真夏の日 3 02
「環境を変えてみるのもありだと思うんだ。ご両親もずっと家にいるよりは安心するんじゃないかな。俺が説得する自信はあるよ」
「で、でも、迷惑かけちゃう。家に帰ったらひきこもりがいるなんて。よく考えて」
「そこまで卑下することない。やりたいことをじっくり考える時間のためだよ。家に帰って律がいたら俺は……毎日がすごく幸せになれる」
そんなの……夢のような話だ。
生まれたときから、もはや地縛霊のように住んでいる家は居心地がいいし両親のことも好きだけど、気まずさは感じてた。
好きな人と一緒に家を出て、桜庭が毎日帰ってくる日々はどんなものだろう……。
「やっぱり、悪いし、対等じゃない感じがする」
「じゃあ掃除をお願いするのはどうかな。結構広くて大変そうなんだ」
「そっか、一軒家だもんね」
桜庭のためなら隅から隅まで、床を舐められるくらいピカピカにできる。
「律」
「なに?」
「どうして一軒家だって知ってるの?」
浮かれていた胸に氷を当てられた心地がした。
桜庭は静かな声で、抑揚なく訊いた。
律の負け犬根性が逃げてしまいたいと叫ぶ。桜庭と密着したまま、決して強くない力で肩を抱かれ、逃げても無駄だと感じる。
「あれ、い、一軒家だって言ってなかったっけ……? 俺の勘違いかも」
「一度も言ってないよ。普通親元を離れる大学生の新居が一軒家って、最初には思い浮かばないよね。でも律は、そうだと知ってる言い方をした」
誤魔化そうとしても簡単に看破される。
――あいつに言われたとおり、桜庭の新居は一軒家だった。でも合っているのはそこだけだ。
「あ、あの、そうだ、誰かに聞いた」
「俺以外とも連絡とってたんだ。一体誰と?」
「それはその……」
「ごめん、怖がらせた? 他の友達と交流してても怒ったりしないよ。むしろそのほうが律のためにいいと思ってる。俺より頻繁にやりとりされたら嫉妬してしまいそうだけど」
桜庭は安心させるような、冗談混じりの口調に変わる。
適当な元同級生の名前を出したところで確認されたら終わりだし、そもそも桜庭がその誰かに話していなかったら確認するまでもなく嘘がバレる。
「あの、あっ……?」
「何……?」
首筋を撫でる手に背筋が粟立つ。先程までと同じようで何か違う。すりすりと上下に擦られ、確信に変わる。
「ん……っ、ふぁ、あ…っ」
「教えて律。誰かに何か、変なことを言われた?」
「あ、くすぐったいよ、聡実く…っん…」
「ごめんね。律はリラックスしてたから我慢してたけど――好きな子とずっとくっついてたら、俺はもっとしたくてたまらなくなる」
手の動きが大胆になって胸元を撫で、もう片方の手では太ももをさすられる。
綺麗な指が内ももの間に入るときには「んっ」と鼻にかかった声が出てしまう。
「ん…っはあ、俺も、聡実くんが好き、は、はぁ…う」
「うん、分かってる。それで、誰に聞いたの? 俺には話したくないこと?」
「そ、そんな……、ん、んっ…」
太ももの外側から内側を、熱っぽい手が往復する。体の中心の太い幹を打ち込まれた場所に近づけば近づくほど、触れてもいない場所がひくり、と媚びるように蠢く。
そして胸元を撫でる手は、明らかにそこに気づいているのに。時々乳輪の縁に当たっては去っていく。一番敏感な凝りには触らない。衣擦れで服の繊維にひっかかって、芯が硬くなっていく。
「あ、はぁ……す、菅谷が、ん……っ」
「――菅谷?」
さす……さす、ぐっ……こす、こす……
桜庭の綺麗な指で、乳首をくりくりと直接弄って気持ちよくしてほしい。律は誘惑に負けて吐露した。快感に弱い上に意志も弱い。
「菅谷が、まさか懲りずにまた訪ねて来たの」
「ううん、外に出たとき、たまたま会って」
「外に出た……? それって大事な話だよね」
自ら外に踏み出したとき、報告したら桜庭が褒めてくれると期待していた。しかし結果は失敗に終わり、敗走してきたようなものだ。
でもやっぱり、桜庭なら「外に出られて偉いね」と言ってくれるかもしれない。律は躾中の犬の顔で反応を待った。
桜庭は体を撫でる手は甘いまま、静かな声で問いかける。
「外に出られたなんて偉かったね、律」
「ん……あっ?」
