学園 Give me!2 サンプル
思えば幼少の頃から、ついているとは言い難い人生を送ってきた。
例えば遊園地や家族旅行に連れて行ってもらえる特別な日には、やたら雨が降ることが多かった。
くじ引きやじゃんけん大会、ビンゴ大会などで何かを引き当てた記憶はない。一方で外れくじを引いて嫌な役を負わされたことは数知れない。
仲のいい友達ができたと思ったら次の年には必ずクラスが別れ、転校していってしまった子もいる。
極めつけは中学三年のとき。自分にはもったいない素晴らしい友達ができたかと思いきや、実は完全に見下されていて傷つけられ、酷い決裂の仕方をしたのは記憶に新しい。
さえない義務教育時代だった。確かに幸運ではなかった。
だからと言って、ここまでの業を背負って生きることに比べれば、どれだけ平和で優しい世界だっただろうか。
「ひああっ……

もっ、許して、だめ……あッ

あッ

あ゛あ〜っ……

」
「うるせえ……っ」
その日の加西の執拗さと荒々しさと言ったら、完全に常軌を逸していた。
何故こんなことになったのか。
大元まで遡れば、諸悪の根源は科学部の先輩が作った怪しげな薬だ。その先輩は化学の分野において特出した頭脳に恵まれている代わりに、良識や倫理観といったものが致命的に欠落していた。
治験と称して渡された薬をきっぱり断りきれなかったことに関しては、目先の報酬に目がくらんでしまった自分も悪い。ただ、具体的な効果を説明しないまま治験体にした佐原は酷いとしか言いようがない。
その効果――もとい症状というのが、「男を誘う強烈なフェロモンを発し、自身も激しく欲情してしまう」というふざけたものだった。
そんなエロ漫画のような薬があってたまるかと思いきや、効果は信じがたいほど絶大だった。
まず初めに、誠人のことを憂さ晴らし相手であり金づる扱いしていた不良、加西とセックスをしてしまい、フェロモンの力を嫌というほど思い知らされた。
それから潔癖な数学教師である野崎奏、優しく端正な顔立ちで生徒からの人気も高い社会科教師伊勢、それにまだ中学生の義弟尚紀――。フェロモンの存在がなければ絶対にありえない相手を次々に巻き込み、関係を持ってしまった。
更に、セックスまでは至っていないものの、寮長である篠崎には淫らな体を見られバイブを突っ込まれた。サドという噂は聞いていたがめちゃくちゃだった。
そして寮の同室者であり親友である悠まで、フェロモンの毒牙にかけてしまった。そのときはフェロモンの効果が薄まっていて手淫しあうだけで済んだのが不幸中の幸いだったが、危ないところだった。
大事な友達を巻き込んだのは特に堪える出来事となった。これ以上同じ部屋で寝泊まりしていてはいつ取り返しがつかなくなるか分かったものではない。
誠人はなんとか寮の職員や教師との交渉の末、一人部屋を手に入れることができたのだった。
が、そこに至るまでの経緯に失敗があった。
「あっ……

ひっあっ

、せんぱいっ、うあっ

あッ

あんッ

だめっ

はあっんんっ……

」
「ふざけんじゃねえぞ、この淫乱が…っ」
感じすぎて息が苦しく、アナルの中は最早別の生き物になってしまったように受け止めきれない刺激に蠢いている。
そんな誠人の体のことなど一切気遣いせず、加西は叩きつけるように激しく怒張を抜き差ししていた。
ずぶっずぶっずぶっずぶっ、ぬぶっぬぶっぬぶっぬぶっ、パンパンパンパンッ
一人部屋をもらえるとは知るよしもなかった頃の誠人は精神的に追い詰められ、その結果加西と同室になるという素っ頓狂な考えに至った。
決死の思いで懇願してみたところ、気を失うまで激しく犯されたが、拒否されることはなかった。
何故加西なのかといえば――それ以外に選択肢が思い浮かばなかったから。誠人にとって世界で最も苦手とする相手と言っても過言ではないというのに皮肉な話だ。
恐ろしいほどに加西は絶倫だ。身をもって嫌というほど知っている。彼と同室になれば悠を巻き込む危険はなくなり、フェロモンの効果が発現したとき誰とセックスすればいいのかという問題は解決する。
と思いきや、程なくして喉から手が出るほど欲しかった一人部屋が思いがけず転がり込んできた。
――それならば悩むまでもなく、一人のほうがいいに決まっている。
と加西に伝えたところ、殺気立つのが目に見えるほどの怒りを向けられ、慌てて逃げ出したがすぐに捕らえられ。
そして今に至るのである。
「あーっ……

