女装 2話


あり

3年の3学期ともなると、皆受験だの卒業準備だので慌しく、登校する生徒もまばらになる。
創にとってはありがたいことだったが、それでもずっと顔を合わせずにいられるわけではない。
重い足取りで教室に入ると、さっそくあのときの一人に出くわしてしまった。

「お前さあ、なんで電話もメールもシカトしてたわけ?」

不機嫌そうに机に肘をつきながら問うてきたのは、小野寺啓亮。
騒々しくなく他がはしゃいでいるのを一歩引いて眺めているようなタイプだが、ガタイや頭の良さ、ケンカの強さは随一で、皆小野寺には逆らわない。誰がそう決めたというわけでもなく、グループのボス的存在だった。
多少のことではキレたりしないがその分凄みがあって、創は気まずげに視線をさまよわす。

「わ、悪い。さすがに勉強に集中しないとヤバイと思って、ほとんど電源切りっぱだったから」
「へえ…」

この男にも、女装して感じてしまった姿を見られているのだ。そう思うとまともに顔が見られない。
刺すような視線にいたたまれなくなって、創はトイレにでも行こうと教室を出た。
すると廊下にて、またしても会いたくない男と鉢合わせてしまった。

「うわっ! そ、創、久しぶりじゃん」
「恵一…」

恵一は創と目が合うなり、何故か頬を微かに赤くした。
女装のためにわざわざ女子の制服を持ってきた、ある意味諸悪の根源ともいえる恵一を、つい睨みつけてしまう。

「なあ創、ちょっと話があるんだよ、顔貸してくれ」
「なんだよ」

気の置けない友人だった恵一に対しても、今は普通にふるまえているだろうかと不安な気分になる。
女装のことを何か言われたら、笑ってネタ扱いしてごまかそう。
そう思っていた。
だが恵一は、予想だにしていなかったことを言い出した。

「創、頼む、俺のために女装してくれ!」
「なっ…」

創は絶句してしまった。
あんなことがある前なら、笑い飛ばしたり、『そっちに目覚めたのか』とからかってやっただろうに。

「実はさ、俺今ホモにつきまとわれてんだよ」
「はあ?」

女に付きまとわれている、という話なら聞いたことがあったが、ついに男までたらしこんでしまったのか。
しかしそれと女装しなければならない理由との関連性が見えてこず、創は首を傾げる。

「何かマジっぽいから、彼女がいるって断ったんだけど、なら彼女と会わせるまで諦めないってしつこいんだよ。今彼女がいないことを知っててたかを括ってるらしくて、実際会わせりゃ納得するってさ」
「だ、だからって何で俺が。女に頼めばいいだろ」

そういうことかと、創は溜息を吐いた。
恵一は見た目も女関係も派手でヤリチンなんて呼ばれている男だ。だらしないながらかなりモテるのだから、彼女だろうがふりだろうが進んでやってくれる女はいるだろうに。

「んーでも、女だと色々面倒じゃん? あの男に恨みかったら危ないし、その点お前なら女装がバレなきゃ心配はない。男として女を危険な目に合わせたくないだろ?」
「お前な、後先考えず遊ぶからそんなことになるんだよ…」
「頼む、飯代とかおごるからさ。友達だろ? てかもしかして友達じゃないと思われてる? お前休み中の連絡もガン無視だったし」

友達。その言葉を使うのは卑怯だと思う。創にも後ろ暗いところがある。
それにあまりに頑なに拒否したら、そんなに女装が嫌なのかと変に勘ぐられてしまうかもしれない。
創はごくりと唾を飲んだ。

「もういい、分かった。絶対メシ奢れよ。ハンバーガー一個とかなしで、がっつりな」
「マジで? やった! じゃあ早速今日、家で準備してから行くからよろしく」
「え、今日ってお前、」

恵一はやけに嬉しそうに笑って、勝手に話を進めた。
にわかに不安になってくるが、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
周りの目を気にせず、恵一とくだらない馬鹿話でもしてれば、きっといつもと変わらずにいられる。
不安に入り混じった微かなうずきには、気づかないふりをした。

