背徳の小さな部屋 サンプル 02


〜〜中略〜〜

「神父様、俺の悩みをどうしても二人で聞いてほしい」
 教会の告解室に一人の男が訪れていた。
 恰幅がよく裕福な身なりをした商人だ。香辛料の貿易で成功しているという。街中に教会を軽んじる風潮がある中、彼はよく礼拝に通い、少なくない寄付をしてくれている敬虔な信徒だった。
「私を通して神に告白してください。秘密は厳守すると誓います」
「ありがたい。俺はな、物心つく前に母親を流行り病でなくしたんだ」
「それはお辛かったですね。お母上は天国からきっとあなたを見守っておられます」
「俺は神父様みたいに清らかじゃねえから、感じられねえんだ。今度結婚することになったんだが、どうも母さんが恋しくてな。男のくせに情けないだろ」
「いいえ、子は誰しも母を恋しく想うものです。尊い心です」
「嫁はそうは言ってくれねえだろう。だから……今だけ、神父様が母さんになってくれねえか」
「は……」
 男は思いもよらないことを言い出した。これは神への告解ではない。どうすべきか決めかねているルカを男はじっとりと見つめながらにじり寄る。
「申し訳ありませんが、私にそのようなことは」
「あんたに演じてくれとは言わない。ただちょっと、どうしても母さんの乳を吸ってみたいんだよ」
「……、いえ、私に母親の……その、乳房はありません」
 ルカは赤面した。卑猥な冗談の言葉をかけられたことは今までにもあるが、信徒の男の目は切実だ。こんなときの対応は神学校でも教えてくれなかった。
 ああ、同室の男が寝台に潜り込み触れようとしてきたときはきっぱりと拒絶できた。彼はふざけていただけだったからだ。
 救いを求める男を突っぱねて傷つけるのは本意ではない。
「神父様、頼む、胸を吸わせてくれ……、今だけでいいから、なあ」
「っ、いけません、神の御前でそのようなこと……」
「俺はどうしても母さんに甘えたいんだ、神父様、俺を救ってくれ」
「ひ……、あっ……」
 男はルカの体に抱きつき、神父服の上から胸のあたりを吸った。
 ちょうど乳首に唇が当たった瞬間、裏返った声が出る。
 ルカが酷く混乱している間に、男は熱心に胸を吸い続けた。
「んっ……ぉ神父様、……はぁはぁっ……」
「や、やめてください、…っ、あ、いけません、……っ、ひ…ッ」
「……母さん…、ぉお、神父様、いいだろ、母さんになって、俺を救ってくれ……」
 この男は母親の愛情に飢えているのだ。信徒に救いを求められると無碍にできない。そもそもルカは荒っぽいことには慣れておらず、男の太い腕を振り払うやり方すら分からなかった。
 男が神父服に舌を這わせ、微かに浮き出た乳首を逃すまいと軽く噛みながら吸う。
 胸のあたりだけ唾液でシミができてどんどん広がる、奇妙な光景だった。常にきっちりと清潔を心がけているルカも、今は汚れを気にする余裕がない。
 れろ……れろれろれろちゅく、ちゅくちゅっ、ぢゅううっ……
「あっあッ…だめ……、…あんっ……
「はぁはぁ、神父様、たまんねえな……おっと、母さん、母さん、おぉ、乳首が勃起して……んっ…」
「あ……っ、〜っぅぐっ、んっ、や、……っ」
 乳首を吸われるとルカの体にただならぬ感覚が走り、びくびくと肩が揺れ足先が跳ねる。神父としてあってはならないことだ。
 舌の先でつんと乳首をつつかれると、股の中心が疼く。似た感覚には覚えがあった。おかしな夢を見て起きたとき、股が白いもので濡れていたことがある。
「あああぁっ……だめ、んっおっ…ぅふーっ……
「神父様、あんたは母親に愛されて育ったんだろ? 見りゃ分かるぜ、世の中の汚れたところは何も知りませんって顔して、純真に神様に仕えてる。いつもこんな、全身びっちり隠して……、直接吸っていいだろ? ちょっと脱がすだけだ、母親の乳を子どもが服の上からしか吸えないなんておかしいだろ?」
 男は上擦った声でまくし立てる。息は荒く、もはや邪な欲望を隠そうともしていない。
 しかしルカには分からない。これが信徒を救うための行為であると自分を納得させなければならなかった。
「なあいいよな? はあ、乳首が……勃起して、布に擦れて苦しそうだ。出してやらねえとな」
「はぁっ、あぁ、そ、それであなたが救われるなら……」