ひっうぁっ…

先輩っ、ゆるして、もっ抜いて、あッ

ふああッ

」
「お前は俺が満足するまで黙って穴使わせとけばいいんだよ……っ。くそ、イヤイヤ言いながら締め付けやがって」
「ひあっ

もっ分かんない…っ

あんっ

あッ

あッ

あッあッ

あんッ…

」
ズヌッズヌッズヌッ……ぐりゅっぐりゅっぐりゅっぐりゅっ

すでに二回中出しされている。二回分の精子が中に残ったまま突っ込まれ、結合部からぐちゅぐちゅと淫らな音が鳴って耳まで犯す。下手に理性は残っているだけに恥ずかしくて仕方がない。
【中略】
とにもかくにも、できるだけ他人との接触を避けるよう気を張り続けるしか誠人にできることはない。
男と目を合わさず、常に人の多いところにいて少人数にはならず、親しい者であっても必要以上に近づかない。
そしてもし、発症してしまったときは速やかに人気のない場所に移り、理性が残るうちに助けを求める。
すでに体のことを知られてしまった誰かに。――それが誰であるのかという最も重要な問題は未だ未解決だった。
その日の昼は悠と二人で学食に行った。生徒が溢れかえっており賑やかだ。
どちらかというと食事はもっと静かな場所でとりたいタイプだが、今は人が多すぎるほど多いところのほうが安心できる。
最も危険なのは一対一の状況であり、こんな場所でフェロモンの効果が発揮されることはまずあるまい。もししてしまったらそのときは大惨事が待っている。ありえない。
「こんにちは、君たちも学食?」
「はっはい。伊勢先生も?」
「うん。今日の日替わりランチはヒレカツ定食だって」
食券機に並んでいると伊勢が気さくに話しかけてきた。何とその後ろには仏頂面をした奏もいて、誠人は内心で大いに動揺する。
「先生も学食を使われるんですね」
「俺は時々ね。野崎先生は普段は誘っても即断るんだけど、今日は日課の弁当作りを怠ったんだって。いつもきっちりしてるのに珍しい」
「へえ。兄さ……野崎先生が?」
「伊勢、余計なことは言うな」
奏は酷く不機嫌そうだった。そして相変わらず誠人のほうは見ようともしない。
奏にはあれから明らかに避けられ続けている。授業中は至って普通で他の生徒と差別されることはないし、必要であれば会話することもある。だけど以前のように個人的に話しかけてくることはなくなり、目も合わなくなった。本格的に嫌われてしまったのだろう。
誠人は頬を引きつらせながら黙って会話を聞いていた。選ぶメニューを迷っているふりをして、視線は壁に貼られているメニュに釘付けにしたままで。
注文するときまで動揺は続き、いつもなら躊躇うような奮発をしてステーキセットを頼むことになった。人を掻き分けてお盆を受け取ると、席を確保してくれていた悠の元へ向かう。
「ちょうど空いててよかったね」
「だね。あーお腹すいた、早く食べよう」
席は先客のグループが去った直後らしく余裕があった。ただ相変わらず混んでいるのですぐに席は埋まることになる。
「や。生意気にステーキなんて食べるの? お子様ランチのほうが似合ってるのに」
初っ端から馬鹿にした物言いをしつつ、篠崎が断りもなく隣に座ってきた。
折角のステーキなのにあまり愉快ではない食事になること確定だ。
「やあ仁藤くん、調子はどう?」
篠崎の同行者は佐原で、その対面にしれっと腰を下ろした。
持っているのは誠人と同じくステーキだが焼き具合は血の滴るようなレアだ。特別な注文でもしたのだろうか、相変わらずキャラに似合わず肉食らしい。
二人の登場に、悠が少しだけ表情を曇らせた。あからさまにではなく僅かな変化だったが誠人には分かる。
悠は篠崎をよく思っていないのだ。その気持ちはよく分かる。
「仁藤くん、ここ空いてる?」
「うわっ、はい、空いてます」
「ごめん驚かせちゃった? 今日は特に混んでて、他に空いてる席がなくてね」
更に逆隣に伊勢までやってきた。断ることもできず椅子を少しずらして引くと感謝の言葉が返ってくる。その対面には苦い顔をした奏。見たところ他に空いている席はなく、渋々と言った様子だ。
