向かいの人 02


あり

木野孝也が住んでいるアパートの向かいには、家賃に数倍の差はありそうな高級マンションが建っている。皆川という男はそのマンションの住人であった。
初めて見たとき、随分な美形がこんな身近にいるのだなと驚いた。すらっとしたモデルのような体型に、甘く端正な顔立ち。その上孝也のバイト代何ヶ月分の家賃だろうという高級マンションに若くして住んでいる。噂によると青年実業家だとか。さぞ女性に人気があることだろう。
一応ご近所なので顔を合わせた際に会釈くらいはするが、それだけだった。道路を一本挟んで、あちらとこちらには見えない巨大な壁があるのだ。普通の大学生である自分とは関わることの無い人間だと思っていた。あの日までは。

「だ、大丈夫ですか?」

その日はバイトが長引いて、帰宅時にはすでに深夜にさしかかっていた。もうすぐ家に着くというとき、男が路上に座り込んでいるのを見つけた。
孝也にでも分かる上質そうなスーツに長い手足。皆川だ。孝也は慌てて身を屈めて覗き込む。

「顔色真っ青ですよ。救急車呼びましょうか」
「――君は……。大丈夫。酔っただけだから…」
「とりあえず水、飲めますか」

飲みかけのペットボトルを差し出すと、皆川は苦しげながらもゆっくりと飲みこんだ。そのまま放っておくこともできず、孝也は彼を支えながら部屋まで連れて行くことになった。
部屋の中はモデルハウスのように綺麗で生活感があまりなかった。

「本当に大丈夫ですか?」
「うん……もう少し、そうしていてくれるかな」

しばらくの間、孝也は皆川の背中をさすった。彼は酷い下戸であるのに仕事相手に勧められ飲まされてしまったらしい。
完璧に見える男に意外な弱点があったこと、自分に頼ってきたことで少しだけ親近感を持った。

「――迷惑をかけてごめん、ありがとう。後日、改めてお礼をさせてほしい」

そうして二人の交流が始まった。
最初の食事こそお礼という名目だったが、その後も時折お茶をしたり部屋で映画を見せてもらったりと、友人のように付き合うようになった。
皆川は話してみると人当たりがよく、大学生にはためになる話も聞ける。一緒にいると楽しかった。根本的には、やはり住む世界が違う相手という印象は拭えなかったが。

だからその告白は、青天の霹靂と言う他なかった。

その日孝也は皆川の部屋にお邪魔して、映画を一緒に見ていた。皆川は飲めないので素面だったが、孝也はビールを飲んでほろ酔いになっていた。
映画が終わって感想を言い合い、まったりとした時間が流れていたとき、皆川が突然切り出したのだ。

「君のことが好きなんだ」

冗談、だと初めは思った。だけど

「あのとき、酔っ払った俺に見ず知らずの君が親切にしてくれて、ずっと背中をさすってくれて――。最初は好感を持っていただけだったけれど、友人として付き合っていくうちに、どんどん君のいいところを知って、惹かれてしまったんだ」

そう話す彼の目は真剣そのものだった。

「……あの、でも俺……」
「分かってる、君が俺のこと、そういう対象として見ていなかったことは。でも、少しずつでいいから考えてくれないかな」

孝也は困ってしまった。男に告白されるなんてもちろん初めてだ。
気持ち悪い、とは思わなかった。こんなに素晴らしい人に好かれるというのは正直悪い気はしない。
だけどやはり、孝也は普通に女性が好きな男であった。

「……すみません、俺、好きな女の子がいるんです」

半分は嘘だった。バイト先に少し気になっている子はいたが、まだ好きというほどではなかった。だけど男が無理と言うよりは、こういう風に言った方がいいだろうと思ったのだ。
皆川は早くに両親を亡くしており、もうずっと一人で生きてきたのだという。不意に他人に親切にされたから、とち狂ってごく普通の男に惹かれてしまったのだろう。一時の気の迷い、そんな風にしか思えなかった。

「――そう、分かったよ」

皆川が微笑んだ。分かってくれたのだろうか。安心したら、何だか頭がくらくらしてくる。
孝也の意識はそこで途切れた。


目が覚めると、体が不自由であることに気がついた。
孝也は頭の上で両手首を拘束され、ベッドに寝かされていた。

「皆川さん……一体、何を」
「君が悪いんだよ、他に好きな奴がいるなんて言うから」

皆川はジャケットを脱ぎ捨てるとベッドに上がり、孝也に覆いかぶさってきた。

「孝也……」
「んっ……」

頭を押さえつけられ強引にキスされた。熱い舌がねじ込まれて、孝也の舌とねっとりと絡ませられる。
その瞬間に感じたのは嫌悪感ではなかった。粘膜同士がいやらしく擦れる感覚に腰が疼いてしまう。
皆川はキスしたまま体をまさぐってきた。脚で股を割られ、手で首から腰までを執拗に撫で回される。くすぐったくてぞわぞわして、怖い。抵抗したくても手は拘束されており、脚を動かそうとすると皆川の体に敏感なところが擦れてしまう。

