それもあり 02 03



中塚新(なかつかあらた)は葛藤していた。
隣には付き合って3ヶ月になる可愛い彼女。二人の距離は近い。
初めて招かれた彼女の部屋はいい匂いがして、勝手に鼓動が速くなってくる。
この家には二人の他に誰もいない。それを伝えた上で、彼女は新を招いたのだ。
男なら誰もが勝負をかけるときだろう。

しかし。

「……ごめん、俺、そろそろ帰らなきゃ」
「……え?」

新の言葉が予想外だったのだろう。彼女が不審げな顔で見上げてくる。
そんな顔をさせてしまう自分が嫌で仕方がない。それでも。

「また連絡するから」

どうしても勝負を躊躇ってしまう理由が、新にはあった。






『ごめん、他に好きな人ができた。新もわたしのこと好きじゃなかったよね? 別れよう』

「……はぁ〜……」

嫌な予想通り、それからいくらも経たないうちに新はふられた。
随分あっさりした物言いに悔しさや悲しみがこみ上げてくるが、反面仕方がないとも思う。
2人はもう21歳、十分な大人だった。男の方がその気のあった女を拒むなど、緊張していたからで済む年齢ではない。
いや、その気がなかったわけではないのだ。正直言ってセックスはしたい。したいのだが。

「はぁ〜……」

もう一度溜息を吐いて、新はおもむろに下着を下ろす。
嫌というほど見慣れたペニスが現れると、憂鬱な気分が増す。
これこそが、新が勝負に踏み切れない元凶だった。


きっかけは、高校一年の夏。向こうから告白されて付き合い始めた彼女を部屋に招いたときのことだ。
新のほうはキスの段取りを散々想定してドキドキしていたというのに、彼女は予想外に積極的だった。
自分から抱きついてきて新の服を脱がせにかかる彼女に驚きつつも、有頂天になっていたのだが。

『あれ、かわいい〜っ。皮被ってるし。あはは』

ペニスを見た彼女にそう笑われた瞬間、文字通り新は硬直した。

『……新? ご、ごめん、別に変じゃないっていうか……前の彼氏は剥けてたから……』

まずいと思ったのか慌てて取り繕ってはくれたが、完全に追い討ちでしかなく。
新は涙目で服を来て部屋を飛び出した。
彼女の方は単に緊張をほぐそうとして言っただけだったのかもしれない。しかし思春期の男子の性とは非常に繊細なもので、どれだけ忘れたくても初体験未遂のトラウマは心に深く根付き続けた。
それ以来、女性とことに及ぼうとしても、新のペニスはぴくりとも反応しなくなってしまったのだ。

「んっ……は、ぁっ……」

こんなときはオナニーでもしなければやってられない。悲しみを紛らわすために自棄気味でペニスを扱き始める。
インポなわけではないのでオナニーをすれば勃つ。勃てば何とか亀頭は出てくる。いわゆる仮性包茎というやつだ。
仮性の男は多いというし、それほど問題はないのだと頭では分かっている。しかしいざとなるとどうしてもトラウマが発動して反応してくれない。そんな状態ではセックスはできないし、また笑われたらという恐怖が何より勝ってしまう。
風俗の女性に対してもそれは同じで、新は未だ童貞だった。

「はぁっ、ぁっ、んんっ……」

性欲は人並みかそれ以上にあるというのが、また悲しい。
皮が忌々しいと思いつつも、皮を使って敏感なカリの辺りを擦ると腰が跳ねるほど気持ちがよくて、ついつい指に力が入る。

「っあぁっ、んっんっ、ぁっ、いくっ……!」

ドクドクと震えるペニスの先にティッシュを押し当て、精液を受け止める。
気持ちいい……が、少しすると我に返ってなんともむなしい気分になる。
そろそろ本気で何とかしなくてはなるまい。
もう大学卒業も間近で、働き始めれば今までより出会いのチャンスなどは減るだろう。
このままでは包茎に童貞のコンプレックスが加わりがんじがらめになって、一生童貞で終わりかねない。
――そう思いつめた末に辿り着いた結論が、包茎手術だった。

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