教室では勉強に集中しているふりをして、誰とも喋らなかった。
小野寺のことは気になったが、今日何事もなく彼女のふりが上手くいけば、それを笑い話のネタにまた普通に接することが出来る気がする。
そう思っていた。

放課後、創は約束どおり恵一の家を訪れた。

「創君いらっしゃい! 服用意してあるよー」
「こ、こんにちは」

玄関に入るなり、恵一の姉である麻里がハイテンションで待ち構えていた。
少し気が引けて恵一に目配せするも、ニヤリと嫌な笑みが返ってくるだけだ。
成すがままに麻里の部屋へ引っ張り込まれ、創は所在なさげに立ち尽くす。

「はい、じゃあこれが下着で、こっちが服ね。創君にあげる」
「いや、そんな。し、下着はお金払うとして……服はクリーニングしてお返しするんじゃダメですか」
「ううん、私ももう22で社会人になるからさ、そのへんの服はちょっと子供っぽくてしばらく着てないやつだったの。捨てるのは勿体ないからフリマにでも出そうかと思ってたんだけど、創君がもらってくれるなら嬉しいな。ねえ、もらってくれるよね?」

押しの強さに圧倒されて、創は曖昧に頷いた。
麻里が出て行くと、少しドキドキしながら上着から脱いでいく。

(……、これ、穿くのか……)

今日の下着は白だった。一見女性らしい清楚なデザインだが、ところどころレースで透けてしまう仕様になっているし、ショーツのほうは何だか面積が心もとない。
ぞく、とおかしな疼きが全身を駆け抜けて、創は慌てて頭を左右に振った。
できるだけ無心になるよう心がけ下着を穿き、間髪いれず服を身に着けていく。
と、着替え終えたところで麻里の声がかかった。

「わ、思ったとおり可愛いよ! うん、可愛い!」
「あの、スカート、無理がないですかこれ……」

今日は私服だとは恵一から聞いていたから、もっと体格の分かりにくいユニセックスな格好をするのかと思っていた。
なのに用意されていたのは、ふわふわした可愛らしいセーターに、風が吹けばすぐ捲れてしまうような、女子の制服と同じくらい短いスカートだった。
せめて厚いタイツかレギンスでもあればましだっただろうが、足元は肝心なところが隠せないニーソックスだ。

「いいのいいの! 折角白くて綺麗な美脚なんだから。全然変じゃないよ。じゃ軽く化粧するから」

麻里の押しの強さと、好意で無料でもらったものだということもあって、結局それ以上何も言えず流されてしまった。
マスカラだチークだグロスだので顔を弄くられ、ついでに写メも撮られた後、恵一の前に突き出された。

「どう、可愛いでしょ?」
「……」

恵一の顔が見られずに、創は俯いていた。
笑い飛ばしてくれればいいのに、何も言わない恵一にあの時のことが思い出されて、顔が熱くなってくる。

「あれ、二人とも照れてるの? なんかあやしー」
「うるせえよ。……創、行くぞ」
「う、うん」
「行ってらっしゃーい」

微妙な空気のまま、二人で家を出た。

「は、は……麻里さんには言いづらかったけど、この服はないよね。男が絶対領域とか、鳥肌もんだよな」

何とか冗談めかしたノリにしたくて、ぎこちなくそんなことを言う。
が、恵一は笑いはせず苦虫を噛み潰したような表情で

「……ああ、マジでやばい」

なんて返してきた。
そこまで酷いと断言されると、それはそれで少し傷つく。
俯いて歩いていると、いつの間にか恵一との距離が近くなって、手が触れた。

「……え?」
「あの男がどこで見てるかわかんねぇ。こうしてる方が、彼女っぽいだろ」

手を掴みながら、恵一はそう囁いてきた。
それも指を一本一本絡める、恋人つなぎというやつだ。
ここまでしなくてはいけないかと戸惑いながら握り返すと、余計に強くぎゅっと握られる。
羞恥ともやもやした気持ちで、頬が火照った。

