開花2話 02



俺は長嶺達の命令に従うことができなかった。あの日、あの行為が終わった後、俺は自分の制服に再び着替え家に帰らざるをえなかった。
借りた制服をめちゃくちゃに汚してしまったから――というのもあったけど、俺の体は行為が終わった後も蕩けきっていて、完全に発情したメスの状態だった。そんな状態で知り合いと顔を合わせるわけにもいかなかった。
着させられた制服は出来る限り自分で洗って綺麗にしたあと、急ぎでクリーニングに出した。臭いでクリーニング屋にバレたらどうしようとドキドキしながら。
戻ってきた制服を持って、持って俺は恐怖と異様な期待を抱きながら登校した。
そして待っていたのは当然、奴らの報復だった。

「うああっ……」
「俺たちとの約束破るなんて何考えてんの?」
「楽しみに待ってたのにさー」

タイミングがいいのか悪いのか、長嶺は休みらしく、俺は屋上で取り巻き達に囲まれ、足蹴にされた。
大きな差ではないが長嶺はどちらかというと精神的に相手を追い詰めるタイプで、取り巻き達はより暴力的な傾向がある。
蹴られるのは屈辱で、痛かった。
今までだったら苦痛でしかなかった行為だ。でも今は――。

「はぁっ……う、ああっ……」

俺は興奮を必死に押し殺した。悦んでいるなんて知られたら、きっと気持ち悪がられてもうしてくれなくなってしまう。

「おい、見えるとこに傷残るようなことはやめとけよ」
「分かってるよ。さーてこいつどうしてやろうか」
「今度こそ制服着せるしかないでしょ。俺いいこと思いついたんだけど――」

取り巻き達が嗜虐的な顔で見下してくる。俺は不安に苛まれながら密かに体を昂ぶらせていた。

◇◇

放課後。俺はゲーセンのトイレで着替えさせられた。あの制服に――。
制服の下には、薄くて面積の小さな女性下着を身に着けた。白いブラウスの下にはレースのブラジャー、ヒラヒラしたスカートの下にはリボンのついたショーツ。 犯されたときと同じ格好になって、それだけで体が切なく疼く。
ああ、こんな変態的な格好で、これから何をさせられるのだろう。きっと酷いことに違いない。たまらなく興奮する。

「き、着替えてきた……」
「お、歩ちゃん着替えたって」
「おせーな待たせんなよ」
「まあまあ、とりあえず撮影しようぜ……」

取り巻き達は愉しそうに俺を出迎えたけど、俺の姿を見たら一瞬ぽかんとした。
顔に、胸元に、むき出しの脚に、突き刺さるような視線を感じる。この上なく恥ずかしい格好を見られていることにゾクゾクして頬が熱くなる。
ブラの中で乳首が疼いて充血していて、小さなショーツの中ではち〇ぽが勃起しかけてる。気づかれたら終わりだ。バレないようにしないとと思いつつ、バレたらどんな酷いことをされるのだろうという甘い想像に酔いたくなってしまう。

「う、うわー、結構似合うじゃん」
「ホント、黙ってれば女に見えるかも」
「女装似合うとかきついわー。もしかして歩ちゃんってオカマ?」

一人が沈黙を破ると、取り巻き達は気を取り直したみたいに口々に嘲笑いながら感想を言ってくる。
――駄目だ、こんなことで悦んでたら。我慢しなくては。

「それで、歩ちゃんにやってもらうペナルティだけど」
「これならマジで釣れちゃうんじゃね」
「かもな。――お前さ、その格好で男ひっかけてこいよ。一緒にホテルまで入ったらミッションクリアな」
「……っ」

その命令に、俺の体はゾクゾクと震えた。


俺は繁華街に立ち尽くしていた。時折近くを通る人から視線を感じる。男だと疑われているのかもしれない。
取り巻き達は遠くからニヤニヤ笑って俺を見てる。命令通り男を誘わなきゃ許してもらえない。だから仕方ないんだ、誘うしかない。
騙して一緒にホテルに行くのだ。種明かしをしたら怒らせてしまうに違いない。どんな酷いことをされたって文句は言えない――。
俺は震える体を両手で抱いた。ふらついたところを、人とぶつかってしまった。

「あっ……ごめんなさい」
「いや、俺の方こそ」

誰かが俺を抱きとめてくれた。見上げるとスーツを着た若いサラリーマンだった。俺よりかなり背が高く、抱きとめられたことで体格も筋肉質なことが伝わってくる。
ああ、この力強い腕で俺に酷いことをしてくれないだろうか。
俺は衝動的に口を開いた。

「あの……私と、ホテルに行ってくれませんか?」
「え……?」
「私、体が疼いて……酷いことしてほしいんです」

男は一瞬呆然とした後、はっとして気まずそうな顔をする。

「もしかして援交の誘い……? 俺はそういうことはしないし、君もやめたほうがいいよ」

どうやらまともな人みたいだ。まともな人は女子校生に声をかけられたからってホイホイついてはいかないだろう。
でも俺は引き下がらなかった。

「わ、私いじめを受けてて……男の人とホテルに入らないと、何されるかわからないんです」
「いじめ? どうりで……」

目を潤ませて哀れっぽく、高めの声を作って言うと、男が同情したような顔をしてじっと見てくる。ほしいのは同情じゃなくて蔑みなんだけど、今は仕方ない。

「……分かった。入るふりだけでいいなら」
「あっ……ありがとうございます」

男が俺の肩に手をやって歩きだした。俺は心の中でガッツボーズする。
男の手はゴツゴツしていて大きく、体は逞しい。
今は暗いのもあって疑われてもいないみたいだけど、真実を知ればいくら善良な人でも怒るに違いない。これから純粋な親切心を裏切ることになるのだ。
男のくせに女の格好をしてホテルに誘い込んだことを罵倒して、ひどい事をしてくれたら――。
想像すると体がずくんと疼いた。
少し歩いて、繁華街から少しそれたところにラブホテルがあった。

「――ここでいいかな。入ろうか」
「はい……」

男は人目を避けるようにホテルに入った。実際には取り巻き達が隠れてこの様子を見て面白がってるだろうけど、あくまで俺をいじめることが目的で、この人に危害を加える気はないだろう。
たとえば俺とホテルに入ったことでこの人を脅せば金を引き出せるかもしれないけど、はした金のために捕まるかもしれないリスクを犯すとは思えない。その辺は意外に冷静なんだ、あいつらは。

ラブホなんて初めて入ったけど、思ってたより綺麗で落ち着いた外観で、中も清潔だった。
自動受付らしく人の姿はなくて、部屋を選ぶパネルがあるだけだ。

「さて、どうしようか」
「あの……部屋まで行ってくれませんか。ずっとここにいるわけにもいかないし」
「……そうだね」

俺の懇願に、意外にも男はあっさり乗ってパネルで部屋を選んだ。

「わ……綺麗な部屋ですね。私こういうところ初めてで」
「そっか。これで少しは落ち着けるかな」

部屋の中も小奇麗で、嫌な感じは全然しなかった。だけど大きなダブルベッドを見ると、ここがセックスするための部屋なんだって実感する。
俺のことを『いじめらてる可哀想な女子校生』だと思ってる男と、ラブホで二人きり。体が熱くなってくる。

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