自分へのご褒美 02


あり


昨日グラウンドを走ったせいか両足がだるい。明らかな筋肉痛っていうほど痛いわけじゃなく、ただ重りをつけられたみたいに足取りが重くて、ついでに腰も少し痛い。
俺、小泉央は三年目の若手教師だ。教師といえば何もしていない若いうちから先生と呼ばれていい身分だね、公僕ってよほどやらかさければクビにならないし、羨ましいよ――なんて皮肉を言われることもあるけど、言われるほど楽じゃない。
生徒達との接し方はまだまだ模索中で、職員室での人間関係にも気を遣わなくちゃならない。
気を遣った結果運動部の副顧問を押し付けられ……もとい任された。本来なら主顧問がいないときの代理なのが副顧問のはずが、主顧問は定年間近の白髪先生で、いつの間にか俺が実務をこなすのが当たり前になってる。
休日の部活動はほぼタダ働き。結構なブラックだ。それでも行かないわけにはいかない。
とはいえやってみたら生徒達に愛着も湧くし、大会で勝たせたいって気持ちも出てきちゃうものだけど。とにかく体力が有り余ってる高校生と比べると、まだ二十代なのに衰えを感じずにいられなかったりする。
癒やされたいけど彼女はいない。実家にいたころは犬に癒やされてたもんだけど、今のアパートは壁が薄くてペット厳禁なので小動物も飼えない。
そんな俺にとっての癒やしは長らく仕事終わりの缶ビールくらいだった。少し前にあの店を見つけるまでは。

「ああ小泉さん、本日もありがとうございます」
「こちらこそ。よろしくお願いします」

愛想のいい笑顔を向けられながら、もうすっかり慣れたベッドに横になる。
ここはマッサージ店だ。もちろん怪しい店じゃなくてちゃんと本格的なところ。
とにかく肩が凝って仕方なかったときに、まだ若いのにマッサージか……と思いつつ家の近くにあるこの店に入ってみたら、徹底的に凝りをほぐしてくれて体が軽くなった。感動的なレベルで。
以来俺は定期的に通ってマッサージを受けている。正直料金は馬鹿にならないけどそれでも十分通う価値はある。 月に一、二度の、OL風に言うなら頑張った自分へのご褒美というやつだ。

「じゃあいつもどおり肩から始めますね」
「はい」

半袖半ズボンの施術着に着替えた俺に、早速マッサージが施される。
マッサージ師は初めて来たときからずっと同じ、安間という青年だ。安間さんはまだ若いのに本当にマッサージが上手い。他のマッサージ師のことは知らないけど、いつも丁寧に的確にしてくれるし、熟練の技と言っていいんじゃないかと思う。

「あっ……はぁっ……ん、ん……」
「ここ痛いですか?」
「ちょ、ちょっと痛い……けど気持ちいいような、あっ、ん゛っ……」
「……そうですか、声、我慢しないでくださいね」

安間さんは少し低い声で囁きながら、ぐっぐっと凝ったところを押してくる。
俺は声を抑えるのが苦手で、初めて来たときはちょっと恥ずかしい思いをしていた。

『いっ……ん゛ッ、くっ……』
『痛みますか? もう少し弱くしましょうか』
『んっ……大丈夫です、そのまま……はぁっ、ん』

最初は痛みにうめき声を上げる程度だった。けど凝りを丁寧に指で解されてるうちに、痛みの中に別の感覚も湧き上がってきて。

『ふぁっ……ん゛ッ、はぁーっ……んっんっ』
『……』
『す、すみません、変な声……っあッあっ』

そのうちになんだか体が蕩けたみたいになって、明らかにちょっと気持ち悪い感じの声が出てしまうようになった。我慢しても不意打ちでぐっと揉まれると勝手に口が開いてしまうくらい、それは強い感覚だった。
思えば子供の頃から痛みに弱くて、くすぐりにも異常に弱くて、それに快感にも弱かった。要するに人より皮膚が敏感なんじゃないかと思う。
オナニーでも油断すると声が出ちゃうし、彼女とエッチするときも声を出さないようにするのに必死でせっかくの行為に集中できないくらいだった。一度彼女以上のボリュームの喘ぎ声を出してしまったら明らかに引かれた顔をされて、気まずくなったくらいに。それが原因で別れたとは思いたくないけど、今は彼女がいなくなって結構長い。

