墜ちる騎士2話 02


あり


リヒトの体は、再び現れた下男によって清められた。下男は目を合わせず、余計な口はきかない。それでもこんな姿を見られるのは屈辱的だ。
「お前も災難だな、このような汚い仕事をあの男に押し付けられて」
「とんでもない。アレクシス様は素晴らしい方です」
「……どこがだ。そう言わされるように教育されているのか」
「いいえ。……前の主は、人を人と思っていないような男でした。休みなく重労働を課せられ倒れた奴隷にまで鞭を打ち、何人も死んでいった。あの男を罰し、死にかけていた私どもを拾って人間らしい衣食住を与えてくださったアレクシス様には心から感謝しています」

それまでは淡々と作業していたのに、アレクシスを批難するようなこととを言った途端急に饒舌な応答があった。その目には意外な力が宿っており、主を貶したリヒトを非難するようでもあった。
彼を懐柔して、あわよくば取り込めないかと考えていたが、この様子では無理だ。すぐに悟らざるを得なかった。捧げる相手は違えど硬い忠誠心を持っているリヒトには分かる。
アレクシスの、冷酷なだけではない意外な人格など知りたくもない。リヒトにとっては自らを堕落させようと企む悪魔のごとき男だ。
せめて体力はできるだけ蓄えておこうと、早く寝ようとした。狭い部屋に閉じ込められてはそれ以外にすることもない。それなのに、中々寝付くことはできなかった。

「ひぅっ……んっ……」

散々擦られた穴の中が、ブラジャーで覆われた胸が、じんじんと疼き続けるのだ。指が離れてからもう随分時間が経っているのにも関わらず。
もう何日もろくに寝ていない。それでも酷くじれったいような感覚がリヒトを苛み、楽に眠らせてくれない。

「んっ……ふぅ、乳首…が、あっ……」

全身が疲れ切っていて、力が入らない。朦朧とする意識の中、気づけば乳首に手を伸ばしていた。

「あぁっ……くっ……俺は、何を……」

指が乳首を掠めた瞬間、誰もいない部屋で緩んでいた自らが発した声は信じられないほど甘く、それで我に返る。
一体何をしているのだろう。強制されたわけでもなく淫らなことをしようとするなどどうかしていた。疲れ切っているせいで頭がおかしくなっていたのだ。これではアレクシスの思う壺だ。
リヒトは自らを戒めるように、両手を強く組んだ。乳首に触れたせいで、先程同時に責められた穴の中までが不穏な疼きを強くする。
結局満足に眠ることはできなかった。

次の日もアレクシスは現れた。すぐにでも昨日と同じことをされるのかと身震いしそうになる自分を叱咤する。

「……高潔な騎士の顔に戻っていますね。昨日はあれほど可愛らしく喘いでいたというのに」
「ふざけたことを言うな」
「だがいくら殺気立たれても、その可愛らしい格好には似合わない」
「くっ……」

かっと頬に朱が走る。リヒトにはネグリジェと女物の下着しか身につけることを許されていない。触れられていない間も、ただそこに在るだけで恥辱を受けている状態だった。
このまままた淫らなことをされるのかと思いきや、アレクシスが服を投げてよこした。

「……なんだこれは」
「昨日は初めてなのに上手に達することができましたから、ご褒美をあげます」

ふざけた物言いは無視して服を広げる。生成り色をした簡素なチュニックだ。
粗末な服だが今のリヒトにはありがたい。だがこれは……。

「……これは女物ではないのか」
「ええ。あなたなら体格的に問題ないでしょう」
「問題はある。俺は男だ、女物など」
「あいにく戦場では男物の衣類はいくらあっても足りない。あなたが抵抗してくれたおかげで多くの兵の服が血塗れになってしまいましたからね。――それにあなたはメスになのだから、そちらのほうがお似合いですよ。いらないのなら無理に受け取れとは言いませんが」

リヒトは歯噛みした。ネグリジェ姿と飾り気のないチュニック、どちらがましか比べるべくもない。腹を立てつつ取り上げられる前に頭から被った。

「そんなに嫌そうにしないでください。そうですね、あなたの躰が完全にメスになって、心でもメスであることを認められたら、また立派な騎士の服を与えてもいい」
「そんな日は未来永劫来ない」

アレクシスが微笑した。メスであることを認めたら男の服を着られる。本末転倒だ。話にならない。

「さあ、参りましょう」

部屋の外へと出された。逃げられないか状況を窺ったが、手が拘束されている上アレクシスには隙がない。対してリヒトは連戦と昨日の出来事で体力的に大きく消耗している。周囲には帝国の兵士たちがあちこちにおり、二人に気づくと視線が追いかけてくる。リヒトは今逃げることは無謀に過ぎると判断し、顔を隠すように俯いた。