 男は、濡れた神父服の胸をあたりをギラついた目で凝視し続ける。ルカの許しを得たとたん、神父服の前を乱暴に開いた。
 ルカの乳首は半分ほど乳輪から小さな先端を覗かせ、散々舐められたせいで濡れて光っていた。
「おお、想像通り桃色の乳首だ……っ
「想像? んああっ……
 ぢゅるるっ……れろれろっくりくりくりくりっ……
 些細な疑問を問いただす前に、男は乳首にむしゃぶりついた。厚い舌が直接乳首を舐め、唾液を伴って下品な音と同時に吸われる。
「あっあんっ……ぅあ、んっ、あぅ……ッ」
「ふーフーッ……んほぉっ神父様の乳首っ……」
「んぅ……だめです、赤子はそのように舐めたりは……、ぁん……ッ
 乳首を粘膜で覆われ、吸われると腰が前に突き出しそうになってしまう。ルカは手で口を覆い、必死に耐えた。
 いくら彼を救うためとはいえ、告解室でおかしな声をあげてしまうなど……。
「んっぅう……っんっんっ……あぇッ…ぅあ…ッ
「神父様っ……おぉ俺はもう……、んっっ……
 男がカクカクを腰を振りたくる。乳首を舐める興奮だけで達しようとしていた。いたたまれなくて顔を逸しているルカは気づかない。
 れろれろれろ……くりくりぐりぐりぐりぐりっ……ぢゅ、ぢゅぅうっ
「おぉ〜〜……ぅぐ、おっ……はぁはあっ……」
「んっ……あぁっ…強すぎます、おっ……ッぅっ…」
 男の腰が大きく前後した。乳首を舐め回しながら恍惚とした声を上げる。
「あぁっ……ん、んっ……
「フーフー……ッ
「はぁ……はぁ……少しでも、心が救われましたか……?」
「神父様っ……俺はまだっ」
「神父様〜? いないのかい?」
 教会の入り口付近から信徒の女性の声がしたことで、異様な行為は中断された。
 男は慌ててルカから離れ、いそいそと身だしなみを整えた。彼は立派な職を持ち、もうすぐ結婚する身だ。神聖な場所でいつ見つかるともしれない危険な行為に興奮しながらも、実際に見つかってしまうほど愚かではない。そして神父との淫らな秘密を、己一人で独占しておきたかった。
「じゃ、神父様、また来るよ」
「え、ええ。教会の門はいつでも開かれています」
 ルカは深く息を吐いた。教会を任されるというのは並々ならない重責を伴った。
 敬虔な信徒と共に祈り、貧しき者に施しを与えて幸福に生きられる手助けをする――幼い頃思い描いていたことだけ果たせばよいのなら、どれだけ楽だっただろう。
 これも神が与えた試練なら、乗り切らなければならない。
 ルカは古びた床の掃除を始めた。下半身の違和感には気づかないふりをして。

〜〜中略〜〜

「ひ、ああっ……や、やめ……、んっ
「何をしていたと聞いている」
 不埒な行為をしている自覚が十分にあった男は、役人と見るや勃起したものを隠すようにして逃げていった。彼には失うものがある。天罰より妻となる女性の怒りこそを最も恐れていた。
 ラウロは男に構うことなく、いきなりルカに水をかけた。胸のあたりが濡れて、驚く間もなく布で舐められた場所を拭かれる。
 乱暴な手付きだった。だというのに布に乳首が擦れ、ルカの口から高い声が漏れ出てしまう。
「んっ……、あっはぁっ……あ、れは、彼が母親を恋しがって……っ」
「母親が恋しい? そんな理屈をつければ君はこの乳首を吸わせるの?」
「……っん、はい……」
 ラウロに見られてしまったショックは大きかった。
 やましいことではないはずなのに。実際あの男にやましい心があったとしても、その心が少しでも安らかになるのなら意味はあるのだ。
 乳首がじんじんと疼いて辛い。
 ラウロは低い声でルカを問いただす。厳しく不正を追求する役人らしい鋭さだった。
「それ以上のことは?」
「それ以上とは? 胸……を吸われただけです。赤子が母親に求める行為にそれ以上も何もないでしょう」
「そうか。乳首を舐めさせるだけなら淫らな行為にあたらないのか」
「当然です。私は、身も心も神に捧げています。淫らな行為など絶対に赦されません」
 ルカは反論した。
 かつては全くの無知であった淫らな行為も、知識として多少は蓄えてある。
 男女の行為は子宝をもたらす。男同士のことはよく知らないが、見知った顔の司祭が、少年に無体を働いたという醜聞から初めて知ってしまった際の衝撃はあまりに重かった。
