初めてのデリヘル シュウ視点 02


あり


 俺が出張ホストを始めたのは、単純に売るほど需要があったから。
 遡れば高校のときから、金を出してでも俺とヤりたいって女はいた。そういう女同士が勝手に泥沼の争いを繰り広げてたこともある。勝者の商品になる気なんて当然ないのにめんどくさ。
 嘘の名前で体を売ったほうがよっぽどいい。けど普通のホストは酒で体がやられそうだし、体験入店だけでも人間関係がめんどくさそうなのを感じたからやめた。
 出張ホストは基本一対一でうるさくないし、虚栄心の張り合いに巻き込まれることもないし、顔バレもしにくい。NGを多く出しても客を選んでも、俺の人気なら予約が途絶えることはない。
 今のところでかいトラブルもなくて、まあ細かく言えばイラっとすることとか萎えることはあるけど許容範囲。十分貯め込んだら若いうちにさっさと足を洗うつもりだ。

「……男?」

 久しぶりに想定外の事態だった。そもそも出張先がいつもの客層と比べたらかなりしょぼいアパートで、行ってみたら若い男。
 太客に仕事の都合でキャンセルされた穴埋めの客だった。男は無条件で却下ってあれほど言ったのに。
 相手は可哀想なくらい戸惑ってる。どう見ても慣れてないし、そもそも成人してるのか? 大方店長が初心者臭を嗅ぎ取って、こっちの世界にどっぷり嵌まらせてむしり取ろうと俺を派遣したってとこか。やることが悪どい。
 ――まあいいか。ガツガツヤリたがってくる男は無理だけど、こんなガキ相手ならいくらでもやり込めて、指一本触らないまま金払わせられる自信がある。

「とりあえず寒いんで、部屋に入れてくれません?」

 男は案の定断りきれなかった。俺がやべーやつだったらどうするんだろ。
 部屋に入ってみると至って質素で飾り気なし、まあまあ綺麗。ところどころ収納から服がはみ出したりしてて、俺を呼んだから慌てて片付けた様子が浮かんで可愛げがある。
 話せば話すほど客――ナオは普通の、素朴な大学生って感じだった。一切夜の世界とは無縁な匂いで逆に新鮮なくらい。

「俺、本当に間違えて呼んだだけなんで。安心してください」
「うん、分かってますよ」

 最初は「そんな気なかったんです」と装う客は多い。男の体を金で買う負い目があるからか、ナオも何度も念を押してくる。エロ目的以外で高い金使う理由なんてないんだから、最初から素直になったほうが得なのに。
 ナオは俺に触ってくる素振りもなく愚痴り始めた。誕生日寸前に彼女にフラれたらしい。男に興味ないって装うための作り話を疑ったけど、仲いい友達に寝取られたと語る悲愴な顔は演技には見えない。俺は寝取る側にはなれてもナオの気持ちは一生分かんないままだろうな。と思いつつ同情した顔を作って相槌を打つ。

「俺馬鹿だったなあって。気を許せる友達だと思ってたのこっちだけだったのかなあ……」

 ――にしても。この子俺が目の前にいるってのに、ずっと別れた女と寝取った友達のことに意識が行ってる。
 俺が優しくしてやっても友達のことを思い出して悩み続けてる。こういう態度を取られるのは珍しい。みんな甘い言葉の次は、体で俺に慰めてもらいたがるのに。
 こっちにしてみれば適当に話を聞いてるだけでいい一番楽な客、なんだけど、なんか面白くない。
 寝取ったクソみたいな友達に未練がましいことを言って、涙目になるナオを見てたら、変な部分がイライラしてきた。

「うう……やっぱり辛い……」
「――――あー、イケるかも」

 俺は無意識に呟いた。ナオは酒と感情の高ぶりのせいか耳と頬が赤くなってて、触って撫でたら熱くてすべすべしてた。
 自分から男に触るなんて普通ならありえない。でもほら、初彼女にフられて二十歳の誕生日に俺を呼んだナオってかなり可哀想だし。ちょっとは慰めてやってもいいっていう俺の優しさが発動した。

「あの、俺そんなつもりっ……あっ」

 さっきまで別のヤツらのせいで潤んだ目が揺れて俺だけを映して、イラつきは落ち着いた。でも離してはやらない。
 ナオは結構しつこく「そんなつもりない」「話すだけでいい」って遠慮してきたけど、俺は「大丈夫ですから」「すごく気持ちいいことして忘れよう」って丸め込んだ。
 ……あれ、これじゃまるで俺の方がヤりたがってるみたいじゃん。そう思われたら心外。ただ料金分可哀想な子を慰めてあげようっていうプロ意識の賜物なのに。最後までする気なんて更々ないんだから、それを想像してるビビり方されても期待には応えられないよ。
 服を脱がせたら当然真っ平らで、色気とは無縁だ。焼けてないしシミとか汚れも全然ないからか嫌な感じも意外なほどない。乳首なんて赤ん坊みたいなピンク色してるし……。