変に意識せず、普通にしていればきっと大丈夫だ。
――そんな考えは甘いものでしかなかったと、家を出てからいくらもしないうちに創は思い知らされた。
視線を感じるのは、目立つ容姿をした恵一のせいでもあるだろう。
だけどその恵一が手を引いている自分が本当は男で、女装に興奮してしまう変態だなんて、誰も知る由もない。
たとえば今風が吹いて、スカートがめくれてしまったら。
ついそんな想像にとらわれ、創は頬を赤らめてスカートの端を握った。

「創? どうかしたのか? 顔赤くね」
「い、いや、何でもない。ちょっと寒いだけ」
「…そうか、脚出してるから」

スカートとニーソックスの間の生脚を恵一にじっと見られて、創は身を捩った。
冗談で流す余裕もなく、恥らいが隠せていない弱弱しい声が出てしまう。

「……み、見るなよ」
「あ、ああ、悪い」

恵一はばつが悪そうに目を逸らし、何だか微妙な空気が流れる。
俯いたまま恵一に引っ張られるように歩いていると、本通りから外れた細い路地にある喫茶店に入った。

「ここで会う約束したから。穴場なんだよ、夜は飲み屋になってまあまあ繁盛するけど、昼は基本客入ってないから」
「へえ…」

確かに場所が分かりづらい上店内は薄暗く、気軽に茶を飲みに入りたいと思うような雰囲気ではない。
実際客は創達以外誰もおらず、やる気なさそうに煙草をふかしながら新聞を読んでいる中年の店員が一人いるだけだ。
人の視線から解放されたことにほっとして、恵一とふたりテーブル席に腰を下ろす。

「……って、なんでお前もこっちに座るんだよ」
「ん? だって俺もソファがいいし、それにあの男が来るんだから、俺たちが隣同士のほうがいいだろ」
「そりゃまあ、そうかもしれないけど」

これでは折角座っても恵一から脚が見えてしまうし、近くに人肌を感じてまた落ち着かない気分になる。
幸いソファは隣のテーブルまで続きになっていて広いので、さりげなく尻をずらしていくのだが。

「逃げんなよ。彼女っぽくくっついてないと駄目だって言っただろ…?」
「ばっ…」
馬鹿、キモい、とでも笑ってやりたかったのに、思いの外真剣で有無を言わせぬ恵一の表情に、何も言えなくなってしまう。
脚が密着して、そこからの熱が全身に広がっていくようだ。

「…なあ、なんでお前、そんな顔してんだよ…」
「な、何が……ぁ、んっ……」

不意にむき出しの太ももを撫でられて、創はびくりと震えて感じてしまった。
甘い声に一瞬恵一の動きが止まったが、手を離すことはなく、撫でながら内ももの方へ入り込んでくる。

「やっ…んっ、恵一、やめっ…ふぁっ」
「創、感じてんの…?」

冗談にしては執拗すぎる手つきに、顔が赤くなる。
恵一が何を考えているのかさっぱり分からない。だけどその意図が何にせよ、他の人間がいるようなこんな場所で女装して身体を触られているというシチュエーションに、ぞくぞくして息が荒くなってしまう。
そのとき、喫茶店のドアが鐘の軽快な音と共に開いた。

「――ああ、来たか」

恵一の言葉に、入ってきた男が待ち人なのだと分かった。
男は運動部にいそうな日焼けした肌と鍛えられた身体の持ち主で、外見だけならごくまっとうに見えた。
とにかくこれでこのまずい状況から逃れられる、と思ったのに、男が近づいてきても恵一の手は止まらなかった。
それどころか、どんどん大胆になって、スカートの中にまで入ってくる。