『俺、ちょっと痛みとかに敏感っていうか……声出ないように気をつけますから、あぅっ……ん゛っ、んんっ……』
『ああ、そんなに唇を噛んだら切れてしまいますよ。大丈夫です、声を出す方はよくいらっしゃいますし、全くおかしなことではありませんよ。小泉さんは控えめなくらいです』
『え、そうなんですか?』
『ええ。隣の部屋まで響くほど叫ぶお客様には少々困ることもありますが。力を入れず素直に声を出したほうが凝りもほぐれますから、安心してください』

安間さんは一切引くことなく、優しかった。「みんながやっていること」と言われると安心するのは日本人の性、と一括りにしていいかは置いといて、はみ出して恥をかくのを恐れる凡人な俺はその言葉におおいに安心し、我慢しないことにした。
以来安間さんのことを指名し続け、施術室の中では絶対生徒や同僚には見せられないだらしない姿でマッサージを受けている。

「ぁっ……あっ、んん……」
「では、腰のほうをマッサージしていきますね。失礼します」
「はぁぅっ……あー……」

上に跨られて、体重をかけながら腰をマッサージされる。安間さんはマッチョってほどではないけど引き締まった体型をしていて力強い。
俺は生徒に舐められないために腹が出たりしないようにはしてるけど、比べたら筋肉質とは言い難い。唐揚げとか甘いものが好きで、我慢したら余計ストレスになるかなって思うから多少はね……。
しかし、安間さんからは若くて痩せすぎず太りすぎず、硬すぎず柔らかすぎない俺の体はマッサージしがいがあるという褒め言葉をもらっている。本当に褒められてるかはともかくまあいいかという感じだ。

「んっ……んっ……ふぁっあッ……」
「かなりお疲れのようですね」
「はぁ……部活で、生徒達と一緒に走ったりしてるし、デスクワークも肩が凝るので、んっ」
「小泉さんは生徒に人気がある先生なんでしょうね」
「いや、舐められないように必死ですよ、歳が近いから友達ノリで接せられがちで、タメ口きかれたり部活帰りに奢らされたり……はぁーっ……」

話しているときは気をつけてるけど、腰の肉のついたあたりをぐりぐり揉まれると不意打ちみたいにひっくり返った声が漏れてしまう。

「これは強すぎましたか?」
「いえっ……あぅ……んっ、ちょっと、痛かったけど、はー……はーっ……」
「……気持ちいい?」
「あっ……きもちい、んっ、あっ、もっと、はぁん……」

腰が蕩けそうに気持ちよくて、もっととお願いしたのに、安間さんの手が一度止まった。いつも要望には即対応してくれるのに珍しい。

「……あまり一般的ではないのですが、今日は違うマッサージを試してもよろしいでしょうか」
「え……はい、じゃあお願いします」
「では腰を反らせて……お尻をもっと上げてください」

安間に対しては絶対の信頼を寄せていたので、俺は言われるがまま姿勢を変えた。
腰を反らせると、背中から尻まで筋がぐっと伸びる感じがして気持ちいい。
……けど、この体勢、かなり恥ずかしくないか。

「あ、あの」
「いいですよ、そのまま……」
「でもちょっと恥ずかしいっていうか」

胸のあたりまではべったりとベッドにつけたまま、尻を上げて突き出した格好、AVで見たような……。
本当にこれであってるのか訊こうとしたら、尻を触られて俺はびくりとした。

「はぁっ……ちょ、くすぐったいですっ、んっ」

ぴんと張りつめた状態だからか、皮膚が敏感になっていてぞわっとする。
くすぐったいのは本当に駄目なんだ。じっとしていられなくて体をよじったけど、安間さんはやめてくれなくて。
尻を両手で掴まれて、ぐっと揉みながら左右に開かれた。

「ひあぁっ、あの、これは何のマッサージ……」
「大丈夫ですから、力を抜いて……」

声は優しいけど質問に答えてはくれない。綿の薄い施術着一枚だけでは無防備もいいところで、尻の間の部分がすうっとする。
でもそれは一瞬のことで、すぐに熱くて硬いものがそこに擦りつけられた。

「あッ、へぁっ……!? なっ、んっ、なに、あッ、ッ」
「ん……」

ぐりっ……ずり、ずり……、ぐりゅっ……

何だこれ、硬い、棒みたいなもので、尻の間擦られてる……。

「ああああのっ、ひぁっ、んっ」
「動かないでください、こちらもマッサージしますね」
「えっ、……ッ、おっ、アッ、ああぁんッ!」

ぐにっ……こすっこすっこすっ、くに、くにっ

手が体の下に潜り込んできたかと思ったら、いきなり両方の乳首を指先で揉まれて――頭の中に稲妻が走ったみたいになって、目の前がチカチカした。
乳首が、乳首がおかしい。何これ、違う、変だ、気持ちいい――。