 ルカは一生、そんなことはしない。交わりは下半身を使うもので、乳首は関係ない。女性の乳房は劣情を煽るとして過度な露出は禁止されているが、男の胸など、船着き場に行けば誰でも曝け出して働いている。母乳が出るわけでもない。ルカにとってはなくてもいい程度の存在だ。
 力説すると、ラウロが眉を潜めて囁いた。
「……君は嘘は吐かないだろう。本気でそう信じているのだろうね。なら……俺も胸に触ることなら許されるのか」
「そ、それは……っ」
 思わずじんと疼く乳首を手で隠した。そんなことを求められるなんて考えていなかった。
 あの男とラウロでは訳が違う。……何が違うのだろう。誰に対しても平等であるべきなのに。
「触らせて、ルカ」
「ああぁ……い、いけません、あなたは別に、お母上が恋しいわけでもないでしょう」
「理由が必要? 俺は……あなたに触れたい。そうすれば今のこの、荒れ狂った気持ちが多少なりとも晴らされると思えるのです」
「……、荒れ狂っていると?」
「ああ、とても苦しい。あなたには分からないだろうけれど」
 ラウロがまた、神父に接する役人の口調になった。そうなると無下にはできない。端正なラウロの顔が間近に迫る。表情には確かに切実なものを感じて、ルカは拒絶できなくなった。
 恥ずかしくてたまらない。でも、彼を救うためなら……。
「わかりました。私などの、乳首でよければ……、少しならば」
「――乳首を触ってと言って」
「ち、乳首、触ってください、ラウロ……っ、あっあぁっ
 ラウロの手がついに胸に届いた。
 男に触れられ、確かにそこはすでに敏感になっていた。しかしラウロのすらりとした指の先が乳頭を押したとき、言葉にできない感覚と背徳感に見舞われることになる。
 すり……さす、さす、くに、くにくに……
「あぁっ…ん、んっ、ふぅぅお……っん゛……ッ
「ああ……子どものように小さいのに、こんなに色づいて、硬くして……」
「あー……っんぅ……ふぅ、ふーふぅ……ッん゛〜〜……っ
 ラウロの指は思いの外優しかった。そっと、赤子に触れるように慎重に、尖った乳首を撫でる。
 力が弱ければ何も感じない、というわけではなかった。むしろ掠められるたびに腰がうずうずして、やり場のない切なさを覚える。
 さす……こす、こすこすこすくりっ……
「あんっ…んっ……ふぅ、ぁあ……っん…ん゛っ…
「どうですか神父様。ここをいじられるのが好き……?」
「あ……ッあ、あなたこそ……こんなことが本当にしたいのですか……、あっアッ
「ええ、好きですよ。……こうできて、すごく、満たされている……」
「〜〜……ん゛〜〜……ッ
 少しの衣擦れの音と、二人の殺した声だけが静寂の教会に響く。
 ラウロの声は真に迫っており、証明するようにじっとルカを見つめ、小さな塊を擦る手に意思を感じさせる。
「んっ……はぁ……はぁ……、ん゛……ん……っんっふぅ…
「ん……神父様、声を我慢しなくていいのですよ。聞かせて、ほら……」
「へあっ……んぅ、だめ、声なんて……っ、関係ない、でしょう……っ、これはあくまで……おっん゛っ…
「ああそうでした。私が触れたいから触れているだけのこと。――でも、それにしては……」
「み、見ないでください……っふうぅ……ッ
 さす……さすこりくりくりくりっ……
 ただ信徒の願いに応えて触れさせているだけなら堂々としていればいいのに、到底できるわけがない。
 ラウロの指先にだんだんと力が入り、勃ちあがった粒を丸く上下左右に捏ねられる。
 腰が何故かびくびくと動いてしまう。努めてじっとしていようとしても、敏感な先端をくりくりと弄られるとすぐにたまらなくなる。
「あんっ…ん゛ー……っふぅ、ぅんっ……んっ、あっあん……っ……
「乳首の先のほうを転がされるのがお好きなのですね。ああ、そんなに顔を赤くして。思い切り声を上げていいと言っているのに」
「んぅうっ……だめ、です、主にはとても聞かせられなあぁっ…ん゛〜〜……
「また主ですか」
「ぉおっ…ほっ…っんっ、ふうっ……
 ラウロが少し焦れたような声で呟き、乳首を中指と親指で摘んだ。
 ぎゅうぎゅうと側面を圧迫しながら、先端を人指し指でぴんと弾く。
 ぎゅう、ぎゅう、ぴん……くりっくりっくりっくりゅっくりゅっ
「お゛っ…んっ、らめ…それ、あっアッんっ、いっ…だめ……っんっんっお……ッ
「気持ちいいですか。少し乱暴にしても感じるのですね、あなたは……」