それにしてもこれはかなり――。
「うーん、かなり楽しい顔ぶれだね」
「さ、佐原先輩っ……」
口端を上げて意味深に言う佐原に誠人は慌てる。
面白がりやがってこの元凶め、とは思っていても言えない。
実際誠人にとっては、悪い意味で奇跡のような面々が意図せず揃ってしまった。
伊勢と奏は初めから終わりまでフルコースで致してしまった相手で、悠と篠崎とはメインディシュまでは至らなかったが淫らな触れ合いをした事実がある。
そしてその全ての原因を作った佐原。
不在なのはまだ中学生である尚紀と――加西だけだ。
そういえばあれ以来加西の姿は見ていない。学食で見かけたことはないが、もしここに彼までいたらさらなるカオスだっただろう。想像するだけで恐ろしい。
にこやかな者もいればあからさまに不機嫌な者、何を考えているか分からない者とそれぞれに異なる表情を浮かべながら、息の詰まる食事が始まる。
【中略】
加西は人を寄せ付けない空気を纏い、一人でさっさとどこかへ歩いていってしまった。
もしかして女のところに行くのだろうか。実は親しい相手がいて、約束があったりする?
なかったとしても、加西は黙っていれば整った顔をしている。きっと行きずりでも相手を見つけるのは難しくない。
誠人が粛々と使いっ走り仕事をこなしている間、加西は女と――。
別れ別れになるのは想定していたとおりの展開で、加西が誠人の知らないところで何をしようが関係ないはずなのに、何だかモヤモヤとした。
◇◇
それはともかく道に迷った。
そもそも出るべき改札からして間違えたらしい。駅に着けさえすればどうとでもなるだろうと思っていたのに、どういうわけか目的の大型ショッピングモールとは真逆にある繁華街に出てしまった。
誠人はそこで思いがけない再会を果たすことになる。
「…………あれ、仁藤くん?」
「……っ、水野、くん……」
前方から、いかにもリア充という感じの目立つ高校生グループが歩いてきた。誠人はさりげなく道を開けて避けようとしたのだが、その中心にいた高校生に声をかけられ呆然とする。
中学時代の同級生である水野だった。
一見人好きのする笑顔は変わっていないが、中学時代よりいくらか背が伸び、雰囲気もより華やかになっている。
「水野、友達?」
「うん。……中学の同級生で、すごく仲が良かったんだ」
「……っ」
「へー」
仲がよかった。しれっと水野の口から出てきた親しみの言葉に、彼と同じく目立った容姿をしている彼の友人達は意外そうに誠人を見る。
水野の友達にしては地味でつまらなさそう、とでも思われているのだろう。いたたまれない。
それ以上に水野と相対してどうしていいのか分からない。
「どうも。……なんかおとなしいね」
「ああ、良い奴だけど少し人見知りなんだ。……ちょっと二人で話してきてもいいかな」
「あー、まあ折角会ったんだしな。いいよ店で待ってるから」
「ありがとう。行こうか仁藤くん」
「え、どこに……っ」
水野は友達に断りを入れると、誠人には何の断りもなく引っ張って歩き出した。
あのまま知らない者達の視線に晒されるのも気まずかったが、だからといって水野と二人になるのにも不安しかない。
大体彼が、今更自分に何の用だというのだろう。中学時代、親しくしてくれたかと思っていたら、実は誠人のことを心底見下していた水野が――。
嫌な予感しかしない。理由をつけて逃げようかと考えているうちに、狭い路地裏で水野が足を止めた。
繁華街の近くにこんな場所があるのかと不思議なほど人気がなく、必然的に二人きりの空間ができあがる。
「本当に久しぶり。元気だった?」
「……うん、まあ」
「全寮制なんて大変なんじゃない? 先輩は厳しそうだし、コミュ力ないと人間関係大変でしょ」
「何とかやってるよ」
「友達はできた?」
言葉だけなら単に元同級生の友達を気遣っているだけのようだ。だけどその裏には「どうせコミュ力がないのだから友達もおらず上手くやっていけていないのだろう」という嘲りを感じてならない。