「ちょっ……恵一っ」
「――よお。約束どおり連れてきたから」

焦る創の声を無視して、恵一は男に話しかけながら創の下半身をまさぐり続ける。
性感をじわじわ刺激するようないやらしい動きに、気を抜くと声が出てしまいそうで、創は片手で自分の口を覆った。

「……ホントに付き合ってるのかよ。ふりじゃねえのか」

男が不機嫌そうに言って、こちらを睨んでくる。
どうやら女装であるとはバレていないようだが、簡単に引き下がる気はないらしい。

「くだらねーこと言ってんじゃねえよ。なあ」

話を振られて、創は恵一を見上げた。
どうでもいいから触るのを止めて欲しいと、潤んだ目で訴える。
しかし恵一は、口を塞いでいた手を掴んで無理矢理引き剥がしたかと思うと、創の唇に噛み付くようにキスしてきた。

「んっ!? ふっ、んぅっ…!」

驚きに歯を食いしばる暇もなく、恵一の舌が侵入してくる。
歯列や上あごを舐められて、甘い痺れに身体の力が抜けていく。
2年の頃付き合っていた彼女とキスはしたことがあったが、こんな濃厚で腰に直接クるようなキスは初めてだった。
彼女であると強調するにしてもやりすぎだとか、恵一はいつもこんないやらしいキスをしているのかということが、ぼんやりと頭に渦巻く。
その間にも下半身を撫でる手はどんどん際どいところまでいき、気持ちよさに硬くなってしまったペニスから汁がじゅわりと滲んだ。

「ふぁっ…んっ、ん…はぁっ…ぁ…」

最後にきつく舌を吸われ、ようやく唇が離れた。
頭がぼうっとして視界が霞む。
興奮したような恵一の顔が恐ろしく見えて、もちろん男の反応を見る勇気もなく、創は俯いた。
だけどそうすると、スカートの中の手がいやらしく蠢くさまがよく見えてしまって、余計に恥ずかしく、身体が熱くなる。
やんわりと手を押し戻そうとしたが逆効果だったようで、ついに勃起に触れられてしまった。

「ヤッ…ぁっ、ふっ…、んっ、んっ」

薄いショーツの上から擦られて、ペニスがビクビクッと震え更に濡れていく。
勃起していることはおろか、ショーツを濡らしていることまで恵一に知られた。
その羞恥が快感に変わって、腰が卑猥に揺れた。

「なあ…今どうなってるのか、あいつに教えてやれよ」
「んっ、やぁっ…ぁっ……」

耳朶を食むようにしながら囁かれ、かあっと顔が熱くなる。
恐る恐る男を窺うと、驚愕したような表情でこちらを凝視していた。
悪趣味な恵一に文句の一つでも言ってやりたいが、それで止めてもらえるような空気ではなかった。

「ほら…あいつも聞きたいってさ。言わないとずっとこのまま続けるよ?」
「ひゃぁっ! アッ、あんっ、」

びしょびしょになっている先っぽをぐりぐりと刺激され、大きな声がでてしまった。
これ以上は、本当にまずい。
鼓動が異常に速くなっていくのを感じながら、創は唾液で濡れた唇で卑猥な言葉を紡いだ。

「ぁっ…ぉれ、さわられて、る…」
「どんな風に?」
「スカートのなかに、手、入れられて、んっ、あそこを、ぐりぐりって、あぁんっ」
「あそこってどこ? はっきり言わなきゃわからないよ」

いつもの恵一とは少し違う、低く掠れた声で責められて、総毛立つような快感に襲われる。
男が怒るんじゃないかと思ったのに、彼は何も言わず血走った目で創の身体を嘗め回すように見ている。
蕩けるような痺れに、理性までぐずぐずになっていく。