「俺達の未来に関わることなのに、どうしてすぐ言ってくれなかったの?」
「…っ、聡実くん…っあ、そこ、……ッ」
ぐり……っ、ぐっ、ぐり、ずり、ずりッ……
内ももに入った指がその奥に潜り込み、スウェットの上から窄まりに食い込んだ。
直接触れられていない粘膜が蠢き、急速に淫らな疼きが全身を侵す。
「ふー…、律、もう奥を期待させてるの。服の上から触れただけで、……セックスの顔になってる」
「アァ…っん…、い、中が、はあ、ン……」
「心配になる。不埒な男がやろうと思えばすぐにできてしまうから」
「あんっ……あ、乳首、あっ…あひ、い、い…っ」
こす……っこす、さす…、さす…、さす、ぐに……っ
ぐりぐり、ぐりっ、ぐりゅっぐりゅっ
穴に入れる明らかな意図を持って、へたれたスウェットの布ごとぐりぐり抉られる。
胸に這いずる手は乳輪を撫で、外側から小さな粒を追い詰めて勃起させていった。
未だ直接弄ってもらえず、なのにびくびくと感じる律に、失望されているかもしれない。
律は初対面の電気屋に犯され、散々気持ちよくなった前科がある。
桜庭は律の過去ごと受け入れると言ってくれたけれど、決して忘れてはくれないだろう。
「――俺に内緒で外に出て菅谷に会ったって、秘密にしておくつもりだった?」
「ひぐ…っ、あ、あ、…っ、違……、外に出て逃げ帰ってきたなんて、かっこ悪いと、思われたくなくて」
「ああ、律は俺にかっこいいと思われたいんだっけ。可愛いよ」
「うう……っ、ん、もう……、」
「もう――何?」
「はっ、はあ…、はあぁ……っ、直接、さわって、気持ちよくなれるとこ、…お…っ」
性感帯の周囲を弄られ続け、淫らな欲望が熱を上げる。律は腰を情けなく揺すり懇願した
。
「……俺は律のどこに触ったらいい?」
「……っ、乳首、と、お尻の中……、奥、さ、聡実くんのち〇ぽで……、ん、ン…っ」
「はあ……やらしい。菅谷と話したこと、一語一句教えてくれるね」
「えっと……っ? あンっ…ああァ〜……」
れろ、……ぬる……っぬる、ぬる、くり、くりっ、くりっ
ずぶぶ…っ、ずにゅぅ、ずぶぶぶ……っ!
菅谷の戯言の中には、桜庭の耳には入れたくない侮辱があった。煮えきらない律に桜庭は上をめくって勃起した乳首を舌で濡らし、スウェットをずり下ろして指を挿入した。
「あう…っ……ん、あッ…〜〜っ、お、…っ」
「ん、ン……っ、はあ……、律、お尻の中もう準備したみたいに蕩けてる」
「あっ、あんッ……ん、ん、あえっ…、あへぇ……」
「乳首もこんなに硬く、ん、舌を押し返してきて……気持ちいいね」
「いっ、いい、お…ッ、きもちい…、聡実くっ、乳首と、お尻のなか、あ、あー…、だめ、よすぎて、すぐいきそ、おっ…」
くりくりくり……ぬるぬる……、くちゅ、くちゅ、ちゅく……っ
ずぬっずぬっずぬっ、ぬぽぬぽ、ぐりぐりぐりゅんっ
焦らされて勃ちきった乳首を、甘い言葉を紡ぐ舌が舐めて潰す。
敏感な胸から途切れない純粋な快感が股間に走り、締付けを強くして、徐々に激しく抜き差しする指に絡んで放さない。
「ん、ふー……、もう? いや、いっていいよ。俺に律の全部を見せて」
「あッ、あ、…ぁん……っ、ま、まって、一緒がいい、聡実くんと……っお…っ」
「……っ」
「ああぁ……ッ、い…っ、いく、いく、乳首、…ッ、あへえ……っ、そこ、あ、あ〜……っ」
ぬぶ……! ずぶ、ぐり、ぐりゅっ
もう性器を挿入してほしい、とお願いする律に桜庭は息を乱し、乳首に歯を当てて吸って、指で粘膜を押した。偶然か狙ったのか、前立腺に強く当たり、律は堪える前に強烈なアクメをきめた。
「いぐ、いぅ、ア…ッ、あぁ……っそこ、おッ…おぉ……」
「はあ……、んっ……」
「あああ、いってる、いくいく、きてる、あ、だめ、乳首ぃ、はっ、はへ、あへ……」
ぬる、ぬる、ぐりぐりぐりぐりゅぐりゅ……
びくびくびく……っ、ひく、ひく、びくッびく……ッ
「律……、ん、ん……、一緒にする前に、いくいくしちゃったね……?」
「はぁん……っらめ、もう、お…、いい、いい……っ」
「そうだ、一回イくごとにお互いの秘密を打ち明けてみようか」
「え……? はあ、はあ……」
「俺も早く……律の中で……ふー、イきたい」
「お……っ」