「あ゛〜〜っ……ひぁッ、ちくびぃっ、だめっ、あッあぁっ……」

びくびくと魚みたいに跳ねる腰に硬い棒が当たって、より強く押し付けられる。尻の肉に食い込むくらいに。
安間さんの指は優しくて繊細で、ねちっこく乳首を弄り回した。だからもう、嫌でもこれが性感だって自覚させられた。

「乳首気持ちいいんですね。すごく敏感だ……。いつもマッサージすると硬く凝らせていましたもんね」
「あひっ、あッあへっ、だめ、ん゛ッ、それ、はああぁんっ」

――そうなの? ぶっちゃけマッサージが気持ちよすぎてち〇ぽが勃起しちゃうことはしょっちゅうあった。ていうか毎回のように。
でも安間さんは一切何のリアクションもないから、よくあることだと気づかないふりをしてるか、マッサージに集中してて気づいてないか、できれば後者だと思いたかった。
まして乳首なんて、たまに胸のあたりをマッサージされるとムズムズすることがあったけど、勃起してたってマジ? それをばっちり気づかれちゃってたの?

「あっアッ、それっ変ですっ……あ゛ッ、んっ、ッ、あー……」
「こうするとたくさん声が出ちゃうんですね。指先で弾くのが一番気持ちいい? それともこう……?」
「いや、あッあんっあぁんっ」

くにっ……くりっくりっくりっくりっ、ぎゅっ、ぎゅむっ……
ぐりっ、ぐりっ、ごりゅっごりゅっ……

強弱をつけながら乳首を弾いたり擦られたりして、尻の間を擦る棒もリズムがだんだん速くなってる。
棒……っていうか、ちょっと待って。安間さん両手は俺の乳首をずっと弄ってる。俺の上に跨がりながら。
つまりこの硬くて、布越しに熱さが伝わってくるこれって。
最初から選択肢は一つしかない。それを想像したら嫌な気分になるどころか体がじんじん疼いて、少し開かれた状態で擦られてる穴がきゅんとした。

「あッ、おッ……あひっ、やっ、ん゛ッ、だめ、硬いのでごりごりっ……ふぁっ、あーーっ……乳首おかしくなるっ、んっんぁッ」
「ああ、もう完全に勃起して、こんなに張り詰めて……じっくりほぐしますからね」
「あんっ、うそ、お゛ッ、っ」

くにっくにっくにっ、くりゅっくりゅっくりゅっくりゅっ

安間さんは乳首を弄るのを全くやめる気配がない。でも、勃起したち〇ぽなら射精すれば平常時に戻るけど、乳首は何も出せないのに。触られるほどどんどん皮膚が張り詰めて、痛いくらいに敏感になってく。これがずっと続くのかって思ったらすごくヤバい感じがする。
気持ちいい。不安になるような切なくなるような快感だ。

「あっアッはああっ……もっ、無理、乳首ばっかりするの、あぁん……」
「乳首はもう嫌?」
「はいっ……ちくび、感じすぎて変になりそうだからぁ……」
「……もっと、別のところをしてほしいんですか」

俺は必死に頷いた。うつ伏せだから顔を見られなくてよかった。涙目でぐちゃぐちゃなだらしない顔をしてるのが鏡を見なくても分かる。
さっきから意味が分からないくらいち〇ぽが勃起して、施術着まで汁で濡れてる。物欲しげに腰が揺れてしまうのが止められない。

「少し待ってください、オイルを使いますから」

期待が余計高まって息が上がる。オイルでぬるぬるにした手でち〇ぽを扱かれたらどれだけ気持ちいいだろう。安間さんは死ぬほど上手いに違いない。
安間さんは一気に施術着をまくりあげて、興奮にびくつく俺の――
俺の尻の穴に、いきなり指をねじ込んだ。