「はぁんっ…ぁっ、ク、クリ●リス…っ恵一が、パンツの上から、クリ●リス、ぐりぐりって…、あっあふぅっ」

女のふりをしている手前ペニスというわけにはいかず、自分には存在しない卑猥な名詞を口にすると、異様に身体が昂ぶった。
恵一は熱い息を吐き、更に創を追い詰めてくる。

「クリ●リス気持ちいいの? また腫れたよ。いやらしいこと言ってクリ大きくするなんて、変態だな…」
「アンッ…だって、おまえがっ、ぁっいぁっ、アッあんッ」
「ん…こっちもすげー濡れてる…」

下着の横から指が入り込み、濡れた袋や会陰を弄られる。
生粋の女好きのくせに、何故そんなところまで進んで触るのだろう。
とにかく困る。恵一の巧みな指がアナルに近づいていくたび、そこが酷くひくついてどうしようもないのだ。

「ん…っ、けい、いち……ぁっ、や…」
「どうした…?」

唇がすぐにでも触れそうなほど近づいた恵一の顔は、今まで見たことがないほど色っぽかった。
持て余すほど女にモテているというのにも頷ける。
創もいつしか、自分が本当にオンナになって、恵一になすすべもなくいやらしいことをされているような状況に酷く興奮していた。

「け、けいいち…、もっと下、さわって…」
「下? 下って…」
「っ…お、お●んこ…はぁっ、お●んこ、いじって…、ぁっ…」

ごくりと生唾を飲む音が聞こえたかと思うと、それまでより性急に恵一の指が動き、濡れそぼったアナルに触れた。

「あっ、あんッ」
「すげ…ま●こひくひくしてる。俺の指挿れてほしいの?」
「いぁっ…ゆび、ヤ…」

わずかに残った理性が、友達にこれ以上のことをやらせるなといっている。
だけどアナルはそれをかき消すほどの強い衝動に疼いていた。中を指で擦られ、大きなペニスで突かれまくったときの激しい快感の記憶が、そうさせて堪らないのだ。
今の創がそれに抗うことなどできなかった。

「いやなの…? おまえのま●こ、くぱくぱして指吸いまくってるのに」
「……ヤ、じゃ、ない…。ゆび、いれてっ。中に、ぁっ、はぁっ」
「中ってどこ? どんなふうに?」
「お、お●んこの、なかにいれて、きもちいいところ、ん、擦って…、あっはぁあっ」

ヌッ…ヌプ、ヌプ、グニュウッ

いやらしく音をたてながら、逞しい指が狭い穴に挿入された。
そこは歓喜して蠢き、まだ一本だけの指をきゅうきゅうと締め付ける。

「いぃっ、はぁっ、ぁっ…ぅんっ」
「はぁ……すっげーきつマン。つーか何なのお前。慣れてんの?」
「そ、そんなことっ…アッ、あっヤッああんっ!」

どこか苛立ったように、創にとってぎくりとするような指摘をしてきたかと思うと、恵一は指を出し入れし始めた。
下着を横にずらしたままでの乱暴な動きに、腰がびくびくと勝手に動くほど感じる。

ズニュッズニュッ、ぬっぷぬっぷ、ズプッズプッヌプッ!

「あんッ、ヤッ、あぁっ…、いぁっ、ふぅっ」
「指マン好き? 指増やしていい?」
「やぁッあっあんっアンッ、らめっらめぇっ…あっあっ!」

創の返答など最初から求めていなかったというように、二本目がズニュウッと挿入される。
更に激しく内側を広げるようにぐりんぐりんと突かれまくって、創はひっきりなしに高い声を上げた。
人が見ているのに、と顔を上げて初めて、男の姿がないことに気がついた。
見るに耐えなくて帰ったのだろうかとほっとした直後に下を向いて、驚きに一瞬息が止まった。

「ッ、ヤあああッ! いやっ、あんっあっアンッ!」

男は、テーブルの下にもぐりこみ、息がかかりそうなほど近くで創のいやらしいところを凝視していたのだ。
これでは濡れたパンツをからはみ出たペニスも、パンツをずらされて指をくわえ込んでいるピンクのアナルも、全て丸見えだ。
あまりの羞恥と疼きに、恵一の指をぎゅううっとより締め付けてしまう。

