魔王の婚活 02



突然だが俺は魔王だ。今は訳あって人間界で生活している。
1年ほど前に学校を卒業し、現在は在宅の仕事をしている。全く最近の人間ときたら魔王への畏怖や敬意が著しく欠落して関わりたくない輩だらけなのだ。
小学生のときは「魔王がうつるー」「殺されるー」などと言われ触れていけない存在として扱われた。
中学生のときは「魔王なんてダセー」 「魔王を倒せば俺最強じゃね?」などと言われやたらと喧嘩を売られた。
高校のときは「あいつ魔王なんだってーうけるー」「怖いから近寄りたくないわー」「でもあんまり強そうじゃねーよな」などと好き放題言われ、更に天界から降りてきていた連中にはあからさまに敵意を向けられ嫌がらせをされた。
魔界の連中は連中で、俺を倒せば自分が次期魔王になれるなどと馬鹿げた夢を唱え攻撃してくる者もいれば、崇拝しているふりをして突然襲ってくる者もいた。同属といえど全く油断ならないのだ。
本来であればあんな輩一瞬で消し炭にすることもできるのだが、 俺の魔力の多くは魔界に封印されており、現在は身を守る程度の力しか持っていない。強大すぎて行使すれば世界のバランスが崩れ、人間界はおろか天界、魔界にまで悪影響を及ぼしてしまうからだ。
魔王と聞くと全ての破壊を望む好戦的な存在だと思われがちだが、俺は不毛な戦いを厭っている。
別に友達がほしかったわけではない。魔王とは孤高の存在であるべきなのだから。しかし最近の人間と天使と魔族ときたら本当に……。

そんな俺がこのたび、結婚相手を探すことになった。魔王は世襲制ではないが配偶者は必要である。成人した魔族にとって交わることは人間にとっての食事に相当するのだ。
残念なことに今はめぼしい相手がいない。いないなら見つけるしかない。というわけで俺は婚活支援団体なるものに会員登録した。

名前:魔王
年齢:そのような概念は魔族にはない
職業:魔王・内職業
住所:魔界(現在は人間界に出張中)
性格:寡黙で真面目
好みのタイプ:真面目で魔王に対する偏見がない人

「……こんなところか」

しかし婚活は想像以上に難航した。人間どもは魔王に対する畏怖を忘れているくせに、自分の身内になるというと途端に難色を示す。

「何だか危険なことに巻き込まれたらと思うと……」
「魂抜かれそう」
「魔王ってすっごい贅沢してると思ってたら、意外と普通なんですね」

全く魔王に対する偏見はいかんともしがたい。
やっと「危険な匂いのする男が好き」と言う女に会えたかと思ったら親が出てきて「魔王と結婚なんてとんでもない!」とわめき出す。これにはさすがの俺も少々辟易した。
更に、どうしても魔王と結婚したい!という熱心な女がいる、しかもかなりの美人と聞いていそいそと会いに行くと

「エロイムエッサイムエロイムエッサイム……我は求め訴えたり……おお魔王様! どうか私の血と引き換えに契約を交わし、この愚かで下らぬ世界を崩壊へと導きたまえ!」

魔王ともあろうものが敵前逃亡してしまった。
婚活とは何と苦難の道なのだろう。正直始める前はできれば小柄で一途な処女がいいなどと夢想していたがそういうレベルの話ではなかった。

1対1で会うことに心身ともに危険を感じた俺は、大規模な婚活パーティーに参加してみることにした。
大きな会場に数十人の男女。和気藹々と盛り上がる人間達。
――の中に、俺は中々入っていけなかった。よく考えてみれば少人数で駄目なのに大人数で上手くいくほうがおかしい。案の定遠巻きに見られてヒソヒソ何か言われている。
更に悪いことに、男性参加者の中に天使がいた。魔族と天使は犬猿の仲。偶然を装って飲み物をかけられた上、無駄に綺麗な顔から次々と嫌味が飛んでくる。

「まさかこんなところに魔王がいるなんてね。相変わらず辛気臭い顔だなあ。こんなところで人間を漁って魔界へ引きずり込む気? ああ汚らわしい。滅んでしまえばいいのに」

左右に美しい女を侍らせながら言う天使。堕落しきっている。他界のことながらそれでいいのかと思う。

「どこの者か知らないが、堕天しないように気をつけることだな」
「は? 余計なお世話……っておい、あんた俺のこと覚えないとか言わないよね? 高校3年同じクラスだった――おいちょっと!」

何か喚いている天使を置いて、俺は濡れた服を何とかするため手洗いに向かった。
その途中で。

「――あれ、まお君じゃない?」

今日はよく話しかけられる日だ。そしてその声の主には覚えがあった。

「……一色か」


一色……下の名前は忘れた。高校のときのクラスメイトで、例に漏れず魔王を笑っていた人間の一人だ。更に

「魔王にしては弱そうだし、そもそも名前が魔王って(笑)俺まお君って呼ぶわ」

などとふざけたことを言ってからかってきた、特にタチの悪い男だった。
顔はやたらよくて女に人気があり、今も先ほどのうるさい天使以上に美人達が周りを固めている。

「あの人魔王なんだってー」
「え、魔王? 怖いー」

などという声が耳に痛い。一色の顔など見ていたくもない。俺は足早にその場を去った。

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