「ッ、ん゛おっ、〜〜〜〜ッ!」

ぬぷ……ずぷ、ずぷぷぷっ……

一瞬のことだった。ぬめった指はち〇ぽを触ってはくれず、閉じられてるはずの中に無理やり侵入してきて。
頭を殴られたみたいな衝撃の後、すぐ――尻が蕩けた。

「ひっ……お゛ッ、っ、あ゛ぅっ」
「ん……入り口は硬いですが、中は柔らかくて絡みついてきますね」

言われなくてもわかってる。中が勝手に、指にしゃぶりつくみたいに動いて、びっちり咥えこんじゃってる。

「はーっ……ん゛ッ、だめ、おっ、っ」
「前立腺マッサージというんですよ。中をたくさん指で擦ると、とても気持ちよくなれますから」

聞いたことはある。でもそれって確か、風俗とかでやるものなんじゃ。
突っ込みたいのに口を開けば発情した獣みたいな声が出てしまう。
ていうかもう発情した獣そのものになってしまいそうだ。このまま指、動かされたら……。

ぬ゛ぶっ……ずりゅっ……ぬ゛っ、ぬ゛ぶっ……

「〜〜〜〜ッ! お゛っ、ほっ、ん゛ッ、あああああぁッ」

思った矢先に指が抜かれ、また押し込まれて、ひくついてる中の粘膜を擦られた。
あ〜〜……無理、駄目だ、男が触られちゃいけないところ全部擦られるなんて。

「あ゛うっ、ンッ、あひっ、あッあんッあんッあんッ」
「あーすごい……気持ちいいんですね、指でぐりぐりされるのお好きなんですね」
「ひあッアッ、ん゛っ、そこっ……あ゛ーーっ……」
「どうですか小泉さん。気持ちいいならいつもみたいにそう言って? それとも不快ですか?」

ずぶっ、ずぶっ……ぐりっぐりっ、ぐりゅっ……

「ふっうぁっ、イッ、いい……っ、きもちい、尻の穴、気持ちいいっ…おかしくなるから、もっとゆっくりっ…ッ、あ゛あっ」
「はぁ……気持ち良くなってくれて嬉しいです。すごく……。もっとよくしますから」

もっとなんて望んでない。今の感覚だけでいっぱいいっぱいもいいところなのに。
と言うことはもちろんできなくて、穴の中で安間さんの指がぐっと曲がって――ベッドがガタガタするくらい腰が痙攣した。

「お゛ッ……! お゛あっ、ッ、あ゛あぁ〜〜っ……」
「ここが前立腺です。あなたのは少しぷっくりしてて、擦りやすくなってる……。ここを指先でぐりぐりすると」
「ん゛ああっ! あ゛ッ、あひッ、イッ、あッあ゛ッ」
「どんどん気持ちよくなれるから……。ね、いつもよりずっとイイって顔をしてる。声も我慢できないんですね、はぁっ……」

ぬ゛っ……ぬ゛っ……ぬ゛ぶっ、ぬ゛ぶっ……ぐりゅっ、ぐりゅっぐりゅっ

ヤバいヤバいヤバい、俺イってる、前立腺ぐりってされるたびに、垂れ流しみたいにイってる。
安間さんは指をハメたまま、そこばっかり押しつぶしてくる。穴の中のしこりが、安間さんの長い指で擦られ続けるビジョンが頭に渦巻いて異常に興奮する。
性感帯をぎゅっと凝縮したみたいなヤバいところを安間さんに攻められて、感覚が強烈すぎて何もかもどうでもよくなってしまいそうで怖い。

「ん゛あっ、らめっ、あーっ……あんあんあんあんあんっ」
「駄目じゃないですよね、ほら、まだ始めたばかりなのに、凝りをぐりぐりすると中が蕩けていくのがわかります」
「やっ……あ゛ーっ……い゛ッ、いくっ、いっちゃう、尻でイきそうなの、ヤバいからぁっ……あ゛ッ、お゛ぉっ」
「っ、」

ずぶっずぶっずぶっ、ぬ゛ぶっぬ゛ぶっ、ぬぶっぐちゅっぐちゅっ

尻でイくなんてどう考えてもおかしいし恥ずかしいし、これ以上気持ちよくなったら……怖い。でも安間さんはハメたままだった指を抜いたかと思うと、今度は突くみたいな動きで抜き差ししてきて、勢いよく前立腺を叩かれて。

「あ゛ッあ゛ッあ゛ぁっいくっいぐっあ゛ッああああッ」

ぬぶっぬぶっ、ぐりゅっぐりゅっぐりゅっぐりゅっ!
びくっ、びくっ、びくんっびくんっびくんっ……

目の前で火花が弾けて、とんでもない快感が押しつぶされる前立腺から全身に広がった。
突き出した尻が馬鹿みたいに跳ねて、俺は気づいたら初めての絶頂の中に叩き落とされていた。


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