誠人はみっともなく震えてしまわないよう、拳を握りしめて答える。
「……大変だけど何とかやってる。友達はできたよ」
「それならよかった。……ちゃんと対等にやれてる?」
「……うん。ホントに良い奴だから、不思議なくらい仲良くしてくれる」
悠に対しては、初めは水野のトラウマから警戒して接していたが、今はもうすっかり信じる気持ちしかない。
悠のことを思い出すと自然に彼を称える言葉が湧き上がって、少し心が落ち着く。
表情が変わった誠人に、水野の目のあたりがぴくりと動く。
「ふうん。上手くやれてるんだね。中学の時と違って」
中学の時。そこだけ声のトーンを変え、意味深な空気を匂わせる。
気のせいと言われればそれまでの、わずかな変化だ。水野はそんな風にして自他の感情をコントロールするのが上手かった。
「……仁藤くん、俺のこと見ないね。やっぱり怒ってる?」
「……いや、」
「今更だけど、あのときはごめんね。仁藤くんに受ける高校を隠されて、ついかっとなって」
あのとき。階段の踊り場で、水野は誠人を決定的に傷つける言葉を放った。嫌な思い出が蘇って頭痛がする。
久しぶりの感覚だ――そう、久しぶりなのだ、水野とのことを思い出すのは。
中学を卒業してから高校に入学したばかりのときは、しょっちゅう思い出しては塞ぎ込んでいた。それほど傷は大きかったはずだ。
だけど悠と友達になって、他にも多くの出会いや災難を経験し――。
極めつけがフェロモンだ。あれのせいで散々な目に遭った。あまりに多くの人を巻き込んで、現在進行系でとんでもないことになっている。
正直なところ、水野のことを思い出す暇などなかった。
きっと水野が作った傷は、本人は知る由もないが悠のおかげで癒やされていったのだ。
そして我を忘れて淫らに男を誘い、セックスさせてしまう行為に比べれば、自分ひとりが過去に傷ついたことくらいどれほどのものだというのか。
開き直ったような面持ちになって、誠人はまっすぐに水野を見ることができた。
「俺、もう気にしてないから」
「……本当に?」
「中学のときの……過去の話だし。高校で色々あって、何かそれどころじゃなくなったっていうか」
本心から伝えると、今度は明らかに水野の目つきが変わった。
「へえ……そうなんだ。じゃあもう全部水に流す?」
「うん、そうできれば」
「でもね、調子に乗らないほうがいいよ。どうせ君はまた孤立することになる。友達だと思っている奴も離れていくよ」
水野は突然底冷えするような冷たい声で言い放った。反射的に体がびくりとする。
「……何で、そんなこと」
「何でかな、特別な理由なんてないけど。旧友に現実を教えてあげたくなっただけ」
しばらく離れていたからか、水野のことをいくらか客観視することができた。
その結果思った。水野は普通ではない。どこか見えにくいところが複雑に歪んでいるのだ。
きっと彼が言うように大した理由などないのだろう。ただ自分のつけた傷が塞がっているのが何となく気に食わなくて、再び広げて血を流させようとしているだけ。
誠人はじりじりと後ずさった。
このさい惨めに逃げたと思われてもいい。関わらないほうがいいと直感が訴えている。
水野の目はそんな思いなど簡単に見透かしていて、嗜虐心が見え隠れしている。体の一部にぞわぞわと不穏な感覚が走り――。
「……どうして逃げるの?」
「っ、あ、あの、俺もう行かなきゃ……っはぁっ」
まずい。突然の重苦しい衝動に息が乱れる。
誠人は逃げ出そうとしたが、足がふらついてしまった。
「いきなり何? 具合悪いふり――?」
「ひっ……あぁっ」
水野に背中を支えられ、触れられた部分からぶわっと熱が広がる。甘えたような吐息が漏れ、頬が赤く染まり、目は潤んでくる。
「…………」
「ふあっ……はあぁっ……

」
明らかにおかしい誠人様子に気づき、水野は切れ長の目を瞠り押し黙る。
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