「あっあぁんっ」
「……」

 ちょっと触っただけで喘ぎ声を出されて驚いた。やっぱり触ってほしかったんじゃん。

「乳首敏感なんですね。気持ちいい?」
「ふあぁっ…そんなとこ、ぁあっ、あっおっ、んっ」
「ほら、もう尖ってきた……。いつもここでオナにーしてるのかな。じゃなきゃこんな感じないですよね、ほらほら」
「あっちょっと待って、やっぱりこんなっ…あっあんッ、あんッあんッ」

 くりくりっ……こすっ、こすっ…くりっくりっくりっくりっ
 
 エッロ……。ナオは顔をさっきより赤くして、乳首を擦るたびに腰までびくびくさせて、舌を見せて喘いでる。それでいて必死に快感を押し殺そうとして、初めてだっていう嘘みたいな主張通りの戸惑いも見せる。
 俺は乳首を好きなだけ可愛がってやって、乳輪から引っ張り出して、舐めて吸って、勃起して張りつめたところを擦りまくって……。
 乳首だけで下半身をぐしょぐしょに濡らしてるから脱がせたら、穴まで辛そうにひくつかせてるから、特別に指マンしてあげた。狭くて熱い中が指に吸い付いてきて、誘われて突いたら気持ちいいスポットを簡単に見つけちゃって、初めてなのにメスイキキメるまで抉り続けて。
 もうその頃には俺のち〇ぽが何故かバキバキになって反り返ってたから、エロく半開きになってた唇に突っ込んでフェラさせた。上手くないのに興奮して口でイくのはもったいないと思って、最後にはまだ狭いメス穴に無理やりねじ込んでた。一発じゃ足りなくて、時間を延長させて二回か三回中でち〇ぽ扱きまくって、そのまま中に出した。
 

 ――あーあ、男とヤっちゃった。しかも相手は初めてだって。店は本番禁止なのにトロットロに感じる穴にち〇ぽハメて、理性ぶっ飛ばしたアクメ顔になりながらずっと初めてだって言ってたから疑いようがない。
 男も女も未経験だったチェリー大学生を、完全に俺にハマらせちゃった。そういう子ほど一度知ったら執着してくるから困る。
 でも今度ばっかりは、(ナオが頑なに遠慮してくるのが悪いんだけど)俺の方が手を出したと言われば否定できない感じだし、ある程度相手をしてあげなきゃ可哀想かな。
 どう見たって大して金ない大学生だから貢がれるのは期待できないし正規の料金さえろくに払えそうにない。……最悪出世払いで許してやるか。
 ナオの体は意外と悪くなかった、っていうかむしろまあ…………。相変わらず他の男とはヤる気どころか触る気にもなれないんだからナオはホント運がいい。
 会いたがられたら、忙しくなかったら遊んであげればいい。どうせすぐ体が疼いて我慢できなくなるに決まってる。
 いつスマホが鳴るか、店経由で連絡してくるか。俺の予約は常にかなり先まで埋まってるけど、ナオに関しては「前回の忘れ物預かってるから」とか適当に店長に言って特別に連絡回すよう伝えてある。
 のに、いつまで経っても音沙汰なし。
 どういうつもりなんだろ。俺がここまで気をかけてあげてるっていうのに。
 あんな、ち〇ぽにぎゅうぎゅう吸い付いてきて中イキしちゃう気持ちいいセックス覚えたら、絶対もっとしてほしくなるもんだろ? こんなの知らない、初めてって何度も言って気持ちよさそうにしてたし。
 もしかしたら俺に金を吸い取られることを恐れてるのか。もしくはあの一回は俺の気まぐれのおかげってだけで、もう二度と抱いてもらえないと諦めてるのかも。
 それで――あのエロい体をどうすんの? クリみたいに敏感な乳首弄られて、ち〇ぽハメてくれるなら、他の男で妥協する気か?
 イライラする。俺は痺れを切らして、たまたま時間の空いた日にナオの大学に足を踏み入れた。

 寝取った友達とグダグダやってるナオの姿にまたイラっとして、とりあえず連れ出してまたハメた。
 認める、気持ちよかった。体の相性はいい。それだけじゃなくてナオを前にするとゾクっとして、衝動が勝手に湧いてくる。
 長らく金のための流れ作業でしかなかったセックスが少し変わった。前戯からありとあらゆる手でナオをアクメさせて、俺しか見えなくなるくらい感じさせたくなる。でも結局色々やり尽くす前に、ち〇ぽがビキビキになってハメるから、射精したら即次にしてやることを頭で考えてたりする。
 こんだけ相性がよくて、でもナオは金がなくて俺を頻繁には呼べない。なら「自由恋愛」ってことで仕方ないじゃん?
 