バキッ……バキ、ごり、ごり、ゴリ……ッ
顔に似合わない桜庭の逞しい勃起が、濡れた股に強く押し付けられる。
律は恐る恐る触れてみた。太くて、血管でごつごつしていて、とても硬く射精したがっている……。
「ん……っ」
「はふ…はぁっ、は…っ、俺は、菅谷にあって、コンビニの裏で話し……っ〜〜、あ、ああああァ…ッ」
「挿れるよ律」
どちゅん……っ! ずぬ、ぬぶ…ッ、ずぬぬ〜……
律は挿入して擦ってほしいと訴える中の欲望に従い、必死に秘密を打ち明けようとした。その前に桜庭が腰を入れた。硬いカリが、容量が合わない狭い肉の形を自らで強引に拡げて押し込まれる。
「お……ッ、ぐ、ひぐ、きつ…ぅあ、聡実く…ん、ンひ…ッ」
「はあ…ハア……っもう少し慣らしたほうがよかったね、ごめん律」
「はふ……っぬかないで、いい、ち〇ぽ、お、お、あたって、きもちいからぁ…っ、ああアんッ」
「……っ、抜くつもりなんてないよ……? だから、ごめんねって言った」
ぎゅうう……っ、ずぬん…っズヌ゙ッズヌ゙ッ、ずぶっ、ずぶっずぶずぶっ
反り返ったペニスに、内壁は寸分も隙間なく絡む。桜庭は締め付けに眉を潜め、あまり余裕がなさそうに、快感のため腰を動かす。
「あっあッあッああん…ッいっ…いい、せっくす、気持ちい……、あ、あ、いい……ッ」
「俺も……、っあ、中締まる」
「ひぁああ…っお、お…、いい、気持ちぃー……、なか、押されて、いっちゃう、いく……っ」
「ここ? いって、律、律っ」
ズヌ゙ッズヌ゙ッ、ずんっ…ごりごり…ごりごりっ
びく〜〜……びくんっびくん……っ
「いく…ぃぐ…ッお…ッん、お、おっ、お……っ」
「はあ、約束だよ、律のこと教えて」
「おへ…ッ、あ、ン…っ、はあぁ……っ、会えないあいだ、聡実くんのこと想像して、一人で、してた、あー…ぜんぜんちがう、きもちよすぎて、これ、あ、すき、好き……っ」
「……っ、菅谷とのこと聞きたかったんだけど」
「……ッあ、ごめん、ひぐ、きもちよすぎて、わかんなくなって、ぉお…お…っ」
「もう……、一回出さないと無理だ。いかせて、律、好きだよ」
ズバンッズバンッズバンッ! ごりごり、ごちゅっ、パンパンパンパンパンパン!
「ああああ……、おれも、すき、好き…っあぁ、あぇ、あー…、はげし、いく、まって、いくのつづいて…、あぐ、あっひぃい…ッ」
「あーイく、律……出るっ、ー……、」
ドビュッ…! ドビュッ…、ビュルルルルッびゅーー……
桜庭がオスの顔を垣間見せて腰をガツガツと打ち付け、寸前で引き抜いて射精した。
血管が生き物のように動き、太い幹を震わせ、カリの先から勢いよく精子が出てきて律を濡らす。
「ああぁ……、いい…、聡実くん、ふぁ…んふー…、すごい……あー…、はあぅ……」
「ん……、律……汚してごめんね……興奮する」
「ああぁ…ん……」
「俺の秘密……、俺も会えない間律のこと想像して、一人でしてた。勝手に犯してたんだ、こうしたくて……、軽蔑する?」
「〜〜……っ、しないよ、嬉しい……っんんッ……」
れろ……くちゅ、くちゅ、ぬるっ、ぬる
「ん……」
「んっン……んぶ……んぇ、ん〜……」
オナニーする桜庭はイメージと違いすぎて、見てみたくて高揚した気分になる。開いた唇に舌を入れられ、ディープキスすると絶頂の感覚が尾を引いて腰が震えた。
「ん、ん〜……ふぅ……ん、あへえ……」
「律……、ん、……菅谷に何を言われた?」
「……はあ、はあ……、聡実くんが、本当はそんなにいい人じゃなくて、……俺を、一軒家に閉じ込めたがってるって……」
「……」
「お、俺は少しも信じてないよ、あいつの言うことは全部嘘だ」
「それを今まで言えなかったのは……怖かったからじゃない? 実際俺は一軒家に住むことになった。そこは菅谷の言う通り」
全くないと即答できなかった。
一瞬であっても、問い詰められたときに言いようのない震えが走った。
桜庭はそんな人ではないと分かっているはずなのに。
「聡実くん、す、菅谷の言うことなんて、ほんとに、……」
「一言二言じゃなく菅谷と話したみたいだね。――俺の秘密、もう一つ知りたい?」
「……、あの……お…っ」
ぬぶぶ……! ずんっ、ずぶ、ばちゅ…ん!