「はぁ……可愛い孝也。俺にチ○ポを擦り付けてくるなんて、悪い子だ」
「ちがっ……もうやめてください、俺、無理です。女の子が好き、だから」

訴えると、熱に浮かされたような皆川の目が一瞬で酷く冷たいものに変わった。

「そんな言葉は聞きたくないな。本当に男が無理なら」
「……っ、あぁっ」

「――男に触られたって、気持ち悪いだけのはずだよね。でもおかしいな、乳首が勃起して、シャツの下から俺を誘ってるように見える」
「やっ、あんっ」

いきなり乳首をぐりっと押しつぶされ、強烈な感覚が背筋を走った。

「声可愛い。ここ気持ちいいの? 男のくせに男に乳首弄られて感じてるんじゃないのか?」
「やあぁっ…はぁっ、はぁあッあん」

乳首を押しつぶされこねくり回されるたびに腰が跳ねて、今まで自分でも聞いたことのないような裏返った声が出てしまう。

「はぁ……チ○ポも勃ってるじゃないか。俺に乳首責めされて感じちゃったんだ。可愛い、可愛いよ…」

ぐりっぐりっ、くりゅ、くりゅ、ぐりっぐりんっ
さすっさすっシュッシュッ

「あぁんっ…いやっ、ぁあっあ…」

乳首を弄られながらペニスまでさすられ、可愛いなんて言われて。男からいやらしいことをされているというのに気持ちいいのが止まらなくて困惑する。

「チ○ポ、勃起してビクビクしてるじゃないか……あー興奮する……」
「だって…っ、あぁっん、はぁあっ」

ボトムを手早く脱がせられ、シャツは胸の上に捲り上げられ、恥ずかしい姿にされてしまう。

「乳首ピンク色なんだ、可愛いよ。それにチ○ポも、濡れ濡れで透けてる」
「やっ、見ないでくださいっ…はぁ、ぁ……」

孝也のペニスは誤魔化しようもなく勃起していて、ボクサーパンツの前は先走りで濡れて亀頭の形と色を透けさせてしまっていた。そんなあられもない姿をじっとりと凝視され、腰が震える。

「はぁ、はぁ、いやらしくて本当に可愛い。乳首舐めていい? 乳首舐めながらエロチ○ポ弄ってもいい?」
「やっいや…はぁ、ぁあ…」

頬がかあっと熱くなって、不自由な体を捩って視線から逃れようとする。しかし弱弱しい抵抗は皆川を煽ることにしかならなかった。
息を荒げながら乳首に吸いつかれ、濡れたペニスに触れられる。

「あぁんっ…やっあっ、はぁっ、ぁん…」
「ん…可愛い、乳首もチ○ポもビクビクして…っ」
「やっ舐めないでっ…あっあんっ」

ぬる、れる、れろ、れろ…ちゅ、ちゅくっちゅくっ
ぬちゅ、ぬちゅ、くりゅっくりゅっくりゅっ

皆川は充血しきった乳首をねっとりと舐めまわし、パンツ越しに亀頭を何度も擦る。体がいつになく敏感になっているようで、ひっきりなしに腰がびくびく跳ねてしまう。

「やっぁっそこ、も、やだぁっ…はぁっぁんっ」

気持ちよくて堪らない。皆川は何が楽しいのか、乳首を執拗に弄ってくる。舌で小刻みに舐めたり、吸いながら歯を立てたり、ねっとり押しつぶしたり――。
ペニスも同時に責められると、もう我慢ができなくなった。

「やっもう、いっちゃう、いっちゃうからっ…あっやめっ、はぁあっ」
「っいくの? いいよ、イって、俺の手と口で愛撫されていくところ見たい」
「やっあぁんッ!」

皆川は乱暴に孝也のパンツをずり下ろしたかと思うと、いきなりそこに唇を寄せた。
乳首は両手の親指で押しつぶしながら、亀頭を口に含んで敏感な場所を舌で滅茶苦茶に愛撫する。

れろっれろっれろっれろっ、ちゅくっちゅくっぢゅっぢゅうぅ

「あぁッやっイくっ、やっ、いっちゃうっあんッあんっあぁーっ!」

びゅっびゅくっびゅくっびくんびくんっ

乳首とペニスを巧みに責められ、孝也は腰を痙攣させながらイってしまった。オナニーとは比べ物にならない刺激で、しかも皆川はイってる間も乳首を弄りペニスを離してはくれない。経験したことがないほど絶頂が長く続いた。

「はぁっ、はぁっ、ぁ、ん、…」
「はぁ…可愛かったよ。想像してたよりずっとエロい…」

皆川は躊躇いなく精液を飲み干すと、うっとりと孝也の頭を撫でる。何か底知れない恐怖のようなものを感じて、体がぞくりとする。

「やっぱり君は男に――俺に愛される素質があるんだよ。あんなにいやらしく感じて」
「っそれはっ……。だって男は、触られたら反応しちゃうものでしょう。俺はやっぱり、女の子が……」

皆川の言うことは到底いきなり受け入れられるものではなくて、孝也は必死に言い募る。

「――そう、まだそんなこと言うんだ。なら」
「っ? なにっ……」
「――ここにハメられて感じるわけないよね?」

皆川は感情の読めない笑顔を浮かべながら、体の奥――アナルに触れた。

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