ハメ撮りしないと出られない部屋 一色×魔王 02
俺は魔界を統べる王だ。現在は訳あって人間界に身を落としている。
どんな訳かと? 説明したところで人間には理解し難いだろう。
今日も俺は煩わしい仕事を終え眠りについた。魔王は脆弱な人間と違って眠らずとも死ぬことはないが、人間界の夜中というのは退屈である。テレビをつけても胡散臭い通販番組くらいしか流れていない。悪徳商人の口車に乗せられて財を失うのはもうこりごりだ。意味もなく眠り意味もない夢でも見ていたほうがましというものだ。
「……ここはどこだ?」
目を開けると真っ白な部屋にいて、すぐに見知らぬ場所だと分かった。白は嫌いだ。魔王には漆黒こそがよく似合う。
狭い部屋だ。魔王城の俺の部屋と比べれば百分の一程度の広さしかないだろう。
上体を起こし、これまた白い床に目を落とすと、そこには白より嫌いなものが転がっていた。
「……一色、死んでいるのか」
「ん……」
死んではいなかった。こいつは俺の学生時代の同級生で、一言で表すならば嫌なやつだ。悪魔とは別種の悪だ。いちいち気に障ることを言ってくる上に、俺のおま〇この中に、魔物のようにグロテスクで大きなものを挿入してきた不届き者である。
このままずっと転がっていればいい、と言いたいところだが、状況が分からない。俺は仕方なく一色の肩を揺すって直々に起こしてやることにした。
「起きろ、おい一色。いつまでのんきに寝ている」
「んだよ、うるせえなあ……ん、まおくん……?」
「そうだ……っ!?」
寝ぼけた様子で薄目を開けたかと思ったら、一色はいきなり俺の後頭部を掴んで攻撃してきた。頭突きか! と思ったら、ふにっとしたものが押し付けられた。とっさに避けたつもりが避けきれず、俺の唇の端に、悪態ばかりつく一色の唇が当たってしまった……。
「んっ……は、離れろっ」
「ん……抵抗すんなよ……いってえなあ……ってこれ、夢じゃない……?」
「いつまで寝ぼけているつもりだ」
俺は動揺を悟られぬよう一色から離れた。人間にとってどうかは知らないが、魔族にとって口づけというのは魂を奪ったり特別な契約を交わしたりと、ただならぬ意味を持つ行為だ。この男の軽率さには辟易する。
「本物のまお君? つーかここ、どこ?」
「俺が知るはずないだろう。というかお前の仕業ではなかったのか」
二人して辺りを確認する。窓はなく、ドアには固く鍵がかかっていた。上下左右白に包囲されていてげんなりする。黒く塗りつぶしてしまいたい。
容易に出られる手段はなさそうだと再認識したところで、どこかから声が聞こえてきた。
『ここはハメ撮りしないと出られない部屋です』
「……は?」
『ここはハメ撮りしないと出られない部屋です』
感情が読み取れない声が繰り返される。声の主の姿は見えない。会話する気は毛頭ないらしく、一方的な通告を残したきりぷつりと途絶えた。
「意味がわからん。あれは誰だ。どういうことだ」
「さあ知らない。言っとくけどマジで俺は潔白だからね」
こいつでないなら誰の陰謀だ。俺に悪意を持つ魔族か、それとも天使族の仕業か。まさか人間ではあるまい。部屋にはおかしな力が感じられる。
ここが魔界であれば不届き者など一瞬で感知して制裁できるが、人間界では俺の力は大幅に弱体化されている。もどかしいことだ。
「さてどうするべきか」
「やるしかないんじゃない? ハメ撮りしないと出られないんだって」
いつの間にか一色が近くに寄って来て俺を見ている。不穏な空気だ。
「そもそもハメドリとは何だ。魔鳥か何かの一種か?」
「はぁ? マジで言ってる?」
「こんなところでふざけて何の得がある。こんな部屋、制限された魔力でも開放すれば壊すのは造作もないが……外の状況しだいでは死人が出てしまうかもしれないな」
「それは止めて。絶対」
一色が本気で止めてくる。たちの悪い悪魔のように良心が欠落した男かと思いきや、一応他人の命を案ずる心は持ち合わせているらしい。それとも自分の心配をしているだけか。
「命令されるのはムカつくけどここは素直に従ったほうがいいかもね。何が起こるか分からないし、したって困ることじゃないんだから」
「ハメドリというのは不利益のない行為なのか」
「はー……ホントに知らないんだ?」
一色が手招きしてきた。部屋の中央には粗末なベッドが一台。不本意ながら近づくと体を押されベッドに倒された。
「何をするっ」
「ハメ撮りっていうのはね、俺がまお君にいっぱいやらしいことをして、それを全部撮影することだよ」
「あっ……」
禍々しい笑顔を浮かべて言われ、俺は目を見開いた。
「ふざけたことを。こんなことをしてただで済むと思っているのか」
「だってやらなきゃ出られないんだよ。まお君は魔王だからちょっと閉じ込められてても平気かもしれないけど、俺は違う。飢え死にするのもまお君に暴れられて巻き添え食って死ぬのもいやだし」
「何故俺がお前のことを優先させなければ……」
「……まお君、俺がいなくなってもどうでもいいの? その辺の人間が死ぬのと同じでどうとも思わない?」
眉を下げ、まるで捨てられた犬のような目で言うものだから、俺は即答できなかった。
いや、こいつが死んだら悲しいというわけではない。その辺の人間が死んだところで嬉しくも悲しくもないが、この不敬な男が俺の視界から消えてくれたらむしろ嬉しいくらいで……などと考えているうちに、一色が動いた。
一色は俺のシャツを鎖骨の下までまくり上げ、胸元を裸にした。手にはいつの間にかカメラのようなものを持っている。
「……、まお君の乳首、やっぱりピンクだね。ち〇ぽの先よりもっと可愛い色して、赤ちゃんみたい」
「だ、誰が赤子だっ……というか、何だそのカメラは、いつの間に」
「そこに置いてあったよ。まお君魔王のくせに注意力散漫だね。そんなことだから俺なんかに簡単におま〇こされちゃうんだよ」
俺の股の間に片膝をついて、一色が笑う。獣のようにマウントを取られてしまっていて落ち着かない。
「やめろ、何故カメラを俺に向ける……っ」
「だからー、ハメ撮りするんだってば。世間知らずのまお君でも動画撮影くらい知ってるでしょ」
「馬鹿にするな、もちろんだ」
人間界に来て特に驚いたのは、人間どもは己の力のなさをあらゆる科学技術で補っていることだった。たとえばカメラ。テレビなどで流せば撮影したものを何百何千万という人間に一度に見せることができる。上位の魔族をもってしても難しい技だ。
――ちょっと待て、そんなものを俺の体に向けて、いやらしいことをするだと……!?
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