桜庭が再びペニスを挿入した。何度もアクメをさせてくれた肉の棒に擦られる内側はすぐに媚び、締め付けて快感を全て拾い上げる。
一度こうなると律には止められない。
「あぁッんっ…いい…っ、はひ…ッ、いい、あひっ…きもちい…っ、ち〇ぽきもち、あふ…、あ…ッ」
「律……、またいっぱいイって?」
ぎゅうっ…ぎゅっ、ぐり、ぐりっぐりっぐりっ
「〜〜おぉお…ッ、ォお〜…、乳首、いっ、いくいくいく……ッ……っ」
「乳首触りながらごりごりするとすぐアクメしちゃうんだ……、弱すぎてやっぱり心配になる、ん……」
「あああぁー……ッん、いく…っ、いい…、あへ、え…」
桜庭もいつもの優しい笑みは影を潜め、眉間を寄せて快感をあらわにしながら乳首を弄り、腰を振って抜き差しする。
勃ちあがった乳首と前立腺、もっと奥を同時に責められると絶頂が途切れなくなり、律は舌を出し、腰を海老反りにして喘ぐ。
理性を失くしただらしない姿に桜庭は呆れたりせず、感情を押し殺した声で訊く。
「律の気持ち、全部教えて? 俺に、アクメさせられてる間、ずっと……っ」
「ひあ…ッ、あっあ、あー…っ、お、おれ……っ、ほんとは、聡実くんに、閉じ込められるの、いいかもって、はあぁ……っ」
「……――」
「ずっと一緒にいれるし、…あぁン……っ」
桜庭と同居して帰りを待って、いちゃいちゃして、気持ちいいことをする。悪くないどころか律にとっては甘い蜜のような生活だ。
それでは住む家と頼る相手がすり替わっただけで何も成長がない。今度こそ軽蔑されたらどうしよう。
「――律、そんなこと言っていいの?」
「ごめ……ん?」
「ふー…ふー……っずっと一緒にいようか、律」
桜庭の小さな囁きが、絶頂に浮かされた脳に侵入する。
深くキスされ、上から叩きつけるピストンに変わる。
ズンッズンッズンッズンッ、ごりゅっごりゅっごりゅっ、パンパンパンパンパンパン!
「んん……ッ、んぇ、ちゅ、ふえ…っんぐ……」
「ん……っん……、ふー……」
「んッんふー……っ、ん、ああ…ッ」
「また出すね、律……愛してる」
「あああ……ッ、あ、あ、ひ、いく、あ、あ……ッ」
ズヌッズヌッズヌッ、ごちゅごちゅごちゅ、バチュッバチュッバチュッバチュッ!
どびゅ〜…ッ、ビュブッ、ビュルルッ、ビュルッ、ビューーーーーッ……
「はあ……っあー、イく、いい……」
「ぉお…、お、んっ…、なか、ああぁ……〜〜……っ」
どぷ、びゅる…ビュ〜…ッ……
「律……、好き、ん……」
「あぁん……、んへ、はっ、はぁ……あ……」
桜庭は射精しながら律を抱きしめ、舌でずりずりとキスをする。
強烈な快感に支配される。このまま閉じ込められたい。深く繋がっているから気持ちが一致していると思いたくなる。
「んッんッ……、んふ…ッ、ぅあ、聡実くん……っん」
「――ん……」
「あぁ……、なか、あ、ん、いっぱい、…きもちい、はへ、好き……」
抱き合ったまま、二人はしばらく離れなかった。
「律、閉じ込めたりしないよ」
「……ん、うん……」
「俺の秘密……秘密じゃないけど、親戚から海外赴任で開ける家を任されただけ。律の意思を尊重するし応援してる」
「そ、そうだよね。分かってる。分かってたよ」
「本当?」
「もちろん! 俺は分かってた。聡実くんを信じてる」
桜庭が天使のような魅力的な微笑を浮かべて、律を撫でた。
やっぱり桜庭が律の意思を無視するなんてありえない。菅谷が全て間違っていたんだ。
律は恋する相手を疑った自分を恥じた。
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