 ◇◇
 
 ナオは相変わらず遠慮がちで、俺の方から連絡してやることが多い。まだ俺に構ってもらえるっていうのが信じられないのかも。

「んっ……ふぁっ、だめ、こんなとこで」
「何で? 誰も見てないよ。っていうかみんな似たようなことしてるだろ」
「でもっ……んっ、んっ……」

 くちゅ……れろ、れろっ……ちゅっ、ちゅぅっ……
 
 夜の海沿いの公園。並んで座って、俺はナオにキスをする。
 今日はナオが好きだっていうバンドのライブに誘った。思ったより悪くなくて盛り上がった後、レストランでがっつり肉を食って、バーで酒を飲んで、酔い醒ましに海の夜景がそこそこ綺麗に見える公園を散歩した。俺にしては随分回りくどいデートだ。
 まだ酒に慣れてなくて顔を赤くしてふわふわしてるナオにムラっとして、周りを気にせずキスをする。
 柔らかい唇の感触に何度も重ねる。舌をねじ込んで濡れた粘膜が擦れたらもう、その後のことを考えてち〇ぽがどくんと脈打つ。

「ふあぁっ…んっんっ、んむっ…」
「ん……もうトロ顔になってる。行こうか。立てる? こんなキスだけで腰砕けてないよね」
「あ、歩ける。駅近いし」
「何で駅? もっと近くのホテルとってるから。明日予定ないって確認したよね」
「ええ、ホテル? だって明日の予定は、終電まで飲んでも大丈夫っていうつもりで」

 ぐだぐだ言ってる間にも衝動が強くなってきて、俺は無理やりナオを立たせた。
 まさか本気で帰れると思ってたのかな。こっちはまるで箱入りのお嬢を相手にするみたいに次の日のことに気遣って、ホテルの予約を取ったのに、ナオはまるで分かってない。
 海沿いのまあまあのグレードのホテルにチェックインする。ナオは周りの目が気になるのか落ち着かない様子だった。気にしすぎ。俺だって出張ホストの仕事はネットに顔晒さないとか色々対策して隠してるけど。ナオとの付き合いは……冷静になると男と付き合ってるって噂もまずいのか。でも今は、そんなことどうだっていい。

「ンんっ……ふぅっ、んっんっ…」
「ん……ナオ……もうエッチな顔になってるよ。チェックアウトまで時間たっぷりあるし、気持ちいいこといっぱいしよう?」
「ふぁあっ……」

 唾液が混じり合うくらいねっとり深いキスをする。上顎とか舌の横辺りを舐めるとナオの腰がビクビクして、こっちまで釣られる。
 そのまますぐハメてもいいのに、ナオは「シャワーを浴びる」と言って聞かない。何度ヤっても初心で仕方ないな。

「え……な、何これ」

 ナオが顔をひきつらせた眼の前には、ガラス張りのバスルーム。カップル用のこの部屋は海外のリゾートみたいに開放的な造りになってて、部屋から浴室が丸見えだ。偶然じゃなくてちゃんと俺が選んだ。

「ああ、こういうデザインなんだよ。安心して、俺はテレビ見てるから」
「本当に? 絶対、絶対見ないでくださいね」
「大丈夫だって。ナオ、映画より自分のシャワーシーンの方が価値があると思ってる?」

 こういう言い方をするとナオは引き下がると分かってた。ソファに座ると間もなく水音が聞こえてくる。
 俺は約束通りテレビを見ている。ただ――実は一部カーテンが開いたままの窓に、反射してバスルームの様子が映ってるんだよね。もちろんナオは知る由もない。最初はこっちを窺ってびくついてたけど、大丈夫そうだと分かると急いで体を洗い出す。

「……」

 大画面には洋画が流れてるけど全く頭には入ってこない。ガラスに映った姿はぼやっとしてて、かろうじて泡で洗ってるって程度しか見えないのに、何億とかけた派手なアクションよりよっぽど俺の視線を奪う。
 早く出てこないかな。洗い終えたかと思ったらナオがしゃがんで体を小さくして、何か動きが変わる。
 まだ出てくる気配はない。俺はテレビを消音にして目を凝らした。
 
『んっ……っ』


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