「か、か……っ感じて……ぁあ、いけません……っ、主よ、違うのです、これは、……ああッ…あんっ
 駄目だと訴えると、ラウロは余計に強く乳首を弄び続ける。
 両方の乳首を同時にこね回された瞬間、腰が大きく跳ね、大事な部分がラウロの体に擦られてしまった。
「ん゛おっ……ぉ…んっ……違っ……あっあッ
「あぁ……、神父様いいのですよ。好きなように、気持ちいい場所を俺の体に擦りつけて」
「おっ…だめ、です……っ、乳首だけという、約束……んんんッ……
「駄目ですか、どうしても……?」
 乳頭を押しつぶされながら訊かれ、声を出せば喘ぎ声にしかならなさそうで、ルカは腰を引きながら必死に頷く。
 乳首以外が触れ合った瞬間、ぎりぎりで保たれていた条件が全て崩れ落ちてしまう気がした。それは神学校から積み重ねてきた聖職者としての矜持さえ脅かしかねない。
「そうですか。――でも俺は、もっとあなたと触れ合いたいのですが」
「ふ〜〜……ふぅ耳っ……あっんっ…
「触れてはいませんよ。耳も感じる……?」
 それで役人が務まるのかというほど甘く掠れた声が、耳元に吹きかけられる。確かに触れてはいないが吐息がかかってぞくぞくする。耳の穴の中にまで入り込まれた心地だ。
 ぴん、ぴん……くりくりくり……ぎゅう、ぎゅう、ぐにぐにぐに
「ぁああ……ッんっぅあ……もう……っ、」
「まだ始めたばかりですよ。はぁっ、すごくいい。頭がおかしくなりそうだ……」
「そ、それはよくありません……っんっぁあッおっ乳首、くりくりだめ……あっあぇえ……っ
「今のは失言でした。……でも、今すごく、あなたにキスしたい」
「〜〜〜〜……ぉほっ…んお、あぁッ……
 乳首から背筋、頭の中にまで鋭い電気が走る。
 キス。忘れるべきなのに、鮮烈に残り続けてルカを苛んだ記憶だ。いくら聖書を読んでも、厳しい修行をしても。本来記憶は時間と共に薄れていくものなのに、あれは違った。
 ラウロは熱を孕んだ青緑の瞳で、じっとルカの表情を伺った。
「覚えてる? あのときのこと」
「ん、ぅ…あ、あれは……っ、あ、……忘れるべきなのに、んっ、あなたがいきなりあんなことをするから……あぁ……ん゛……っ
「よかった。主が記憶までは奪わないでいてくれて。悪かったよ。君がとても可愛くて、憎らしかったんだ」
「か、かわ……あっんあへぇっ……
「今もすごく可愛い。ふー……」
 こすこすこすっこりこりぐりぐりぐりぐり……
 いつしか昔の口調に戻って、ラウロが熱っぽい息を耳たぶに吹き付けながら乳首を摘んでこね回す。ずっと弄られ続けた乳首は感覚が麻痺するどころか張り詰めるように感覚が強くなっている。
 何かを切望するラウロの眼差しと目が合ってしまった。
「んお……っラウロ……、ふーふあぁ……っ
「はあ……ルカ……ん……」
 尖った乳首の先を弾かれ、ルカはつい目を閉じてしまった。それが何を意味するのか分からないまま。
 ラウロの唇が、ルカのそれに重なった。
「ん゛っ……ぉ……っふぅっ……ぅ、あ…
「……ん、はあ……ルカ……」
 触れるだけの、あのときと同じキス。しかし同じなのはキスだけで、状況も二人の立場も全く違っている。
 一度離れたラウロがまた顔を少し傾けて近づいてきても、逃げられなかった。
「んぅ〜〜……はあぁ…ぅん……っぉ…
「ん……ん……ぅ、ふー……ッ」
 ラウロの息が微かに上がり、唇の間を熱く濡れた舌で舐められた。くり、くり、と両方の乳首の先を弄られながら。
 経験したことがないほど甘い痺れが全身を震わせた。すぐにこれはいけないと悟った。
 舌は唇の狭間をなぞり、開けさせようとしてくる。もし濡れたもの同士が擦り合わさったりしたら……。
「ん゛ぉっ……んっあぁいけません、それは、淫らなキスは……っ、許してください……っ、んっはぁはぁ……ッ
「――駄目か。そう。君は、キスを淫らなことと感じたんだ……?」
「そ、それは……んっんっ、とにかく、約束が違います……っ、主の前での誓いを守って、うぅ……ッぅあ……
 乳首と唇を同時に侵されたとき、腰の奥から強い疼きが迫り出してきた。とても看過できない、聖職者にふさわしくない衝動に思えた。

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