「あぁっ、イヤッ、でちゃうっ、もうやらぁっ…あっあふぅっ」
「っんだよ、見られて興奮したのか…? 俺の指マンでいくって言いながら出せよ、ほらっ」
「アッアッあっ、やぁっ、はげしっ、はぁっ、あうっ、ひぃぁっ」

男だとバレたら本末転倒なはずなのに、男は相変わらず何も言わないし、恵一の責めも容赦がなくなる一方だった。
創はめちゃくちゃに乱れて、いいところに指をこすりつけるように腰を振りながら、卑猥な言葉を喘ぎ混じりに叫んだ。

「アアッ、いくっ、けいいちの指マンでっ、いっちゃう、はぁっ、いっちゃうっ! ああんっ」
「はぁっ…いいよ。ま●こ突かれて潮噴くエロいところ、見ててやるから…」
「ああぁっ! あっあぁッ、んひぃっ、しお、ふいちゃうっ…あっあんっあんッ!」

失神しそうなほど強い絶頂感に泣きながら、創は精液を吐き出した。
いつの間にかセーターを捲り上げられていて、それは白い腹に卑猥に飛び散った。

「はぁっ…はぁっ…、ぁん、もう、ヤぁ、あはぁん…」

達した後も執拗に前立腺をぐりぐりと押され、ペニスからどぷどぷと断続的に汁が漏れる。
恵一は創に慣れているのではと言ったけど、自分だって相当なものなんじゃないかと恨めしい気分になる。
しばらくはそうしながら耳を弄られたり、こめかみにキスされたり、やけに甘ったるい時間が流れた。
しかし男がのろのろとテーブルの下から這い出ると、恵一は非情に口を開いた。

「――つーわけで俺たち、こんなにラブラブだから。お前は諦めろ。最後にいいもの見られて良かっただろ?」

男はやはり何も言わなかった。ただその視線は一貫して恵一というより創のほうに向けられ、いやに熱く感じられた。
今度こそ殴らるかもしれないと内心びくびくしていたが、やがて男は前かがみになりながら店を出て行った。

「……お、お前、本当に最低だな。いくら何でも好きだって言ってくれる相手にあんな…」
「……悪い。確かに見せすぎた」
「大体、お、男ってばれちゃったし……。男もいけると思って付き纏われても、俺はもう知らないからな。って、どこ行くんだよ」
「トイレ」

本当に反省しているのか、そう見せたいだけか、恵一はとぼとぼとぎこちない動きでトイレに向かっていった。
今まで怖くて見られなかった店員の方をそっと窺うと、相変わらず眠そうな目で新聞を読んでいる。
結構遠い席だったから気づかれなかったのだろう。そう思っていた方が精神衛生上いいと、創は結論付けた。
――それよりもだ。濡れた下着が膚に張り付いて、やけに気持ち悪い。
創は少し逡巡した後、バッグから替えの下着を取り出した。
麻里から「これも貰って」と持たされたのは、生地やデザインは似たものながら、サイドが紐になっているパンツだ。
露出度は更に高く抵抗があったが、濡れたものをずっと身に着けていたのでは、先ほどの恥ずかしい時間がいつまでも頭から離れない。
創は意を決して、バレないように手早く履き替えた。

「はあ……」

ほんの少し心が落ち着く。
恵一が戻ってきたら、変態と思い切り罵ってやろう。
それで、今日のことは忘れよう。
そう自分に言い聞かせていると、入り口のドアが開き、複数の人間が入ってくる気配がした。
まさかあの男が戻ってきたんじゃないだろうなとそちらに視線をやって、創は固まった。
コージに、山口に、――小野寺。
入ってきたのは、「あのとき」居合わせた残りの3人だったのだ。

「……あれ? あの子……」
「――っ」

思い切り目が合う。
後から考えれば、恵一との行為はほんの始まりに過ぎない出来事だった。
だがこのときの創は、それを知るよしもない。

end

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