「――リヒト様!」
「お前たち、無事だったか……!」

連れて行かれた先には、リヒトの部下たちが幾人もいた。ある者は心配そうに、ある者は無事であったことを喜ぶようにこちらを見つめる。
当然装備は奪われているものの、拘束もされておらず、怪我をした者には包帯が巻かれている。拷問を受けたり、最悪殺されているかもしれないと危惧していたリヒトはほっと息を吐いた。

「俺たちは大丈夫です。殺されるかと思いましたが食事も水も今のところ寄越してくるし。帝国人は残虐だと聞いてましたが、案外人道的な捕虜の扱いを心得てる」
「それよりもリヒト様は大丈夫ですか」
「お、俺は問題ない。戦いで負った傷は深くない。拷問も受けていないし、食事もとっている」

事実だけを伝える。昨日の強制的な快感は拷問に近いものがあったが、実際体を傷つけられたわけでもない。
兵たちが安堵したように笑顔を見せる。

「よかった。俺たちが暴れたらリヒト様に累が及ぶと脅されたから、血気盛んなやつを押さえつけておとなしくしてたんです。そのかいはあったらしい」
「帝国人に従うなんて冗談じゃねえと思ってたが……。俺たちは祖国に捨て駒にされたんだからな」
「あれほど忠誠を誓って国のために働いたリヒト様まで切り捨てるとは」
「それは……っ」

兵たちの心が国から離れかかっている。まざまざと感じても、それは違うのだと否定することはできなかった。
リヒトは貴族だ。地位や領地、恵まれた豊かな暮らし、人々から敬われる身分を生まれながらに与えられてきた。その代わりに国に忠誠を尽くす責任と義務がある。
だが彼らは違う。普段から国に税を納め、戦争では徴兵されて嫌でも戦わされる身分だ。国に切り捨てられようと命を賭けて尽くせ――と、今の何の力もないリヒトが命じる資格などない。

「リヒト様、今も俺たちを守ろうと帝国軍人と交渉していると聞きました。無理はなさらないでください」
「あなたはいつも俺達を見捨てず、尊重してくれた。他の部隊に配属された奴と比べたら天国みたいでしたよ。例え国が滅びたって俺の忠誠は変わりません」
「俺だってそうだ」
「お前たち……すまない。俺はこの砦がいずれ落ちることを分かっていたんだ。お前たちが犠牲になるのも……」
「そりゃあ、全部上に命令されたことでしょう。リヒト様が先陣きって奮闘してくれたおかげで俺達はまだ生きてるんだ」

国に対して不信感を抱いても、リヒトのことは変わらず慕ってくれているようだった。他の将兵からは兵卒に対する接し方が甘すぎると揶揄されることもあったが、間違っていなかったと思いたい。
今度こそ彼らを守らなければいけない。アレクシスがここに連れてきた意図がよく分かった。兵たちはリヒトにとっての人質であり、リヒトもまた兵たちを従わせるための人質なのだ。

「そんな粗末な服を着せられて、おいたわしい」
「それ……女物なのでは。騎士に対する扱いとは思えない。抗議してやりましょう」
「い、いや、いい。このくらいの辱めは甘んじて受けるよ。お前たちは自分の命を大事にしてくれ」

――逃げられない。アレクシスにどれだけいやらしいことをされようと。
兵たちから純粋に心配する目を向けられ、いたたまれない気分になる。チュニックの下にはネグリジェと女物の下着を身に着けたままだ。ズボンも何も穿いていないから、頼りない布を一枚めくれば、とんでもなく恥ずかしい姿が全て晒されてしまう。
もし見られてしまったら、彼らは今までのように敬ってくれるだろうか。想像したら体の奥がずきりと疼き、足がふらついた。

「ぁっ……」
「リヒト様、大丈夫ですか」
「――いけませんね、騎士殿はお疲れのようだ。行きましょう」

倒れそうになった体を、静観していたアレクシスに支えられる。兵たちとの間には柵があり、彼らが駆け寄ってきてもリヒトに触れることはできないのだ。
リヒトを心配し、アレクシスを威嚇する声を背中に聞きながら、リヒトはその場を後にした。
そして再び、リヒトをメスにするための調教が始まる。


「ンぅっ……ふっ、くっ、あっあう……っ」
「部下に会えた感想はいかがですか? 随分と慕われているのですね」
「くぅっ……か、彼らに手を出したらっ、許さない…、あ゛っひぅっ」

ぬ゛ぷっ……ずぷ、ぐり、ぐりぐりっ……

オイルで入り口をたっぷりと濡らされ、鏡の前で指を挿入される。昨日のように感じまいと言い聞かせても、体は勝手に快感を拾い、目に見えて反応を示す。数回中を抉られただけで下着の中の男根は勃起し、新しい生地にまた淫らなシミを作っていた。

