしまう。
――どうせ誰も見ていない。また悪魔がリヒトの耳元で囁く。

「あ゛ああっ……んぉっ、なかっ、すごい、ごりごりされてぅっ……」

腰がびくつく。アレクシスに言われたときは絶対にそんなことはしないと思っていたのに……気づくとリヒトは、部屋の中央にあるむき出しの柱に、股間を擦りつけていた。

「んぉおっ、擦れっ…あ゛っひぅっ、んっあっあっ、くっ」

ずりゅっ……ずりゅっずりゅっ……ぐりっ、ごりっ、ごりぃっ……

「ん゛ああっ…い゛っ…いきたいのにっ…ふぅっ…くそっ…出したいっ…おかしくなるっ、ん゛っあぁっ、はっはっ」

擦り付けると達することができない男根がじんじんと感じ、最初はためらいがちだった動きがどんどん大胆になる。みっともなく腰を振りたくり、張り詰めた男根の先端を擦り、中の性具をきつく締め付ける。快感は高まるばかりだ。達せないのにこんなことをしても苦しくなるだけだと冷静に考えれば分かりそうなものだが、リヒトはもう引き返せないところまできてしまっていた。

「ん゛ぁっおっあっあああぁっ……いいっ、きもちぃっ…ふぅっ、だめなのにっ、こんなっ、あ゛っんああっ」

にゅちゅっ、にゅちゅっ……ずりゅっ……ずりゅっ……ずりゅっ……

自由にならない体でたどたどしく腰を振る。性具がごりごりと性感帯を押しつぶし続け、昂ぶって濡れた敏感な先端が擦れて甘い痺れが走る。
いつしか太い柱に抱きつくような体勢になっていた。まるで柱と性交しているようで、高潔の騎士の面影はもはやない。淫らな衝動に支配された獣が一匹いるだけだ。
乳首も柱で擦られる。繊細なアレクシスの指先とは比べるべくもない。それでも敏感にされた乳首は押し付けられただけで痛いほど勃起し、刺激が下半身まで突き抜ける。

「はぁんっ…ちくびがっ…あっあっくっ、クリ○リスも、こすれてぅぅっ…あっひっイきたいっ…んっおっおぉっ…ちがうっ…ん゛っあっ」

熱に浮かされ、淫語が勝手に口から出てしまった。何ということを。と思うのに、快感に耐えきれず口に出してしまったという事実が余計に興奮を煽る。

「ああぁっ…クリ○リスじゃなぃっ…男なのに、こんなっ…メスみたいになってぅ……っ中にっ当たって……あ゛っんっふううっ…」

駄目だと思っても止められない。誰も見ていない状況がリヒトを大胆にさせる。
男根ではイくことはできない。強い快感に精子が睾丸の中で次々に作られ、すぐにでも放出されるのを待っているのに、縛られてせき止められ、男根を駆け上がれずにいる。どんどん溜まっていく行き場のない快感が男根から全身に広がり、穴の中を狂おしいほど敏感にさせる。

「あああっ……あっ、なにか…きちゃう…っ、んっふぅっ…あ゛ッあっ〜…」

全身が震え、もはや意識的に腰を振らずとも体の揺れで男根も穴の中も刺激されてしまう。
おかしい。おかしくなってしまう。穴の中のある部分から、えげつないほどの快感が湧き上がり、絶頂のような快感が抑えられない。

「アッうあっ…ん゛おぉっ…らめっ…イっ…めすイキっ…あああっもっイきたいぃっ…」

男根で達するのとは違う大きな衝動に、リヒトは我を忘れて喘ぎ悶える。

(……あああ……今俺は、穴で、狭い穴を犯されてイきたいと……。いけない、そんなことをしたら、おま〇こになってしまう……。はぁん…中の棒の、丸いところが、当たってる……女みたいになってしまう場所を、ごりごり潰されて……)

――イきたい。理性に反して衝動は大きくなり、我慢しようとしては激しく感じさせ、抗えなくなっていく。
もがけばもがくほど淫らな棒は奥に入り込み、ボコボコとした形が柔らかく繊細な中を非情に犯す。

「ん゛ひぃっ…い゛ッ、あっあっ……もうっ…ふあああっ…」

(なんかきてるっ…もうイきたい、ずっとこのままなんて、狂ってしまう……っ)

どうせ誰も見ていない。そんな囁きが何度も頭の中でこだまする。
そう、ここでどれだけ腰を振り乱し、中を犯されながら激しく絶頂に達したところで、誰にも見られることはない。だったらもう、一度快感に身を委ねて楽になってしまったほうが……。

「ふああっ…あ゛ひっ、イっ、んっあッあッ」

ぬ゛ぶっ……ずりゅっ……ぬ゛ぶっぬ゛ぶっ……

淫らなダンスを踊るように腰が揺れる。乳首と男根が柱に擦れ、みっちりと性具を咥え込む。
もうイっているのかと錯覚するほど快感は高まりっぱなしだ。――なのに、ギリギリのところで弾ききれない。

「あ゛ああっ…イっ…なかっ、犯されて…っん゛っおぉ…っイッひっ…なんでっ、イきそうなのにぃっ…あ゛ああぁッ」

あと一押し、何かが足りず、絶頂の寸前の、切羽詰まった快感が延々と続く。
考えてみれば無理もない。男根は縛られ、穴とて激しく犯されているわけではなく、ただ挿入され固定されているだけなのだ。当然メスイキなどしたことがないリヒトが達するどころか、ここまで感じてしまうことがそもそもおかしいくらいだ。
イきそうでイけない。確かにこれは拷問に等しい。アレクシスはこうなることを見抜いていたとでもいうのだろうか。淫らなリヒトの本性を……。

「あ゛あああっ……ひ、あ〜〜〜っ……」

リヒトは発情した犬のように腰を振りたくる。中で性具が動き内壁を潰される。それでも絶頂には一歩足りない。
もう少し太ければ、少しでも抜き差しされれば――全てから解放される途方もない快感が想像され、奥の性具も届かない部分がきゅんきゅんする。

「ふううぅっ……ん゛あぁっ…あひっ、らめぇっ…もうっ、もうっ……あああああ……っ」

なんという惨めさだろう。今も同じ屋根の下には守らねばならない部下達がいるというのに、性具を挿入され、自ら腰を揺らしている。
絶対に見せられない姿だ。だがアレクシスは、王国軍の指揮を削ぐためならリヒトの乱れた姿を晒しかねない。そういう男だ。そんなことをされたら……。

「はああっ……あ゛ひっ、イっ…ひぃっ」

ぞくぞくと背筋が震える。イきそうでイけない時間はリヒトを苦しめ続け、永遠に続くとさえ思わせた。
まだ夜は明けていないのだろうか。この状況で眠気など覚えられるはずもない。抜かれなければ、そのうち誇張抜きに死んでしまいそうだ。

「あ゛ひいぃっ……らめぇ…お゛っ、おぉっ…あぁン…っ」

体力も限界なのに、快感が弱まることはついになかった。リヒトは為す術もなくただひたすら快感に苛まれ続け、そして。

「――おはようございます」
「あっ……〜〜っ」

一体どれくらい時間が経ったのか、部屋に入ってきたアレクシスを見た瞬間に感じたのは怒りではなく、震えるような歓喜と期待だった。


続く

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