「丁重に扱っていると言ったでしょう。今のところは……ね。これであなたもメスになる決意が固まったのではないですか」
「だ、誰が……っ、たとえ躰がどれだけ汚されようと、心までは落ちたりしないっ…ん゛っおぉっ」
「本当でしょうか。兵士の前に立たされたあなたは、勇ましい騎士というより囚えられた悲劇の姫君のようでしたよ」
「ふざけるなっ……あぁっそこっだめっ……あっあうっ、突くなぁっ…あひっ、ん゛っうぅっ」

ぬぶっぬぶっ……ぐっ、ぐりっ、ぬっぷぬっぷぬっぷ

「彼らから視線を受けて、少し頬を紅潮させていましたね。衣服の下にこんな淫らな格好をしていることを思い出して、恥ずかしくなったのですか」
「ンッうっあっあ゛ああっ、ぐぅっ…」
「あの場でチュニックをまくりあげたら、皆はどんな反応を示したでしょうね。尊敬する高潔な騎士が、男を興奮させるための女の下着を身にまとって……」
「あひぃっ……ん゛っ、おぉっ……やめっ、くっん゛っ」
「下着の下に可憐な色をしたクリ○リスと、触れてもいないのに腫れた乳首を透けさせていたら」
「〜〜っ、ん゛ッぉおおっ」

くりっ……ぐに、ぐにっ、くりっくりくりくりっ……
ぬぷっぬぷっぬぷっぬぷっ……ぐちゅっぐちゅっぐちゅっ……

辱める言葉を淀みなく吐き出し、指を抜き差ししながら、乳首をぴんと跳ねられる。乳首は本当に触れられる前から勃起して、過敏になっていた。少し触れられただけで鋭い快感が駆け抜け、腰がビクビク震える。

「おああっ、あひっ、んっンっふ、やめっ、そこ、一緒にしたらっあっううっ」
「一緒にすると途端に声が我慢できなくなるのですね。それに、部下に見つめられたときのことを想像して興奮してしまったのかな。いっそ彼らの前であなたの調教を行いましょうか。捕虜に女を充てがうことなどできないので彼らも溜まっているでしょうし、皆男根を硬く勃起させて悦ぶかもしれませんよ」
「〜〜っ、ちがうっ…あいつらを汚すようなことを言うなっ…はぅっ、んッうぁっあ〜〜っ…」
「だが、口に出すたびにあなたの中はうねって締め付けてくる。俺のメスになる前に、他の男に視姦されることを想って興奮するなんて、いけない人だ」
「あ゛っうっ、ンっああああっ」

咎めるように、重点的に中の神経の敏感な部分を指で抉られる。淫らに尻が揺れ、泣き叫ぶように声が出てしまう。こんな姿を慕ってくれる部下たちに見られたら……今まで築き上げてきた信頼関係も、騎士としてのリヒトも、完全に崩壊してしまう。

「あ゛ぅっ……ひぁっ、や……ンっふぅっあっ」
「またきつく痙攣して……部下にも興奮してしまうなど、盛りのついたメス犬と同じだ。どこで種付けされて孕まされるか分かりませんね。ずっと縄をつけていなければ」
「ひあっあ゛っふざけっ……ンっおぉっやっあ〜〜っ…」

最低だ、憎い、殺したい、気持ちいい――。快感が止まらない。斬り捨てたいほど憎い相手だと自分に言い聞かせなければ、穴と乳首を弄られる快感に支配されてしまいそうだった。
いや、もう支配されかかっている。本来の性器には触れられないまま、また絶頂感ぎりぎりのところまで追い詰められている。

「もう達したいのでしょう。口と違って体はとても素直だ。ひくついてもっとよくなりたいと訴えてきている」
「嘘だ……っあっ、そんなっ、ンぁっあっああ〜っ…」
「女のように中でイきたくはないですか。きっと最高に気持ちいいですよ。挟持も騎士としての義務感も全てどうでもよくなって、蕩けるようなメスの快感に溺れられる」
「ンぁっ、いやだっ…あ゛っ、中で、イくなんてっ……はぁっあっん゛っふぅっ」
「嘘つきだな。乳首もクリ○リスもはちきれそうなほどになって、メスイキしたがっているというのに」
「あ゛ああっ、お、お前になどっ…やっあ゛っそこっ、弄るなっ……〜〜っ」

(あああぁっ……駄目だ、乳首をくりくりされると、中がひくついて、敏感になったところを擦り上げられて……っ、イきたくなんかないのに、女みたいに中でイったら取り返しがつかないのに……。どんどんよくなってしまう。イきたい……中でイけるはずがない。なのに何かが、こみ上げてきてっ……はああぁっ)

クラクラして世界が回る。乳首と中の粘膜からの快感が、あまりに強烈過ぎて……。得体の知れないものが躰の中を這いずり回り、まさに決壊しようとしたとき、突然指が抜かれた。

「あ゛ああぁっ……ひぅっ、ん゛っ、くっ……」

中だけで極限まで性感が高まり、爆ぜそうになっていた。しかしその直前で刺激がぴたりと止められ、くすぶった絶頂の火種は壮絶にリヒトを苛む。


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